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[映画] バックコーラスの歌姫たち

2014年01月14日 | 映画/映像
『バックコーラスの歌姫たち』
(2013年 モーガン・ネヴィル監督)




これは、スターの後ろでサポートとして歌い続ける「バックシンガー」という職業を描いた、ドキュメンタリー映画。

原題の"20 Feet from Stardom" は、そんな彼らと、ステージ前方でスポットライトを浴びるスターとの、20フィート(約6m)という遠くはないが越える事のできない距離を表している。

往年のミュージカル『コーラスライン』は、ちょうどこのバックシンガーと同じ立場の「バックダンサー」に選ばれるため、熾烈なオーディションに臨む若者たちを描いていた。(ちなみに『コーラスライン』とは、バックダンサーやシンガーが前に出過ぎないよう舞台上に引かれる線のことだ)

匿名で踊るバックダンサーですら、生半可な技術や容姿ではなれない。そんなアメリカ競争社会の厳しさと、同時にショービズ界の層の厚さを、見せつけるような作品だった。

本作はしかし、たとえそうした競争をくぐり抜けて現場に立てたとしても、所詮バックはバックであり、スターとは根本的に違うという残酷な現実を、実在の歌手たちの人生を通して描き出す。

あるバックシンガーはこう語る。「バックは気楽な立場。自分を押し出す必要はなく、あくまでもソロに調和していく仕事。けれどもソロシンガーは自分の目ざすものを打ち出していくのが仕事で、とにかく人間としてのパワーが必要」

もちろんそうやってソロで立つ以上、売れなかった時のリスクも大きい。

60年代にバックシンガーとしてデビューしたダーレン・ラヴは、人気を得てソロシンガーとしてデビューするものの、プロデューサーに冷遇され、結局は数作を発表しただけで芸能界を去る。

「スター」の一人、スティングはこう語る。「この世界で成功するには、どんなに才能があっても努力してもだめなんだ。運というか…流れのようなものが必要だ」

けれどもダーレンは「自分は歌という才能(ギフト)をもらったから、それを使わなければならないと思った」と、自分の才能を信じる事をやめない。彼女はその後、再びバックシンガーとして音楽界に復帰し、2011年にはついに「ロックの殿堂」入りを果たした。

本作の題材はもちろん、アメリカの音楽業界という狭い世界だ。だがここには、どんな職業にも共通する「人生の選択」の難しさが描かれている。

脚光を浴びようと、気楽な道を選ぼうと、それがいつまで続くかなんて誰にもわからない。それでも人はそれぞれ自分の道を選び、その結果を受け止めながら、生き続けていかなければならない。降りる事のできない「人生」というステージの上で。

これから人生を始めようとしている若者にも、歳をとって人生のホロ苦さを痛感している人にも、ぜひお勧めしたい映画。

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そして、この映画が気に入った方には、一度はブレイクしたヘヴィメタ・バンドのその後の人生を描いたこのドキュメンタリーも強くお勧めします!

渋東ジャーナル改『アンヴィル!』


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