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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 稲見一良「男は旗」

2025年04月21日 | ◇読んだ本の感想。
わたしは男臭い話は好きではない。つまりハードボイルドはあんまり好きではない。
しかし稲見作品はなんとか読める。ものによるけれども。
これは柔らかい方のノリなので読めた。

いや、これはハードボイルドというより、大人向けの皮を被った少年冒険小説ですね。
特に後半。前半は首を傾げつつも、かろうじて普通の話ではあるんだけど、
後半は何しろ宝島を探す話ですから。
全体的にリアリティがない。これはなあ……と思うところ多々あり。


――でも、書きたかったんだろうなあ。
多分。わたしは稲見一良の詳細を知らないけれども、多分。
この本の発行は1994年2月15日。そして稲見一良の命日は1994年2月24日。
死因は10年闘病を続けた癌だそうだから、多分発行日には相当に弱った状態だろうと。
そのせいか、この作品の版権はEmiko Inami。奥さんか、娘さんか。

これは前半部を1991年の小説新潮に連載し、後半は書き下ろしというイレギュラーな
作品らしい。書き下ろしだからこそ形を成したということはあるかも。
よく言えばファンタジー色強め、悪く言うと子供っぽい。

ただその子供っぽさが悪い一方かというと、そこまでではない。
リアリティが!とはいいたくなるけど、爽快ではある話。キャラクターがみんな可愛いし。
少年の夢の話を書きたかったんだろうと思う。その気持ちはわかる気がする。


そして、この話をこのわずかな残りのページ数でどうまとめるのか……?と
思いながら読んだが、なかなかの力技だが、ほー!こう来たか!という意外性があった。
これなら短いページ数でまとめられるし。絵面も派手だし。なかなかいい。
子供っぽいが。

この話は主人公の飼っているコクマルガラスの一人称の視点なんだよね。
一人称のわりには露出が控えめだが、鳴き声の違いの部分は気分が盛り上がった。
作者の烏に対する愛情を感じる。さらに登場人物全員に対する愛情も感じるので――
大人が書いた「ワンピース」的な話、と例えるのはありかな。
もちろんワンピースのボリュームには遠く及ばないわけだが。

欠点はあるが、可愛らしさも感じる作品。
おそらく最晩年に書いた作品だろうと思うので、そこを含めると温かく見たくなる。
稲見一良は、好きだとはいえないけど、きれいな文章を書く人だった。
かっこつけたいところがたくさんありすぎたきらいはあるが繊細で誠実な書きぶりだった。

わたしが稲見一良を読んだのは最近なので、すでに亡くなっていたんだけど、
こういう人が(比較的)若く亡くなるのは惜しい。

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