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「愛することからはじめよう 小林堤樹と島田療育園の歩み」を読んで

2014-08-24 16:00:55 | 福祉
「愛することからはじめよう 小林堤樹と島田療育園の歩み」 小沢浩:著 2011年:大月書店

多摩市にある、日本で最初の重症心身障害者施設である島田療育センター(旧 島田療育園)の成り立ちについて、初代園長である医師の小林堤樹の半生を通して書かれた本です。本著は、現在は島田療育センターはちおうじの所長である著者が、島田療育園と重症心身障害児の歴史を一人でも多くの方に伝えたいという思いで書かれています。

明治41年(1908年)生まれの小林堤樹が医師になった時代、医師も障害児は誰も引き受けなかった時代であり、恥として座敷牢に閉じ込められることが普通の時代でした。健康保険でも「治癒の見込みのない病気や障害は入院治療に値しない」とされ、施設建設の交渉の場では国から「障害が重くて社会の役に立たないものには国の予算は使えません」という言葉が返ってくると書かれたいます。

当時の時代性を踏まえるために、あえて「精神薄弱」「白痴」といった言葉も当時のまま使われています。堤樹をはじめとする登場人物の言葉も、その言葉だけを捉えて今の基準で考えてしまうと差別的表現じゃないかなと思ってしまうことがあるほど、当時と現在の社会的状況は異なっています、表面上は。でも、実際の社会では根本的には昔と変わらない差別は存在していて、施設を作ろうとする際の反対運動などでは端的にみえてくるものです。

新しい時代を切り開き、福祉を進めていくときには、多くの場合小林堤樹のような純粋な思いで献身的で圧倒的な情熱を傾ける方が存在します。そして、彼を支え広げていく熱意と献身性を持った人たちが集まり支えていきます。しかし、福祉が制度となり組織が大きくなってきたとき、また別の問題が出てきます。本書では、組合活動とストライキが大きな問題として取り上げられており、実際に小林堤樹は組合交渉での苦痛が重なり園長を辞職することになります。福祉を社会的に継続させていくには、働く人たちの待遇改善は重要ですが、本書ではまず子どもたちの安全や幸福が一番であるだろうと、やや否定的に書かれています。社会福祉の費用と人件費水準の課題は現在にも共通する課題です。

小林堤樹が中心ではありますが、篤志家である島田夫妻、彼らを支える様々な人々の様子が時代背景とともに書かれており、文章も読みやすく一気に読める本でした。


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