お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

メタボ対策は赤ちゃんから

2011-02-02 | from Silicon Valley


「まるまる太った」とか「ぽちゃぽちゃして可愛い」というのは、洋の東西を問わず、赤ちゃんに使われる伝統的な"ほめ言葉"でした。赤ちゃんがまんまるな顔をしているのは当たり前。時には手首がくびれるくらい「ぽちゃぽちゃとしている」のも新生児にはよくあること。こういう赤ちゃんを見て「太りすぎじゃないの?」なんて気にする人はいませんでした。

実際、従来はこういう「ぽっちゃり」した赤ちゃんらしい特徴は、数カ月もすれば消滅してしまうもの。だからこそ、赤ちゃんならでは……のかわいらしさの象徴として考えられてきたのです。

ところが、最近のアメリカの赤ちゃんは「しかるべき時期がきてもスリムにならない!」のだそうです。この場合の『しかるべき時期』の目安は『這い這い』の始まる8カ月ころ、あるいは遅くとも『歩き』始める1歳半前後。このころになっても「ぽっちゃり型」の赤ちゃんが確実に増えていることがわかってきて、アメリカ人の肥満は生まれた時から始まっている……と(今更ながら?)懸念されています。

カリフォルニア州オークランド市で開業する小児科のビーン医師が、この傾向に気づき始めたのはおよそ10年前。診察に来る2-3歳児(トドラー Toddler)の多くに肥満傾向があるのです。ビーン医師の観察はこのエリアだけの特殊な事情ではなく、実は全米に共通。『アメリカの乳幼児の3人に1人はすでに小児肥満かその危険域にいる』という調査研究も発表されたばかりです("The American Journal of health Promotion"2012年1月号)。

先ごろ、アメリカの”メタボ対策”は中高年でも大人でもなく、子ども重視!と書いたばかりですが(ブログ記事:『メタボ対策は子どもから』)、すでに問題は子どもどころか乳幼児! 肥満は『成人病』なんて言われたのはいつの話?

「赤ちゃんが肥満する」原因としては、栄養価の高い食品の過剰摂取(要するに飲み過ぎ・食べ過ぎ)や、加工食品に偏った食生活だと言われています。さらに運動不足に伴う(赤ちゃん時代から)のライフスタイルだとか。原因はともあれ、小児肥満がひとの生涯にわたる肥満の重大な原因となること、ひいてはさまざまな疾病の原因であることは既に常識以前。『赤ちゃんの肥満』はきわめて憂慮すべき事態です。

「このままでは医師として責任が負えない!」と痛感したビーン医師は、まずは「親たちの教育を」と、食と料理のワークショップの開催を始めました。この経験から、彼は「現在の親世代以前から、アメリカ人は栄養や食事についての適切な教育を受けていない」と指摘しています。こんな先進国で……と信じられない気がしますが、これがアメリカの現実です。

家庭から『食育が失われた』というのは、単に「食に関する躾や家庭教育がなくなった」などという悠長な意味ではありません。むしろもっと直接的に、多くのアメリカの家庭から『家庭料理』や『家族の食卓』などというものが消えてしまったことを意味しているのだと思います。つまり誰も家庭の台所で料理をしていない……のです。

そう言われれば……まだ娘が小さかった頃、お友達のお母さんが、それも一人ならず「私は料理をしません」と言うのを聞きました。始めは「料理しないで、どうやって子どもを育てることができたのかしら?」と実に不思議に思い、正直に言えば「そんなこと、ありえない」と思っていましたが、現代のアメリカでは、実はこれ、そんなにむずかしいことではありません。

朝はシリアル。学校へのランチはスーパーで買ったランチパック。家族が揃う日のディナーはテイクアウト、揃わない日は好きな冷凍食品をチンして食べる……と、こんなサイクルで暮らしているのです。赤ちゃんも例外ではなく、時間がきたら哺乳瓶でできあいのジュースやミルクを飲み(1回分ずつパックされたミルクを哺乳瓶に移してチンするだけ)、離乳食にはそれこそ一食分ずつ瓶詰めになったベビーフードをあければOK。そのうえ「うちの子は偏食で何も食べないから(一生懸命つくっても無駄なのよ)」と言うお母さんもたくさんいました。(ブログ記事:『こどもの偏食、おとなの偏食』)

もちろんランチはパッケージでなく、ホームメードのサンドイッチのこともありますが、たいていはピーナツバターとジャムを塗るか、マヨネーズを塗って缶詰のツナやできあいのハムなどをはさむだけ。職場に持っていくお弁当も、ニンジンのスティックだけ、バナナにヨーグルトだけ……が結構フツーです。

アメリカ人の家庭は、まさに「加工食品」で成り立っているのです。どこの家庭の冷凍庫も冷蔵庫も、食べきれないほど大量のさまざまな加工食品でぎっしりいっぱい! こうした食の現実は「量産された加工食品が、驚くばかり安い値段で国中に供給されている」という事実(そう、ドキュメンタリー映画"Food, Inc."が描きだした事実)と決して無縁ではないでしょう。一人ずつバラバラに好きなものを食べるには、"チンするだけ"の冷凍食品が断然便利。ましてや大人から見たらほんの一口しか食べない赤ちゃんの離乳食など、手作りする手間暇を考えたら、既製品の方が圧倒的に安くて手軽。その食品がどんなものかと思いをはせたりせず、"安全"や"質"よりも"便利"や"安い"を優先すれば、どうしたって大量生産の加工食品を片手に冷蔵庫と電子レンジそして食卓を経めぐるライフスタイルになります。みんなやっているし、一番簡単だからです。しかも安い!

かつてアメリカに転居して間もないころ住んでいた家の近所にあった大型スーパーでは、多種多様なドッグフードやキャットフードと並んで、同じ棚のすぐそばに多種多様なベイビーフードが並べられて売られていました。初めて見たときには、思わず笑ってしまったのですが、今から思えば、あれこそまさにアメリカの食の現実!だったわけです。アメリカの赤ちゃんたちの「加工食品」に依存した暮らしは、当時すでにして”生まれた時から”始まっていたわけで、当時というのが今から20数年前だったことを思えば、当時の赤ちゃんたちがすでに親になっていても少しも不思議はありません。

ファーストレディのミシェルさんを筆頭に、専門家たちがが取り組もうとしている『子どもの肥満』対策は、このように考えてくると、単なる予防医療の問題でもなく、単なる食育の問題でもなく、アメリカの製造・流通業の産業構造の根幹までをを揺るがす可能性のある一大事業です。





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