うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

60年安保、岸上大作の短歌

2008年11月07日 03時40分57秒 | 俳句・短歌、またはエッセイ
今日は立冬。
 “文藝別冊-総特集-吉本隆明-” 河出書房新社 という雑誌を読んでいたら、岸上大作の短歌を思い出した。わたしの所蔵している中にはかれの短歌集は見つからず、やむを得ず、ほかの本からの孫引きやWEB検索をしてここに採録した。煩雑を恐れることなく、ここでは重複を厭わず記している。まずは関係者の方々に対して、どうか了承のうえご寛恕を請いたい。

 樺美智子さんが亡くなった60年安保のとき、 岸上大作は国学院大学の短歌研究会に所属していた。もうすぐ、死後50年になる。
 当時、彼は煩悶の情を持って、歌人寺山修司(突っぱねられたが・・)や吉本隆明を訪ねたらしい。吉本隆明は岸上大作の葬儀に参列するが、遺族から死因について、あんな本を読んだためにと、責められるのだ。
 「意志表示」の解題に吉本隆明の分析と解説があり、また自身の“追悼私記”にも転載されている。(ちなみに、吉本隆明の追悼の文章は秀逸ぞろいだ)。
 どうぞ、若い気魄と切迫した心情をたどっていただきたい。

岸上大作 【きしがみ だいさく】
昭和14年10月21日~昭和35年12月5日。60年安保闘争に参加し、革命と恋の青春を、ナイーブな感性でうたった歌を作った。21歳で自殺。

戦病死で父親(岸上繁一)をなくした後、貧困な母子家庭に育つ(母はまさゑ)。長男。中学時代に社会主義に興味を持つ。兵庫県立福崎高等学校に入学して、文芸部に入部。詩、俳句、小説、ドラマなどを書くが、「まひる野」に入会して短歌のみを志すこととなる。國學院大學文学部に入学し、安保闘争に身を投じて負傷。1960年の秋、安保闘争のデモの渦中に身を投じた経験と恋とをうたった「意思表示」で短歌研究新人賞推薦次席。安保世代の学生歌人として「東の岸上大作、西の清原日出夫」と謳われた。同年12月、失恋を理由として自殺。死の寸前まで書かれた絶筆「ぼくのためのノート」がある。著書は作品集・白玉書房刊「意志表示」(1960年)、日記・大和書房刊、「もうひとつの意志表示」(1973年)など。現在、角川文庫版がある。
現在、兵庫県の姫路文学館に展示ブースが設置されており、「意志表示」などの直筆作品を見ることが出来る。

昭和35年の冬、岸上大作は、最後の炎を燃え上がらせて54枚もの原稿用紙に遺書を書いた。七時間をかけて死の寸前まで書き続けられた「ぼくのためのノート」は、東京郊外、四畳半の下宿の窓で縊死した学生歌人の烈しい青春の情熱をほとばしらせ、その熱気は一瞬の閃光を残して彼方へ消えた。

21歳2ヶ月のあまりにも短い生涯を「恋と革命」の挫折によって区切った大作の墓は、兵庫県西部、民俗学者柳田国男の生家に近い山裾の墓地にあった。戦病死した父繁一と、平成3年、74歳で逝った母まさゑの墓に挟まれて、貧困と孤独の十八年間を過ごした里の靄った反射光を受けた鈍く黒光りする碑面は、羨ましいほどの強い意志を持って立っていた。

代表歌集
「意志表示」 昭和36年
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   (意志表示)
   ・意志表示せまり声なきこえを背にただ掌の中にマッチ擦るのみ

   ・装甲車踏みつけて越す足裏の清しき論理に息つめている

   ・海のこと言いてあがりし屋上に風に乱れる髪をみている

   ・プラカード持ちしほてりを残す手に汝に伝えん受話器をつかむ

   ・ヘルメットついにとらざりし列のまえ屈辱ならぬ黙祷の位置 

   ・血と雨にワイシャツ濡れている無援ひとりへの愛うつくしくする
 
   ・断絶を知りてしまいしわたくしにもはやしゅったつは告げられている 

   ・口つけて水道の水飲みおりぬ母への手紙長かりし夜は

   ・美しき誤算のひとつわれのみが昂ぶりて逢い重ねしことも

   ・幅ひろく見せて連行さるる背がわれの解答もとめてやまぬ

   ・生きている不潔とむすぶたびに切れついに何本の手はなくすとも

   ・不用意に見せているその背わがためのあるいは答案用紙1枚

   ・学連旗たくみにふられ訴えやまぬ内部の声のごときその青

   ・戦いて父の逝きたる日の祈りジグザグにあるを激しくさせる

(高校時代)
・人恋うる思いはるけし秋の野の眉引きつきの光にも似て

・悲しきは百姓の子よ蒸し芋もうましうましと言いて食う吾

・恋を知る日は遠からじ妹の初潮を母は吾にも云いし

・ひっそりと暗きほかげで夜なべする母の日も母は常のごとくに

・白き骨五つ六つを父と言われわれは小さき手をあわせたり

・分けあって一つのリンゴ母と食う今朝は涼しきわが眼ならん

・かがまりてこんろに赤き火をおこす母とふたりの夢をつくるため

(その母たちのように)
・木の橋に刻む靴の音拒まれて帰る姿勢を確かにさせる
            
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