宇宙時間 ソラノトキ

風樹晶・かざきしょう

勝手に趣味ブログ
のんびりしようよ

月影の門 48

2009-11-13 09:25:18 | 小説 月影の門
 厨房の仕事、片付けと次の調理の下ごしらえを終えて、ようやく食事だ。
 トシも厨房の隊員たちと共に昼食の残り物で遅い食事を取る。そこへ、コウジと鳩羽が声を掛けてきた。
「お前、ここで何やってんだ?」
 そう言う鳩羽に
「え・・・、食事もらってます」
「ちょっと、人手が足らなかったので手伝ってもらったんです」
 トシとテツが同時に答える。
「それは、悪かったね。いきなり押しかけてしまって」
 すまなそうな鳩羽に
「いえ、そんな事ありませんよ。ただ、ちょっと元々いた担当が入院してしまったので・・・。人手が足らないって言うのは、そういう意味では・・・・」
 あたふたと、慌てた口調で顔の前で手を振るテツ。
「そう言えば、入院したのってみんなここの担当か・・・・。確かに、人手が足りなくなるな」
 そうかそうか・・・・・、と言った感じでコウジが頷いた。でもって、ちらり と、トシに視線を向ける。
「確か、今、避難地区だったよな、あそこは。しばらくは、ここにいる事になるんだろうし、なぁ・・・・・」
 ちょっと、それ、わざとらしいんでは・・・。そう思うトシに
「どの道、準隊員では、それほど出撃令は出ないよな。本部壊滅前も呼び出し以外は、待機だったって言ってたよな・・・・」
 さらに、追い討ちをかけるように鳩羽が迫る。
「部屋にも帰れないし、どうせ閑なんだろ。手伝ってやれば?」
 やっぱり、そう来るか・・・。
 こっそりため息を吐くトシの目の前で、“たのむっ”テツが手を合わせて頭を下げる。
 う~、手伝いを買って出たのは、自分からだしなぁ・・・・。
「え~、でも、ずっとって言う訳では・・・・。やっぱり、部屋に帰りたいし・・・・」
 ぼそぼそ 抵抗するトシに
「たっだら、避難令が解けるかここの担当が退院するまで手伝ってやれよ。それなら、いいだろう」
 と言う鳩羽の台詞で決定となった。
 コウジと鳩羽が着たのは、勿論、そんな世間話をする為ではない。が、この状態では、静かに話をしている状態ではない為、片づけが終ったら第3会議室来るようにと言い残して戻っていった。
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月影の門 47 

2009-10-24 11:26:42 | 小説 月影の門
 昼食を食べる為に食堂へ行くと、やはり
「またまた、すごいね」
 朝に負けないくらいの混み様。
 長蛇の列に思わず立ちすくむ、3人。そこへ
「あ、あんた・・・」
 カウンターの奥から声がかかった。今朝、トシが声を掛けた人だ。
「あ、・・・」
 トシもそれに気が付き、カウンターに近づいく。
「やっぱ、手伝います?」
「頼む。みんな出払っていて人手が足りないんだ」
 今度は、素直に手助けを頼んだ。
「了解」
 言って、トシはくぐり戸を通って厨房へ入っていった。
 手伝いは、昨日と同じ返却された食器の片付け。昨日は外から、今日は中からだ。
 返却カウンターの上は、昨日と同じ返却食器の山。それを下げ、食器洗浄器に並べいく。コップなどは間に合わず、手洗いだ。
 しばらくすると、食器の山も小さくなっていった。
「サンキュー、助かった。前にいた担当がモルドにやられて、入院しちまった上に急に利用者が増えただろ。もう、どうしようかと思ってたんだ・・・・・」
 食堂内も随分と落ち着きを取り戻した頃、彼・テツがそう言って息をついた。
 厨房内には、他にも隊員が数人。調理用の割烹着と帽子で動き回っている。
 トシの分までないので、汚れ防止のエプロンと三角巾姿だ。
“食堂のおばさんみたい”と言ったのは、トシの姿を見たミイコとマドカ。二人は、先に食事を済ませ帰っていった。
「出来れば、しばらく頼みたいよ。ここに住み込んでバイトする気ない?」
 テツからの誘いは、本当にありがたいのだが・・・・。
「出来れば、早く部屋に帰りたいんだけど・・・・」
 と言うのが、トシの素直な感想だった。

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月影の門 46

2009-10-01 20:30:58 | 小説 月影の門
 大して片付けるものもなし、三人はそろってリビングに移動した。
「で、どうするんだ。これから?」
 水道OK ガスOK 風呂場、お湯もシャワーもOK 電気OK 食器や調理器具もそろっている。本当にすぐ住める状態だ。
「後は、冷蔵庫の中身が欲しいけど・・・」
 そう言ったミイコの後ろで、
「あ、洗剤がない」
 トシの声が聞こえた。・・・結構、細かかったりする?
 コンコン 
 三人でわいわいやっているところへ、
「どうですか?」
 ワカバが顔を出した。
「一応、使うんじゃないかと思うものを持って来てはみたのですが・・・」
 ドアの外に数人の隊員が荷物を持って、立っていた。
  三人分のシーツに毛布(替えまである)、洗剤類、タワシ、タオル等がリビングに積み上げられた。
「後、足らないものがあったら、申し訳ないのですが近所にスーパーがありますので、そこで各自用意してください。それから、カーテンは後日届けますので。では」
 
「もう、ここに住めそうね」
 山積みになった荷物をそれぞれの部屋や所定の場所に置いた後に ぼそり と、ミイコが呟いた。
「住むか?」
「パス」
 言ったマドカに速攻で首を振った。
「本当にいつになったら、帰れるのかな」
 狭くても散らかっていても、やっぱり自分の部屋がいい。これが、旅行だったら話は別だが。

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月影の門 45

2009-09-14 20:51:49 | 小説 月影の門
 部屋の掃除を終らせた後、ワカバに連れられて行った建物は、本当に今までいたところの目と鼻の先だった。
 2LDKの一戸建て、バス・トイレ付。
 外線は通じないものの、内線で本部へつながるようになっている電話があるとの事だが、この近さならドアを開けて大声を出せば聞こえる距離だ。食事も今まで通り食堂で取れるとのこと。
 ここで自炊も出来るとのことだが、現在は食材がないのでしばらくは食堂へ通う事になるだろう。
 部屋割りは、広い方を男二人・小さい方を女性であるミイコが使う事になった。
「おい、どっちにする?」
 荷物を置いたトシにマドカが声を掛けた。
「どっち  って?」
 意味が分からず、聞き返すトシに
「ベッド。どっちにする、窓の方とドアの方? まさか、二人重なっては寝られないだろう」
 マドカがベッドを指差す。
 確かに、重なり合って寝る訳にはいかないよな・・・・。
「ん、じゃあ、こっち」
 トシは、自分に近い方。窓側を指差した。
「いいのか、そっちで。まだ、カーテンもブラインドも入ってねーぞ」
 ワカバが言うには、2・3日後には何とかします。との事だが・・・・。
「でも、雨戸あるからそれ閉めればいいんじゃない」
 トシは、気にする様子はない。寝られれば良いという感じだ。入用なものがあれば、野宿と言われても平気だろう。
 結構、アウトドア派?
 マドカがそう思っていると、
 こんこん と、ドアがノックされた。
「ほーい」
 気の抜けた返事の後、
「どう、様子は?」
 と、ミイコが顔を出した。
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月影の門 44

2009-08-28 20:34:59 | 小説 月影の門
 荷物と言っても、大した物がある訳ではない。
 ミイコも今度持って行く荷物は、ボストンバックと手提げバックが1つだけだ。
「あれ、あの大荷物は?」
 アパートから持ち出したはずの大荷物がない。
「あ、あれね、厨房の人に渡してきたの」
 ????
 男性陣の頭の周りに?が飛び交う。
 それを見たミイコが説明する。
「あれね、部屋の冷蔵庫の中身。持てるだけ持ってきたの。しばらく帰れそうもないし、帰っても冷蔵庫の中身がとんでもない事になっていたらいやだし・・・・。で、タッパウェアとかに入れて持ってきて、厨房の人に食べて下さいって渡してきた」
 あははは・・・・
 と、笑うミイコを唖然とした顔で二人の男が見つめた。
 さすがだ・・・・。
 それなら、自分も持ってくれば良かった。と思ったのもすでに遅し。
「なんだったら、マドカちゃん。行ってくる?」
 こそっ と、マドカの耳元でささやくミイコにマドカは首を振った。
「いまさら、無理だろう」
 急に荷物が増えたりしたら、何と言って説明すればよいのか・・・。
「それもそうね・・・・」
 ミイコもそれに頷いた。
「帰って、部屋がとんでもなくなってたら、片すの手伝ってくれ」
「そ、そうね・・・・」
 力なく笑うミイコの隣でトシが小さくため息をついた。

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月影の門 43

2009-08-24 09:40:22 | 小説 月影の門
「ん、じゃ、さっさと食って、部屋片付けるか・・・」
 そう言ったのは、マドカ。
 トシとミイコも頷き、朝食を食べ始めた。
 ・・・・・そして、食べ終わって食器をカウンターへ戻そうとしたものの、これは・・・
「どうすんだ、これ?」
 返却の食器が積みあがり、下手をすれば雪崩がおきそうな状態であった。
 う~ん と、悩んだトシ。
「ちょっと、これ持ってて下さいね」
 自分のトレーをマドカのトレーに重ねる。そして、崩れる寸前、という感じの食器の山を整理しだした。
 残っている中身は1つにまとめ、空いた食器をぽんぽんと重ねていく。
 ものすごい、早業。
 みるみるうちに、山が小さくなっていく。さすがは、もと飲食店員(もとじゃなくて、今もだよ。トシ談)。
 最後に自分達の分も1つにまとめる。
 厨房の奥から出てきて、その様子を見て立ちすくむ係員に
「それじゃ、よろしく」
 一声かけて、3人分のトレーを渡した。
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月影の門 42

2009-07-30 21:25:45 | 小説 月影の門
「もしかして、追い出される・・・・とか?」
 口へ運ぼう押していた箸をとめるトシ。しかし、
「そうじゃなくて、すぐそこの建物に移ってもらいたいんです」
 ワカバはそれに手を振っていった。
「実は、昨夜、鳩羽君たちの別働隊5人が合流したんだけど、部屋が足らなくなってしまって・・・・。昨夜は、仕方ないので会議室に寝てもらったんだけど、この先ずっと会議室で寝てもらう訳にもいかないし・・・・。それで、3人が同じ部屋という訳にもいかないでしょうし、出来れば、別働隊も同じ建物の方が都合がよいので・・・。とすると、申し訳ないのですが、3人に移動してもらえれば・・・という、訳なんです」
「そりゃまぁ、移動するのは構わないんだけど・・・・。でも、これも一応、お宅の隊員の一人なんだろう。いいのか?」
 マドカの問いに、ワカバが言うのには
「だから、近くの建物にいてもらいたいんですよ。それに、我々もお二人のガードのみをする訳にはいきませんので、出来れば、準隊員である彼にお願いしたいという事もあるんです」
 との事であった。
 確かに、いつまでも隊員でもないド素人に構っているわけにもいかないだろう(たとえ、保護の対象であったとしても)。でも、あれ?
「あの、私たちの他に保護した人っていないんですか?」
 ここに来てから、気になっていた事をミイコが聞いた。そういえば、自分達以外に保護された人たちの姿を見た事がない。
「あぁ、それなら、別に保護施設がありますから、そちらで生活してもらってます。お二方も、その方がよろしいでしょうか?」
「いえ、特にそういう訳では・・・・、ただ、どうしたのかと思っただけです」
 ワカバの言葉にミイコは、あわてて首を振った。
「そうですか。それで、どうでしょう。移動していただけますか?」
 マドカ・トシ・ミイコの三人が、顔を見合わせる。そして、
「分かりました。移動します」
 マドカが代表して答えた。それを聞いたワカバは
「よかった。助かります。ずっと、考えていたんですよ。昨日来た5人を別棟へとも思ったんですが連絡しにくいし、だからといって君達を隊員と同じ部屋へという訳にもいかないですし、第一、女性一人だけを別棟にというのも危険ですし・・・・。でも、良かった、これでみんな落ち着く事ができます」
 と、胸をなでおろす仕草をする。
「で、急で申し訳ないんですが、お昼前にでも移動していただけますか? 荷物があるようなら手伝いますよ」
 本当に急だな・・・・、と三人は思ったものの、大して荷物があるわけでもないので、食事が終ったら部屋を片付けて移動する事に決まった。
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月影の門  41

2009-07-20 21:55:05 | 小説 月影の門
 こ、これは・・・・・。
 多分、こうなるだろうな・・・・、とは予想していたものの・・・・・。
 朝、食堂に入ったトシ・マドカ・ミイコの三人は、その様子に立ちすくんだ。
 とてつもない大混雑。
 いきなり、20人も増えたから仕方がないとしても、これは・・・・。
 テーブルは、満杯。立って食べてる人もいる。そして、食器返却用のカウンターが返却食器の山になっている。
 それを見たトシは、カウンターに近づき
「大丈夫ですか? 何か手伝います?」
 積まれた食器の隙間から、厨房に声を掛けた。
「あ、こっちは大丈夫だから、食べるんならさっさと食べてくれ、じゃないと片づけが出来ない」
 厨房から返ってきた声に
「分かりました」
 返事をして、マドカ達に向き直ったトシに
「だったら、さっさと食うか」
 と言って食事を受け取るカウンターへ行き、朝食の乗ったおぼんを受け取った。

 カウンター近くの開いているテーブルの一角に三人が座る。
「ちょっと、いいかな?」
 食べ始めた三人にワカバが声を掛けた。
「・・・どうぞ」
 箸をくわえたまま答えたトシの隣に座る。
「実は、三人に頼みがあるんだけど・・・・」
 言いかけて、ちょと一息置いて
「出来れば、別の建物に移ってもらいたいんだけど・・・・」
 え?
 ワカバの言葉に三人の動きが止まった。
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月影の門 40

2009-07-11 22:31:58 | 小説 月影の門
「それじゃ、マドカさんがそっち(マットレス)に寝れば良いんじゃないですか。俺、これで良いですよ」
 トシが抱えている毛布を床の上に広げた。
 建物が広くて部屋数があるといっても、同居する人数が一気に20人増えれば、部屋数も足らなくなる。
 とりあえず、一部屋に2~4人ずつ入ってもらっても、一人あまりが出てしまい・・・・それが、トシだった。
 それなら、知っている人の部屋に入れてもらうということで、マドカと同室となったのだが・・・・。
 毛布は、二枚あるのだが、マットレスは1つ。男が二人寝られるほどの大きさはない。
「でも、ここの床。汚ねーぞ」
 確かに、・・・・。
 急遽、空いてる部屋に入れられたので、あまり綺麗とはいえない。一応、暇なときに簡単に掃除はしたのだが、・・・・。
「ん、じゃあ、これ借りていいですか?」
 言って、トシは椅子を壁際に移し毛布をかぶって、そこに座った。
「それじゃ、かえって疲れるだろう」
「大丈夫ですよ、バイト中もこうやって寝てましたし。それに、鳩羽さん達と一緒の時ってほとんどが車の中で寝てましたから」
 毛布をかぶりなおし、壁に寄りかかると
「それじゃ、おやすみなさい」
 マドカにいって、目をつぶった。
 間もなく聞こえてくる寝息。それをみてマドカは電気を消して、マットレスに横になった。
「器用なヤツ・・・」
 マドカの声が暗い部屋に消え・・・・。間もなく、もう1つの寝息が始まった。
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月影の門 39

2009-06-13 21:21:44 | 小説 月影の門
「新橋君、工具借りていい?」
 車の中にいる新橋に声を掛け、工具箱を受け取るとマドカ達のところに戻ってきた。
「ちょっと、失礼」
 言ってトシが、工具箱から何やら細長いものを取り出し、車のドアと窓の隙間に突っ込む。
 しばらく、何やらがちゃがちゃやっていたが、ばしゃん と音がしてロックが外れた。
 全自動でないのが幸いした。
「開きましたよ」
 トシがドアを開けながら、振り返る。
 試しにマドカがエンジンをかけてみるが、バッテリーが上がってしまったようで駄目だった。
 仕方が無いので、荷物だけを持ち帰ることにする。
「はい、これ。トシ君の」
 そう言って、ミイコから渡されたザックを不思議そうな顔で受け取るトシ。
「お店にあったの、これトシ君のでしょう?」
「持ってきてくれたんか・・・・。サンキュ」
 大事そうにザックを担いだトシが、ミイコの姿を見て目を丸くする。
 それは、とんでもない大荷物だ。両肩に大きな荷物を担ぎ、さらに斜め掛けのバックを掛けるという・・・・、家出でもするのか? という格好なのだ。
 一方、マドカは、ごく普通に旅行に出る程度のボストンバックを持っているだけだった。
「何だって、その荷物・・・・」
「だって、いつ戻れるか分からないんだもの。出来るだけ持ってこうと思って・・・・」
 その隣でマドカがやれやれという顔をしている。
「おい。そろそろいいか?」
 車から降りてきたコウジに声を掛けられた三人は、それぞれ車に戻った。
 ・・・・ミイコの荷物を見たコウジがトシと同じ反応を示したのは、無理もないだろう・・・・
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月影の門 38

2009-05-29 09:57:36 | 小説 月影の門
 コウジ達の話し合いにより、鳩羽達の隊員たちもコウジ達のいる本部へ合流することとなった。
 暗くなった中、車数台がぞろぞろと荒れた道を走る。
「そういえば、あの車はどうするんですか?」
 帰りの車の中で運転席のコウジにマドカが問いかけた。
 あの車 とは、二人が乗り捨てた車だ。出来れば、残した荷物だけでも持って帰りたい。しかし、こう暗くなってしまっては、調べることも難しいだろう。ところが
「そうですね。ちょっと、寄ってみましょうか」
 コウジは、あっさりと言って無線を手に取る。
「こちらHO1(オーエイチワン)。ライト協力を頼む」
 それに対し、他の車から次々と助力の返事が来た。

 塀に激突したまま止まっている車を数台の車のライトが照らす。
「う~ん、困りましたね」
 車のドアの外でコウジが腕を組んだ。
 鍵を残したまま逃げ出してしまったので、ドアが開けられないのだ。しかも、フロント部分がつぶれている。
 これでは、動かすことは出来ない。せめて、ドアだけでも開けられれば・・・・。
「どうしたの?」
 後ろから聞こえた声にミイコが振り返ると、トシが車から降りてきていた。
「車の鍵、入れたまま出て来ちゃったから・・・・・」
「スペアキー無いの?」
「今は、無いですね・・・。本部に戻らないと」
「せめて、荷物だけでも持って帰りたいけど、これじゃね・・・・」
 人がいなければ、マドカに頼んでという手があるのだが、こう人目が多くてはそれも無理だ。
 やはり、一度戻るしかないか・・・・。
「ドア、開ければ良い訳?」
 その様子を見ていたトシが、突然、そう言って自分が乗っていた車に戻っていった。
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月影の門 37

2009-05-18 21:47:39 | 小説 月影の門
 日の暮れかかった駐車場に、影法師のような男達が20人ほど集まってくる。
 なんか 異様な光景・・・・
 それを見渡して、ミイコが呟く。
 集団の中には、迷子になっていたトシ、セイジとトキワもいた。
 コウジの無線を受信した別働隊である彼らがここに到着した時、モルドに襲われているセイジとトキワを見つけたのだという。
 そして、トシについてはというと・・・・。
「あ、これか? 10日ほど前にF-16地点で拾った。モルドが出現しているところでふらふらしてるんで、危ないと思ってな」
 その間、この隊と一緒に行動していたそうだ。
「それにしても、お前らよく無事だったな」
 感心したように目の前の集団を見まわすコウジに
「それは、こっちの台詞だ。無線を聞いて驚いたぞ」
 集団の中の1人がヘルメットを取って進み出た。
「てっきり、やられたと思ってたからな・・・・」
「お互い様だろう、それは」
 コウジもヘルメットを脱いで、お互いに肩を叩き合う。
 影法師の集団にほんわかした雰囲気が漂う中、なんとなく外れた感じでミイコとマドカとトシが一所に固まった。
「で、あの後どうしたの? それに、さっきのあれって・・・・」
 隅っこに集まった三人でなんとなく ひそひそ声でお互いの近状を報告しあった。
「あの後、モルドに襲われて逃げ回っていた時に鳩羽さん達に拾われて、あ、鳩羽さんてあの人」
 と、トシが、ヘルメットを取りコウジと笑いあっている青年を示す。
「で、・・・・、その後、たまたまモルドの成体が出てきた時、シアンが・・・・」
「・・・・シアン?」
 思案 試案 私案 ???
 ミイコのクエスチョンマークが飛び交う顔を見て、さらにトシが補足。
「え、っと、シアンってのは、さっきの外装(アーマー)の元って言うか、そういう物なんだけど、それが飛んできて、でその装着者が俺だったもんで“生き残りのアーマーソルジャー”って大騒ぎになって・・・・」
 話は、あっちへ飛びこっちへ飛び寄り道しながらも、お互いにそれぞれのアトフ隊に拾われ分であることが確認された。
 ってか、見れば、分かるって・・・・・。

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月影の門 36

2009-04-29 21:45:11 | 小説 月影の門
 はぁ  ~
 ミイコが息を吐く。
 目の前の光景に息をするのも忘れていた。
 その、すぐそばで動き出した者がいる、コウジだ。
 彼は、腰に下げた銃を手にし、立ち上がろうとしている蒼いのに近づいていった。
「何者だ?」
 コウジが蒼いのに銃を向ける。
「アトフか? 装着コードとナンバーは?」
 立ち上がろうとしていた蒼いのがコウジを見上げ、膝をついた。
「・・・・V・シアン、NO.16」
 ぼそり と、呟くようなその声に聞き覚えがあるような気がして、ミイコはマドカの腕を掴んだ。
「ね、マドカちゃん・・・」
 声を掛けたその時、
「おい、こら、トシ。勝手に隊を離れるなと言っただろう」
 一見すると華奢そうな男が蒼いのに駆け寄ってきた。
「あ、新橋君」
 蒼いのが立ち上がる。と同時に蒼いのに亀裂が入り外装(らしきもの)が宙に解けるように散っていく。
 そこに現れた姿を見て
「トシ君」「トシ坊」
 ミイコとマドカの声がハモった。
 一斉に、視線がミイコとマドカに集まる。
「知り合いか?」
 コウジの問いにミイコが頷いた。
「え・・・・と、前に話していた迷子です」
「と言うことは、君達のはぐれた連れというのが・・・・」
「その人、です」
 ミイコが立ち上がって頷いた。
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月影の門 35

2009-04-26 21:24:30 | 小説 月影の門
 アーマーソルジャー?
 さらに首をかしげるミイコだが、のんびりと考え込んでもいられない。と、いうのも、色々のものが飛んで来るのだ。
 小石やアスファルトの欠片や、壊れた車の破片。
 そのほかにもモルドがいるかも知れないので、回りに注意を配ることも必要だ。
 ミイコとマドカ、アトフ隊員達がかたまりになって色々な飛行物を除けながら、うろうろするその前で、紫のモルドと蒼い何者かの激闘が繰り広げられていた。
 紫のが手当たり次第に投げまくり、さらに鞭のような爪?で蒼いのを攻撃する。それを蒼いのが除けると当たり損ねた爪に弾かれた様々な破片が飛び散る。
 最初は、除けるばかりだった蒼いのが攻撃に転じた。
 紫の爪を軽く除けるとその爪を左腕の刃で叩っ切り、そのままの勢いで右手の拳を紫の腹部に突き出す。そして、紫の攻撃を受ける前に飛び除け、間髪いれず紫の爪を半身で除けながら左腕を振り上げた。
 紫の右脇腹から左肩にかけて裂け目が走る。その振り上げた腕を体重をかけ、斜めに振り下ろした。
「さがれっ」
 それを見ていたコウジが、ミイコとマドカの腕を引っぱり後退した。アトフの隊員も一緒にさがる。
 ぐらり と、倒れかけた紫のを蒼いのが向こうへ蹴り飛ばしつつ、転がって除ける。と、
 どぉん と、倒れた紫の体から爆発的な緑色の炎を吹き上げた。
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月影の門 34

2009-04-24 21:30:29 | 小説 月影の門
 僅かに緑がかった鮮やかな蒼い巨体が駐車場の向こうから姿を現した。
“ごう  っ  ”
 モルドが息を漏らすような声を立てる。
 アスファルトに落ちたモルドの腕が緑色の炎を上げた。
 モルドが蒼い巨体に向き直り、鞭のような爪を構える。
 その隙に・・・・・。
 アトフの隊員とマドカが倒れたコウジを助け起こす。そして、その一同の前でモルドと蒼いののバトルが始まった。
 モルドが気の毒になるほど蒼いのの強さ。持っている剣で残りの腕を叩き落し、袈裟懸けにモルドを叩っ切る。
「除けろっ」
 誰かの声に顔を上げると、蒼いのに向かって車が飛んできた。
 ミイコ達もモルド隊員と共に慌てて駆け出し、蒼いのも跳び除ける。
 かわいそうに残されたモルドが車に激突し、車ごと緑色の炎に包まれた。
 次に出てきたのは、・・・・。
「あ、あれ、アパートにいたヤツ」
 思わず指差すミイコ。
 アパートの階段で見た紫色のモルドだ。
 蒼と紫の巨体が退治する。
 紫色が長い鞭のような爪をかざし、蒼いのの左腕から手の甲を覆うような刃物が出現する。
 ってことは、蒼い方は、モルドじゃない?
 首をかしげるミイコの隣で
「アーマーソルジャー・・・・」
 コウジの呟き声が聞こえた。
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