goo blog サービス終了のお知らせ 

yokkieの気になること

障害者・児童福祉のことが多くなるかな

『サッカーボールの音が聞こえる』

2015-06-13 10:34:08 | 福祉
『サッカーボールの音が聞こえる』 平山譲:著 新潮社:2010年

 このブログで感想を書いた中で、一番引き込まれた本。久しぶりに、早く先を読みたいという気分になり、おまけに、喫茶店でも電車の中でも涙が出てきて対処に困るはめに。

 タイトルのサッカーボールの音というのは、全盲の視覚障害者の競技であるブラインドサッカーで使うボールの音だ。ボールの中に鈴が入って音が出る特殊なボールを使い、そのボールが動いた時の音と、ゴール裏にいてゴールの位置や距離角度を知らせるコーラーの声を頼りに行うサッカーだ。もともとサッカーが好きだった男性が中途失明し、絶望の中から立ち上がろうとしたときにブラインドサッカーと出会い、大好きなサッカーへの想いと仲間との絆によって変わっていく過程を描いたノンフィクションだ。

 主人公として描かれる石井宏幸氏は、中学時代に喘息で療養生活を余儀なくされ、19歳で白内障により右目失明、28歳で緑内障による失明と、何度も困難に直面することになる。絶望のあまり無気力になった日々も描かれるが、そこから立ち直っていく過程が丁寧に描かれている。本当に好きなことがあることの大切さ、焦らず見守り大事なところで支えてくれる家族、本人は気付かない彼の魅力に引きつけられている仲間、一つ一つは特別なことではないのかもしれないが、積み重ねられていくことですごい力になるんだなと素直に感動させられた。

 現在、石井氏はブラインドサッカーの普及に尽力している。とにかく説明するより、一読をおすすめしたい本だ。


 



『子どもの発達障害と情緒障害』を読んで

2015-05-31 22:24:16 | 福祉
『子どもの発達障害と情緒障害』健康ライブラリーイラスト版 講談社  杉山登志郎:監修 2009年

 発達障害について、発達障害や虐待の問題では著名な杉山氏が監修した本。健康ライブラリーイラスト版とあるとおり、イラストをふんだんに使いながら、杉山氏もまえがきで書いているとおり、子どもの発達の問題と情緒的な混乱の複雑なからみやいを優しく解説し、解決に向けた道すじを示した本となっている。

 今まで杉山氏の本は、関係者に向けた本や社会への提言、専門誌への寄稿など、比較的難しい部分があったり厳しい論調だったりというものを目にする機会が多かった。それらも内容的には示唆に富み、保護者と子どもが少しでも困難な状況から立ち直り、その子なりの育ちを保障できるようにという熱い気持ちが伝わるものであったし、豊富な臨床経験からデータも使用して説得力のある本だったが、この本では、保護者に向けた優しいまなざしが感じられたのが、なんとなく嬉しく読めた。

 発達障害という言葉は多くの人が知るようになり、情報を得る機会も、療育などを受けられる環境も整いつつある。もちろん、発達障害への理解が深まっても、わが子の障害について前向きに理解するためには大きな壁がある。そして、発達障害であることを理解したとしても、発達障害というとその障害特性ばかりに着目され、いわゆる障害特性に応じた対応をすればという意識を持つ保護者や関係者が多いのではないだろうか。その点を杉山氏は重視し、保護者と子どもの育ちの過程をよく知ることで、正しい診断と支援ができるという点を力説している。

 先に読んだ佐々木氏の自閉症についての本の感想でも少し二次障害について触れたが、発達障害の場合さらに情緒障害との判別自体が難しいこともあり、診断や支援についてはより困難な場合も多いのだろうと思う。障害特性も含めてその子をよく知ることが重要なのだろうが、難しいケースはたいてい保護者も支援が必要な状況というか、保護者の方がより難しい場合もままある。障害特性も含めて保護者と子どもをよく知ることが重要になり、しかも保護者は子どものこと以上に自分のことの受け入れが困難な場合が現場では珍しくない、というか普通にあるのだが、焦らずやっていくしかないのでしょうね。


『自閉症のすべてがわかる本』を読んで

2015-05-30 23:09:49 | 福祉
『自閉症のすべてがわかる本』 講談社 健康ライブラリーイラスト本 佐々木正美:監修 2006年

日本における「TEACCH」研究の第一人者である佐々木正美先生が監修した、自閉症の入門書。自閉症傾向に気付くサイン、自閉症の原因や診断、特徴、療育についての考え方とTEACCHの紹介、といった内容を、子どもの障害に気付き、悩み、育てていく過程に沿って紹介している。

おだやかな気持ちで子どもと生活していけることへの願いが、やさしい語り口につながっているのだろう。特に基本的なことを、言葉を選びながらも間違いなく伝えることを重視していると感じた。保護者や経験の少ない支援者に向けての本だろうが、そういう本だからこそ、監修者が大切にしていること、必ず伝えたいことが語られている。基本的なことを振り返るにも良い本だと思う、読みやすいし。

生まれながらの障害で、心でなく脳の障害。ただ、成長に関しては親がしっかりとした知識を持って、専門家と相談しながらその子に合った対応をしていくことが重要であるということ。そのとおりなのだが、本当に難しいことを伝えるためにはどうしたらいいのか。最近、個人的には二次障害の難しさを改めて実感しているだけに、その点を考えさせられながら読んだ部分もあった。まあ、対応が重要だけど難しいのは障害のある子に限ったことじゃないけどねえ、全く人のことは言えない。




『自閉症は漢方でよくなる』を読んで

2015-02-14 16:12:47 | 福祉
『自閉症は漢方でよくなる』 飯田誠:著 2010年

 障害や病気に効果的!とうたう本は、どうしても人目を引くのを第一にしたタイトルがつくことが多い。手に取ってもらわないと読んでもらえないというのはわかるのだが、この本も表紙に書いてあるとおり、漢方で緊張が和らぐと楽になるといった内容である。だいたい、自閉症がよくなるってどういう意味?と突っ込みたくなる。自閉症そのものはよいとかわるいじゃないよね、本当は。

 さて、本の内容に話を戻すと、国立精神研究衛生研究所で長年精神遅滞や自閉症の研究・治療にあたった後、開業医として多くの自閉症スペクトラムの児童の治療にあたっている著者が、漢方によって睡眠障害や行動障害が改善され、穏やかになる等の効果があったという経験をまとめた本である。前半は自閉症についての説明と漢方薬がなぜ効くかの分析。後半は症例及び処方例となっている。

 改善例については本格的な検証データではないため、症例の児童の行動障害などが改善されたのは確かなのだろうが、漢方の効果なのか、他の効果なのか、発達に伴う成長なのかはわかりませんというほかはない。手間とお金とを掛けてやってみたいなら、害はあまりなさそうですねというくらいの感じだろうか。

 自閉症について書かれていることは、豊富な臨床経験からの言葉でもあり、興味を引く内容が含まれている。特に関心をもった部分をいくつか挙げる。

 まず、自閉症の人は緊張が高い状態にあるので、緊張を取るだけでもよい影響があるという考え方は感覚的には共感できる。自閉症の症状として緊張が高いのか、健常者向けの世の中で生きていくことで緊張が高くなるのかはわからないし、緊張に対して漢方が効果があるかもわからないが。


 また、精神遅滞がある児童は運動機能の命令能力の発達が遅いために歩き始めが遅い。歩き始めが普通なのに精神遅滞を伴うという診断が出た場合は、自閉症の特性によって知能が発揮できない状況であり、精神遅滞を伴う自閉症とは違うという説明は、正しいかはわからないが、頭に留めておいてもよい考え方なのではと思った。感覚も知的発達もアンバランスな自閉症スペクトラムをどう捉えていくべきかという課題に関わることなのだろう。

 いろいろな考え方を知るという意味でなかなか興味深い本である。

『跳びはねる思考』を読んで

2015-02-07 19:24:37 | 福祉
『跳びはねる思考 会話のできない自閉症の僕が考えていること』
東田直樹:著 2014年

重度の自閉症者でありながら、文字盤やパソコンを使って言語表現をする著者は、13歳の時の著作が翻訳されて欧米でベストセラーになり、昨年NHKがドキュメンタリー番組を制作・放送したこともあり、さらに著名となっています。

独語や常同行動、パニックなどの行動面、音声言語や直接コミュニケーションでの困難さに比べ、文字盤などでのコミュニケーションのギャップが多くの人に強い印象を与えているのでしょう。

正直、この本の書評を書くのは悩ましいです。著者はもともと、ファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)という手法で表現しています。簡単に説明すると、介助者が助力することで、文字盤、パソコン、指文字等による情報の出力を行うことです。明らかに非科学的なあやしいものもあれば、科学的に立証されておらず判断が難しいものもあります。現在の著者は、先述のNHKの番組を見る限り、インタビュー等に対して自力で文字盤を指さししながら話すことができるので、いわゆるFCとは違うようにもみえますが、私にははっきり判断することはできません。

表現方法について考えても、現段階では結論が出ないので、少なくともかなり多くの人が感動したり、子どもの気持ちが理解できたと感謝したりしている本であり、私もちょっと読んでみましたということで、内容に関してだけ、以下は書きたいと思います。少なくとも、著者自身のことをそれほど知らずに読む本も多いわけですしね。

この本は電子メディアへの連載をまとめたものなので、短いエッセー集の形式です。内容的には大きく2つの側面があると思います。一つは、自閉症の人はこんな風に捉えているんだという捉えができる面、もう一つは社会や人生へのスタンスという哲学的な面です。エッセーが2つに分かれているというより、両側面を兼ね備えている話が多い印象です。

まず言えるのは文章が読みやすく、表現がわかりやすく、なるほどなという視点があって面白くよめることです。先ほどの2側面から受け取れることは、1点目の自閉症の人の物事や世の中の捉え方という部分では、「なるほど」とか「へー」とか思いつつ、それは著者独特の捉え方なのか、自閉症の人共通の部分なのかはわからないなということでした。2点目の哲学的な面に関しては、前向きでやさしい内容でありつつ、言い方には強い意志が感じられるなと思いました。簡単に言うと、前向きで共感できる捉え方が多いけど、自分はそんなに自信はないなという感じです。

自閉症の人が家族などにいて、苦しい気持ちにいる人が読んで前向きになれたといのはよくわかります。前向きにしてくれる効果はよかったんじゃないかなと思いつつ、自分にとっては少し視点を広げてくれるけど、悩ましい本だよなというのが感想です。