Are you Wimpy?

次々と心に浮かぶ景色と音。
そこからは絶対に逃げられないんだ。

★「ネット小説大賞」にもチャレンジ中★

2.幸せなら手をたたこう

2019年11月05日 | 日記
2回目のミッションから帰国する前日,がらんとした体育館のような大きなコンクリート製の控え室のあちこちで僕なんかよりずっと若い子供みたいな兵隊たちがガチャガチャと装備の確認をしていた。

何かの作戦の準備だろうか。

どの兵士も少しだけ興奮しているみたいに頬や目の周囲が赤らんでるのがわかった。ユニフォームがまだパリっとしてたからほとんどが初陣なのだろうか。異様な緊張感が漂っている。

「50人・・・2個小隊くらいだな・・・」

どうせ小規模な作戦だろうと気にもとめなかったが,僕らと同じミッションで来ていた別のグループにリアノたちが同行することになったので見送ろうと思っていた。

それでも,長い旅から徒歩で辿り着いたばかりだったし,この数日間はカビの生えたドッグフードみたいな缶詰1個を騙し騙し食うだけの生活だったから辟易してダラリと座り込んでいた。

重たい防弾ベストを脱いだのは・・・もうどのくらいか覚えていないが,大体3週間ぶりくらいだろうか。帰国の準備といっても返却するのは借りていたヘルメットとベスト,それからスイス製のピストルくらいで,もうそれは到着してすぐ済ませてあった。

嗚呼,物凄く身体が軽い。

基地の入り口で迎えてくれた衛生兵が僕たちにペプシを奢ってくれた。

泥だらけの口の中を炭酸が洗い流してくれて凄く気持ちがイイ。砂糖が急速に脳みそに吸収されるみたいだ。ドラッグなんてきっとこんな感じがするのかな。

もう細かい傷の手当てもしてもらったし,まだシャワーは浴びてはいなかったけど,気分はまるで風呂の後みたいにすっきりしていた。

飽くまで僕たちは居候みたいなもんだから,ベッドやシャワーは貸してもらえなかった。

国連の配慮で翌日の貨物トレーラーでベルギーまで運んでもらえることになっていた。陸路で数日かかるが,フェリーに乗る前にブリュッセルの本部に戻るから,きっとそこでならシャワーくらい浴びる時間もあるし,勿論着替えも準備してある。

これは非公式のミッションだから帰国するときに誰にも気づかれない様に旅行客の様にふるまわないと。

決して悪いことをしているわけではないが,それは契約の最重要項目なんだ。

2台のトラックの荷台に乗り込んだ兵士たちが楽しそうに歌いながら足でドンドンとリズムを取り始めた。

If you're happy and know it, step your foot!!

「あいつら狂ってるんだな」

平和な日本の空を思い描きながら目をつぶると,昨日の流れ星のことがふと脳裏を過った。

「あのミサイルはどこへ向かっていたのかな」

誰が発射したのかは大体は察しついたが確信はない。

万一敵対してる組織同士だと狙いは学校か病院だから悲惨だ。せめて主に軍事施設を攻撃するNATOの作戦だと何の根拠もなく自分に信じこませていた。それに,これだけ慌ただしく準備してるところを見ると概ね当たってるに違いない。

「もうやめよう」

僕が脱退するのは自由なんだ。今回限りでこのミッションに参加するのは最後にしようと誓いながら壁にもたれてぼぅっと日本の家族のことを思い出していた。

早く浮き世に戻りたい。
とにかくその一心だった。

ギアをチェンジしながら重たそうに走るトラックのエンジン音と兵士たちの陽気な歌が遠ざかっていった。

僕はリアノたちを見送るのも忘れてそのまま眠ってしまった。


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