Are you Wimpy?

次々と心に浮かぶ景色と音。
そこからは絶対に逃げられないんだ。

★「ネット小説大賞」にもチャレンジ中★

3.夢の途中

2019年11月08日 | 日記
僕は昔飼っていた犬と散歩してる夢を見ていた。

ポメラニアンのチャーリーは僕が渡英する数ヵ月前に12才で老衰のため死んだ。家族は僕が安心して出発できる様にチャーリーが気を遣ったんだと慰めてくれたけど,僕はチャーリーに生きていて欲しかった。それにチャーリーが生きていて日本で待っていてくれたら僕はこんな無謀な旅に出なかったかもしれない。

チャーリーが向こうの方から全力で走ってくる。僕はしゃがんでチャーリーを迎えようとしていた。

突然かんしゃく玉を踏んづけたみたいな乾いた発砲音が響いて目が覚めた。

寝ぼけていたから何が起こってるのか検討がつかなかったが周囲が騒然となっているのはわかった。

何時間眠りこけていたんだろう。僕が横になっている場所を左から入り口の方へ慌ただしく無言で走り抜ける人たち。

攻撃を受けてるのか・・・。

まぁ,それもありうるな。

変な諦めみたいな気持ちもあって僕はゆっくりと上半身を起こして様子を見ることにした。

すると15,6人の人だかりができている右側の辺りからふらふらとこちらに近づいてくる人がいる。

両手で頭を抱えながら険しい表情で何かを唱えてた。

近づいてくる人が誰なのかわからなかったけど,真っ直ぐこっちへ近づいてきたから取り敢えず待ち構える様に僕は立ち上がった。

砂ぼこりと汗で全身真っ黒になった若い兵士はうつ向き加減にギロリとコッチを見据えたままブツブツ唱えながら近づいてくる。サイズの合わないガポガポのヘルメットが脱げかかってる。

ソイツは僕に吸い寄せられるみたいにそのまま抱きついてきた。全身から脂汗をだらだらと垂らしながらぎゅーと僕を抱き締めてガタガタと震えている。

「もうだめだ。パパやママに会えない」

とっさに僕はソイツの背中に左腕を回して右手でヘルメットを元の位置に戻してやりながらポンポンと軽く叩いた。

「もうだいじょうぶだから」

「僕はパパやママに会えないよ。とても酷いことをしてしまった」

彼が何をしたのか僕は尋ねなかった。

「もう地獄行きだ。パパやママに会うわけにいかないんだ」

一瞬言葉を失ったが,すぐに言葉が漏れた。
「君はご両親に会わなきゃ・・・」

「無理だ。合わせる顔がないよ・・・」

「会わなきゃいけないよ。それが君に与えられる罰なんだからね」

僕がそう囁いた瞬間,彼は僕にしがみつきながらおいおいと泣き始めた。
背中の左肩の部分から出血している。手当ても必要だ。

「メディック!!」
衛生兵を呼んだが誰も反応しない。それどころじゃないのか・・・さっきの人だかりがどんどんと大きくなっているのが見えた。

僕はもう1度大きな声で衛生兵を呼んでからその兵士に力いっぱい話しかけた。

「君は生きなきゃだめだ。それから君が見たことは誰にも言ってはならないよ。誰にも言わずに生きていくんだ。罰なんだからね」

ようやく衛生兵が救急鞄をもって駆けつけた。

「すまんな。あちこちで怪我人がいるもんだから」
「ああ,いいよ。それよりあれは何だい」

僕はまだ泣き続けている兵士を座らせながら顎で人だかりの方を示した。

「ああ,あれか・・・」

ユニフォームの肩口をハサミで切りながら彼は大きくため息をついた。

「よくあるんだ。戻ってきて安心したんだろ」

麻酔を打ったせいか兵士の腕がほどけた。
僕は兵士を衛生兵に委ねてゆっくりと人だかりの方へ向かった。


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