続・軍務尚書の戯言

国際情勢や医学ニュースに関して日々感じたことを残すブログです。

宗教と民族の対立~人類の業はてしなく~

2005-07-14 06:19:44 | 国際情勢
先日発生し多数の死傷者を出したロンドン同時テロが,国外から入国したテロリストではなくパキスタン系イギリス人により実行された自爆テロであったことが、イギリスとヨーロッパ社会に大きな波紋を広げている。
毎日新聞の社説にもあるように、9・11テロ以降、テロリスト集団として様々な差別に曝されてきたイスラム教の人々に鬱積した不満が、ウサマ・ビン・ラディンらの指揮する「西欧社会に対するジハード」と結合して悲惨なテロリズムに昇華した典型的な例と考えることができる。

イスラム教徒として差別されていたとはいえ,彼等はパキスタン系イギリス人として西洋式の教育を受け、人権意識がある程度浸透した西欧社会に住み,生活環境もそれなりに豊かであったはずである。
たしかに9・11テロ以降、イギリス公安組織による逮捕や監視のような有形の差別に加え,一般市民による嫌がらせやイスラム教冒涜のような無形の差別に日常的に曝されていたのは事実だろうが、それだけが彼等に自爆テロを計画・実行させる理由であったとは思えない。
つまり今回のロンドン同時テロは,日々の食料にも事欠き、古くからの因習と宗教的戒律がすべてを支配して西洋的な人権意識に乏しく、国土と経済が荒廃する一方で富裕層が富と権力を独占する絶望的環境の中東の若者が、イスラム原理主義とテロリズムにしか生きる意義を見いだすことができずに行った自爆テロとは異なるのだ。
西洋社会に住み、中東の最貧国と比べれば格段に豊かな生活を送り、それなりの未来も将来もあったにもかかわらず,彼等はイスラム教にもとづく彼等の正義を実行するために、自らの若い命を50人以上にもおよぶイギリス人と共に爆発によって消し去る道を選択したのである。
彼等が自爆テロにおよんだ背景は今後徐々に解明されていくだろうが,現在の世界情勢を考えるたびに宗教と民族の対立という人類の深く消すことのできない「業」に思いを馳せずにはいられない。

「頭の中お花畑」の左翼系平和主義者が呪文の様に唱える「民族・宗教の和解と共存」という一見すばらしいスローガンは,人類の歴史と現在の世界情勢を見ればいかに虚しい机上の空論であるかが理解できる。
人類の歴史はそのまま民族対立による虐殺と宗教戦争の歴史であるといっても過言ではない。
古くは十字軍によるイスラム教徒の大量虐殺,近代以降では第二次世界大戦におけるユダヤ人迫害や広島・長崎への原爆投下、そして最近の9・11テロとその後のアフガニスタン戦争・イラク戦争と続発するテロリズムは,民族と宗教の融和がほぼ不可能であることを我々にまざまざと見せつけている。
マルクスとレーニンは民族と宗教による対立をなくすにはそれらを消失させることが重要と考え,あらゆる文化と宗教を否定し社会主義による世界の統合を夢見たが、結局は最悪の非民主主義体制である共産主義体制を誕生させ、権力闘争による一億人以上の粛正を招いた挙げ句,強制移住により民族対立がさらに複雑化・激化するという置きみやげを残して失敗した。
こうした民族・宗教による対立の根本的な原因は,人間が進化の過程で獲得してきた本能と、人間の種としての限界にあると思われる。

第一の原因である本能とは、「同族意識」という極めて根本的且つ重要な感情のことである。
万物の霊長であるとはいえ人類も動物の一種であり、その究極の存在意義は「自己DNAの保存」に過ぎない。
この「利己的遺伝子論=全ての生物は遺伝情報であるDNAの単なる容器に過ぎない」とする考え方に関しては後日改めて詳述するが,人類を含め全ての生物は自己のDNAを子孫に保存・拡大するために生きているのだ。
常に存在する淘汰の圧力に屈することなく、自己のDNAを子孫に伝えその数を拡大していくためには、自己と同じDNAを持つ家族や肉親を外敵や異なるDNAを持つ個体から守らなくてはならず、その結果身を以て子供をかばう行動や家族のために犠牲をいとわない行動を生み出すのである。
この行動様式は自己のDNAを持つ個体にだけでなく,類似したDNAを持つ個体にも作用する。
なぜなら類似したDNAを持つ個体はそれだけ血縁関係が濃く、間接的ながら自己のDNAを保存することに寄与するからである。
この現象を現実社会に当てはめれば,自己と同じDNAを持つ個体とは家族であり,類似したDNAを持つ個体とは民族ということになる。
つまり他人や自分と異なる民族を排斥することはあらゆる生命に共通の基本原理であり,この原理に従って淘汰の圧力に屈することなく生存競争に勝ち抜いた個体の子孫が現在生き残っている我々なのだと考えられる。
従って家族や自己の所属する民族に対する「愛情」や「忠誠心」と、他民族に接した際に惹起される「恐怖」「警戒感」「敵対心」は,人類の本能に根ざした自然な感情であり、性欲や食欲と同じく教育や制度で矯正できるものでは決してないのである。

第二の原因である人類の限界とは,人間の理解力には限界があり全てを許容することは不可能である事実だ。
実際の生活の中でも実感できるように,人間の記憶力や理解力にはおのずから限界が存在し、しかもそれらには感情や主観といったバイアスが大きく影響する。
簡単な例を挙げれば,好きなゲームの攻略法はすらすら暗記できるのに、嫌いな勉強はどれだけ努力しても記憶できないといった現象のことだ。
このためインターネットをはじめとする情報技術の急速な進歩により莫大な情報を手に入れることができるものの、人間の理解力には限界が存在するためおのずから取り込める情報量は限られてしまう。
この情報の取捨選択の際に前述した感情や主観といったバイアスが大きく影響することで、自分の感情に適した情報は理解される一方,そうでない情報は遮断され非常に偏った理解や偏見が生み出されるのである。
この現象はその構造上、いかに情報量を多くしてもなくなることはなく、むしろ情報量が多ければ多いほどバイアスの影響が強くなり偏見が増悪されるという特徴がある。
これだけ情報化社会が進歩し、民主主義教育が徹底されても差別や偏見がなくなるどころかより増悪している理由はここにある。
また宗教に関しては,その根本が「検証を許されない教義」であるが故に教義に合う事実のみ理解され他はシャットアウトされてしまう結果,「正義の軍隊と邪悪な悪魔」という単純な構図に落ち込み、虐殺や迫害が横行する結果を生むのだ。
歴史的にも「自己の信仰と正義を信じる最も敬虔な者が最も残虐な殺戮者となり得る」事実は列挙にいとまがなく,いかに人間の理解力に限界があるかを如実に示している。

ヨーロッパ各国は第二時世界大戦の反省と社会主義の影響を受けてあさはかな人権主義に陥り多くの他民族と宗教を受け入れた結果、ドイツを中心に荒れ狂うナチズムの再興と各国の民族主義の台頭により民族対立が激化しただけでなく,サミットのために先進国の首脳が集まっていたロンドンで自爆テロが発生するという前代未聞の悲劇を招いた。
ヨーロッパ各国には多数の差別・抑圧されているイスラム教徒が存在しており,今回の事件を期に高まるであろうイスラム排斥運動はさらに彼等を追いつめ、新たなテロを志向させることは確実である。
切り込み隊長さんも述べておられるが、理想に踊らされ机上の空論に従った結果,ヨーロッパは当初の目標であった融和と協調ではなく分裂と排斥に陥ったのだ。
日本でグローバル化のために移民を受け入れろと主張するエセ社会学者や労働力不足から移民を受け入れろと主張するエセ経済学者は、歴史の教訓をどのように考え、この事態をどのようにとらえ、彼等の主張をどのように言い訳するつもりなのだろうか。

今日の箴言
「水と油は決して混ざらない。民族や宗教も同じである。」

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2 コメント

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移民反対 (しんた)
2005-07-14 07:07:59
かつてアメリカや南米に移住していった日本人がどれだけ苦労したことか。

今、その子孫が日本で逆の苦労をしている。日系人だとて安易に受け入れてはならない。現に起きつつある彼らの日本への不適合、犯罪の数々、それを起こす雇用者の使い捨て。一時の安い労働力が社会的コストの増大をもたらす。

すべての人類が互いの違いを認め合い仲良く生活していける時代はくるのか?

参考

「生命憲章」http://www.goipeace.or.jp/japanese/declaration/index2.html

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コメントありがとうございました。 (軍務尚書)
2005-07-14 08:32:21
コメントありがとうございました。

うちのボスは日系2世ですが,第二次世界大戦時強制収容されすべてを失った経験の持ち主です。

情報のグローバル化に反比例して民族・宗教対立は悪化するでしょうね。

人類に平和は訪れないでしょう。
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