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「なみだ石を探して」第5回

2013年03月10日 | 「なみだ石を探して」
「なみだ石を探して」第5回
(飛鳥京香・山田企画事務所・1975年作品)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」
 

第5回 

バスのとびちった部品の影に、滝が倒れていた。
「滝,しっかりしろ」

 滝は目をあけた。
服がやぶれ、血がにじんでいた。すこし焼けこげてもいた。
一、二度、頭を振って、滝は上体をおこした。

不思議そうな顔をして、滝は僕をみつめていたが、ポケットに手をつっこんでから、ゆっくりといった。
「日待、君はケガをしなかったのか」

「ああ、そうさ、運転手は?」
あたりをしばらく見渡してみた。
「どうやら、ダメなようだな」
 ポツリといった。

 滝は、僕の目をじっとみつめ、口を開いた。
「日待、どうだ、ここらでもうはっきりさせないか」

その表情は、これまでの饒舌な滝のものではなかった。別人のようだった。
「何のことだ。何のことを言っているのだ」
僕は体をこわばらせる。

「日待、いや、君の本当の名前まではわからないが、、
まだ、しらばくれる気なのか。君と君の仲間のことさ」

「僕の仲間?」
滝は立ちあがり、少しよろけたが、僕の肩に手をかけた。
「はっきりいえよ、日待。それとも」
「まってくれ、滝、一体お前、どうしたんだ」

そ時だ。隣にあるバスの残骸が爆発した。
おもわず僕達は体をふせた。
「そうだ。滝、はやく頭屋村へいこう。むこうで、君のケガをみてもらおう」
「ふっつ、どうやら、頭屋村までは、君が、案内してくれるつもりらしいな」
と皮肉っぽく言う。

 いったい、この滝の変心は、なんだ。

僕は
バスの転落、
体を包み込んだ緑色の光、
滝の豹変、

わずかの間に起こった事で混乱している。

それにしても、あの緑色の光は、涙岩の色に似ている。と僕は思った。

頭屋村までは、まだかなりの距離があった。

僕は、滝、彼も、いや彼こそ本当の名前は何だ、、もう話をする気がしなかった。
冷たい沈黙が、僕達の間にあった。
が、二人は村へ向って歩きだす。
滝に肩をかしていた。
バスの通り道へあがり、夕ぐれの中を歩きだした。


村までの風景は、僕が出かける前と、少しも変わっていなかった。
おぼろげな記憶だった
けれども、はっきりと一致していた。

ようやく村へたどりついた時、
来てはいけないところへ来た、そんな気がした。
僕をよよつけない何物かがあった。
体がぞくっとした。

 最初に滝の傷をみてもらもらおうと思った。

しかし急に「彼女」のことも思いだし、どうしても会いたいと思った。
彼女の姿を浮べ、不安を振り払おうとした。

 手近かの家からは光がもれている。
「ごめんください。」
 答えはない。
「誰もいないんですか」

無断で家にはいっていく。人の気配がない。
隣の家家にも、同じように走っていって声をかける。

やはり誰もいない。
そして、
不思議だが、村じゅう、物音一つしない。
誰もいないのか?

滝は、ポケットからタバコ箱くらいの小さな機械をとりだし操作していた。
さっきから滝が触っていたのは、これだったのか。

「滝、村には一人もいない。おかしい」
「やっぱりな、思った通りだな」

 滝は、傷のせいか、疲れた顔をしていたが、不思議に目眼だけは、
力があった。
獲物を前にしたハンターの眼だ。

「いいか、もう、はっきりしたらどうなんだ、日待よ」
「何のことをいっていろんだ。滝、君はバスが転落した時から、何をいいたいんだ。人が変ったみたいだよ」
「ふう、簡単な話じゃないか。日待、最近、この田舎の、頭屋村へ来る人々が増えていたこと。
パスの中で老人が言ったこと。そして、今現在、この頭屋村にはな、人っ子一人いないこと。すなわち、今日が。涙岩のくずれる日だ。今日は涙岩伝説の日だ」

 僕はその意味するところに、打ちのめされる。

そうか。今日が、涙岩がこわれる日に違いない。
すなわち、数百年に一度の日なのだ。

(続く)●090901改訂
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
山田企画事務所 ナレッジサーブ「マンガ家になる塾」




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