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プラムフィールズ27番地。

本・映画・美術・仙台89ers・フィギュアスケートについての四方山話。

◇ 前嶋信次「アラビアン・ナイト 1~12 別」(東洋文庫)」

2008年02月07日 | ◇読んだ本の感想。
いや、前嶋信次がアラビアン・ナイトを書いたわけではないけど。
でもこの労作は、前嶋信次のアラビアン・ナイトと呼びたい。


まず「アラビアン・ナイト」部分ですが。
いや~、これはね~……なかなか飽きますな。読みとおすのは根気が要った。
なんといっても自然形成の長大な短編集なので。まさに玉石混交。全く内容がない話や、
つじつまが合わない話や、変に整った話や、色々入り乱れて大変。
こんなことを言っては前嶋信次さんも草葉の陰で浮かばれないことであろうが、
アラビアン・ナイトを全巻読みとおすことに、あんまり意味はない気がする。
阿刀田高の「アラビアン・ナイトを楽しむために」は手元にあるので何度か読み返してもいたが、
今回13巻通して読んで、阿刀田高の本で十分だなと思った。アラビアン・ナイトの面白い部分は
あの本で網羅出来る。いいとこどりで読めるから、むしろ全体的にはより好印象だ。


が、学者の著作は一般読者が読んで面白いかどうか、というのとはまた違った価値もあるからね。
この長大な古典作品、それも日本で初めての原典翻訳。
抄訳はいかに質が良くても抄訳だし、同じ意味で重訳はどれほど丁寧な仕事をしても重訳だから。
前嶋信次がこの仕事をしてくれたことは、感謝すべきことだと思う。

でもこの人はこれを完成せずに逝ってしまった。12巻まではちゃんと第何夜、と章だてが
されているのだが、最後は章だてがなく、13巻ではなく別巻として出されている。
多分翻訳を急いだんだと思う。別巻に収録されているのが「アラーッ・ディーンと魔法のランプ」
「アリ・ババと四十人の盗賊」の話だけだから。おそらく完訳するまでの時間はないと思い定めて、
アラビアン・ナイトの一番有名な話であるこの2話を訳したんだろう。
その心情を想像すると、……やり遂げたかっただろうな。


しかし(こんなことを言ってはさらに不謹慎だが)道半ばで倒れるのもヒロイックだよ。
彼はほぼ80歳で亡くなったわけだが、「道半ば」だったということは、その時点で戦っている
最中だったということ。御年80の現役戦士。称賛に値しませんか。
やり残した仕事はいつの日か誰かが継ぐさ。種は播いた。播いて育てた。その功績は彼のものだ。


※※※※※※※※※※※※


……こういうことを考えると、この間読んだ角田文衛の本は……。
角田文衛はわりと(過去形にするか現在形にするか迷うが)好きだったんだよ。
著作の多さそのものもさることながら、見ている部分が細かい。
歴史上でほんのちらりと姿を表すだけの人物についての小論は、彼らに対する愛情を感じて
好きだった。歴史好きの歴史学者。そういう人の書くものは、情熱に彩られて熱い。

が、ここ最近読んだ2冊はなー。

我褒めのあまりない人だと思っていたのに「王朝の残映」とか「京の夕映え」で、突然
自分の功績を誇り始めたのはびっくりした。「王朝の残映」は小論集だからまだまともなんだけど、
「京の夕映え」は彼が今まであちこちに寄稿したものを編集して1冊にしたもので、
追悼文や地方刊行物への原稿も載せている。私的なものも多く、これもまた玉石混交。
まあ、発行された当時で80歳だから、功成り名遂げて、多少自慢くらいしたっていいけど、
この人って……おそらく剛腕だったんだろうな、とつくづく思った。
多分学会ではおっかないボスだったことでしょう。にらまれたら怖い。

そういう部分で少々幻滅したきらいはある。この人は多分もう戦闘からおりてしまった。
第一線を退いてその後がこれでは、ちょっとなあ。やってきたことは実際とても偉いのだが。
ちなみに御存命で、御年94くらい?


※※※※※※※※※※※※


好きな学者は何人かいる。一応角田文衛もそうだし、最近読んでないけど、高橋富雄とか。
井波律子は基本淡々としていてすごく真面目なんだけど、文章にそこはかとなくユーモアがある。
テレビで見て好きになったのは青柳正規。声と話し方が好きだ。お顔もなかなか良い顔立ちだが、
失礼ながら体型はコロっとしてちっちゃく、少々ユーモラス。
でもこの人、本だとかなりド真面目に書きますね。

柔らかく一般向けにも書けるのは陣内秀信。この人もテレビで見て好きになった。
NHKの生中継で、イタリアを主に都市空間としてとらえる番組の水先案内人。
イタリアの街を歩いているのが、ものすごく楽しそうで、ああ、こんな学者はいいなと思った。
やはり研究対象に対する愛が溢れているのが感じられる学者はいいね。

そういう意味では藤森照信さんは外せないが……わたしにとっては学者ではなく、
路上観察学会の学会員なんだよな。もちろん彼は今や東京大学の教授サマですが。
けっこう売れてますよね。テレビでもちょくちょく見るし。

それから、この間亡くなった若桑みどり。
好きだ、と大きな顔で言えるほど著作を読んではいないけど(3冊くらいかな)、
「世界の都市の物語 フィレンツェ」が好きでねえ。面白い。
ジェンダー関係は興味がないので、だんだんそっちに行ったのは少々残念だが、
もっと読んでおかないと、と思う人ではある。



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