河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

その25 江戸――俄の始めは河内の俄①

2022年07月26日 | 歴史

 門徒の家が多かったせいか、お盆といってもたいした行事はない。ただ、お盆前には「井戸さらえ(井戸替え)」といって、七月頃から、川下にある家から順に井戸の掃除をするのが常だった。

 夏に流行る疫病を防ぐのが目的で、井戸の水を汲み出し、底にたまった泥やゴミを取り出すのだ。思わず落としたカンザシとかが出て来るので、女の人は楽しみにしていたという。しかし、我々子どもにとっては、やっかいな行事だっと。いたずら心で投げ入れた石やビー玉、牛乳瓶などがあろうものなら、まず疑われるのは子どもだからだ。

 井戸に石を放り入れるとチャポン、チャポン、チャポン・・・と反響するのがおもしろかった。

 もちろん、家の外にある井戸は、誰が放り込んだのかはわからないので、「僕とちがうで!」としらをきればよかった。しかし、二度とさせないために、なんだかんだと説教されるのが常だった。

 ある年のPLの花火があった次の日、我が家の向かいの家の裏で「井戸さらえ」があった。近所の人が四、五人集まり、朝早くから始まった。春やんも手伝いに来ていた。近所に住んでいる「拝みやさん(祈祷師)」が井戸を浄めると作業が始まった。見たい気持ちはあったが、絶対に行ってはならないと心の中に言い聞かせて、兄と私は家の中で漫画を読んでいた。危険な作業なので、村中で鳴く蝉の声よりも大きな声が我が家まで聞こえてきた。

 昼前になると作業が終わったのか声はやんだ。

 井戸さらえは疫病退散を願い、無病息災を祈る行事でもあった。わずかばかりのお神酒と折膳が出て終了となる。我々も食事をとり、テレビを視ていた。

 すると、玄関で春やんの声がした。夏なので家中の戸は開け放たれていた。オカンが出ていって何か話している。しばらくして、

 「息子らおるか?」

 「奥でテレビ視てますわ」

 ギョエ! ゼッタイゼツメイという言葉が頭の中をかけめぐった。その瞬間、すでに春やんが目の前に立っていた。 お神酒がまわっているのか目がシクシクとしている。

 「おお、テレビ見てんのか。なんぞ、おもろいのんやってるか?」

 「・・・・」

 「やってなかったら、テレビ消し(スイッチをきれ)!」

 「・・・」

 「テレビを消し言うてんのが、聞こえんのか!!」

 雷が天井を突き抜けたかのような・・・昨日の最後に上がった一発の花火の音のような怒鳴り声だった。

 兄が黙ったままテレビを消した。手が震えている。涙が出そうになった。

 「夕んべ、花火を見たか?」と春やんが穏やかな声で言った。

 「・・・」 涙がにじんできた。

 「赤青黄色ときれいあったなあ」と言いながら春やんがポケットから二十個ほどのビー玉を取り出して、畳の上に広げた。

 「赤青黄色ときれいやなあ。向かいの家の井戸さらえてたら底から出てきたんやけど、おまえらとちゃうわなあ?」

 黙ってうなづいた。涙が流れてきた。

 「おまえらは賢いさかいに、こんなことせえへんわなあ?」

黙ってうなづいた。涙が雨のように流れた。

 「もう、したらあかんで!」

黙ってうなづいた。

 「絶対にしたらあかんで!」

黙ってうなづいた。そして、はっと気付いて・・・声が出そうなほど泣きたくなった。

 「おっちゃんが小っちゃいときにはなあ、井戸に漬けもん石放り込んで、親からどえらい怒られたわい。押し入れに入れられて、戸につっかえ棒されて出られへん。ほんで、二時間も三時間も泣いてた。涙も出んようになったときに、やっと気付いた。目の前の戸は外側でつっかえ棒されてるけど、反対側の戸は内からしかつっかえ棒が出来んということにや。ほんで、反対側の戸を開けた。そしたらオトンとオカンが、涙流してじっーと見とった・・・。それ見て、また大声で泣いたんを今でも覚えてる・・・」

 

 オカンがそばで微笑っているのを見て、なんとなく許されたのだと・・・やっと感じた。

 「ええか、井戸の中にはなあ、水神さんという神さんがいたはる。せやさかいに、おいしい水飲んで、おいしいご飯が食べられるんや。せやけど、その水が洪水を起こしたりして悪さしょるときもある。その水と闘うて一代を築かはった人が、この喜志村にいたはったんやぞ」

 そう言って春やんが話し出した。

※②につづきます(①から④まであります)。

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こぼれ苗

2022年07月25日 | 菜園日誌

ビニールトンネルの中で、トマトの苗を間引いたのが地面に落ちて、いつしか根をおろして立派に育っている。

こぼれ種ならぬこぼれ苗である。落ちこぼれは強い。
種を植えると双葉(子葉)が出る。この双葉と根の間の茎を胚軸という。

茎でもなく根でもない部分で、根にもなりうる。わかりやすいのは大根で、食べる白い部分は胚軸が太ったものだ。
トマトは胚軸から根を生やしやすい植物で、わざと寝かせて植えて、胚軸から根を生やさせる「伏せ植え」という方法があるほどだ。
写真のトマトは間引いたのが伏せ植え状態になったのだろう。しっかりと根を張っている。

野菜の根元に土を寄せる「土寄せ」は伸びた胚軸を埋める作業だ。白菜・キャベツは必ず土寄せをしてしっかりとした根を出させる。
大豆にいたっては双葉も埋めてしまう。双葉の付け根から根が出て風にも強くなる。豆類は肥料がいらないのでどこでも育つ。昔は田んぼの畔(あぜ)にも植えていた。そこで大豆のことを畔豆と言っていた。

稲を刈り、干して脱穀をし終える頃には畔豆も茶色くなっている。それを収穫し、稲を干していた駄手(だて)に架けて乾燥させて大豆にしていた。
大豆=枝豆ということが、がわからなくなった今となっては懐かしい風景である。

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こぼれ種

2022年07月22日 | 菜園日誌

小さなビニールトンネルの横にイチジクとミカンを植えているのだが、今年はジャングルのようになっている。
写真の手前から、青シソ、里芋、ゴーヤ、カボチャが生い茂っている。

トンネルの前で種まきをしたり、収穫した野菜の掃除をしたりしてるので、いつしか落ちた種が自然に生えて育ったもので「こぼれ種」という。人間でいえば落ちこぼれである。

ところがどっこい。この落ちこぼれのほうがよく育つ。耕してないので根張りは浅く、肥料を与えていないにも関わらず元気に育つ。畔に生えた赤シソは梅干し用。バジルは必要分を持ち帰って重宝している。
厳しく辛い環境に雑草のように適応しているのだろう。


こぼれ種の英訳は「self-sown seed」。

「自分で蒔いた種」だから自己責任で育つ。それだけこぼれ種は思いが強い。

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ヌートリア

2022年07月21日 | 菜園日誌

一ケ月ほど前、近くで畑をしている四軒が、誰が呼ぶともなくあぜ道に集まって寄り合い(会議)が始まった。
A「ナスをボコボコにやられてしもうた!」
B「うちはナンキンや!」
C「うちはトマトをやられた!」
私「うちはジャガイモと里芋の茎をかじられたがな!」

イノシシやタヌキの被害はこれまでにもあったが、食害の様子からそうではないようだ。
A「調べてみたらヌートリアという奴っちゃ!」
B「なんや? そのヌードのリカちゃんというのは?」
A「あんだら! そんな色っぽい女あったらなんぼでも来てほしいわい。ヌートリアという外国からやって来た・・・」
B「なんや外国人の女かいな?」
A「ちゃうがな、人間やあるかい! タヌキくらいの大きさのカピパラみたいな顔したカワウソみたいに手に水かきのあるネズミやがな!」
B「想像するのに時間のかかるたとえを並べんな!」
C「スマホで検索したらこんな奴や」

こういう時はウィキペディアが役に立つ。以下は抜粋(写真も)。
ヌートリア=ネズミ目(齧歯目)の頭胴長40-60cm、尾長30-45cm、体重5-9kgの大型の哺乳類。別名は沼狸(ぬまたぬき)。南アメリカ原産。水辺に雌雄のペアまたは雌を中心とする小さな群れをつくって生活する。
食性は雑食性で、水生植物の葉や地下茎、淡水産の巻貝を主に食べているが、農作物を食害することもある。夜行性。明け方と夕方に活発な採餌のための徘徊行動が見られ、日中は巣穴で休息していることが多い。雌は定住的で、雄に比べて行動範囲は狭い。若い個体は、新しい縄張りを求めて移出する。
季節を問わず繁殖する周年繁殖だが、出産は春と秋が多い。妊娠期間は123〜150日で、1産で2〜11匹、平均5匹の子を産む。出産時の子の体重は225gくらい。十分に発達してから生まれるため、丸1日後には泳げるようになり、3日後くらいには早くも成体と同じ餌を摂り始める。その後、約半年で性成熟する。寿命は10年程度。

というわけで、AさんとBさんは公的補助が出るというので電柵を設置。
私とCさんはしばらく静観。
すると・・・一週間後・・・我が家のナスをボコボコにやられた!
そこでソーラーで動き、センサーで動物を察知するとピキピキピキ、ウイーンと音を出してピカピカと光を放つ秘密兵器をアマザンで購入。
大和川の支流の石川に住むヌートリアもアマゾンにはかなわないのか、今のところ被害はない。

ヌートリアは、太平洋戦争中に、毛皮を利用して防寒軍服を作るために養殖されたものが広がったという。実は切ない動物なのだ。

ぼくらはみんな 生きている
生きているから 歌うんだ
ぼくらはみんな 生きている
生きているから かなしいんだ
手のひらを太陽に すかしてみれば
まっかに流れる ぼくの血潮
ミミズだって オケラだって アメンボだって
みんな みんな生きているんだ 友だちなんだ
(やなせたかし作詞・いずみたく作曲)

歌でも歌って仲良く付き合おう♪

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ひさしぶり2

2022年07月19日 | 菜園日誌

野菜作りで最も面白いのはスイカだ。
普通なら地面に這わせて横に作るスイカを、ネットで支えて縦に作る「空中栽培」。
六株のスイカを地に這わせて作ると畳10畳ほどの土地がいるが、空中栽培だと90センチ幅の畝5mほどですむ。

スイカの弦を這わせたトンネルを作って日よけにしようと、七年前に思ったのが始まり!

トンネルにすると天井にもネットを張らなければならない。もうそんな元気はないので、今年は二畝で並列に囲った。
一畝には、コダマスイカ六株とゴーヤとキュウリ。メロンとカボチャと二番手のキュウリで一畝。

狭い土地に多く植えることが出来るのがメリットだが、風には弱いのが欠点。一昨年は強烈な竜巻があって横倒しで全滅。
去年は、空中だからカラスには突かれないだろうと思っていたら、スイカの上にカラスが乗って、地面に落とされて全滅。
そこで今年は風対策に支えの杭を打ち、それにカラス除けの糸を張り巡らせた。手前の花(マリーゴールド)もカラス除け兼コンパニオンプランツ。
今のところ・・・カラスはこないし、大きな台風もない。あと十日ほど日々是好日なら、久しぶりにスイカが食べられる。

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