ものずき烏の無味乾燥?文

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飯嶋和一:始祖鳥記

2005-07-15 | 書籍 の 紹介

飯嶋和一『始祖鳥記』 小学館文庫

 『雷電本紀』で、その時代考証の詳細さに、興味を持った作家です。
始祖鳥記』は、幸吉と云う伝説的人物が凧に乗って中を舞う話が本筋です。初めのフライトは岡山。時代のなせる事か、幸吉は民衆を扇動したと判決を受け、所払いとなってしまいます。その幸吉を助けたのが、竹馬の友である海運業の源太郎で、しばらく船員として暮らします。航海士の杢平が老いを感じ船を降りるタイミングで幸吉も陸の人となり、駿府で生活を始めます。その駿府で再度のフライトを行います。
この筋立てだけでは、単なる技術史に一行だけ登場する人物になってしまいますが、そこは時代考証に細密な作家ですから、史料を読み解く時代背景まで教えてくれます。もちろん登場人物はこれだけではありません...登場人物は、みな誠実で善良な人々で、悪いのは権力をかさに利益をむさぼる輩と云う構図は『雷電本紀』と同様です...いつの世も同じと感じる、わたしです。
 この飯嶋和一氏は、デビューして20年近いのですが、発表した作品が極わずかで、わたしが知ったのも、ここ数ヶ月。なぜかは、一冊でも読んでみれば判る。手抜きがまったく感じられないのである。例えば日付、時刻の表記など、読者が突っ込みを行おうと目論んでも、矛盾が見つけられないのである。あたかも、本職は古文書の研究家で、余技で時代小説を書いているような記述である。また『始祖鳥記』各章の表題には、年号と月(旧暦)を使っているのが趣向として面白く感じた。内容を類推する章タイトルでなく、事務的に年号と月を記載することにより、読んでみろと訴えかけている。わたしは前章のタイトルと比較し時間の差を踏まえてから次章を読み出す。面白い。
始祖鳥記』 飯嶋和一 小学館文庫 い25-1 2003/01/01 2刷

2005/07/15 ものずき烏
(参考)
2005-04-19 飯嶋和一:雷電本紀