goo blog サービス終了のお知らせ 

月野岬

好きなゲーム等の文章中心の二次創作置き場です。現在三国恋戦記中心。

『密か花』中の巻(孔明×花)孔明ED後

2010-08-31 21:12:21 | 孔明×花
<前書き>
あれぇ?おかしいですね。タイトルに中の巻なんて文字がついてますよ。
あ、惚けて見てもダメですか?(苦笑)
いつもの状況なので、いつものように流してくださいませ。
今回も微妙に大人風味でございます。ご注意くださいませ。
うん。これ12禁くらいなのかな?


『密か花』中の巻(孔明×花)孔明ED後

偶然を装って、孔明の手が胸のもっと頂きに近い場所に触れた。
もちろん下着があるし、直接じゃない。
その柔らかさに、まだ亮くんと花に呼ばれていた頃、彼女に抱き込まれて眠っていたことを思い出した。
甘い香り、時々服越しに触れる暖かく柔らかな膨らみ、裾の短い衣装から覗くすべすべした足の感触。
本当に罪作りだったよねと今は苦笑しながら思えるけれど、思春期真っ只中ではそれはひどく甘く、それでいて辛い思い出だ。
恋仲になっても二人の関係はいまだに清く、実はまだ口付けをしたのも数えるほどだ。
少しだけ、そう言い聞かせて触れる少女の肌は、布越しでも十分にその色香を伝えた。
ぴくりと大袈裟なほどに花の華奢な身体が跳ねて、孔明は固い自分の自制心に感心しながら身体を起こし手も離す。
「終わったよ。大丈夫?」
「はい」
向こうを向いたまま、花がどうにか細い声で吐息混じりに答える。
噛みしめた唇に、彼女がどれほど自分を男として意識しているか見て取れて、孔明はかすかに満足げな微笑を浮かべた。
でもこれで終わりじゃないから。
胸中で呟いて、それでも表情は花の師匠の仮面を付けたまま医師としての言葉を出す。
「花。ついでにこっちも診てあげるよ」
「え?」
次の瞬間、寝ていた花の方膝が掬いあげられて、ただでさえ短い制服のスカートがぱらりとめくれ上がった。
孔明の顔が自分の腿の所におちてくるのが視線に入った。
「やっ!師匠!?」
花はパニックになりながら孔明を呼ぶが、腿の内側に近い場所を何か湿って柔らかいものが触れた。
「あ~あ、青痣ができてるよ。真っ白できれいな肌なのにね」
花は慌てて身を起こすけれど、そこに待っていたのは立てた足の腿の内側、最も柔らかな場所に唇を付けている孔明の姿だった。
腿から這い上がる同じ感触に、さっき触れたものが孔明の舌だったことを知る。
「やだっ……師匠!」
それはひどく淫らな光景に思えて、花は半泣きになる。
自分の腿の所に師匠である孔明が顔を伏せているのだ、普通に対処できる限度はとうに越えている。
「きみの肌は痕が付きやすいんだね。こんなになるまで昼間は必死に起きて、それでも夜眠れない原因は何?言いたくなけりゃ、ボク流の方法で眠れるようにしてあげるけど?」
孔明の瞳は、挑むように花を見つめる。
ぺろりと舌が唇を舐める仕草は妖しく、強い熱が一瞬で宿った瞳は押さえられた表情の中で一際鮮やかだ。
本能はひどく危険だと告げていたけれど、花はこの状況にまだ付いていけず、言葉が口から出ない。
「それが花の選択?いいよ」
再び孔明の唇が腿に落ち、ちりっとした痛みを感じて顔をしかめると同時に、現実が花に一気に戻ってきた。
「言います!言いますから、止めてください。お願いです。師匠!」
孔明が顔を上げて時には、花はぽろぽろと泣いていた。
「花……泣くくらいなら、意地を張らずにいいなよ」
向かい合って、孔明はちょっと乱暴に掌で花の涙を拭ってくれる。
「だって、びっくりして言葉が出なくて、それなのに……」
「ああ、ボクが悪かったよ。ちょっと脅かしすぎたかな」
「怖かったです」
「きみもこれに懲りたら、師匠のボクに無駄な隠し事は止めるんだね」
「師匠……」
ようやく涙が止まりかけた花の頭を抱き寄せて、孔明は自分も花の肩口に額をつけた。
「きみだって、もちろん女の子なんだから男のボクに言えないような隠し事の一つや二つあっていいと思うよ。だけどね、身体を痛めるような嘘や隠し事は許せない」
「あっ……」
「ボクはね、こう見えてきみに関してはたぶんある意味過保護だ。だからきみを傷つけるものが、例えきみ自身でも許せないんだ。いい?覚えときな」
肩口から伝わる孔明の常より低い声が、花の中にゆっくりと染み渡った。
顔は見せてもらえなかったけれど、どれほど自分自身が孔明に大事にされているか、その一言で分かる。
変な話だけれど、花自身より花の事を考えているのは孔明かもしれないと、あんな言葉のあとには思わずにいられない。
「わかりました。ありがとうございます」
相変わらす素直すぎる弟子の返事に、孔明は苦笑半分で頷いた。
そして顔を合わせて孔明が改めて、花に事の次第を問う。
「で、結局、きみの不眠の原因は何?」
「あの、夜になるとどこからか、部屋が軋む音やうめき声、妙な物音とか、女性のものらしい啜り泣きが聞こえるんです」
花はとっても生真面目に、どこか怯える表情で話し始めた。
「毎晩?」
聞く孔明の方は飄々としたもので、普通に仕事の事で報告を受けるような気軽さだ。
「ほぼそうですね。ここ五日?六日かな?」
「一晩中ずっとなの?」
「う~ん、そうじゃないですね。一定の時間だけなんです」
「妙だね。それできみの事だから覗きに行ったりした?」
花はちょっと気まずそうな顔をして頷いた。
「もしかしたらと思って。でも私の両隣は空き部屋で、思いきって覗いてみたんですけどやっぱり誰もいませんでした」
「覗いたって一人で?」
「さすがにそれは怖かったんで、二日目に衛兵の方に一緒にって頼みました」
「きみにもちょっとは危機意識があって良かったよ」
花の危機意識の薄さは、今もって孔明の悩みの種だ。
「それに師匠、わたし、聞いたんですけど、あの並びの部屋で昔自害した女官の方がいたらしいんです」
「まあそれなりに歴史のある古い城砦だから、あってもおかしくはないよね」
眉をひそめて言う花に、孔明は真面目な顔、もっともらしい表情で頷いた。
「え!ほんとなんですか?」
孔明だったら否定してくれると思っていたものだから、花はあてが外れて眉毛が下がりなんとも情けない顔になる。
「そりゃあ真実かどうかは分からないけど、絶対ないとは言いきれない。だって、城なんてものは権力の象徴みたいなもので、多くの人が暮らしてるんだよ。血生臭い謀略や利権に関わった事件が常にあるような場所なんだからさ」
それはそうだと花も頷いた。
時代劇だって、お家騒動なんて言うのはお城で起こっているし、暴君なんかが無礼打ちなんて言うのもあるかもしれない。
想像すれば、なんだか毎日とんでもない場所で暮らしているんだなと思って、花の顔色はちょっと悪くなった。
「師匠、まさか幽霊なんて非現実的なものはいないですよね?」
最後の希望に縋るように、花は孔明に必死の眼差しを向ける。
孔明はふむと考える表情になり、羽扇の代わりにさっきまで花を扇いでいた団扇で口元を隠した。
これは孔明が良くする癖で、花は否定の言葉を待つ。
その団扇の下で、孔明が口の端を上げてにんまりと笑ってるなんてことは花には知りようがない。
理知的な超現実主義の孔明なら、きっと一笑して否定してくれるはずだ。
「どうかなぁ?ボクは見たことないけど、ボクの知ることだけがこの世界の真実全てじゃないからね」
かえってきた無常な言葉に、花は思いっきり落胆する。
「じゃあ、幽霊はいるってことですか?」
「ボクの見解では否定も肯定もできない」
「そんなぁ……」
「情けない顔だなぁ。幽霊って言うのは、残された想いの名残であり、記憶の再生かな。まあ性質の悪いものだったら、もっと噂になってるでしょ。大丈夫だよ」
安心していいんだか、悪いんだかよくわからない請け負い方をしてくれた孔明に、花はちょっと恨めしげな視線をなげる。
「まっ、今日は芙蓉殿の部屋にでも泊めてもらうほうがいいかな。あとはボクが調べとくから」
「いいんですか?」
「いいよ。その代り、今夜はきみの部屋にボクが泊まるけどいい?」
えっと花は一瞬言葉に詰まる。
自分がいない部屋に孔明が一人で寝泊りすると思うと、それはそれで何となく気恥ずかしい。
「まさか師匠に床で寝ろとは言わないよね?」
にっこりと笑顔で言われて、花は慌てて頷いた。
「もちろん、どうぞゆっくりなさってください。でも師匠と一緒なら怖くないし、どうせなら一緒に調べたほうがよくないですか?」
人の気も知らずどこまでも能天気な花の言葉に、孔明は思いっきり嘆息する。
どうやらあれでは、お仕置きは効き目が薄かったらしい。
「はな……」
剣呑な孔明の目の光に気付いたのか、花は小さく首を傾げてあどけなく微笑む。
これは亮の時には見られなかった甘さを湛えた庇護欲をそそられる表情だ。
だがそれも当然で、十年前の立場は見事に今と反対だったのだから仕方ない。
「師匠の言いたい事ならわかります。でもわたし、少し怖かったけど嫌じゃなかったです」
言われた言葉に、ようやく少し前に進める許可が出たのだと知る。
それでも花らしいのは、その後に少し慌てて付け加える。
「あ、でも、いきなりはなしですよ」
赤くなって言う顔はかわいいけれど、またちょっとだけ意地悪したくなる。
「花、いきなりはダメってことは、手順を踏めばいいって解釈するけどどうなの?」
「手順って!その手順の意味が分かりません」
「やれやれ、きみってホントに手間のかかる弟子だよね」
孔明はにっこりと笑顔をみせると花へ手を伸ばした。
「こうして会話があって、手を握るのが最初」
孔明の乾いて大きな手に花の手が包まれ、しっかり指が絡むように握り合わされた。
「次に抱きしめる…かな?」
心もち優しい声で言われ、花はしっかり握り合わせた手をやわらかく引っ張られた。
ああ、また心臓がどきどきしだした。
少しだけ勇気を振り絞って孔明を窺ってみれば、師匠の方はいたって余裕だ。
孔明は倒れ込んでくる身体を抱きしめながら、そっと告げる。
「名前を呼んで。花」
掠れたような孔明の声は、花の心をそっと撫ぜ上げる。
その声に、実は少しばかり孔明にも余裕のない男の情動が見え隠れしているのだが、経験に乏しい花にはわかるわけはない。
花はあたたかな腕の中でなんの不安もなく、ただ満ち足りた気持ちで目を閉じた。
「…孔明さん」
紡がれる言葉をその唇から直接受け取るように、孔明は長くじれったいほどゆっくりと口付けた。
今、この腕の中にあるのは間違いなく花だ。
急く気持ちはなく、ただ孔明の中にも溢れるような幸福な想いが満ちてくる。
柔らかく、でも逃さずに合わされた唇に、耐え切れなくなった花が、空気を求めて唇を開いたその隙間に舌を差し入れる。
まったく性急さのない、それでも熱い口付けに、花はそれだけに酔わされてしまう。
たった三つしか違わないはずなのに、孔明の口付けは大人の口付けだった。
器用な舌先にゆるく口中を探られ、陶然とし、浮遊感が襲う。
「あっ…ん」
甘く漏れた声と陶然とした花の表情に満足しながら、孔明はあっさりと花を胸から離した。
「ご褒美とお仕置き。きみは身体に覚えさせるのが一番なのかな?」
普段の孔明にはない艶めいた微笑みの後、孔明はすっと手を伸ばして花の腿の触れた。
スカートがめくれ上がったそこには、花が自分でつけた青痣の隣に赤く咲いた小さなうっ血の痕があった。
それこそが、先ほど孔明が付けたお仕置きと言う名の十年越しの恋の証しだった。

やっぱりねと孔明は、だんだん大きく、小さくなって不明瞭に聞こえる音に眉をひそめた。
花の部屋で待つことしばらくして、言うような音が聞こえてきた。
けれど、この音を不審者とか、幽霊と思うのが実に花らしいと思う。
これは男女の睦みあうときに出される様々な音や声で、まあ経験のない花に解らなくても仕方ないかもしれないが、実に幼い反応だと思う。
花の部屋に壁を接して、小さな隠し部屋があるのだ。
それは花の隣の部屋を監視するのを目的に作られた部屋なのだが、その隠し部屋を誰かが逢瀬に使っているらしい。
予想していたことなので、苦笑交じりに途切れ途切れに届く音に肩をすくめる。
向こうはこちらに音が漏れているとは思ってないのだろうが、これを花と聞くことにならなくて良かったと思う。
孔明は手配していた兵士に事を丸く治めるように言い含めて始末を任せると、花の寝台に横になった。
自分の部屋に戻っても全然問題はなかったけれど、たまには花の香りに包まれて眠るのも悪くない。
孔明にしても若い男だから、欲望がないわけじゃない。
それなりにというか、十年も待っているのだからそろそろ理性を緩めてもいいと思うことはある。
ただし、邪魔をする奴がいる。
もちろん花の幼さもあるのだけれど、大きな原因は恋敵だ。
「今更こんな事になるとはね」
今、最大に孔明を苦しめているのは孔明自身だった。
十年前に花の口から語られた花の師匠諸葛孔明が立派過ぎて、それを壊すことが出来ないのだ。
子供心に嫌味なくらいに良くできた奴だと思った。
だから亮は花の師匠に追いつくために必死で知識を貪欲に求め、知識もさることながら、堂々とした落ち着いた大人になりたいと思った。
そして結局蓋を開けてみれば、目標として追い求めたのは自分自身だった。
笑い話のオチにしては、ちょっとばかり酷い。
今花が孔明を見つめる視線は、あの子供の亮の前で語った師匠に思いを馳せているときと同じだ。
過去、花が語る師匠に恋心があったのかどうか、それは孔明にはわからない。
自分の幼い恋心に精一杯だったし、彼自身恋と言う感情をよく知らなかったのだから。
けれど今ならわかる。
「伏龍諸葛孔明。いつになったらあの子は弟子を卒業するのかな?」
それでも孔明は笑っていた。
ご褒美とお仕置きは、師匠だからこその特権だ。
なにより彼女はこうして手の届く所にいて、教え、導くのは自分なのだ。
まだ若葉のころから大事に育んだ恋心。
十年たってやっと蕾になったのだ。
そこへ自分好みの色を少しくらい加える事は許されるだろうと思いつつ、どんな花が咲くのかと一人微苦笑を浮かべた。
「ボクだって十年待ったんだ。花も待つ辛さを味あわなきゃ、わりにあわないよ」
少しだけ意地悪く呟くと、軍師でない二十歳の青年の密やかな顔が透けて見えた。

<後書き>
え~と、この中の巻を読んでなぜ納涼企画だったのかわかりましたか?
まあこうなってしまえば、師匠セクハラもといお医者さまごっこ編・・・・・・・いやいや、他に言いようがないよね。
こんな孔明もありですよね?(同意を求められても困りますか?)
素直に別館へ行くべきだったのか少しだけ考えました(苦笑)
次回でちゃんと終わりますので^^

『密か花』上(孔明×花)孔明ED後

2010-08-28 23:54:18 | 孔明×花
<前書き>
突発的に孔明ですが、黒か白かと言えば、中途半端に灰色と言う仕上がりの師匠です。
ついでに、長くなったのでちょい強引な位置で切っちゃいました。
あと微妙に艶っぽいシーンがありますのでご注意を(別館にいくほどの内容じゃありません)

『密か花』上(孔明×花)孔明ED後

「本当に暑いですね」
何回目かになる花の言葉に、孔明は思わず苦笑をもらした。
「夏なんだから、暑いのは当たり前でしょ。きみはほんとに暑いのも寒いのも弱いよね」
呆れたような師匠の言葉に、花はちょっと弁明を試みる。
「確かに暑いとは言ってますけど、冬もそうでしたっけ?」
「そうでしたっけ?なんて、惚けても無駄だよ。きみの師匠は忘れるって事が不得手だからね。言ってあげようか?」
「え~と、何をですか?」
「冬はあかぎれとしもやけを両手と両足につくった挙句、風邪をひいて寝込んだのは三回だった。そのたび、ボクは師匠じゃなくて医師に早変わりしたんだよ」
「そうでしたね……すいません」
「で、夏になったらなったで、暑気あたりで倒れてくれちゃって」
ハアと少しばかりわざとらしい孔明のため息に、花はしょぼんと項垂れる。
確かに、先ほどこの夏二度目の暑気あたりを起こして、執務室に向かう廊下の途中で倒れてしまったのだ。
通りかかった官吏の手を借りて、風通りのいい涼しいこの室が急ごしらえの介護室となり、孔明が呼び出されたと言うわけだ。
「ボクはさ、きみのお師匠兼侍医だよね」
「いえ。決してそういうわけじゃないですけど」
「体調管理も仕事のうちって、何回言えばいいのかな?」
「ごめんなさい」
もうこうなれば、ひたすら謝り倒すしかない。
「ま、いいや。この借りはおいおい返してもらうから」
孔明は花に聞こえないくらいの小さな声で言うと、少しだけ人の悪い笑みを浮かべた。
「え?」
「早く治ってって言っただけだよ」
そして、花の胸元のリボンをしゅるりとほどいた。
「師匠?」
そのままためらいなくのブラウスのボタンに手をかけると、二番目のボタンまで器用に外してしまった。
「な、何するんですか?」
「うん?やだな、この弟子は。自分の師匠を何だと思ってるの?暑気あたりには涼しいのが一番だから、胸元を緩めただけだよ」
考えすぎだったと、花は真っ赤になった。
これでは自分が師匠を異性として意識してますと白状したようなものだ。
いや、白状したって困ることじゃない。
孔明と花は、先ごろ気持ちを確かめあったばかりなのだから。
そんな花の気持ちはお見通しだけれど、孔明はいつもと変わらない飄々とした態度だ。
縁側で寛ぐ猫のように、まるっきり普通の態度で花に接している。
冷たい井戸水で濡らした手巾を花の額に置いて、団扇で仰いでくれている。
どてっと寝ているのが弟子で、横で仰いでいるのが師匠の孔明なのだから、確かに弟子としては立場がない。
「で、きみが夜眠れない原因は何?」
「えっ?」
脈絡なく不意に問われた言葉に、花は驚きの表情を浮かべた。
「目の下のクマ、いくら化粧をして誤魔化してもわかる。て言うか、きみ普段お化粧なんてしないのに、してあれば嫌でも気付くよ」
花は思いっきりため息をもらす。
それはそうだ。
何事も見逃さない孔明が、三日前から化粧をし始めた花に注意を払わないわけはない。
他の男だったら、花も色気付いてきたとか、どうでもいいような表向きの感想を持つだけなんだろうけれど、孔明だったらなぜお化粧などし始めたか考えるだろう。
「え~と、さすがに顔が真っ黒に日焼けするのはまずいと思って」
「却下」
「却下って何ですか?」
「外なんて昼間はほとんど出てないよね。第一、芙蓉殿から究極の化粧水だっけ?それを教えてもらってたろう。日焼けの心配なんてないよね?」
花は今度こそ、言葉なく孔明を見返した。
どこでそんなコアな情報を手にいれたんだと思う?
だって、そんな女の子の秘密の話を孔明が知ることがどう考えてもおかしい。
芙蓉が言う筈がないので、残されたのはまさか間諜を使ったとか?
目まぐるしく色々考えている花の様子に、孔明は心の中でため息をつく。
およそ今花が何を考えているか解る自分の頭と洞察力が恨めしい。
「あのさ、言っとくけどいくらボクでも私用で間諜、使ったりはしないから」
「えっ?師匠、読心術も使えるんですか?」
否定しない花に、はあと孔明は息をついた。
「素直なところは花の美徳だけど、軍師なら言葉を口から出す前にちょっと考えな」
「すいません」
色々思いあたり過ぎて、花はしおれた花のようにしゅんとなる。
「化粧水の件は、厨房で糸瓜やら西瓜の皮やらを使って料理じゃないことを色々してたのを知ってたから、推測しただけ。ボクはこの通りきみの侍医も出来るほど薬とか、薬効のある植物に詳しいから、答えを導き出すのは案外簡単だよ」
事も無げに言う孔明に、花はたぶん違うよねと思う。
同じことを見聞きしていても、たぶん気付かない人の方が圧倒的に多い。
孔明だからこそ出来るのだ。
この賢人はその飄々とした外見と若さからは想像も付かないほど深い洞察力を持ち、普段はそれと気付かせないが何事も見逃す事がない。
花は素直に自分の師匠を尊敬すると共に、わが身を振り返れば弟子と名乗るのを恥じ入るばかりだ。
「それで寝不足の原因は何?」
話はそれたかと思っていたけれど、孔明はあっさりさっきの問いに戻った。
「あの」
「ボクだってしばらくは静観してたよ。きみがクマをつくってきて、仕事中に欠伸を何度もかみ殺し、眠気覚ましにこっそり太腿をつねってるのを見てもね。でも倒れちゃってまで黙ってる義理はない。違う?」
違うと訊き返されて、花は唇を噛む。
孔明の瞳の中に本当に心配そうな、気がかりそうな表情が見えたからだ。
同時に不機嫌さも感じて、話すしかないのかなと思うけれど、ためらいは消えない。
なんだか子供じみてて口に出すのもどうかと思うのだ。
孔明は花がなぜ自分に話すのをためらうのか理由まではわからないが、気分的には大いに面白くない。
孔明が花のことを良く知り、わかっているのは、ただ単に孔明が観察力に優れているからだけではない。
それだけいつも花の事を気にし、悟られないように全ての感覚で花を追っているからだ。
目で追い、耳は彼女の言葉どころか微かに漏らされる呼気を拾い、触れないときでもその華奢な身体から放たれる熱を感じ、同じ部屋にいるだけで甘い少女の香りを感じる。
幼いときに花を一度失った喪失は大きく、孔明は常に花の存在を確かめずにはいられないほどに、いまだに心に疵は残っている。
けれど日頃の孔明は、欠片もその片鱗をうかがわせることはない。
盲目的に少女を愛しているが、決して甘やかさないのは師匠としての孔明のけじめだ。
幼いころ花から聞いた花の師匠が自分とは当時は気付かず、その存在に、花が敬愛を漂わせて語る内容に嫉妬した。
そしてある日それが自身のことだと気付いた衝撃は、今でも忘れようがない。
さて、どうしようかと孔明は考える。
花の口を割らせることなど孔明には簡単だったけれど、ただ単に聞きだしたんじゃつまらないだろう。
第一寝不足になるほどの悩みだか、心配事を自分にすら話さないのはいただけない。
ボクに心配をかけている責任は、取ってもらわないとね。
孔明は一人ほくそ笑むと、愛すべき少女に手を伸ばした。
「あ~あ、こんな濃いクマをつくっちゃって。知ってるのかな?若いときの無理は、老化を早めるんだよ。こんなクマを作ってるようじゃ、芙蓉殿秘伝の化粧水の効果もなくなるよね」
そっと伸ばされた孔明の指が、花の目の下を微かになぞった。
「ねぇ。そんなに言えないような事なの?」
「そうじゃないですけど」
「言っとくけど、夜は毎日やって来るんだよ。どうするのさ?」
その言葉は効果があったらしく、花の顔が曇った。
孔明は花の額にのせた手巾をとると、またそれを小さな盥の水に浸した。
手は花の手首を握ると、そっと脈を診る。
「うん。脈は普通に戻ってる」
「だいぶ気分はいいです」
「そう?でも随分汗をかいてるね」
盥に付けておいた手巾を絞ると、孔明は花の方へ屈み込んだ。
汗で額や顔に張り付いた髪を指先でよけて、手巾で拭いてくれる。
孔明の手は温度が低く気持ちいいけれど、体勢も体勢だし、孔明の顔が近くにあって花は思わず顔が赤くなるのを止められない。
すぐ近くにある唇、底のない漆黒の深い瞳、思いのほか白くて滑らかな肌、それでも顎の線や首の太さに脆弱さは一切なく、花にはない喉仏を見て男性なんだなぁと思う。
動くたびに仄かに香るのは孔明の匂いで、爽やかだけれどどこか薬草めいたというか、ハーブのような香りがして花はその匂いが大好きだったりする。
違う意味で、なんだか熱が出そうだ。
「まだ身体が熱いよ。もしかして子供体温って、きみならありがちだよね」
「師匠。子供体温って何ですか!失礼ですよ」
孔明の掌が赤くなった頬に触れ、首の下に腕がさし込まれて、孔明の胸に顔を埋めるような、押し付けられるような形になるように頭が持ち上げられた。
師匠と言いかけた言葉は孔明の胸元に吸い込まれ、花はとっさに孔明の胸元の衣をぎゅっと掴んでいた。
後頭部を大事に抱えられ、濡れた手巾で丁寧に首の後ろから背中を拭かれる。
ああ、もう嘘だ。
もちろん純粋な看護行為であることはわかっている。
それでも花の顔どころか、身体まで一気に熱くなりそうだった。
一度は収まった動悸が激しくなり、何だかまた暑気あたりの症状が出たように頭がぼーとする。
それでも花は平静を保とうと必死だった。
頭を枕代わりの畳んだ軍師服の上に丁寧に下ろされ、こちらを覗き込む孔明と目が合った。
息一つ乱れもなく、その瞳は動揺の欠片すらない。
再び手巾を浸すと、今度は花のブラウスの襟元に手をかけた。
そこに手をやった孔明の意図に気付いた花は、とっさにその手を掴んだ。
「花。そこで手を持たれると拭けないんだけど、どういうつもり?」
「師匠、そ、そこは自分でします」
「病人が何言ってるのかな。せっかく師匠自ら手厚い看病をしてあげてるのに」
「でも……」
「でもじゃないでしょ。ほら、病人は大人しくしてな」
それ以上ボタンを外したわけじゃないけれど、広く開かれた胸元に濡れた布の感触がして、花は体を強張らせた。
顔を見ているのも、見られるのも耐えられずに、横を向いて何とか心の平穏を取り戻そうとがんばる。
もちろん孔明の手が直接触れているわけでもなく布越しだけれど、やっぱり濡れた手巾越しに孔明の手が自分の胸にあると思うと、なんだかも恥ずかしくて目も合わせられない。
孔明はそんな花を見ながら、まあ本当に素直だよねと心の中でため息をつく。
必死に恥ずかしさを耐えて、医術の心得のある孔明の看病だからと素直に身をませている姿はかわいい。
それだけ信用されていると言うことなんだろう。
これが玄徳とかでも、花ならば看病と言われればさせそうで、孔明は不安だった。
そもそも同じように状況になって、本当に玄徳に不埒な気持ちがなくても止めて欲しいと思う。
けれどどんな相手でも過ぎた信用は、やっぱり危険だと知るべきだ。
孔明はそれをどこかまだ稚さが残る花へ教えるべく、花には滅多に見せない策士の顔で密かに微笑んだ。

<後書き>
これ、実は納涼企画だったんですよね。
え、なぜなのかその納涼なのか全然解らないですよね。(苦笑)
下になればわかると思いますが、どうもこれは・・・・・・お医者さんごっこ?(汗)

『幻夜』(玄徳×花←孔明)ですが(孔明×花)に組み入れます

2010-06-29 23:15:48 | 孔明×花
<前書き>
この話は玄徳×花となってますが、実際は花←孔明を全面的に出してます。
(注意報発令中)です。(主に孔明さんご贔屓の方、玄徳さんも微妙?)
シリアスはいつものことですが、ダーク、孔明が黒いし、少し病んでる?
孔明さんファンの方、嫌な方は絶対見ないほうがいいです!
まあ玄徳さんは全然出てないけど、彼の立場も微妙です。
下の本文がたためたらいいんだけど、このブログそんなことできるんだろうか?
とりあえず警告しましたので、よろしくお願いします。





『幻夜』(玄徳×花←孔明)ですがカテゴリーは孔明×花にいれます。

花の瞳が誰を追っているのか、孔明の目には簡単にわかった。
純粋すぎる目は、一途にその人を追う。
玄徳は気付いているだろうし、たぶん花に惹かれている己の気持ちを知っているだろう。
けれど、その気持ちを見ない。
大義の前に、私心を捨てることの出来る男だ。
情け深いし懐も深いが、己のことならば必要なら切り捨てる。
他人は決して切り捨てないが、自分なら耐える道を選ぶ。
愚かしくも真っ直ぐで純真な頑迷さ。
だからこそ主として仕えることにした。
望めばたぶんどちらも得ることは出来るだろうに、その方法をとらない。
「バカだよね」
それは玄徳に向けた言葉だったのか、自分自身に向けた言葉だったのか、孔明にはわからない。
ボクならば、どちらも手に入れる。
いや、ほんとに大切なものは一つだけだ。
それしかいらないけれど、手に入れられるならついでに手に入れて何の不都合があるだろう?
手段は見えているのだから。

「花。こっちへ」
花は孔明に呼び出され机の前に立った。
「今、玄徳様に孫家の姫君との婚儀の話が進んでいるのは知ってるよね?」
「はい」
花の表情に変化はない。
あるのは諦めに似た虚ろな表情で、まったくと孔明はため息をつく。
この婚姻が罠である可能性があることは、孔明も玄徳も頭に入っている。
おそらく雲長も考えているだろう。
でも、そうじゃない可能性だってもちろんある。
けれど花はその可能性にあまり気付いていないようだ。
たぶん玄徳が花嫁を迎えると言うことで、頭の中がいっぱいなんだろう。
「でさ、ボクの代わりにきみが玄徳様と一緒に姫君を迎えに行く?」
「え?」
「ボク、ここを離れられないんだよ。でも、軍師は行ったほうがいいと思う。幸いきみは呉軍の方とは面識もある。何より同じ女性として、きみがいたら姫君も心強いだろう?」
孔明の言葉を聞いて花は唇を噛んだ。
説明はしごくもっともなことで、ここは頷くところだろう。
年若い姫君に対する、気のきいた心遣いだと思う。
でも、二人を見て平静でいられるだろうか?
ここで待つならその間に心の準備は出来るし、おとなしく隅に引っ込んでおけばいい。
見ないようにすることだって可能だ。
けれど、迎えの一員に加わると言うことは公の立場で行くということだ。
そうなれば呉軍の人たちと面識があり、軍師である花は表に立たなくてはならない。
正直、どこまで平静でいられるか自信がない。
「返事は?」
「わかりました」
孔明はふっと軽く苦笑混じりに息を吐く。
「ねっ、花。言いたいことがあるならいいな。ボクは師匠だからって、何でもかんでも意に従えと教えてるつもりはないよ。それぐらいきみもわかってるよね」
花は孔明の瞳を見つめる。
穏やかで静かな瞳なのに、底のない水底を覗いているようにどこか不安な気持ちにさせられる。
沈黙が流れるけれど、孔明は気にならないらしい。
机の上で肘を付いた手を組んで、その上に顎をのせて花の言葉を待っている。
このままじゃずっと沈黙が続くだけだと悟った花は、ぽつりと一言だけ言う。
「ありません」
「残念ながら、きみの師匠は敏いんだよ。そんな嘘、わからないわけないだろ。はい、やり直し」
どうやら簡単に引いてくれる気はないらしい。
花は途方に暮れる。
嘘で孔明を納得させられる自信はないし、本当に人の心情に敏い孔明ならば花の玄徳に対する想いに気付いているだろう。
「敏いと言うなら、わたしが口に出すまでもないんじゃないですか?」
「まあね。ちょっと散歩でもしようか?」
「師匠。それどころじゃないでしょう。それこそ婚儀前だから、仕事山積みです」
花は抗議する。
正直、孔明に洗いざらい気持ちを打ち明けることになるのを避けたい。
たぶん必死でせき止めていた何かが崩壊してあふれ出してしまうから。
「散歩って言った優しい師匠の気遣いを無下にするなら、それでもかまわないよ。ただ、ここだといつ誰が来るかわからないから、色々差障りがあるんじゃない?」
と言うことは、何もかも話せといっているのと同じだ。
花は恨めし気に孔明を見つめた。
「容赦ないですね」
「やだな。弟子には優しいでしょ。おいで」
戸口から手を差し出されて、花はその手をとる。
この手に甘えてしまっていいのか、それともどこまでも頑なな態度を取るべきなのか、今の花にはわからない。
でも、嬉しかったのは事実だ。
二人で手を繋いで歩いても、周りの人はまたかという態度で優しく笑っている。
玄徳軍での孔明と花の立場は、師匠と弟子、保護者と庇護者、その域を逸脱しない。
手を繋いで歩いても、そこには家族的な色合いしかない。
「で、きみの悩みは解決しそう?」
「するわけないです。て言うか、師匠はわかってるんですか?」
歩きながら孔明が人気のない場所に向かっていたのは確実で、二人はいつしか奥まった庭の片隅にいた。
「きみが玄徳様を好きってこと?」
ずばりと切り込まれた言葉に、花は繋いでいた孔明を手を離して立ち止まる。
「知ってたよ。ボクはね」
「そんなにわかりやすかったですか?」
「どうだろう?でも、自分が顔に出やすい性質っていうのはわかってるよね」
花はこくりと頷いた。
「どうしたいの?」
孔明のその問いは残酷だと思った。
「師匠。だってどうしようもないじゃないですか?」
「そう?ボクはそうは思わないけど」
花が縋るように孔明を見る。
「きみにはその想いを成就させる道が示されてる」
孔明の言葉は花に希望を与えた。
ほんとのところ、今の花に示されているのは玄徳への恋心を封印してしまうと言うものだ。
それが簡単で、辛くなればまだ逃げ帰るという道が残されている。
でも、この聡明な師は別の道があると言うのだ。
それは甘い誘惑だった。
「どんな道があるって言うんですか?」
ほんとは聞いてはいけないとわかっていた。
自分の手であまるような考えに縋るべきじゃないと思っていても、玄徳のくれたこの気持ちを消してしまいたくはなかった。
信じやすいのは美徳の場合もあるけれど、軍師だったら疑ってかからないとね。
孔明は素直な花に心の中で嘆息する。
一途な恋心は純粋だけれど、利用するのも簡単だ。
付けいる隙がありすぎだ。
「きみがただ一人の夫人になれるかどうかまではわからないけれど、ボクは玄徳様に自分個人の幸せを諦めて欲しくない」
首を傾げる花に、孔明は禁じられた言葉を口にする。
これを告げれば、花がもう後戻りできなくなるとわかりながら。
「玄徳様は同盟のためにこの婚姻に臨もうとしている。それは上に立つ者として間違いじゃないけれど、玄徳様の気持ちは間違いなくきみにあるよ」
「うそ……」
自分に玄徳の気持ちがあると知れば、花だって気持ちを押さえられなくなるだろう。
花の瞳からきれいな涙が零れ落ちた。
孔明の中に罪悪感はない。
この唯一の少女の心を手にしながら、玄徳が見ないふりをするならば、孔明だってこの想いに忠実に振舞って問題はないだろう。
「でも、無理です。師匠」
「どうして?軍師に無理はないよ。そもそもなんとかするのが軍師だろう?」
「玄徳さんは信念を簡単に曲げるような人じゃありません」
政略結婚でも、妻となったらただその一人を愛したいと自分に誓っているような人だ。
だからこそ惹かれて、好きになった。
「だったら理性を突き崩せばいい」
「師匠……」
驚きに目を見張る花に、孔明は苦笑する。
本当に玄徳と似たもの同士だと思う。
「やれやれ。勘違いしちゃいけないよ。何も犯罪を犯せとか、道義に反する行為をしろって言ってるわけじゃない。自分の心に素直になるのは、別に悪いことじゃない。愛するもの同士、結ばれていけないわけがある?」
確かにこの世界では奥さんは一人じゃない。
たった一人の妻にはなれないかもしれないけれど、それでもいいなら結ばれることは可能かもしれない。
揺れ動く花の心が手に取るようにわかる孔明は、飄々とした表情のままだ。
あとは花に選ばせる。
「でも理性って、どうやって崩すんですか?」
「あはは。そこから言わなくちゃダメなの?困った弟子だねぇ。兵法三十六計の一つ美人計をつかえばいい。簡単に言えば色仕掛けだよ」
「色仕掛け……そんなものが兵法書にあるんですか?」
「ちゃんとね。勉強不足だよ。花」
「う~ん。それってわたしにはすごく難しくないですか?」
孔明はわずかに首を傾げた。
「まあ今のきみには難しいかな。ここの文字の読み書きを取得する以上にね」
「酷いです。でも、それって効果あるんですか?」
「好きなこに言い寄られて、嬉しくない男はいないよ」
ボクも含めてねと孔明は心の中で言葉を続けた。
逡巡する花に、困った子だねといつもの笑みを浮かべ、孔明は仕上げにかかる。
「じゃあ、不肖の弟子のためにボクが一つ手解きをしてあげよう」
花が孔明を見上げると、孔明はそっと花の手を取った。
その手のひらを指が一本一本絡むように、俗に言う恋人繋ぎをされる。
向かい合う形だからちょっと違うけれど、確かにそれは熱を生む繋ぎ方だった。
今までだって師匠である孔明と手を繋いでいても、こんな風に感じたことはない。
「花。目を閉じて。いいって言うまで開けちゃ駄目だよ」
声に導かれるままに目を閉じると、強弱を付けて握り返された指先に何かが触れた。
やわらかく触れては離れるそれが、指先をそっとはさむ。
そして濡れたものがそっと指にねっとりと絡んだ。
ぴくりと一瞬手を引きかけたが、それは甘い熱に変わる。
やがて、唇は手のひらにおち、啄ばむように上に上がって、手首の内側に口付けて離れた。
「はい。おしまい」
まるで普通の講義が終わったように言われ、あっさり手は離された。
目を開けた花の目の前にあるのは、本当にいつもと変わらない師匠の姿だ。
「感想は?嫌だった?気持ちよかった?」
直接的な言葉だったけれど、孔明からあっけらかんと言われればそれほど背徳感もない。
「気持ちよかったです」
嫌悪感なんて欠片も感じなかったし、孔明の唇がこの指先に、手に触れていたんだと思うと孔明の唇につい目がいって、思わず頬に血が上った。
「続き知りたい?」
さすがに花はすぐ返事をするのはためらう。
けれど、孔明は明るく頷いた。
「すぐに決心しろとは言わない。自力で頑張れるならそのほうがいいよ。ただし、来るならば覚悟は決めな。中途半端な気持ちなら止めたほうがいい。意味、わかるよね?」
花は慎重に頷いた。
「言っとくけど、あくまでも手ほどきだから。貞操の危機の心配はいらないよ」
孔明は笑顔で真面目に言うと、じゃあ帰ろうかと花を促した。

策を仕掛けて待つのは嫌いじゃない。
十年待ったんだから、今更一週間や二週間はどおってことはないけれど、やっぱりはやる気持ちはある。
そもそも負けるような策を立てたつもりはない。
今日は来ないか。
月を見上げて考えていると、扉が静かに叩かれた。
いつもの態度を装って自室の扉を開ける。
花は月光を背に、青白い光をまとってひどく所在無げに立っていた。
「おいで」
小さく震える指先に、ボクは熱をともすべく十年焦がれ続けた少女を迎え入れた。

<後書き>
ああ、やっちゃった^^;
玄徳ルート途中の妄想でした。

『月の宴 酒香る』(孔明×花)

2010-06-17 22:27:52 | 孔明×花
<前書き>
人気投票は師匠が一番でしたね。
師匠も好きだからいいんですが、やはり私の一番は孟徳なので力ぬけました^^;
気分を変えて、孔明1位おめでとうSSです。
久しぶりのお酒シリーズです。

『月の宴 酒香る』(孔明×花)

「それでは御前失礼致します。玄徳様もあまりお酒を過ごされすぎませんように」
孔明の言葉に、玄徳は明るく笑った。
「俺よりお前の方が心配だ。今日は珍しくよく飲んでいたな」
「月のせいかもしれません。ご心配なく。自分の酒量くらいわきまえてますよ」
ささやかな月の宴を辞して、庭に降り立った。
今夜は望月夜で、あまりの幻想的な月の明るさに孔明はわずかに眉を寄せた。
こんな夜は好きじゃない。
隠しておいた想いが思わず暴かれそうで、そわそわと落ち着かない気分になる。
昼間なら、いくらでも隠しておけるのに。
足は自然と花の私室のある方に向いていた。
別に何をしようと思っていたわけではなく、ただ少しだけ花を近くで感じたかった。
その月光の庭に、花が立っているのを見て思わずため息が出る。
少し広くあいたそこは、ちょうど庭木もなくて遮ることのない月の光が降り注いでいた。
まだ昼間の衣装のまま、一心に月を見上げる姿は祈りに似ている。
声をかけるのをためらうほど、どこか真摯な姿だった。
もう帰れない故郷を思い出しているんだろうか?
彼女が自分を選んでここに残ったことを知っているから、届かない故郷を思っているならばと弱気になって声もかけられない。
この世界に繋ぎとめてしまった罪悪感。
それでも、どうか彼女に気付いて欲しいと思う自分がいる。
ボクに気付いて。
でも、やっぱり気付かないで。
不意に、花がまるで呼ばれたように振り返った。
「師匠。どうしたんですか?」
こちらを見る彼女の瞳に涙なんてなく、少しあどけない笑顔があるだけで、内心ほっとする。
「それはボクのセリフだよ。年頃の女の子がこんな時刻になにしてるの?」
上手く本心を隠すのは軍師としての必須条件だから、少し怖い顔をして彼女に問いかける。
「え~と、月見かな?」
「かな?ボク注意したよね。いくら城内でも一人で夜歩きはお勧めしないって」
不肖の弟子に怒って見せると、花はごめんなさいとあまり悪びれなく謝る。
「だって、寝ちゃうのがもったいないような月ですよね」
再び、花は大きな月を見上げる。
「えらく気に入ったものだね。月は月じゃないの?」
「ええ。でも月の光ってこんなに明るかったんですね。向こうは電気って言うのがあって、夜でもけっこう明るいから、今まで月がこれだけ明るいって気が付きませんでした」
自分のいた世界を語るのに、懐かしそうな響きはあっても寂しそうな感じはなったから、正直ほっと胸をなでおろす。
「電気か。火は使わないって言ってたよね。確かにあれば便利そうだ」
「まああれば便利でしょうね。あ、わたしに原理とか、理屈とか聞かないで下さいよ。説明できませんから」
花は慌てて予防線をはった。
前に似たようなことがあって、えらく孔明の知識欲をくすぐったらしく、根掘り葉掘り訊かれて大変だったのだ。
もともと頭は理系ではないので、詳しいことを聞かれても答えられない。
他愛無い話をしながら花はまた孔明に視線を戻すと、今度は密かに眉間に皺を寄せた。
「師匠。けっこう飲んでませんか?」
「あれ、わかった?」
「顔色は変わってませんけど、思いっきりお酒臭いです」
「うん。ちょっと玄徳様と観月の宴を楽しんでた」
「珍しいですね。大丈夫ですか?」
大丈夫だけれど、こんな風に心配してくれる花はかわいい。
「まずいかも。少し酔ったかな」
「え!もしかして気分悪いですか?」
花が心配して傍にやってくる。
酔ったふりで、夜空を見上げると何だかほんとに目を回った。
「大丈夫。気分はいいよ。ボクは酔いを醒ましてから戻るから、きみはもう戻ってなさい」
やわらかな草の上に寝転ぶと、う~んと大きな伸びをする。
「じゃあ、師匠の酔いが醒めるまで、お付き合いします」
花は横に座ると、そっと孔明の顔を覗き込んだ。
「どうしてボクの気遣いがわからないかなぁ。夜に出歩くもんじゃないって言ったはずだけど」
「だって、師匠このまま眠っちゃいそうだもの。師匠の面倒を見るのは弟子の義務でしょう。義務を果たさせていただきます」
「だんだん言うようになったね」
「それは師匠に鍛えられてますから。軍師は弁舌爽やかに、相手を煙に撒くのが身上っていってましたよね」
「それだけ聞くと、何だか詐欺師になった気分だよ」
「似たようなものじゃないですか?」
無邪気にしてやったりと笑う花の笑顔は、こっちまで楽しくさせてくれる。
たまには弟子にやり込められるのも悪くないと思うのは、やっぱり酔ってる証拠かもしれない。
自分で自覚しているが、孔明はとんでもない負けず嫌いだ。
だから、こんな言い負かされて気分がいいなんて、普通だったら絶対にあり得ない。
相手が花だから負けるのもいいのかと、思い至ってくすぐったい気持ちになる。
「じゃあ、師匠命令。そこまで言うなら膝枕して」
「いいですよ」
渋るかと思ったけれど、花はあっさり自分の膝の上に孔明の頭をのせた。
眩しいほどの月の光に、幻惑されそうになる。
「この月明かりは軍師泣かせだよ」
「なぜですか?」
「星が見えづらい。小さな星は、月の光に飲み込まれてしまう」
「星が読めないってことですね」
「そうだよ。こんな中で輝いているのはよほど強い天命を持った星だけだ」
花は孔明の言葉に促されるように、輝く天空を見上げた。
瞬きする星の中、孔明は自分の近くにある小さな星をすぐに見つけ出す。
花の星はかすかに青い光を放っていた。
「せっかくだから試験をしようか?」
「試験ですか?」
「そう。自分の星を探してみなよ。できたら明日は、特別にお休みにしよう」
「ほんとですか!」
嬉しそうに花の声が高くなると、真剣に自分の星を探しはじめる。
星を見上げるために上を向いた花の真っ直ぐにのびた喉元から胸への身体の線がきれいで、一瞬目のやり場に困る。
白い月光に照らされた胸元は白く、どこかなまめかしい。
こうまで無防備なのは無邪気なせいなのか、それとも信用されているせいなのか、さすがのボクも悩むよね。
きみだけはいつもボクの予測の上を行って、心を読ませない。
「どう?わかった?」
「わかりません」
「残念だったね。まだまだきみは精進が足りないってことだから、がんばってね」
「はい。で、師匠にはこの月明かりの中で見えてるんですよね?」
「当然でしょ。ボクを誰だと思ってるの?」
「失礼しました。天下の伏龍、諸葛孔明師匠です」
「教えて欲しい?」
「はい。お願いします」
素直に頭を下げる花に、孔明は真面目に頷いた。
「じゃあ、ボクの顔を見て」
「え?」
不思議そうな顔をしながらも、花は言われるままに自分の膝の上の孔明の顔を覗き込んだ。
そのとき、孔明と間近で顔を合わせたと思った瞬間、伸ばされた手でやわらかく頭が抱き寄せられたと思ったら唇が重なっていた。
「し、師匠!」
吐息の分だけのわずかな隙間で、孔明が含み笑いで問う。
「わかった?」
「何がですか?」
「ボクの瞳に映ったのが、きみの星」
きみこそがボクの天命の星。
「感想は?」
「お酒臭かったです」
赤い顔をして的外れな、予想をまたしても裏切る言葉をくれる花に、孔明は屈託なく声を出して笑った。
秋の香りのする望月夜、星がゆるく吹く風に瞬いた。

<後書き>
気付いたら、ずいぶん玄徳軍関係書いてないと気付きました。
だからお祝いを込めて師匠にしました。
え~私だって短編も書けます(笑)
お酒シリーズ、都督と丞相はたぶん別館なんで、玄徳をどうしようと考え中です。

『帰りたい場所』(孔明×花)孔明ED後

2010-05-07 22:00:39 | 孔明×花
『帰りたい場所』(孔明×花)孔明ED後

雨がこんなふうに降るなんて、あんまり意識してなかったと思う。
夜半から降り出した雨はそんなに激しくはないけれど、ずっと同じようなペースで降り続いている。
前の時代ではいつも明かりと何かしらの音が常に傍にあった。
この世界では明かりを付けてもまだ部屋の隅には闇があったし、夜も部屋に引き上げてしまえばあまり音もしない。
聞こえるのは時折点呼をとり、歩き回る衛兵たちの足音や武具の触れ合う音だけだ。
テレビの音も音楽も聞こえてこない。
人恋しくて友達とメールや電話のやり取りをした昔が、妙に思い出される。
雨の音が耳について離れないし、目が冴えて寝付けない。
花は眠ることを諦めると、夜着の上に長い上衣をはおって寝台から降りた。
回廊に面した窓を開けると、思わず出掛かった悲鳴が寸前でため息に変わる。
「師匠!何してるんですか?」
孔明が花の窓の真向かいにある回廊の手すりに腰掛けていたから、いくら孔明が神出鬼没だと言っても驚いてしまう。
「花が起きてるような気がしたから」
薄明かりの中では孔明の細かな表情までは判然としなかったけれど、声は密かな笑いを含んでいた。
「確かに起きてましたけど、もう真夜中ですよ」
「そうだね」
「びっくりしました」
「これでも夜中かだからさ、部屋に入るのは遠慮したんだよ」
「気を使っていただいてありがとうございます」
不意に現れるくせに、妙に律儀な孔明に花は弟子として頭を下げた。
「でも、そこじゃ雨に濡れませんか?」
「大丈夫だよ。風がないからね」
飄々として言っていたけれど、孔明の口から大きなくしゃみが出た。
「もう」
花は口で言うのを諦めて、実力行使に出ることにする。
一端窓辺を離れて扉を開けて回廊に出た。
そんなに寒い季節ではないけれど、やっぱり雨が降っているせいか少し肌寒い。
「師匠。風邪をひきますよ」
手を差し出すとやわらかく握り返された。
「花の手は温かいね。子供は体温が高いって言うけど、そのせい?」
「はいはい。あまり弟子に世話を焼かせないで下さい」
そのまま孔明を自分の部屋に入れると、その肩口や背中が濡れていることに気付く。
「やっぱり濡れてますよ」
行李から大きな布を引っ張り出して手渡そうとすると、孔明の頭が差し出された。
「師匠のお世話は弟子の役目だよ。ボクに風邪ひかれたくないでしょ」
「子供みたいですね」
花は笑って孔明の髪や背中を優しく拭う。
孔明はどこかほろ苦い気持ちで苦笑した。
亮だったころは子供扱いされるのが嫌で、自分の手も足も小さく、背も低くて、他の男たちのように花を守る者ではなく、守られる側にいるのが屈辱だった。
今は剣こそ持たないけれど、彼女より大きな背も、強い力も持つようになった。
武力ではないけれど、彼女を守る力も持っている。
それなのにこうして子供のように世話をやかれるのが、心地よく嬉しいと思う自分がおかしかった。
花に髪を手で梳かれて、思わずいい気持ちになる。
「師匠。眠くなっちゃいました?」
「大丈夫」
「でも、どうしてこんな雨降りの夜に徘徊してたんです?」
「徘徊ってひどいなぁ」
孔明は勝手に椅子の一つに腰掛けると、立ったままの花の顔を覗き込んだ。
部屋の明かりはさっきより少し明るくしてあるけれど、やはりほの明るい程度だ。
「泣いてなかった?」
「え?」
不意に孔明から言われた言葉が、花の胸の中にすとんと落ちてきた。
「なんとなく寂しがってないかなって思っただけ」
軽く言われた言葉だったけれど、何だか次の瞬間ぽろぽろと涙が溢れてきた。
なんでだろう。
どうして師匠にはわかってしまうんだろう?
言われるまで我慢して気付かないフリをしていたけど、ほんとはすごく懐かしかった。
ホームシックよりももっと強い郷愁の想い。
決して手に届かない懐かしい日々。
自分で選んだのだから師匠の前で泣くのは卑怯だとわかっていたけれど、一度こぼれた涙と気持ちは止め処もなく流れ続ける。
「泣いてません。今、師匠が泣かせたんですよ」
「そっか。ごめんね。おいで」
気付いたら花は孔明の膝の上に横抱きに座らされて、そっと頭を撫ぜられた。
「何だか玄徳さんみたいですね」
少し半泣きの声で言うと、孔明はため息をつく。
「君はどうしてこの状況で、よりによって玄徳様の名前をさらっと出しちゃうのかな。今誰に抱っこされてるかわかってる?」
抱っこって言い方が子供にしてるみたいで、花は少しだけ笑う。
「ごめんなさい。つい流れで」
孔明の肩に額をつけたまま涙が止まるのをじっと待っていると、だんだん気持ちが落ち着いて安心感に満たされる。
背中をぽんぽんと優しくリズムを取るように叩かれて、小さな子供のころ親の膝の上であやされたことを思い出した。
「ボク育て方間違ったかな」
わざと孔明は冗談めかして言ってみる。
彼女を帰してあげられなかったのは、たぶん自分の気持ちが強すぎたせいだと孔明は思っていた。
言葉に出さなくても、態度に出さなくても、伝わる、伝わってしまう狂おしいほどの想いが彼女をここに、自分のもとに繋ぎとめた。
彼女は自分の意志だと言うけれど、違うと解る自分がいる。
常に考えているから意識せずとも、策謀を巡らせて、人の心を操る術を持つ。
無意識のうちに君を求める恋情が、それをしたとしても否定はできない。
「師匠こそお父さんみたいですよ」
「それは嫌だ。ちょっとわからせたほうがいいみたいだね。ここにいるのが君を恋い慕う男だって」
笑っているけれど、その声に隠された熱に花は気付く。
肩から額をはなすと、すぐ近くで孔明の揺れるような瞳と出会う。
「触れていい?」
「そんなこと訊かないで下さい。それにもう触れてるじゃないですか」
「そうだね。でも意味は違うってわかってる?」
優しく笑いながら、孔明の唇が二、三度やわらかく花のそれと触れ合った。
「師匠」
「こんなときは孔明。さすがにボクでも師匠は背徳的過ぎる」
「は、背徳的って」
真っ赤になって言葉に詰まる花に、ふふふと孔明は意味有り気に笑顔をみせた。
「花」
「はい?」
「雨音が寂しい夜はこうやって寄り添ってればいいよ。そしたらいつか、雨の音も寂しいじゃなくて優しいに変わると思うから」
「師匠、じゃなくて孔明さんも寂しかったんですか?」
「ん~ボクは苦しかったかな」
孔明は少しだけ本心を吐露して、花を腕の中に抱きしめた。
花は孔明のぬくもりを感じながら、少しだけ眠気が降りてくるのを感じる。
この暖かな腕以上に、花が帰りたい場所はなかった。

<後書き>
え~と、今回は少し艶っぽくを意識してみましたが、やはりエロ担当組とは違いますよね。
ほどよくなってればいい^^;