とある会社の株主である甲が死亡した場合、その株式は相続の対象となります。
遺産分割協議でその株式を取得する人が決まれば問題ありませんが、まだ決まっていない場合、株主総会での議決権の行使はどうなるのでしょうか。
まず相続が発生した時点で、その株式は相続人全員で共有する形になります。法定相続分にしたがって当然に分割されるわけではありません。
会社法第106条には「株式2人以上の共有に属するときは、共有者は当該株式についての権利を行使する者を1人定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することはできない。但し株式会社が当該権利を行使することに同意した場合はこの限りではない。」と規定されています。
したがって遺産分割協議により共有状態が解消されない状態では、相続人のうち1人を権利行使者と定め、会社に通知することで議決権行使が可能となるわけです。
その権利行使者の定め方は、民法の共有に関する規定を適用します。株主総会の議決権の行使は、共有物の管理行為に該当するとされています。共有物の管理に関する事項は、「共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する」とありますので、少なくとも過半数の同意が必要だということになります。
ちなみに会社法106条の但し書きの規定について「株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りではない。」とあり、この部分だけ見ると共有者の持分価格の過半数によって代表者を定めなくても、会社側がそれに同意した場合には、過半数で決めなくてもいいように解釈できなくもないですが、これについては最近の最高裁の判例(最高裁判所第一小法廷平成27年2月19日判決)で否定されていますので注意が必要です。
なお会社法106条による通知は、登記手続きの際の添付書面にはなっていませんが、それに基づいて代表者を定めなければ、株主総会決議の取消自由にもなる可能性があるので司法書士としても注意を払う必要があると思います。なお法務局に提出する株主リストについては、106条の規定によって代表者を定めたとしても相続人全員を記載する必要があります。