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宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

月影の門 33

2009-04-12 21:38:26 | 小説 月影の門
 コウジとミイコ、マドカ、それからアトフの隊員の2人、合計5人がぞろぞろと歩きだす。
 しばらくして、駐車場から大声が聞こえた。
 アトフ隊員の1人が駆け出す。その後を追って、残りの4人も走り出した。
「さがって」
 コウジがマドカとミイコを静止する。
 言われなくても、足が止まる。
「なんだありゃ」
 マドカがそれを見て呟いた。ミイコは、もう、声も出ない。
 モルド だ。
 さっき、車に戻った隊員がモルドに襲われている。
 アパートで見た2体のモルドとは、また別の個体だ。一体何体いるんだ?
 ぼんやりしている場合ではないが、ミイコにはどうしてよいか分からない。
 アトフの隊員たちはそろって、モルド攻撃の準備に入っている。
 ミイコと一緒に突っ立っていたマドカがミイコの腕を掴み、自分の方へ引き寄せた。いざとなれば、跳んで逃げるつもりだ。
 ミイコは小さく深呼吸をすると、全身の神経をあたりに解き放った。もしかしたら、前のモルドがまだいるかもしれない。
 アトフ隊員たちがコウジの指示の元、機関銃らしきものから一斉に連射するがモルドにはあまり効いていないようだ。
 暴れるアトフに隊員の1人が弾き飛ばされる。
「にげろっ」
 コウジがマドカ達を振り返り、叫ぶ。その瞬間、モルドの爪がコウジを襲った。さらに、コウジに攻撃を加えようと振り上げた腕を、青い光が叩き落した。
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月影の門 32

2009-04-05 21:49:58 | 小説 月影の門
 妙な静けさだった。
 モルドの姿が全然見えない。それどころか、ここに残っている筈のセイジとトキワの姿もない。
 逃げたのか? それなら良いのだが・・・。
「気をつけて、ください」
 コウジの注意に後についた二人が頷いた。
「モルドが出たのは、どこらへんですか?」
 その問いにマドカがアパートの階段の上り口を指差した。
「そこ と、あと二階の廊下です」
「そうですか・・・」
 言って、コウジが後ろに控えていたアトフ隊員に手で指示を出す。
 それを見た隊員が二人建物に近づき、一人は階段の上がり口にもう一人は階段を上がっていった。
 残った二人の隊員がマドカとミイコの後ろに控える。勿論、後ろへ対しての警戒も怠らない。
 しばらくして、階段の上がり口にいた隊員がこちらを向いてOKサインを出す。
 それを見たコウジ達計5名がアパートへ近づいていく。
「誰もいません」
 2階の様子を見ていた階段を降りてコウジに報告。
「誰も、・・・モルドもか?」
「はい、影も形もありません」
「そうか・・・」
 ちょっと考える様子を見せたコウジの
「少し辺りを確認してみよう。何事もなければ、一度戻るしかないな・・・。それから、NO.19車に戻って二人が応答するか確認してくれ」
 との指示にミイコの後ろにいた一人が車に向かった。
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月影の門 31

2009-04-01 22:17:59 | 小説 月影の門
「   ・・・あ」
 ミイコが、車の窓にへばりついた。
 コウジとマドカが見ると、一台の車が・・・・
「・・・あ」
 それを見て、マドカが声を上げる。
 モルドに襲われて乗り捨てた車だった。
 マドカとミイコの間にちょっと気まずい空気が流れる。
「あれは、後で調べて、動かないようならレッカーするしかないですね」
 さらりと、流すコウジ。
 そのまましばらく走り、アパートの駐車場で車を止める。そして、車を降りようとする二人に
「ちょっと、待ってください」
 と声を掛けた後、助手席に置いた荷物をがさごそ引っ掛きまわし、それを二人に手渡した。
「え・・・、これ」
 それを手にした二人は、お互いに顔を見合わせる。
「とりあえず、護身用です。その程度では、牽制くらいしか出来ませんが、なにもないよりましでしょう。ただ、人に対する攻撃力は、十分ありますから、間違っても、人に向けて発砲する事はしないで下さい」
 間違う以前に、こんなもの使いたくない。というのが本音だが・・・。
 マドカはそれをズボンのベルトに差し込み、ミイコは肩から提げたポシェットの外ポケットの突っ込んだ。
「いいですか、危ないと思ったら、すぐに逃げてください。それから、危険と思うところには近づかないこと。お願いします」
 車から出た二人に、改めてコウジが注意する。
 それに二人が頷くのを確認して、建物に向かった。
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月影の門 30

2009-03-29 21:03:18 | 小説 月影の門
 使われた車は、2台。1台目にコウジ、マドカとミイコ。2台目には、アトフの隊員が3人。
 向かう先は、勿論、L90地区。ミイコたちの住んでいたアパートだ。
「それにしても、滅多にないですよ。同じような地区にモルドの成体が2体も出現するなんてことは。幼体が群れていることは、時折ありますが・・・」
 運転しながらコウジが二人に話しかける。
「それって、珍しいんですか?」
「そうですね・・・。幼体や蛹体が複数で一体の成体を護衛することもありますが・・・・」
 え? それって、逆じゃないの? 子供に守られる大人って・・・・。
 普通、大人が子供を守るもんだろ。
「あ、成体と言ってもただの大人と言うわけではありません。そうですね、完全体とでも言えばよいでしょうか。モルドの中で遺伝子を残すことが出来る個体の事です」
 運転席から ちらり、と振り返ったセイジが二人の表情を見て説明を続けた。
「モルドの成体の全てが遺伝子を残せる訳ではなく、そうですね・・・・、10体の幼体のうち完全体になれるのは、1体か2体。その完全体を守る事で子孫を残そうとするのだと思います。たぶん、理屈よりも彼らの本能でしょう」
「まるで、蟻か蜂のような生き物なんですね」
 そういうミイコに、コウジがちょっと考える仕草をする。
「ん・・・。全てがそうとは限らないんですが、そのような種族もいますね。特に卵を守る思いは、格別ですよ。本当に命かけますからね」
 普段、同じ地区に出現しない成体が2体。命を懸けて卵を守る。
「まさか・・・・」
 とっても、いや~な、気がする。
「もしかして、・・・・」
「あの~、もしかして、私達が行こうとしてるところって・・・・」
 同時に言葉を発するマドカとミイコに対し
「だから、危険だと言ったじゃないですか」
 と、あっさり一言。
 ついて行くって言ったのは、自分だしな~。
 はぁ、とため息をつくミイコ。それでも、引き返すつもりはない。
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月影の門 29

2009-03-25 20:34:25 | 小説 月影の門
「こちら、本部。どうした?」
 コウジが通信機に向かいながら、目の前のモニターを操作する。
「別働隊が・・・・、分かった。すぐ行く」「こちら本部、NO.20。L90地区へ行ってくれ、こちらもすぐに向かう」「・・・」
 コウジは数箇所に次々に指示を出していく。
 ミイコは、そのモニターの一つを凝視した。
「すみません。出かけなくてはならなくなりました。危険ですのでお二方は、ここにいてください」
 言いながら、部屋を出ようとするコウジにミイコが椅子から立ち上がった。
「あたしも、行きます。あのアパートのところですよね、連れて行ってください」
「おい。ちょっと待てよ」
 と、慌ててとめるマドカにミイコが振り向いて叫ぶ。
「あそこに、トシ君がいるの」
「・・・え?」
 突然の台詞に動きを止めるマドカに対し、ミイコがゆっくりと繰り返す。
「あそこに トシ君が いるの」
「トシ って、確か君達が探してるって言う・・・?」
 ドアノブに手をかけたままのコウジが、振り返った。
「そうです。だから、連れて行ってください。出来ないと言うのなら、勝手に行きます」
 ミイコの言葉にコウジがしばらく考え込んでいたが、その勢いに押されたのか
「分かりました。ついて来て下さい。車を出します」
 言って、ドアを開けた。
「俺も、行きます」
 マドカの台詞に一瞬動きを止めたコウジだが、諦めたのか勝手な行動を取られると困ると思ったのかコウジが軽く頷く。そして
「あまり、無茶な行動は、しないでくださいね」
 と、一言付け加えることは、忘れなかった。
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月影の門 28

2009-03-22 07:47:36 | 小説 月影の門
 コウジの答えに、ミイコが黙り込んだ。
「それにしても、たまご・・・・って」
 言いかけたマドカが、ふと気づいたように
「そういえば、なんであれをモルドって言うんですか?」
 ちらり と、黙り込んだミイコに一瞬視線を送る。
「MOLT(モウルト)羽化、から取った呼び名です。MOULDHIAN(モウルディアン)脱皮するもの。で、モルドです。彼らは、幼体のうちは、比較的皮が薄いので通常攻撃がある程度は通用します。そして、蛹体。これは二種類ありまして成体になるために必要なのですが、一つは厚い皮を持っつため通常攻撃がほとんど通用しません。ですが動きが鈍いため集中攻撃をする事でどうにか倒すことが出来ます。もう一つの蛹形態ですが、これが、かなり特殊で・・・、通常は蛹体で過ごすのは一年ほどですが、この場合、幼体からら数秒の蛹体を経て成体へ変化していくものです。モルドにとって身の危険を感じた場合、行われる変態です」
「それって、・・・・」
 コウジの長い説明を聞いていたマドカが唖然とした顔で
「幼体を攻撃した途端、返り討ちにあう可能性もあるって事じゃないですか」
 との呟きに
「そうですね」
 コウジが短く答える。
 をい、そうですねじゃねーだろーが! 思わず、突っ込みを入れようとしたマドカより早く
「でも、モルドの全てがその、変態をする訳ではないのでしょう? 特殊と言うくらいですから、それには何か条件があるのですか?」
 今まで黙りこくっていたミイコが口を挟んだ。
「そうですね。その場合、全ての脱皮工程が終わり、一息に成体へ変化出来るだけのエネルギーを持つものに限られます。ただこれは、外見上の判断が出来ません。もし、それに出くわしたら十数人で一斉射撃を加えれば多少のダメージを与えることは出来ますが、危険な場合は逃げるしかないと言うのが正直なところです」
 はっきり言って、積極的な攻撃は出来ないに等しい訳だ。
 コウジの話を聞いたマドカとミイコが顔を見合わせた。
 と、その時、
 ぴぴぴ・・・
 コウジの前にある通信機の呼び出し音が音を立てた。
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月影の門 27

2009-03-20 21:31:01 | 小説 月影の門
「あの、・・・・」
 突然のミイコの声に二人の男性の目が集中する。
 一瞬、詰まったミイコだが、思い切ったように疑問を口にした。
「あの、モルドの全てが危険な存在なのでしょうか?」
 コウジの顔が僅かに反応する。
「モルドが・・・ですか? いえ、全て危険とは、言えません。中には、人類の味方をするモルドもいます」
「味方って?」
 そう言ったのはマドカ。訳が分からないといった顔だ。
「対モルド用の武器等は、モルドの技術提携があってのことですし、そもそもこの組織アトフの創始者の中にもモルドがいます」
 え?  モルドがモルドに対抗する?
 信じられないのは、ミイコもマドカも同じこと。
「人類が戦争をしますね。喧嘩や抗争、同じ人間同士で・・・。それは、モルドも同じ事なんです。人と共存を望むモルドとそうでないモルドと・・・・、その他にも様々なモルドがいます。基本的にアトフは、人に害をなすモルドを廃するための組織なんです」
 コウジの言葉に、ミイコとマドカが顔を見合わせた。
「モルドは、自らの安全が、我々は、モルドの科学力が・・・。アトフは、モルドの科学力を提供してもらい、かわりにモルドを守る。モルドからモルドを。まあ、モルドが自分達の抗争にたまたまそこにいた人間達を巻き込んだようなものかもしれませんが・・・。それでも、モルドに対抗するには、モルドの科学力が必要なんです。たとえ、矛盾してるとしても」
 そう言って、コウジが自嘲気味に笑う。
「さっき、その他にもって言いましたよね。その、モルドの中には、自覚のないモルドっているんですか?」
 ミイコの問いに“何、あほな事を・・・”という顔のマドカだが
「自覚のないモルドは、確かに存在します。すでに確認されているものだけで、20人ほど。他には、自覚はあるものの、人として社会に溶け込んで日常生活を送っているモルドもいます。アトフの内部だけですでに100人近くいます」
 という、コウジの答えが返ってきた。
「どうして、自覚がないんですか?」
「そうですね。たとえば、人として生活しているモルドの両親から生まれて人として育ったとか、まだ自意識のないうちに人を取り込んでコピーして、そのまま育った。あるいは、これは非常にまれなのですが、取り込んだ人の意識にのまれるたり、モルドの記憶を失い人の記憶のみが残ったという場合などもありました」
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月影の門 26

2009-03-16 22:16:40 | 小説 月影の門
 白いもやがまとわりつく。あぁ、これは、モルド対策のガスだ。その向こうに見えるのは・・・。
 さっきのモウルディアン。
 ここは、さっきのアパートだ。どうして、あたし、ここに戻って来てるの?
“オマエハ ナゼ”
 聞こえるモウルディアンの声。まるで心臓を掴まれているようだ。
“オマエハ、・・・・デアリナガラ、ニンゲンニカタンスルノカ”
“   ウラギリ”
「この、化け物!」
 思い出した。ずっと前、自分を襲った男からおびえた顔で浴びせられた言葉。
 水溜りに写った異形の姿。
 家で見つけた“東緑依子ノ霊位”と書かれた位牌。
 私は、一体、だれ?

 ふと、目を開けると、向こうでマドカとコウジが何やら話をしている。
 ミイコが眠っていたのは、ほんの僅かの時間だったようだ。
「お、大丈夫か、起きて?」
 振り返ったマドカが声を掛けた。
「うん、少し寝たらすっきりした」
 ミイコは起き上がり、毛布をたたんでソファーの隅に置く。
「飲みますか?」
 コウジがまたコーヒーを入れてくれた。
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月影の門 25

2009-03-13 20:45:48 | 小説 月影の門
 アパートでのモルドの突き刺さるような視線。まるで、憎しみを叩きつけられたような感じがした。
 なぜ?
 ミイコとしては、見ず知らずのモルドから恨みを買う覚えはないのだが・・・。
「・・・い、おい。ミイコ、顔色悪いぞ、大丈夫か?」
 うつむいて考え事をしているミイコの顔を覗き込んだマドカが声を掛けた。
「え? うん、大丈夫」
 ミイコは、あわてて答えたのだが・・・・。
 あれ、何だろう?  あたまがくらくらする・・・・。
 思わず頭を抱えたミイコに
「やっぱ、連続で跳んだのは、きついか・・・」
 マドカの声が降ってきた。
 そういえば、さっき車の中から基地の入り口まで跳んだのだった。
「すこし、横になった方が良いですよ。ここなら、モルドもそう簡単には入ってこられません」
 コウジが近くのソファーを指し示した。
「その方がいい。すいません、お言葉に甘えます」
 そう言ったマドカがミイコをソファーに横たえ、コウジが差し出した毛布をかける。
「ありがとう、ごめんね」
「いいって。少し、休んでろ」
 そう言った、マドカが小さな子供を寝かしつけるように、毛布の上からミイコの身体をぽんぽんと叩いた。
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月影の門 24

2009-03-10 09:51:54 | 小説 月影の門
 へたり込みそうになるミイコを抱きかかえ、アトフ基地へ転がり込むマドカ。
「モルドが出たっ」
 その声に本部にいた隊員が数人、飛び出してくる。
「モルドが、どこで」
 隊員にアパートの場所を伝え、さらにセイジとトキワが残っていることを伝えると、それを聞いた隊員の一人が奥にいた隊員達を呼び、指示を出した。
 ばたばたと隊員が飛び出し、残るのは、マドカとミイコ、そして指示を出していた男と留守役の数人。
「別働隊にも応援を頼め。成体がいるのなら、幼体や蛹体もいるはずだ」
 残った隊員にも指示を出し、入り口にへたり込んだ二人に手を貸して、建物の奥へ入る。
 暗い部屋に灯りが灯るとそこにあったのは、様々なモニター画面。
 彼(聞いた事のある声だと思ったら、ミーシャで会った彼だった)は、二人を部屋に招きいれドアを閉めた。
「そういえば、車はどうしました?」
 二人に椅子を勧めた彼(コウジさんと言うのだそう)は、ポットから注いだコーヒーを差し出す。
「すいません。車は、ぶつけてしまったので、置いてきました」
 マドカは、受け取ったコーヒーをミイコに渡しながら頭を下げた。
「かまいませんよ、車より人命の方が大切ですからね。だったら、車から連絡していただければすぐそちらに向かったのですが」
「それが、雑音がひどくて・・・」
「雑音が・・・?」
 コウジは、なにやら考えるふうであった。が、ミイコも気になることがあり、考え込んでいた。
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月影の門 23

2009-03-09 21:06:02 | 小説 月影の門
「車は運転できますか?」
 そう聞いてくるセイジにマドカが頷く。
「これに乗って逃げてください。それから基地に報告願います。何かあったら、これで連絡できますから」
 二人が返事する間もなく、セイジが駆け出した。
「ミイコ。大丈夫か?」
「うん。でも、ちょっと酔った感じ」
「とりあえず、乗れ」
 マドカがジャンプ酔いしたミイコを後部座席に乗せ、自分は運転席に座った。
 エンジンをかけたまま、しばらく待つが二人が戻る様子はない。
 がくん と、車が揺れる。マドカが振り返ると緑色の巨体が車にへばり付いている。
 3体目か。
 マドカは、慌ててセイジが教えてくれた通信機を手にするが、雑音がひどくて声が聞こえない。
「くそっ」
 顔に似合わない台詞を吐いたマドカは、車を急発進させた。
「きゃあっ」
 後部座席から転げ降りそうになったミイコが悲鳴を上げる。
「つかまってろ」
 言って、マドカが車をUターンさせ緑色の巨体に突っ込んでいく。
 みいこは、とっさに座席の背につかまって頭を引っ込めた。
 車がぶつかる寸前、緑の巨体がよけ、その脇を突っ走って逃げる。
「なんなの。あの青虫の化け物は」
「だから、モルドだって。だまってろ、舌かむぞ」
 さらに、マドカがアクセルを吹き込む。その車の後ろを追ってくる茶色の物体。
 追いつかれる。
「ミイコ、こっち来い。逃げるぞ」
 呼ばれたミイコは、座席の背もたれを倒し助手席に滑り込んだ。
 それを確認したマドカがもう一度アクセルを踏んだままUターン。
 その茶色の物体に突進しつつミイコの腕を引き寄せ、そして、・・・
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月影の門 22

2009-03-08 21:32:34 | 小説 月影の門
 空中から長い紐のようなものが出現し、ミイコに襲い掛かる。
 とっさに、それを振り払い悲鳴を上げた。
「さがって」
 トキワがミイコとそれの間に入り、手にしたホースの口をそれに向ける。
「はやく、車に」
 そう言ったトキワが手元のつまみを回すと、勢い良くガスが噴出した。
 振り返ったミイコの目に映ったのは、ガスの中に浮かび上がる異形の姿。それに向けて、トキワがホルスターから抜いた銃を向ける。
「なに、ぼんやり突っ立ってんだよ」
 マドカがミイコの腕を取り、廊下を走る。
 2階の廊下から銃声が聞こえた。
 廊下を走った勢いで階段を駆け下り、そこで、ミイコはマドカの背中にぶつかった。
「・・・なに?」
 言って、マドカの背中から顔を出して見る。
「ミイコ。しっかり、つかまってろ」
 低い声にミイコは頷いて、マドカにしがみついた。
 モルドが いた。大きな紫のメタリックボディ。腕には鋭い鉤爪。それが、宙を蹴る。
 ぐいっ と、マドカがミイコを抱え、跳んだ。
 ふう と、体にかかる重力が消え、ミイコの目の前で無数の光がスパークする。と次の瞬間、駐車場の隅に着地した。
 二人の目の前に、アトフの車。
 ふらっとよろけるミイコを抱えたまま、マドカが車の窓を叩く。
「どうしました?」
 エンジンをかけたまま、セイジが車から降りてきた。
「モルドが でた」
 マドカノ言葉にセイジが辺りを見回す。
「どこで?」
「アパートの中と入り口。トキワがまだ残ってる」
「2体か」
 言ったセイジが車から大型の銃と一振りの棒を持ち出した。
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月影の門 21

2009-03-07 17:55:17 | 小説 月影の門
 二人は部屋へ入り、とりあえず必要なものをバックに詰め込んだ。ありがたい事に部屋の状態は、数日留守にしただけのような感じで本当に自分が住んでいた元の部屋のようであった。
 本当にパワレルワールドかも、しれない。
 ミイコは、マドカの言葉を思い出した。
 見たところ、なにも変わっていない。いつもの部屋。べっどに脱ぎ散らかした服もハンガーに引っ掛けてあるタオルも台所の食器も・・・。
 台所へ来て、気が付いた。
 そうだ、冷蔵庫。
 開けてみると、やっぱり・・・・。
 ミイコは、着替えや身の回りの日用品・小物を入れたバックのほかに、もう一つ入れ物を用意した。
「おーい、ミイコ。大丈夫か?」
 部屋の外からマドカの声が聞こえる。
「待って、もうちょっと」
 そう言って、バックにそれらを詰められるだけ詰め込んだ。
 ちょっと、いや、かなり重いが・・・・。
「ごめん。お待たせ」
 そう言って、廊下に出てきたミイコの荷物を見てマドカが目を丸くした。
「夜逃げでもするのか?」
 そう言われても仕方がないほどの荷物を担いで(あるいは、腕にぶら下げて)ドアを出てきたのだ。
「それに近いかもしれない」
 言われてみれば、確かに夜逃げに近いような・・・・。なんにも悪いことしてないのに。
 トキワがぶつぶつ呟くミイコとマドカを促し、車へと向かう。
 と、その時、ミイコが背中に突き刺さるような視線を感じ、振り返った。

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月影の門 20

2009-03-05 22:22:38 | 小説 月影の門
「ゴーストストーリーみたいだな」
 もともと人通りの少ない場所に建っているアパートだが、それこそ本当に人気・・・どころか、野良猫の姿さえ見えなかった。
 アパートの駐車場に止めた車から出たマドカとミイコは、あまりの静けさに辺りを見回したほどだ。
「それでは、早めにお願いします」
 今度もセイジは車に残り、付き添いはトキワだ。
 さっきと同じようにタンクのようなものを背負い、そこから伸びるホースの先を左右に振りながら歩く。
 ミーシャから持ってきた荷物は、車に置かせてもらった。
「それ、何ですか?」
 ミイコがトキワの背負うタンクを指差す。
「あ、これですか? モルド対策用のガスです。モルドは、場合によって時空の狭間に身を隠します。このガスを浴びたモルドは、しばらくの間、時空の狭間に逃げる事が出来なくなるのです。もっとも、われわれも成体を相手にしては、勝ち目などありませんが・・・」
「それじゃ、その、成体が現れたら?」
「逃げるしかありません。もっとも、本気で襲われた場合、逃げ切れるか・・・」
 をいをいをい・・・。それじゃ、何のための護衛よ。
「まぁ、相手が幼体か蛹体ならば、なんとか・・・」
 大丈夫か?   不安だな・・・・。
 お互いに顔を見合わせるマドカとミイコ。なんとなく、気持ちが分かり合えたような気がした瞬間だった。
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月影の門 19

2009-03-03 22:42:30 | 小説 月影の門
「着きましたよ、急いでください。すぐ出発しますからね」
 カフェ・ミーシャの脇に車をつけトキワが一緒に降りる。セイジは、すぐ出発できるように運転席に残ったままだ。
 そろそろと、警戒しながら店に入る。やっぱり、廃墟のようなのは変わりない。
 開けっ放しのドアから厨房に入る。その後、誰かが入ったような形跡はない。
 トキワが背負ったタンクから伸びるホースをかざし、店内を確認する。
「誰も、いないようですね」
 ミイコとしては、トシがもしかして・・・・、と期待していたのだが、どうやらここには戻っていないようだ。
 辺りを警戒しながらドアのそばで待つトキワの前を通り過ぎ、カウンターを通り越し店内に足を踏み入れる。
 テーブルは倒れ、床には割れたガラスが散乱していた。
 店の隅においてあるバックを抱えたミイコが厨房に戻った時、隅にある椅子の上にぽつんと残るザックを見つけた。
 トシ愛用のザックだ。
 トキワに促され、厨房を出ようとしているマドカに声を掛ける。
「どうする。これ、持って行ったほうがいいかな?」
「う~ん。一応、持って行くか。そう何度もこられないだろうし」
「そうだね。アトフの人たちも探してくれてるっていうし、見つかったら渡せばいいよね」
 寂しそうに持ち主を待っているザックを手に取り、二人は店を後にした。
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