お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

100丁目の電話ボックス

2011-01-18 | about 英語の絵本

The Lonely Phone Booth

絵本と言うと、なんとなく、のどかな郊外や田舎の穏やかな風景と、そんな中の暖かで和やかなクラシックな家庭が舞台……という印象があります。「昔懐かしい」と言う形容詞がぴったりするような……。でも、大きな街にも子どもはたくさんいて、シティキッズには、のどかな郊外暮らしとはひと味もふた味も違う、ちょっと刺激的なキッズライフがあります。そこで最近、意図的に都市が舞台の絵本を取り上げてみています。先月の『うさちゃんがいない!』も、大都会ニューヨークが舞台でした。実際の街並みの写真に可愛いイラストを組み合わせた挿絵デザインが、私のようなニューヨーク好きにはたまらない!お洒落な絵本です。

今日の絵本の舞台もニューヨーク。マンハッタンの一番西側、ハドソン川に最も近いウェストエンド通り(West End Avenue)は一日中たくさんの車や人が行き交う幹線道路です。このウェストエンドと100丁目通り(100th Street)との交差点に公衆電話ボックスがありました。

ほんの数年前まで、この電話ボックスにはいつも行列ができていました。ミーティングに遅れそうになったビジネスマンがボックスに駆け込み、バレリーナはオーディションの結果を聞くためにエージェントに電話をし、慌てたミュージシャンが楽器をタクシーに忘れてタクシー会社に電話をし、ガ―ルスカウトの女の子はファンドレイジングのために売るクッキーが足りなくなって追加を注文し、お誕生日パーティに出張を頼まれたピエロは風船を持って道に迷ってしまい……。ここでは一日中、誰かが誰かに電話していました。そう、公衆電話ボックスから……。

ウェストエンド/100丁目の公衆電話ボックスは、いつもいつも忙しく、休む間もなくみんなの役に立っていました。電話料金入れはいつもいっぱい。だから電話会社の係員が毎週欠かさずやってきて、お金を回収し、ボックスをきれいに磨き上げていました。

でも、いつのころからか、ビジネスマンは電話ボックスの脇を通り過ぎながらポケットから取りだした小さな黒い携帯電話に向かって話をするようになりました。クッキ―の追加注文をするガールスカウトの女の子も、タクシーに楽器を置き忘れたミュージシャンも、道に迷った誕生祝いの出張ピエロも、小さな携帯電話に向かって話をするようになりました。そして、みんな、電話ボックスの脇を通り過ぎてしまいます。

「みんな、何に向かって話しているんだろう?」と電話ボックスは携帯電話を見て不思議に思っていました。

ある雨の日、バレリーナが小走りで電話ボックスに入りました。「あ、来た来た!」 でも……彼女は、ボックスに入って傘をたたむと、公衆電話の受話器を取る代わりにポケットから携帯電話を取りだしてエージェントに電話をかけ始めたのです。

そうして、誰にも使われなくなった電話ボックスには、係員も以前のように頻繁にやってくることがなくなり、汚れたまま、誰にも顧みられることなく、同じ街角に立ち続けることになりました。

ある時、ニューヨークにストームがやってきました。落雷で電線が切れ、街中停電。人々は大慌てでお互いに電話をかけあいましたが、あまりに大勢が一斉にアクセスしたために携帯電話網がマヒしてしまい、連絡がつきません。そんな時、復旧工事に忙しい建設業者がかの電話ボックスに目を留めて、公衆電話をかけてみると……「あ!かかった」 そこへ困り果てた人々が次々とやってきて、電話ボックスの前は長蛇の列。そして公衆電話は無事にみんなを繋いであげました。

……お話はまだまだ続きます。が、続きと結末は読んでのお楽しみ!

さて最後に閑話休題。二つの「実は…」をお届けします。

実は「自然災害などで電話回線が込み合ってかかりにくくなった時、一般の家庭回線やオフィス回線よりも、公衆電話回線は最後まで確保されていて、一番よくつながる」というのは本当のことだそうです。これは電話会社のプロに聞いた話。だからこの絵本に出てくる公衆電話の活躍は、なるほど……の実話。そう言えば、もうかなり前になりますが、映画『The Day After Tomorrow』で天候異変で大雪になったニューヨークで市立図書館に閉じ込められた主人公が、父親に「公衆電話は最後まで通じるぞ」と言われていたのを思い出して、オフィスの電話に見切りをつけて水浸しの地下室まで公衆電話をかけにいき、両親に居場所を連絡する……という場面がありました。

もうひとつの「実は」は、この絵本の『実在モデル』です。そう、ニューヨークのウェストエンド通りと100丁目通りの交差点には、ほんとうに公衆電話ボックスがあるんです。今日も、昔ながらのスタイルそのままで立っています。ニューヨークにいらしたら、ランドマークのひとつとしてお訪ねになってみませんか? この絵本と一緒に記念撮影……なんて、知る人ぞ知る、ひと味違った観光になるのでは。


参考マンハッタンに実在する公衆電話は今では9カ所のみ。ウエストエンド通りには件のブースを含めて4つの電話ボックスが立っています。そして残りは‥…そう、あのニューヨーク市立図書館です。




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