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「W杯、日本は決勝リーグに進める!」 オシムの言葉は実現するか。

2010-06-19 | スポーツ
ディフェンスも、中盤のプレスが効いてカメルーンにスペースを与えず、攻撃の基点のエトーを封じた。 「なんだ、やれば出来るじゃん。見直したぞ日本代表。」 やはりW杯ならではの高揚した雰囲気と、選手達のなにくそという気持ちが、よく走り、玉際を攻め、チームでカバーしあう積極的な日本らしいサッカーを可能にした。夜11時からの試合だったが、視聴率は45%を超えていたという。

開幕直前までの代表チームの戦いに全く精彩がなく、岡田監督の直前解任か、などという憶測も流れたが、ギリギリに追い込まれた中で、本田のトップ起用と、松井と大久保という一対一での突破力も備えるウィングの抜擢で、ディフェンス一辺倒でなく攻撃できる形を作ったことは岡田監督の英断だった。中村俊をスタメンからはずし、キャプテンを長谷部に任せたことも決断だったが、これも当たった。

優勝候補の一角であるオランダ戦をひかえ、決勝リーグ進出への期待が俄かに高まったが、前日本代表監督のイビチャ・オシムは、その著書 「考えよ! なぜ日本人はリスクを犯さないか」(角川新書)で、「日本はカメルーンに勝てる。 グループEで決勝リーグに進むのは、オランダと日本、もしくはオランダとデンマーク」とズバリ予測していたのだ。 この本は4月上旬に出ているが、この中でオシムは、「日本代表に必要なのは、自分たちはできると信じること、つまり「自信」を持つことだ」と繰り返し述べている。 確かにカメルーン戦を見れば、日本は個々の選手の能力が揃っており、組織的サッカーをする能力や守備力で、ベスト16になっておかしくない実力があるように思われる。 オシムによれば、日本はアジアではNo.1でありワールド杯には毎回出場して当然。 そのポテンシャルが十分に引き出されれば、ベスト16以上に顔を出して不思議はない。

オシムは、日本の弱点として個人の「考える能力」が足らない、それは日本の教育や文化的背景に由来すると指摘している。 また日本人は「敏捷さ」はあるが、「プレーや判断にスピードがない」ことが最大の課題だと挙げている。 これらは、オシムが2007年末に脳梗塞で倒れるまで、代表監督として、チームに植え付けようとしてきたことだった。 それは今のチームにもまだ出来てはいない、とオシムは見る。 その上で、相手を十分レスペクトはするが過大評価することなく、自分たちに自信を持ては「日本は決勝リーグに進める」と本書の冒頭で断言している。 さらにそう述べた直後に、同時に「3戦全敗の覚悟も必要」としているのは誠に奥が深い。 なぜなら、日本が2006年のドイツ大会初戦のオーストラリア戦で、後半最後の15分まで1-0でリードしながら、立て続けに3点を奪われ哀れな逆転負けしたのは、後のクロアチア、ブラジルにはまず勝てないのでオーストラリアには絶対勝つしかないという一元的な思考が、オーストラリアをレスペクトし、負けも想定する事を怠ったからだという。

第三章以降は、「日本代表への提言」として、代表各選手の長所短所の分析を含めて、さすがに深みのあるコメント連発している。中村や遠藤は上手いが、ディフェンスを含めて「走る量」が不足しており、攻撃面では「球出ししたあとゴールに向けて自ら前に行く姿勢がない」などミドルフィールダーとしての弱点などを指摘している。 また現代表の課題として、フォワードの決め手の不在、かつての中田英のようなリーダーの不在も挙げている。 今回、中村に代わって一躍スターダムに躍り出た本田については、オシムは、欧州での豊富な経験とクリエーティビティのある中村を取り、未知数の所がある若い本田は取らないとしているが、これは岡田監督の土壇場のリスクテークの抜擢があたって覆された形だ。 岡田監督は、オシムのこの本を読んだかもしれないが、最後に自分の枠を超えて、勝負に出た感じはある。

またオシムが問題にしているコレクティブなディシプリン(集団的統制力)の不足は、カメルーン戦では集中力が後半まで途切れることなく無失点で終えることができたので、克服されつつあるのではないか。 代表選手の間に、自信と信頼が生まれており、いいムードでオランダ戦に入れそうだ。ただし「勝ち点3を取りに行く」と強気の発言をしている本田は徹底的にマークされるだろうから、彼がどの程度働けるか今後真価が試されるであろう。

何よりもこの本を読むものの胸を打つのは、オシムの日本サッカーへの愛情の深さだ。本の最初に日本が決勝トーナメントに進めると明言し、「今回の南アフリカ大会は、選手たちが、日本の人達を幸せにできる大会かもしれない」 「もし、この世に正義というものがあるとするなら、そろそろ成功してもいい時期ではないか」と述べているのは、もちろんリップサービスではないし、オシムの日本サッカーへの深い理解と選手やファンへの愛情に裏づけられた感動的な言葉である。 脳梗塞から回復して再び意気軒昂なこの知将は、日本のサッカーの将来の課題への提言も忘れてはいない。「日本においても近い将来、サッカーが人生の一部にならなければならない」「多くの国では、人々は、サッカーで呼吸しているのだ。 しかし日本ではサッカーは、それほどの役割をまだ持っているとは思えない。サッカーは、人生と同じでなくてはならない。」という熱い言葉をどれだけの日本人サッカー関係者が吐けるだろうか。

1964年の東京五輪でユーゴスラビア代表として初めて来日し、日本に深い感銘を受けたというオシムが、日本人をここまで深く理解し、日本のサッカーを思っていることに感動をうけないことは難しい。 4年に一度しか日本代表の試合を見ない俄かファンでも、「サッカーとは人生そのものだ」というオシムの言葉には、確かに真実があると思えるのだ。 ワールドカップという晴れの舞台でプレーする選手も、それを見るファンも普段経験できないレベルの技やスピリットに遭遇する。 そこから得る経験は、人間を大きく成長させるだろう。侍ジャパン、残り二戦、持てる力を出し切って賢く激しく戦って欲しい。そして願わくば決勝リーグに進んで、日本人の失われかけた自信を取り戻して欲しい。
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