お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

時間と人生の GAP

2011-01-10 | with バイリンガル育児

写真:Gap Yearを海外で、というのは洋の東西を問わず人気のイベント

新年が明けると、いよいよ大学の合格発表の季節が始まります。日本のような一斉入試をとらないアメリカでは、合格発表も決まった日時に発表されるのではなく、1月から3月まで"さみだれ式”に、受験生それぞれに個別に合格通知が届きます。資料の入った大きな封筒が届けば合格、定型サイズの小さな封筒の場合は不合格か補欠の通知です。(参照:ブログ記事『大きな封筒、ちいさな財布』)

どんなに遅くとも、4月第1週には合否が確定しますが、アメリカの大学では、新入生は合格したあとで入学を半年から1年間遅らせること(deferral)が可能です。もちろん大学と交渉し許可を得ることが必要ですが、入学するタイミングを遅らせて、この間に、働いたり、ボランティア活動をしたりすることができます。

最近では、いったん大学に合格してからこの制度を利用して入学を遅らせたり、あるいは現役受験をしなかったりで、高校卒業後にすぐには大学に行かない子が増えていると言われています。ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、最近では、高校を卒業してから実際に大学に入学するまでの期間は『Gap Year』と呼ばれていて、この時期に積極的に「寄り道」をするのがむしろ新しいトレンドになってきているとのこと(Delaying College to Fill in the Gaps, Personal Journal, The Wall Street Journal 2010年12月29日)。

UCLA(カリフォルニア大学ロサンジェルス校)が最近実施した調査では、調査対象となった30万人の米国各地の大学1年生のうち、1.2%の学生が大学入学時期を遅らせています。

確かに、身近にもGap Yearをとる子が稀ではありません。娘の周囲を見回しただけでも、先輩の一人はスタンフォード大学に合格したあと、約一年間入学を先送りしてインドネシアにボランティアに行きました。水害で大きな被害を受けた村にやっと再建された小学校でボランティアを始めた彼女は、学校にも、子どもたちの家にも「ほとんど本がない」ことに気づき、学校に図書館をつくることにしました。インドネシアでは本は貴重品でインドネシア語で出版された本でも都市部を離れるとなかなか一般の人の手に入らないのだそうです。ましてや子ども向けの本などはほとんど出版されておらず、学校では先生の板書を頼りに、教科書なしで勉強しているとか。彼女の話を聞いたカリフォルニアの家族や友人はもちろん喜んで彼女に協力し、「インドネシア語の本を買う」お金を集めたり、あるいは英語の絵本を送ったり。彼女は皆の協力をコーディネートして一年間の滞在のうちに学校併設の図書館をつくりあげ、現地の人にとって「はじめて見る図書館」の管理や運営の方法もマニュアルに作り上げて、すっかり日に焼けて大学に戻ってきました。

娘の同級生の中には、1年飛び級して高校卒業を早め、しかしすぐには大学進学せず、一年間アフリカにボランティアに行った子もいましたし、高校卒業後に北京で一年間ひとりで暮らして中国語を学んでから大学に進んだ子もいました。娘自身も6月に高校を卒業してから半年間働いて(9月入学でなく)翌年1月から大学に通い始めました。が、その後は、結果的には9月入学の同級生と一緒に3年半で大学を卒業してしまい、「一年遅れて卒業することもできるんだから、もっとのんびりしたらいいのに」と思っていた親を驚かせました。が、考えてみれば、半年間休んだことで蓄積したエネルギーがその後の3年半をスピードアップさせる原動力になったのかもしれないと思います。一方、娘と同じように半年遅れで入学した大学の同級生は、うちの子とは逆に卒業を1年延期して4年半在学し、最後の数カ月はじっくり論文だけに専念。書きあげた卒論で優等賞を得て卒業しています。

Gap Yearを取ることにはさまざまな意義や効果があると言われていますが、もっとも多いのは、大学受験で疲弊した心身を立て直すこと、もうひとつは将来つきたいと思う仕事の一端を経験して自分の気持ちを確かめること。

先のウォールストリート紙の記事には、好きなスポーツも諦めて受験勉強に専念して念願の志望校に合格した男子学生が、合格通知を手にしたとたんに「大学に何しに行くのかわからなくなっている」自分を発見したという事例がレポートされています。彼は山岳トレーニングのプログラムに参加し、ネパールの村にホームステイして、一年間ひたすらヒマラヤに登り続けました。翌年大学にもどった彼は「受験勉強の重圧で何もする気になれなかったのが嘘みたいだ。今では『むずかしいことに挑戦するのは楽しい』と思うようになった。大学に戻ったら勉強も楽しくてしかたないから、成績は高校時代よりも圧倒的によくなった」と語り、スポーツチームにも属し、校内誌の編集長も務めるなど、活発な大学生活を送っています。

海外ではなく米国内(シカゴ都市部スラム)で子どものためのボランティア活動に参加した女子学生は、「社会のために必要なのに人手もお金も足りない仕事が世の中にはいっぱいあるとわかった」と語り、「大学で学んだら社会に貢献できる人になりたい」と語っています。

一方、こんな例も報じられています。大学を出たら「開発途上国援助の仕事に就きたい」と考えていた女子高校生は、大学合格後にNPOからのボランティア派遣でインドの村に行きましたが、一年間の滞在予定を終える前に帰国しました。彼女は率直に、「大学に入る前にインドに行ってよかった。自分には途上国援助に携わるような準備がまだ全然できていないと身にしみてわかったから。開発途上国で働きたいという思いが強かったから、高卒後のいま行かなかったら、きっと大学を出てからでも同じことをしたと思う。でも、大学を出てからいまわかったことを理解しても遅かったんじゃないかと思う。そんなことになったら大学教育にかかった20万ドル以上のお金と4年間の時間お無駄にするとになったかもしれない……」と語り、さらに「将来の志望は考え直したけれど、大学に戻る意欲は十分。自分で見きわめられたことは、すごくよかった」とも語っています。

そこは市場原理の効いたアメリカ社会。昨今のトレンドに合わせてさっそくGap Year向きの”商品”が高校生向きに提供されるようになってきています。内容はワーキングホリデー的な働き口の紹介から奨学金付きの留学まで多様。新たな市場を形成するか?と注目されています。

が、ウォールストリートジャーナル紙のインタビューに応えての専門家たちのアドバイスは揃って「慎重に、よく考えて決めるように」「無理にGap Yearをとる必要はない」。代表的なコメントは「Gap Yearをとることの(心理学的な)積極的な意味は『自分はGap YearをとってXXXXをやった!』と達成感をもてること。挫折の経験になってしまっては意味がないので、安易に考えず、一年間の期限内に達成できる適切なゴールを設定して、有意義だったと思える時間の過ごし方ができるよう、活動内容は慎重に選んだ方がよい」です。



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