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.R.ジェンキンス「告白」を読んで

2005-10-30 | 読書(政治、経済、社会, 科学)
R.ジェンキンス 「告白」

かのジェンキンス氏の回顧録が書店の新刊コーナーに積みあがっているのは、大方の人が見て、もしかしたら私のように買っただろう。 J氏はTVには何度となく映って、日本国民一億に知らない人はおるまいというほど有名だろうが、TVで見る限り、足を引きずり健康を損ねた老年の元アメリカ軍人という感じで、曽我ひとみさんの夫という以外はあまり主体的なイメージのない人だった。 自ら38度線を越えて北朝鮮側に脱走し、40年近く北に拘留された平凡なアメリカの軍人と思っていたから、自伝もそれほど期待していたわけではない。 ただ、曽我さんとどうやって知り合い、どんな生活を北朝鮮で送ったのか、に興味があった。  

同じように脱走した4人のアメリカ兵と、「料理人」といわれる北の女性との一つ屋根の下での奇妙な共同生活、 金日成主義の暗記と自己批判の毎日。英語の講師としての日々。そして曽我ひとみさんとの出会いと結婚。 大体想像したような北での生活が本書の前半はつづられる。 また貴重なのは、曽我さんと結婚した1980年頃や帰国直前の横田めぐみさんの娘の金ヘギョンさんと一緒の写真などが掲載されていることだ。 そしてやはり、後半の数章にある2002年9月の平壌での日朝の電撃首脳会談から、曽我さんの帰国。 そして一年余りを経て、家族が全員日本に来るまでの記述は興味深い。 首脳会談の時点では、日本側に拉致疑惑者のリストに曽我さんは入っていなかったが(要は日本ではひとみさんと一緒に拉致された母親は誰も探していなかった)、北がどういうわけか曽我さんの名前を出し、正に当事者にとっては急転直下に帰国が決まったこと。しかし、ひとみさんが戻ってこない(日本側が返さない、とJ氏は思った)ことへの怒りと酒びたりの一年間。 もしかしたら、一生娘達や夫には会えないかもしれないリスクを犯して、曽我さんら拉致帰国者4人が「北には帰らない」と声明を出したことは、大きな勇気がいったであろうことが想像された。 長女の実花さんは、最初は日本行きに反対しており、逆に次女のブレンダさんはすぐにも日本に行きたがったらしい。

J氏自身も脱走兵としての処分が決定した後、晴れて今年夏、ノースカロライナの故郷に住む91歳の母親や親戚に再会を果たしている。 1965年に25歳の若さで脱走してから、ほぼ40年という人生の大半を北での惨めで退屈な抑留生活を強いられ、曽我ひとみさん会い家族を成すことで唯一生きる術を見出していたジェンキンス氏の人生が、全く予期せぬ歴史の展開によって北から開放され、日本で暮らすことになった。 本人には全く苦しく退屈な人生であったかもしれないが、文明国日本で敷かれたレールの上をひたすら走る人生を送る人間から見れば、(無責任な言い方だが)誠に波乱万丈と映るものだ。 

拉致問題はまだ終わっておらず、日朝交渉は暗礁に乗り上げたままだ。これから、残された被害者やその家族のために、一国も早く新たな進展があり、ジェンキンス氏のように自分の人生を取り戻せる人があることを祈りたい。

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