yokkieの気になること

障害者・児童福祉のことが多くなるかな

「ぼくには数字が風景に見える」を読んで

2014-07-20 22:57:50 | 福祉
「ぼくには数字が風景に見える」 ダニエル・タメット著(2007)

誰もが認める計算と語学の天才と評されるダニエル・タメットの自伝的作品です。その才能と特性は、サヴァン症候群とアスペルガー症候群、さらに数字が美しい風景に見えるという共感覚の持ち主であることからきているとされています。

ちなみに、ネットで辞書を引くと、サヴァン症候群は「自閉症や知的障害をもちながら、ある特定の分野で非常に卓越した才能を発揮する症状の総称。男性に多く、記憶力・音楽演奏・絵画などにおいて天才的な能力をもつ。」と説明があり、共感覚は、「音を聞くと色が見えるというように、一つの刺激が、それによって本来起こる感覚だけでなく、他の領域の感覚をも引き起こすこと。」と書かれています。

彼がアスペルガー障害と診断されたのは25歳ですから、両親は彼の言動に困惑しながらも、愛情と忍耐にあふれた子育てを行い、思春期以降の友人にも恵まれています。先に読んだグニラ・ガーランドに比べると非常に順調な成長と人生を歩んできた彼は、両親の理解が間違っていた部分については率直に書きつつも、二人への感謝の言葉を何度も書いています。また、数字や語学、そして自分の障害や特性に関する素直で非常に高い関心について率直に書かれており、子どものような純粋な関心は微笑ましく感じます。

現在の彼は、イギリスやアメリカのテレビ番組に出演したり、この自伝的著作が世界中で読まれたりということで、著名人になっているようです。確かにこの本で書かれている彼の外国語を覚える能力や数字の暗記や計算力などは信じがたいレベルですし、ポジティブでわかりやすい文章はとても魅力的です。多くの人に読まれたことがうなずける内容で、彼のような人がいることへの驚きと、気持ちのよい読後感を与えてくれる本です。

彼の存在は多くの科学者も引きつけているようです。彼も進んで被験者になっているので、今後サヴァン症候群や共感覚、さらに脳機能についての研究が進むかもしれません。ただ、グニラの本と続けて自伝的作品を読んだせいか、読後に少し考えました。それは、この本はあくまでも本人が書いた自伝で、第一にはエンターテイメントとして、障害を学ぶという意味では参考程度に読むべきものかなということです。誰でも自分の能力を客観的に捉えて表現するのは難しいことです。さらに、過去の体験は自分のフィルターを通してしかみられません。一般化すべき知見は研究者たちの今後の研究を俟つべきなのだろうなと思います。

「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」を読んで

2014-07-05 19:54:44 | 本(一般)
「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」 樹木の個性と生き残り戦略  渡辺一夫:著 2009年


先に読んだ「森を読む」が研究者の書いた森の学問への入門書だとしたら、この本は副題にある通り、代表的な樹木の個性と生き残り戦略を書くことで何気なく見ている木々への興味・関心を深めてもらおうという本である。

2ページ弱の「はじめに」以外は36種の木を個別に説明しているパートだけのシンプルな構成で、平易に書かれており読みやすい。そして生き残り戦略こそ、生物にとって最重要な項目であり、その木の分布、生態、繁殖といった基本を知ることができ、36種の木を通して、日本の植生の基本を知ることもできるようになっている。「森を読む」と全く違うアプローチをとりながら、同様に森を学ぶ本となっているのだ。

あらゆる環境に強いスーパー樹木はなく、個性を生かして生きる場所を見つけてきた木が生き残っていることがよくわかる。例えば、強い日差しを生かして早い成長が出来る陽樹は、成長力は強いがエネルギー消費も多く、日蔭で生きる力に劣り、やがて日陰に強い陰樹に遷移していく。しかし、山火事、洪水、台風など、遷移を逆戻りさせる撹乱要因は必ずあるため、陽樹もそれぞれの種で様々な作戦をとっているのだ。

読後は実際の樹を主要な種だけでも見分けられるようになりたくなる。ちょうど鷹の台の玉川上水沿いの緑道を歩いたので、大学の人に樹名板を付けさせて貰いたいと思ってしまった。




「森を読む」を読んで

2014-07-05 19:23:56 | 本(一般)
新装ワイド版 自然景観の読み方 「森を読む」  大場秀章著 2007

多摩地区に住んでいると、森といえるほどの木々を目にすることはないが、
雑木林なら多少は残っている。今の職場はすぐ傍に「独歩の森」と呼ばれる
小さな雑木林があって、保育園やこども園の子どもたちの格好の散歩場所に
なっている。

例えば、こういった雑木林は、この地域では手つかずの自然には作られず、
人の手が入ったことで育まれた「二次林」であること、さらにここ数十年、
人の手が入らなくなってきたことで、景観がだいぶ変わってきていることを
この本で知ることができる。

木々や花の名前を知っているだけで、生活の楽しみが少し増えるが、
この本は個別の木々を知ることと、森の仕組みを知ることが合わさって、
森を理解し、森を読むことができることを教えてくれる入門書だ。

実際の森の事例を挙げながら、照葉樹の森、ブナ・ミズナラの多い冷温帯の森、
山の森、北の森、そして二次林や人工林といった植生レベルの話が中心を占める。
人の手が入る以前から、気候変動によって森は大きく変化しており、
人間の歴史のように栄枯盛衰があるのだという面白みを知ることができる。

木々もただ環境に翻弄されているだけではなく、様々な手法を使って
環境に適応したり、厳しい時期を耐えたりと工夫を凝らして生き残ってきた
ことがわかる。

大場氏は、一人でも多くの人が森について正しい知識を持ってもらい、
森林の価値が見直され、維持されていくことを望んでいることが伝わってくる。
というより、その気持ちがある意味マニアックに強く伝わりすぎて、
いや、そんなに詳しくなろうという人はごく一部じゃないかなと、突っ込みを
入れたくなるほどだ。

少しはその熱意に影響されたのか、もう少し木々のことを知ってみたいなと
感じた本だった。とりあえず、なかなか図鑑を持って歩くのは大変なので、
もう少し樹名板が増えるといいな。