プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 稲見一良「ダブルオー・バック」

2024年05月14日 | ◇読んだ本の感想。
ハードボイルドはキライなのよ。
なら読むなって話だが、この人の小説は、読むと「面白い」と思わされちゃうのよね。
道具立てはほぼキライなのに。
たとえていえば、嫌いな食材を使った美味しい料理という感じ。

読むのはこれが4作目か5作目。今回が一番ハードボイルドな気がしたなー。
パラパラめくって、もう字面がイヤなんだもの。暴力的で。
よほど読まずに返そうかと思った。

でも読むと面白い。
今回の趣向は「呪いのライフル」……ライフルかどうかは失念したが、
因縁のある銃が、関りのない人々の間をめぐって命を奪っていく物語。連作短編。中編か。

銃、サバイバル、屋外生活の蘊蓄がふんだんに。
こういうのはともすれば嫌味になりがちで、この人も嫌味ぎりぎりまで行くんだけど、
どこか透明感があるのよね。その爽やかさが全体を救っている。

作者は繊細な人だったのではないかという気がする。
ハードボイルドは男臭さを売りにするのが常なのだが、おそらく本人は
一見物静かな人だったのではないか。

あまり詳細ではないWikiを見ると、「記録映画のマネジメント」、「放送作家」と
書かれているので、もう少し文章に臭みがありそうな経歴だが……という偏見も持つが
これがけっこう清冽で。
ハードボイルドじゃないジャンルを書いてくれればかなり好きになれただろうなあ。
いかんともしがたいが、残念に感じる。まあ私事だが。

63歳で死去。肝臓がんで。若かった。
40歳前に小説を書いて賞をとるも、小説家の道ではなく実業を選んだ人。
でも54歳の時に肝臓がんの手術を受け、58歳の時に本格的に小説家としてデビュー。
それから5年の間に何冊かの作品を書き、そのうちのいくつかで文学賞を受けた。
ふと立ち止まるような、不思議な経歴の人。

ハードボイルドは嫌いだけれども、書いて作品を残してくれたのは良かった。
わたしは読んだ。いい書き手だった。


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