うざね博士のブログ

緑の仕事を営むかたわら、赤裸々、かつ言いたい放題のうざね博士の日記。ユニークなH・Pも開設。

わたしの育った田舎

2007年06月25日 06時18分45秒 | ランドスケープデザイン
時々

 ≪朝起きると子供たちは農家の広い庭の掃除をおこない、各部屋の雨戸を開けたてて、縁側などの板敷きの床の雑巾がけをする。家畜の世話は、毎日人間と同じように二度三度牛に飼い葉を与えたり水を足したり敷き藁を取り替えたり世話をする。にわとり、うさぎにもえさをやる。乳牛を飼っていた頃は、素手で牛乳をしぼったのち原乳を井戸水の中で攪拌冷却して、ステンレス製で円筒状の集乳缶に詰め毎朝集荷場所に自転車で運ぶ。こういう作業は家族の手の空いている者の役割である。炊事の準備は祖母と母がかまどで薪を燃やし釜でご飯を炊いている。燃料である山から集めた薪(タキギ)は木小屋(キゴヤ)に積み重ねてある。
 野菜を裁板(サイバン・マナ板)の上できざみ味噌汁を手際良く作っていく。おかずは軒先とか柱につるしてある乾物を取り込み、野菜や魚を別棟になっている漬物小屋の大きな樽から取り出す。飲み水はあらかじめ井戸から汲み上げて台所の大きな水甕(ミズガメ)に満たしてあり、使うたびにひしゃくですくって鍋、釜にいれる。食事の支度がそろうと、早起きし野外で牛に与える青草刈りなどの朝仕事をこなしている父はそのままの衣服で居間に戻り、やおらに家族全員ともども集まって、箱膳(ハコゼン)なり飯台(ハンダイ・テーブル)をかこんでいる。
冬の寒気厳しい朝は庭の雪かきを行い、結氷したり凍結した水まわりには沸かしたばかりのお湯をかけて通水させあらかじめ一日の準備をする。寒い季節には、いつもは農家独特の天井のない居間の高い梁から鍋をぶら下げて煮炊きしている鋳物の自在鉤(ジザイカギ)を外し、囲炉裏端(イロリバタ)に炬燵がけをし食卓をかこむ。
 顔を洗った子供たちはアルマイトの弁当箱を持ち、近所の仲間たちと歩いたり自転車で学校へ行く。高校は遠いので、雨とか雪のときは女性車掌が添乗しているボンネットバスに乗る。下校後、農作業の忙しい時は子供たちも田畑へ親の手伝いに直行する。また当時の家庭の多くは子沢山であり、上の子供は兄弟姉妹で子守の役割をになう。
 一方、野良(ノラ)に出た親たちは正午のお寺の梵鐘が鳴るまで、こやしのにおいのする耕作地、畑で代赦色(タイシャイロ)の土くれを相手に汗水をたらし働く。昼食はいったん家庭に戻ってとり食後昼寝をし午後一時すぎにまた畑に戻る。しかし山仕事、田んぼの農繁期には白米版を入れたお鉢(ハチ)やお櫃(ヒツ)、味噌田楽(ミソデンガク)のお握りや曲げわっぱの弁当箱と、おかずに魚の煮付けと自家製の漬物を持参する。作業の休息時、冬などの寒い時期は手近かに落ちている枯れ杉葉、枯れ木などの粗朶(ソダ)を集めたり、雑穀のまめ殻などで火をおこし焚き火で暖をとる。田畑から帰った夕刻は、家族で親子ともども手分けしてせわしなく立ち働き、食事の準備、家畜の世話とマキを割り風呂を沸かす。夕餉(ユウゲ)後は、家族団欒で白黒テレビを見て過ごし戸外のうす暗い風呂に入り寝床にもぐりこむ。養蚕とか葉たばこの農繁期は夜なべ仕事になる。農作業の忙しい季節は家族総出である。集落内で人手の足りない家へは助っ人(スケット)で行く。外が雨でも屋内で作業がある。一年を通じて祝祭日も休日もない。合い間に家族が一緒に休むとすれば冠婚葬祭のとき、旧盆、正月(新、旧)の日ぐらいである。≫


 これは3年前の3月にまとめた《緑の仕事》の一節である。400字詰め原稿用紙換算200枚ほど。わたしが、数年がかりで今まで生きてきた道と造園設計の仕事を<自分史的>に振り返ってみたもの。その中の“生活意識とデザインのかたち”の章であるが、時代背景は昭和30年代後半、東京オリンピック開催直前の東北の農家の生活を思い出したものである。わが家は家族みんながそろっているし、質朴にけなげにも生きていた。これはわたしの中学生時代。しかし、なんとまあ、古風な世界であることか。単語も死語になりつつあり、語彙も意味不明。近頃の若い人には理解不能かもしれない。
 わたしの周囲の人たちに読んでもらったら、あきれられたり感心したりしたものだ。
 これは、たまたまある出版社のコンテストに出したら三次選考まで行った。ただし、意外なことに20歳代の知人には大歓迎であった。面白い話、特に読書習慣のない連中にだ。

 この冊子はぐちゃぐちゃになっていた本、書類の山の中からやっとこさ見付け出したものである。たまたま、別件で福岡県の北九州市役所から郵便があり、この9月締め切りで<自分史コンクール>があるそうで、実は応募しようかと考えている。

 なお、詳細は下記のH・P内のサイト内検索欄からお入りください。
     北九州市自分史文学賞

      
コメント
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