goo blog サービス終了のお知らせ 

ブログ人HARIMAO

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

窪田僚・著「スプリング、はにかむ。」

2010-12-31 00:24:56 | 本と雑誌と新聞
「スプリング、はにかむ……だよな」
学校の屋上のフェンスに頬杖ついて、つぶやく。
「SPRING HAS COME! だろ?」
となりで、秀才の坂上が面白くもないツッコミを入れてくる。
「お前……センチメンタルてものを解さないの? 眼下のパノラマを見てみろよ。青山墓地のあたりなんか、満開の桜でピンク色にポッと染まってさ。まさに、春がはにかんでる──って気がしない?」
舌打ちして、けだるい春の景色に目線を戻す。
あちこち、ピンクのパステルでさっとなぞったみたいに色づいてて。
新宿の超高層ビルのあたりもボーッと霞がかかって、何ともいえない風情があってさ。
昼ゴハンのあとで、気持ちがおだやかになってるってこともあるし。
「スプリング、ほぞかむ──じゃないのか?」
長身の坂上が、メガネをずり上げながらぼくをチラッと見た。
「何だ、それ」
「つまりさ、春先にそうやってボーッとしてると、あとで後悔する──ってこと」
「あれ? ツッコミがキツイじゃん」
「ボケてる場合じゃないって。いまが、イチバン大切な時期だぜ。人生の岐路かもよ」
「キロ? あのなあ……ぼくが書けないような熟語、使わないでくれる?」
「尾崎、志望校、決めたのか?」
「………」
頭からいきなり水をぶっかけられちまったような気分で、
「坂上ィ、このごろ進路指導のバイトも始めたのかよ。ぼくの第一志望は、A予備校だって。お前みたいに、天下のT大法学部がドラフト一位指名してくれるようなタマじゃないんだから」
「A予備校もいいけどさ」
坂上が、タメイキまじりに、
「航空大学なんかどう?」
「なんで?」
「だって、宮野はスチュワーデスを目指してる──ってウワサ聞いたから。尾崎はパイロットになりたいのかと思って」
「宮野がスチュワーデス? 誰が、言った?」
心臓が、ろっ骨にドキンとぶち当たる。
「美穂が、言ってた」
美穂ってのは、坂上のガールフレンドだ。
「ふーん……。そういや、宮野、中学のときはそんなこと言ってたような気もするけど」
「お前、宮野と進路の話なんかしたことないのか?」
「あ、ああ……」
考えてみると、宮野とは、突っこんだ話なんかしたことない。
幼馴染みってこともあってか、いつもあたりさわりのないバカ話ばっかりで。
「ほら、このごろ宮野に色目使いだした飯島は、航空大学を第一志望にしたらしいぜ」
「飯島が?」
心臓が、またろっ骨にドキンとぶち当たる。
飯島ってのは、体がガッチリしてて、いかにもパイロット姿が似合いそうな精悍なヤツだ。
「な? 大学にしても恋にしても、”スプリング、はにかむ”なんてボーッとしてるヒマはないだろ?」
「たしかに……でも、ぼく、高所恐怖症だし方向オンチだし。とても、パイロットってガラじゃないよなあ」
「とにかく、宮野をめぐる攻防もこの1年がカギだぜ。大学も、宮野は女子大を狙ってるらしいし。そうなると、同じキャンパスに通うってこともできないだろ? まあ、尾崎に転換する勇気があれば別だけど」
「おいおい。性転換したら、宮野と恋愛もできなくなるって」
「たしかに………」
坂上は苦笑しながらうなずいて、
「ま、はやいとこ、幼馴染み路線からステディ路線に切り替えた方がいいよ。たまには、映画館の暗闇で肩寄せ合って同じスクリーン眺めてさ。お前、宮野と映画見たことある?」
「………。中3のとき………一度、全校で映画鑑賞会に行ったけど」
「ふたりっきりで行ったことないのか?」
坂上はマユをひそめ。、
「じゃ、これ、お前が行きなよ。来週、美穂と行くつもりだったんだけど」
坂上がブレザーのポケットから、これ見よがしに封筒を取りだした。
「ロードショーの前売りチケット? お、話題作じゃん」
「そう」
「A FRIEND IN NEED IS A FRIEND INDEED (まさかの友は真の友)ってか? サンキュー。友情の証し、たしかに受け取った」
坂上の背中をぽんぽん叩く。
「ん? 早トチリするなよ? プレゼントじゃないんだから。支払いは、できるだけ速やかにな」
「………。将来、よく稼ぐ弁護士になるぜ、坂上は」
封筒から、つまみ出した映画のチケットが春風にヒラヒラふるえてる。

「スプリング、ほぞかむ? ふーん………坂上くんらしい発想よね」
宮野が、チャーミングなエクボをひっこませて笑ってる。
「だろ?」
ぼくは、紙コップのコーヒーをすすりつつ、
「で……宮野は? ほぞかまないように、もう大学決めた?」
「ぼんやりと………ね」
「B女子大だっけ? あそこ、スチュワーデスの登竜門なんだろ?」
何気なさそうに。顔色、窺いつつ。
「スチュワーデス? 中学のときは、憧れてたけど。いまは、そんなにこだわってないの。だからB女子大は、第二志望かなあ………」
リップののった唇で、紙コップのコーラのストローをくわえた。
「ふーん………」
飯島あ、聞いてる?
いくぶん、ホッとして、
「じゃ………第一志望は?」
「ヒミツ」
お茶目に、まるい瞳をくるくるさせて、
「それより、尾崎くんは? どこ狙ってんの?」
「ぼく?」
A予備校ってのもシャレになんないっていうか志が低いっていうか。
「どの大学………っていうより、割りと興味のある学科は建築なんだけど」
「建築? 初耳」
「ああ。ぼくも、ヒトに言うの初めて」
照れながら、全面ガラスの向こうの青山通りに目を移して、
「この前、TVでスペインのガウディって建築家が設計した教会を見てさ。こう、壁がうねうねしてて、生き物みたいにダイナミックなの。とにかく、すごいなあ──って思って」
「ふーん………建築かあ。案外、似合ってるかも。ほら、中学のとき、尾崎くん、建物の模型を発泡スチロールで作ったでしょ? あれ、すごく上手だったもの」
「そう? よく覚えてるじゃん」
「でしょ? あれ、印象に残ってる」
「お返しってわけじゃないけど、学校祭の英語劇も印象に残ってるよ。宮野、ジュリエットやったろ? あれ、良かった………」
ロミオ役が、ぼくじゃなかった──ってのは、ちょっとひっかかるにしても。
「どうも、ありがとう」
宮野は、ちょっと肩すくめて、
「わたし、あれ以来、シェークスピアに興味あるの。だから、わたしも大学がどうのこうのって言うより、英文科がいいなあ──って。イギリスって、ビートルズを生んだ国だし」
「イギリスかあ。ディズニーのピーターパンも、舞台はイギリスだよね。ビッグベンの上を、とんで………」
お、ちゃんと映画への前フリにもってってるじゃん。
「そ、そういや、このごろ、映画………見た?」
「映画? 見たいんだけど………。ヒマもお金も、なくて。妹と”何か、見にいきたいね”っていつも言ってるの」
「………」
スタジャンのポケットの中のチケットが、てのひらの汗で湿ってくる。
 "一緒に、映画、行かない?”
って、言えよ。
タイミング外すと、違う話題に移っちゃうぜ。
「あのさ………」
「え?」
ぼくを見上げた宮野の瞳にパキューンと射抜かれて、
「こ、これ………妹さんと行けば?」
思いもよらぬコトバが、ほとばしってた。
これには、自分がいちばんビックリしちまって。
気が弱い………じゃ済まないって。
「わ、ロードショーのチケット? いいの?」
宮野が、声はずませた。
「あ、ああ………」
虚勢を張ってみたものの、声がうつろになってる………。

「ウソだろ、おい」
屋上で、坂上が首をかしげてる。
「ぼくも、ウソだと思いたいけど」
「”スプリング、ほぞかむ”を、絵にしたようなヤツだな、尾崎は」
「どうしよう………」
「どうしようじゃないって」
坂上は冷たく舌打ちして、
「妹じゃなく、飯島と一緒に映画に行っちまったらどうするんだ?」
「それ、困る」
もォ、ここからとび降りたてしまいたいような気分で。
「悪いけど。ぼく、もうフォローしないからな。尾崎、自分ひとりで何とかしろよ。支払いだけは速やかに、な」
「………」
眼下の青山墓地の桜も、きょうは心なしかぼくを笑ってるような………。

弟にお金を借りて、プレイガイドで別のロードショーのチケットを2枚買った。
今度こそ、意を決して、
”一緒に映画に行かない?”
って宮野を誘おうと思って。
何してるんだ………、ぼくは。
ウチの近くの電話ボックスから、宮野のウチにTELした。
深呼吸して。
ツー・コールで、運良く宮野が出た。
──宮野? 尾崎ですが………。
──わ、尾崎くん? どうしたの? この前は、映画のチケット、ありがとうね。
スウィートな声が、鼓膜をくすぐる。
──なんの、なんの。で………映画、面白かった?
──そのことなんだけど………、。お話があるの。いま、空いてる? いつものお店で、会わない?
──うん………いいけど。
何なのだ、いったい………。
まさか………”ゴメンね………飯島くんと一緒に行っちゃった”ってか?

「ウチの妹………この映画、もう見ちゃったんだって」
宮野が、紙コップのコーラのストローをもて遊びながら、
「だから………せっかく2枚もらったのに、1枚、余っちゃって」
お、ラッキーじゃん。いまだ………。
「じ、じゃあさ、良かったら、ぼくと行かない?」
よし………上出来。
「ホントに? いいの?」
「ああ」
大きくうなずいて、
「ホント言うと、初めから宮野を誘おうと思ってたんだ。でも………詰めのところで失敗しちゃって………」
紙コップのコーヒーを意味もなくかき回しながら、素直に告白する。
「なんだァ………ちゃんと言ってくれればいいのに」
宮野が、ロングヘアかき上げながらくすくす笑って、
「妹が、もう見ちゃったっていうのは大ウソなの。わたしも尾崎くんと行きたくて、チケットのこと、まだ妹に言ってないの」
「え………」
宮野も、かわいいとこあるじゃん。
「それを知らずに、次のチケットも買っちゃった。ほら………」
スタジャンのポケットから、チケット入りの封筒をつまみ出す。
「わ、すごいすごい」
胸の前でちいさく拍手して、
「ね、その調子で、大学の前売りチケットもでてくるといいのにね」
照れ隠しみたいに笑った。
「プレイガイドに、探しにいこうか? でも、宮野が女子大に行くんなら、別々のチケット買わなきゃな」
「でも………女子大は第二志望だから。英文科も建築科もある大学なら、ふたりに共通のチケットで大丈夫でしょ?」
「たしかに………」
「わたしの第一志望ってねえ、実は尾崎くんのめざす大学よ………」
エクボを、へこませて。
言ってくれるじゃん。
「奇遇ゥ………ぼくも、そう。英文科と建築学科のある大学………っていうセンで、調べてみようか」
「だだっ広い店内で、ぼくらのテーブルだけが桜の木の下みたいに華やいでるみたいな。
帰りに、本屋で『大学案内』の本を立ち読みしなきゃな。
受験問題集も、何冊か買ってみようか。
全面ガラスの向こう、青山通りが夕闇につつまれて。
春が、はにかんでた。
・2010/12/31(金) 午前 0:24

映画「Space Battleship ヤマト」

2010-12-30 23:33:30 | 映画
太子のタイヤ館でスタッドレスタイヤを購入した。工賃込みで10万5千円。
Space Battleship ヤマトを姫路OS2で鑑賞した。途中入場のためイスカンダル到着の直前くらいからだが。去年の復活篇は最初から途中までだったので今回は反対だ。第一作とさらばを足して2で割ったようなストーリーかな。台詞はアニメ版と同じ箇所が結構あった。コスモ・ゼロのリベット打ちの機体はちょいといただけない。本作も第三艦橋は吹っ飛んだ。
明石の焼き鳥屋秋吉で食べた。
姫路のCoCo一で納豆カレーを食べた。
喫茶店明日香でレモンティを飲んだ。
• 2010/12/30(木) 午後 11:33

飛竜翔・著「死体験外伝 風羅須」Chap.1

2010-12-29 20:49:19 | 作文
「現国の作文かあ。何を書こうか」
僕は高校から自宅に向っていた。
僕は悩んでいた。現国の作文のことだけではない。人間としての生活に半ば絶望していた。
ゆっくりとチャリキをこぐ。
夕闇がせまる。もう夏だというのに何故か日が暮れるのが早かった。
帰り道の風景。田園風景がいつものごとく、いつものように広がっていた。
いや途中までがそうだったのだ。
異様なものが視界に入る。
前方の空間に原色の絵の具を塗りたくったように渦が巻いているではないか。
「な、なんだ」
渦の中に引き込まれていく。周りには誰もいない。寂しいところである。
少し離れた所で農作業をしている人がいたが、この怪事件には気づいてはくれなかった。
僕は抵抗するすべもなく渦に飲み込まれていった。
その時点で僕は人間界での存在が消滅したことになるが、僕には何が起こったのか分かるはずもなかった。
• 2010/12/29(水) 午後 8:49