今日からちょうど56年前にあたる昭和25年7月2日は、とある大事件が起こった日です。
ピンと来た方いるでしょうか?
それは、「金閣寺放火事件」。
私も事件が7月2日だとは全く知らなかったのですが、
偶然にも先日、三島由紀夫の『金閣寺』と水上勉の『金閣炎上』を読んだばかりで、このことを知りました。
事件のあった日が近づいたこの時期にこれらの作品を読みたくなっただなんて、
作品中で日付を知った時に、ちょっと驚きました。
しかも、犯人だった林養賢は事件当時、今の私と同じ年齢である21歳。
…日付といい年齢といい、全くの偶然だけど、何だか不思議で複雑な気分です。
上記に挙げた『金閣寺』と『金閣炎上』は、同じ事件を題材に扱っていますが、内容は全く別物です。
前者は事実を基にしたフィクション、後者は完全なるノンフィクションです。
前者である三島由紀夫の『金閣寺』。
作品としてはこちらの方があまりに有名ですね。
実を言うと、三島の自殺の経緯が壮絶過ぎて、
その印象のためか三島作品にちょっとした抵抗を感じていたのですが、
今回やっと読んでみようという気持ちになりました。
こちらは、金閣寺放火事件をあくまでもモチーフとした物語であって、
事実とは必ずしも重なりません。
犯人の名前も、実際の「林」ではなく、「溝口」という創作になっていますし、
吃りであるという主人公の口調も、文章上では普通の会話文として書かれています。
(※ちなみに水上作品では林の会話はすべて吃り口調で書かれています。)
こちらでは、主人公は幼い頃に歪んだ内面を形成させ、美と破壊の狭間で揺れ動きます。
金閣寺の魅力に異常なまでに囚われている姿は、
見ていてゾッとするほど。
主人公は、常人と一線を画した思考を吐露する場面が多くて、
共感を持って読むことはちょっと難しい、というのが正直な感想です。
もちろん、物語としての完成度は恐ろしいほどに高いと思いますが。
私はどちらかというと、水上勉の『金閣炎上』の方がのめり込んで読めました。
驚くことにこの筆者、少年時代の犯人に会ったことがあるとか。
この作品は、筆者が何年にもわたる詳細な調査を重ねて書いたノンフィクションなので、
事件当時の様子が生々しく伝わってきます。
ただ、この作品は「金閣寺放火」という事件の顛末だけにスポットを当てたものではなく、
あくまで焦点となるのは、放火犯・林養賢の人物像。
従って、犯人の生い立ちから事件の経緯、そして犯人の死に至るまで詳細に書かれています。
ある意味「重大犯罪者」という枠をとっぱらって、
「林養賢」という一人の人間の人生を、正面から見つめている作品だと思います。
生来の吃音症で、常に劣等感と孤独感に苛まれ続けた林にとって、
金閣寺の僧侶になれたということは、彼の人生に射した初めての光りだったんだと思います。
だから、相当に金閣寺を美化して考えていたところがあったんでしょうね。
それは仕方がないことだと思います。
でも実際の金閣寺は、観光地として拝金主義に走り、僧侶よりも俗人が力を持っていたようで、
林が描いていた「厳粛な寺院」からは程遠いものだったようです。
そこに大きな絶望と喪失を感じた結果が、金閣寺への放火だった。
…というのが、この作品に書かれている犯行の主な理由です。
でも、放火の動機を犯人自身が明確に自覚していたのかは、私としてはちょっと疑問です。
もちろん、上記のような金閣寺への不信感も大きく影響されていたのでしょうが、
それだけではないと思います。
彼の人生における21年分の鬱屈こそが原因であって、
その複雑に絡まった感情は、本人でさえも、説明し難いものだったのではないかと思います。
林は犯行後に裏山で服毒自殺をはかってうずくまっていたところを発見され逮捕。
逮捕後、林の母親はショックの為に事件翌日に投身自殺。
林は僧侶としての地位を剥奪され、6年後に精神障害を起こして亡くなりました。
27年の生涯だったそうです。
決して許されることの無い、愚かな犯行であるということは確かですが、
この『金閣炎上』でここまで詳細に林の人生に触れてしまうと、
ちょっと複雑な気分になってしまいます。
単なる罰の念だけではとても捉えられません。
誰よりも金閣寺を憎み、誰よりも金閣寺を愛していた林は、
一途な心を持ち過ぎたんだと思います。
この作品を通じて、人生や、宗教のあるべき姿について、本当に深く考えさせられました。
ある意味、そういったものに警鐘を鳴らした事件でもあったのでしょう。
この金閣寺放火事件に只ならぬ魅力(語弊がある言葉かもしれませんが…)を感じた二人の作家の気持ちが、
読み終えた後はよくわかったような気がします。
ちなみに、現在の金閣寺は国宝ではないんですよね。
この事件の瞬間、「国宝・金閣寺」は永遠に失われてしまいました。
それはやはり残念でなりません。
ピンと来た方いるでしょうか?
それは、「金閣寺放火事件」。
私も事件が7月2日だとは全く知らなかったのですが、
偶然にも先日、三島由紀夫の『金閣寺』と水上勉の『金閣炎上』を読んだばかりで、このことを知りました。
事件のあった日が近づいたこの時期にこれらの作品を読みたくなっただなんて、
作品中で日付を知った時に、ちょっと驚きました。
しかも、犯人だった林養賢は事件当時、今の私と同じ年齢である21歳。
…日付といい年齢といい、全くの偶然だけど、何だか不思議で複雑な気分です。
上記に挙げた『金閣寺』と『金閣炎上』は、同じ事件を題材に扱っていますが、内容は全く別物です。
前者は事実を基にしたフィクション、後者は完全なるノンフィクションです。
前者である三島由紀夫の『金閣寺』。
作品としてはこちらの方があまりに有名ですね。
実を言うと、三島の自殺の経緯が壮絶過ぎて、
その印象のためか三島作品にちょっとした抵抗を感じていたのですが、
今回やっと読んでみようという気持ちになりました。
こちらは、金閣寺放火事件をあくまでもモチーフとした物語であって、
事実とは必ずしも重なりません。
犯人の名前も、実際の「林」ではなく、「溝口」という創作になっていますし、
吃りであるという主人公の口調も、文章上では普通の会話文として書かれています。
(※ちなみに水上作品では林の会話はすべて吃り口調で書かれています。)
こちらでは、主人公は幼い頃に歪んだ内面を形成させ、美と破壊の狭間で揺れ動きます。
金閣寺の魅力に異常なまでに囚われている姿は、
見ていてゾッとするほど。
主人公は、常人と一線を画した思考を吐露する場面が多くて、
共感を持って読むことはちょっと難しい、というのが正直な感想です。
もちろん、物語としての完成度は恐ろしいほどに高いと思いますが。
私はどちらかというと、水上勉の『金閣炎上』の方がのめり込んで読めました。
驚くことにこの筆者、少年時代の犯人に会ったことがあるとか。
この作品は、筆者が何年にもわたる詳細な調査を重ねて書いたノンフィクションなので、
事件当時の様子が生々しく伝わってきます。
ただ、この作品は「金閣寺放火」という事件の顛末だけにスポットを当てたものではなく、
あくまで焦点となるのは、放火犯・林養賢の人物像。
従って、犯人の生い立ちから事件の経緯、そして犯人の死に至るまで詳細に書かれています。
ある意味「重大犯罪者」という枠をとっぱらって、
「林養賢」という一人の人間の人生を、正面から見つめている作品だと思います。
生来の吃音症で、常に劣等感と孤独感に苛まれ続けた林にとって、
金閣寺の僧侶になれたということは、彼の人生に射した初めての光りだったんだと思います。
だから、相当に金閣寺を美化して考えていたところがあったんでしょうね。
それは仕方がないことだと思います。
でも実際の金閣寺は、観光地として拝金主義に走り、僧侶よりも俗人が力を持っていたようで、
林が描いていた「厳粛な寺院」からは程遠いものだったようです。
そこに大きな絶望と喪失を感じた結果が、金閣寺への放火だった。
…というのが、この作品に書かれている犯行の主な理由です。
でも、放火の動機を犯人自身が明確に自覚していたのかは、私としてはちょっと疑問です。
もちろん、上記のような金閣寺への不信感も大きく影響されていたのでしょうが、
それだけではないと思います。
彼の人生における21年分の鬱屈こそが原因であって、
その複雑に絡まった感情は、本人でさえも、説明し難いものだったのではないかと思います。
林は犯行後に裏山で服毒自殺をはかってうずくまっていたところを発見され逮捕。
逮捕後、林の母親はショックの為に事件翌日に投身自殺。
林は僧侶としての地位を剥奪され、6年後に精神障害を起こして亡くなりました。
27年の生涯だったそうです。
決して許されることの無い、愚かな犯行であるということは確かですが、
この『金閣炎上』でここまで詳細に林の人生に触れてしまうと、
ちょっと複雑な気分になってしまいます。
単なる罰の念だけではとても捉えられません。
誰よりも金閣寺を憎み、誰よりも金閣寺を愛していた林は、
一途な心を持ち過ぎたんだと思います。
この作品を通じて、人生や、宗教のあるべき姿について、本当に深く考えさせられました。
ある意味、そういったものに警鐘を鳴らした事件でもあったのでしょう。
この金閣寺放火事件に只ならぬ魅力(語弊がある言葉かもしれませんが…)を感じた二人の作家の気持ちが、
読み終えた後はよくわかったような気がします。
ちなみに、現在の金閣寺は国宝ではないんですよね。
この事件の瞬間、「国宝・金閣寺」は永遠に失われてしまいました。
それはやはり残念でなりません。
いかにも論文みたいで説得力あります!!
私はずっと昔に三島しか読んでいないから、今度ちゃんと読んでみたくなりました。
いえいえそんな!勿体無いお言葉ありがとうございます
この2作品は読んでいると色々と考え過ぎてしまって、
頭がぐるぐるしてきます。(笑)
水上勉の『金閣炎上』、オススメですよ~!
ドキュメンタリー好きには堪らない作品です。
でも実は私、実物の金閣寺を見たこと無いんですよねぇ…。
修学旅行の時は工事中だったし。
いつか絶対に訪れてみたい場所です