<日々の徒然>
御無沙汰してました。
ちょっとリアルがごたごたしてまして、家族が入院手術の運びになり色々思うように進んでません。
5月からそんなこんなで、あっちの病院こっちの病院と非常に疲れました。
あーその前に別の家族も結構大きな怪我して、何針か縫ってもうへとへとでした。
うん、このところ病院を何件も巡ってましたね。
サイト更新もままならず、原稿も進まず、本当に泣ける状況でした。
と言うことで、あんまりいいご報告ができない感じであります。
サイトもいまだ移転できてないしね………(><)
取り敢えず皆さんに近況報告でした。
あ、それから本日1本お話UPします。
<前書き>
カテゴリーはいつかどこかの物語。
これは頭の中にある恋戦記のちょっと考えてたお話の一場面だけを書いて行くような感じです。
だから色んな話の書きたい場面だけを切り取ってるイメージでお読みください。
あ、連載中のお話はもちろんこのカテゴリーで書くことはありません。
色々リアルが煮詰まってるので、息抜き的に書きたかっただけです。
今は連載進められる余裕が精神的にもなくって、すいません。
ちなみに今回の話は、孟徳さんの横恋慕で公瑾さんの元から攫っちゃった花ちゃんです。
では続きからどうぞ。
いつかどこかの物語『鳥籠の聖少女』1(公瑾×花←孟徳)
「花様、いかがなさいますか?」
目の前の低い座椅子には座布団のような物が敷かれ、その絹の座面に乗せられているのは花の小さな足だ。
細い足首には、この丞相府と言う建物の主の命により足環が嵌められている。
足環と言っても無骨な物ではない。
一流の職人が幾日も丹精込めた装飾品であり、それは少女の華奢な足首を鮮やかに飾る。
けれど侍女が手に持つのは一本の鮮やかに深緋に染められた紐で、それは細い糸を幾本も縒り合わせて作られたもの。
いつも侍女にお伺いをたてられ、その紐は花に手渡される。
滑らかな手触り、強靭ではあるけれど柔らかさもあって、肌に触れても強く擦らない限り傷付けることはない。
侍女は、花がこれを結ばないと言う選択をすることを待っている。
けれど花はため息を一つ、足環に紐を通して両方をできるだけ余裕のあるように、自らの手で結んだ。
これは花が囚われ人であることを示し、かのひとの思惑に屈することのないことを示す意思表示だ。
頑なな花の様子に、これで主はどう思うだろうと侍女は心中で悩む。
がっかりするのか、それとも面白がるのか。
そうして椅子から降りた花に恭しく差し出されるのは、侍女の傷一つない嫋やかな手。
本当はその手を取りたくはない。
けれど仕方なく、自分の両側から差し出されるその手に自分の左右の手をそれぞれ預けた。
ほっそりした自分の白い手は侍女に引けを取らず、爪の先まで綺麗に磨かれている。
ほんの数か月前は花の手はこんなではなかった。
それこそ傷などはなかったけれど、どんなに気を付けても爪の奥に墨などがほんの少し残っていて黒くぼんやりと汚れていたりしたものだ。
今の花の指は毎日香油で手入れされ、そんな過去の片鱗は見つけ出すことはできない。
かしゃりと手首に嵌められた何連にもなる精緻な細工の腕輪が細い音を鳴らす。
慎重に踏み出す一歩は、どうしても仕方ない。
花が与えられた室の外に出る時は、花の両足首には先程の足環が嵌められているのだ。
右足と左足を繋ぐ組紐はできるだけ長くしようとしてもやっぱり短くて、小さな歩幅でしか歩けず、むろん走ることもできない。
珊瑚で作られた足環は美しい牡丹の彫刻がしてあり、豪華で手の込んだ逸品だ。
ただ金属でもないから別に重いわけではない。
それに珊瑚は意外に脆いらしく頑張れば女の力でも足環を壊すことはできるだろうし、二つを繋ぐ紐でさえも隙を見せれば切れないことはないだろう。
というか組紐自体は、固く結ばれているわけでもなく簡単に解けるように結ばれている。
そもそも花自身が自分で結んで、侍女たちはその結びが強いかどうかなど確かめることもない。
足環もそれを結ぶ紐も実質的には枷ですらなく装飾のようなものだ。
ならば何のためにされているのか。
それはたぶん、やっぱり枷なのだ。
花が己の立場を決して忘れぬようにしているから、禁忌だと戒めている美しい飾りの枷。
そもそも花の居場所はここではない。
でもかの人は、花を身動き一つとれないように縛っている。
花はため息を一つ吐くと、侍女に先導されて広間の両開きの大きな扉の前に立った。
ここは献帝を皇帝に戴く漢帝国の丞相府。
打ち鳴らされる銅鑼と回廊から回廊へ抜ける伝令の凱旋の報。
それらによって、帝国の丞相である曹孟徳が、昨日の夕刻に二月に渡る行軍から凱旋したのを花は知った。
一気に慌ただしくなった城の中、緊張感は否応なく膨れ上がった。
花自身も落ち着かなかった。
凱旋と言うことは、孟徳軍とどこかが戦って、孟徳軍が勝利を収めたことを意味する。
いったいどこと戦ったんだろう。
戦があったと言うことは、またたくさんの血が流れ、多くの命が失われたことを意味する。
それは大規模な目で見れば戦争はあるけれど、自分の身近では人が死ぬほどの戦いなど知らない世界で育った花には胸が痛い事だった。
そうして何より花の胸に蘇るのは、花の大切な愛しいあのひとのこと。
僅か五か月だったけれど、花は彼の隣に正式な婚約者として立つことができた。
一月後には結婚式で、趣味のいい彼と一緒に選んだ花嫁衣装で結婚するはずだった。
もしかの勢力との戦だったのならば、武将であったあのひとはきっと戦場に立っただろう。
けれど花にそれを少しでも知る術はない。
そもそも外の様子を窺うことでしか情報を得られないのは、徹底的な情報規制が行われているからだ。
それはしょうがないだろう。
この広大な宮殿の最も奥まった、最も警備が厳しい場所に私室を与えられてはいるけれど、花は孟徳の愛妾でも妻でもないのだ。
孟徳と同じような豪華な食事を与えられ、これ以上はないような美しい衣装、煌びやかな装飾品も贈られている。
けれどあくまでも花と孟徳の間には、男女の肉体的な触れ合いも、心が通い合うこともない。
空虚な言葉が互いの唇の上にのるだけだ。
虜囚と呼べばいいのか、それともまた別の名前があるのか、花は知ることがない。
ただ孟徳の監視下で厳しく情報を制限され、花は何一つ外のことを知ることができない。
会うのは孟徳と侍女くらいのもので、彼女たちは日常的な会話には少しは応じてくれるけれど、どんなに柔和に微笑みながらも一言も情報と呼ばれるものを漏らすことはない。
以前孟徳の元に捕えられた時に付けられた侍女とは、明らかに違う種類の侍女だと気付いた。
「花様をお連れ致しました」
凛とした侍女の声に両脇にいた兵の二人は槍を立て、別の侍従らしい二人の男たちが扉を押し開く。
中規模の謁見室と思われる広間に、花は居並ぶ重臣と正面に一段高くなった上座の椅子に悠然と座る孟徳の姿を認める。
花は一度臆することなく広間を見渡し、手を携えられて中に入ると、上座から遠い位置で立ち止まって優雅に腰を落して拱手を捧げた。
真ん中を開けて並ぶ重臣たちは着飾った花の姿を値踏みするように見つめる。
この丞相府の中で、最近務めるようになった者を覗いて、下女から高位の臣まで彼女の名を知らぬ者はない。
櫛と簪で結い上げられた濃い茶色の豊かな髪、薄化粧が映えるすべらかな肌、全体的に華奢な少女のような嫋やかな肢体。
彼女を見ることが初めての者も、以前長板橋の戦で孟徳が川から拾い上げて一時孟徳軍に囚われていたことを知る者たちも、思わず瞠目する。
以前の少女は決して華やかな容貌でも、美貌でもなく、あえて言うなら素朴な可憐さだろう。
今もって特別に美しくなったわけではないが、纏う空気は明らかに他の誰もが持ちえない独特のひとを寄せ付けぬ清廉さがあった。
臆することなく上げられた顔の真っ直ぐな視線には、敵意や剥き出しの感情はなく静かなのに、踏み込ませないように透徹したものを湛えて通り過ぎる。
「花ちゃん、よく来たね」
喜色を隠そうともしない孟徳が、甘く少女の名を呼ぶ。
「丞相のお呼びと伺いましたので」
「かたっ苦しいなぁ。君には名前を呼んでって言ったはずだけれど」
少しだけ空気がざわつく。
ここは確かにそれなりに公式の場で、並居る重臣の中で名前を呼ぶことを許すなど滅多なことではない。
「畏れ多い事です」
どこまでも慇懃な花の態度に怒ったふうもなく、孟徳がふふふっと蕩けるような笑顔で笑うと、花の全身に視線を走らす。
「ああ、俺の見たてた薄紅の衣装、思った通り花ちゃんに似合うね。知ってる?それは献上されたばかりで、その薄紅の綺麗な発色は新技術で他の誰も纏ったことがないんだよ。身に付けたのは君が最初だ。ねぇ、その色は君だけのものにしようか?」
冗談めかしてはいるが、孟徳は立て膝の上に肘をついた姿勢で花を見る琥珀の瞳は心の中を見通すかのように強い。
孟徳の発言に対するざわめきは、先程の比ではなかった。
それはそうだろう。
普通はこれを装束の主色として使うことを禁ずるとか、門外不出として秘技とするということは、まさしく禁忌としてその全てが献上されることを意味する。
そんなことができるのは、本来この漢王朝の皇帝くらいのものだ。
けれど現在、孟徳は皇帝でない丞相と言う臣の立場にありながら、それが出来得る権力を持っていた。
それをよりにもよって、この何の変哲もない娘にやると言っているのだ。
こうやって酒の席でもない公の場で、家臣が居並ぶ中で言ってしまえば、それは公的な力を持つ。
限りなく傲岸にその力を見せつけながら、孟徳は花に迫る。
花は意味を理解したうえで、さすがに大きく目を見開き、濃い茶色の睫毛を瞬いた。
「それは私如きに頂けるものではありません。貴き至高の御方にこそ相応しいのではありませんか」
「それはそうだけれど、これは可愛い女の子にこそ似合う色だよね」
「ならば数多おられる夫人たちに贈られてはいかがですか?」
混乱をすぐに治めて、少女はごく平然と言ってのけた。
そこに不遜も、おもねるような色もなく、口調こそ穏やかだったけれど、言葉は強く凛として響く。
孟徳はそんな扉前に遠く立つ少女の反応に、本当に面白いと高揚を感じずにはいられない。
先程の言葉に動じるほどの経験しかない小娘のくせに、丞相である孟徳に返して来る言葉は穏やかながらも歯に衣着せず鋭い。
甘い言葉をかける男に、他の妻のことを持ち出すなど悋気にも聞こえるが、そうでないことは明らかだ。
意趣返しなのだろうし、孟徳を前に怯えなく堂々言い切る姿はやはり愛らしいと思う。
二人のやり取りに、孟徳の甘いながらも確かに本気を含んだ言葉を受け止めて、こほんと僅かに焦ったように孟徳の斜め横から側近である文若の咳払いがかかる。
けれど孟徳は意に介す素振りもない。
「つれないね。俺は、俺が一番似合うと思うその色を他に与えたくはないだけだ。その色だけで君を飾りたい」
それは紛れもなく誰が今孟徳の関心と寵愛を一身に受けているか、その場にいる者たちに嫌でも印象付けた。
再び咳払いの後に、今度は短く声が掛かる。
「丞相」
一方、花は臆面もない孟徳に、微笑み一つ与えずに強く見返す。
言葉よりも雄弁な拒絶だったが、孟徳は甘く零れるようにくすくすと笑った
「これは君の気に入らない?世界でただ一つ、その色が君だけのものになるんだよ」
「丞相!戯言も大概になさいませ!物知らずな者ならば、丞相のお言葉を真に受けぬとも限りません」
それは今の孟徳の発言をなかったものとする文若の痛烈な一言だった。
物知らずと謗りを受けたにも関わらず、花は怒る気持ちはなかった。
生真面目な文若にはこの事態は頭の痛い事だろうし、孟徳の寵や関心などいらない花にはかえってありがたい救いの言葉だ。
「文若、煩いぞ」
「丞相が戯言を止めてくだされば、すぐにでも黙ります」
「お前、凱旋祝に多少羽目を外すのは見て見ぬ振りをすべきだろう。俺には褒賞なんて誰も下賜してくれないんだから」
「物事には限度があります。さっさと本題に戻ってください」
「頭が固いなぁ。まあ、仕方ないか。花ちゃん、こっちに来て」
上座から手招く孟徳に花は小首を傾げると、しゃらりと涼しげな簪の音を聞きながら一応の抵抗を試みる。
「丞相、ここは凱旋の報告の大切な場とお見受けいたします。私などが、居ていい場所でもないのではないですか?」
宴の場ならともかく、軍にも属さない者が、それも女の身でこの場にいること自体異質だ。
できればせめて元の室に返して欲しいと言う訴えは、あっさり孟徳により退けられる。
「ダメ。こっちにおいで」
どうあっても譲らぬ孟徳に、後ろに控えていた侍女は心得たように一人が花へと手を差し出す。
花は小さくため息を吐くと慎重に一歩を踏み出した。
静々と言うよりは、どこか痛々しいような一歩だった。
孟徳はその花の足運びに、僅かに目を眇めた。
花のその慎重な歩き振りだけで、孟徳には花がやはり孟徳の意を汲み、己を受け入れる気がないことを知る。
けれどがっかりしたわけではない。
少女がすぐに、孟徳を受け入れるような女でないことは知っている。
初めて会った時から恐れることも媚びることもなく、ごく当然に対等な者として真っ直ぐに見返された瞳。
あんなに何の思惑も浮かばない瞳に見詰められたことは、もうここ何年もなかったことだ。
そして返された裏のない言葉、屈託ない表情、無防備な笑顔。
幼子のような単純でありながら純粋無垢な心に惹かれたけれど、彼女は決して子供と言うわけではなかった。
華奢な身体だけれど若木のしなやかさと匂い立つ少女らしい淡い色香。
欲しいと思っていたのに、逃げられた先で彼女は変貌した。
次に会った時、少女はいつの間にか恋する女の顔をするようになっていた。
あの純粋な、綺麗な、優しい想いを受ける男が他に存在する。
だが孟徳に諦める選択なく、尚更に欲は煽られ欲しいと、餓えた獣のように少女を渇望した。
欲しくば盗り、奪い、自分のものとするだけだ。
孟徳は甘い笑顔の影でうっそりと獰猛に嗤う。
そうして、今少女は孟徳の籠の中にいて、決して孟徳の為には鳴くものかと綺麗な羽を懸命に震わせている。
孟徳は一挙動で立ち上がると、赤い豪奢な衣を靡かせながら花の前までやって来た。
自然、花と侍女は立ち止まる形になる。
「花ちゃん」
呼ばれて戸惑いなく上げられた顔、やはり花の透徹した視線は孟徳を真っ直ぐに捕える。
「歩きにくいんでしょ。おいで」
そのまま言葉が終わらないうちに、花の身体は孟徳によって抱き上げられた。
膝裏に腕が回り、背中を支えられた体勢、所謂お姫様抱っこをされて花の被っていた仮面が崩れてしまう。
「やだ。孟徳さん」
きゅっと唇を噛みしめる花に、孟徳は柔らかに微笑しながら耳元近く唇を寄せた。
「やっと俺の名を呼んだね」
そのまま危なげなく抱えられ、上座へと連れて行かれる。
ひらひらと揺れる美しい衣の裳裾から、花は足枷が見えてしまうかもしれないことを気にするが、孟徳は気にする様子もない。
上座に着くと、悠然と花を膝の上に横抱きにして座らせた。
苦々しげな文若の顔など、どこ吹く風と取り合う気がないのは誰の目にも明らかだ。
孟徳の臣下の注視の中、孟徳はざわめく空気を目線一つで押さえると短く告げる。
「始めろ」
そうして孟徳の手は、ゆっくりと花の絹の沓を脱がすと小さな足先に触れる。
指先は優しく白い足の甲をなぞり、裾が僅かに捲れ上がると晒される細い足首。
垣間見える深緋の紐と珊瑚の足環は、孟徳の限りない執着の証。
「ねぇ、花ちゃん。早く自分の意志でその紐を解いて、虜囚から俺のものになってよ。皆に君を俺の、曹孟徳の最愛の妻って呼ばせたい」
花は首を振ると一つの名前をうっすらと紅がさされた唇にのせる。
「私を妻とできるのは公瑾さんだけです」
頑なな花の態度に起こる様子もなく、孟徳は少女の簪の揺れる小さな玉を吐息で揺らす。
「その一途な想いもいずれは俺のものだよ」
囁かれる孟徳の自信に満ちた言葉と態度に、花は困った人だと思う。
いつまでも二人の望みは、気持ちは、孟徳の言うように交わることはなく平行線を辿ったままだ。
この自信が丞相曹孟徳と言ってしまえばそれまでだが、花はゆるく首を振った。
「あり得ません」
「君の想いは揺るがない?でもね世の中は、ままならないよ」
「そんなこと……」
ないと言い切れるほどに花は自分が長い人生を歩んでないことを知っている。
それでも少女は明るい色合いの瞳に意思を宿して、誰もが畏怖を抱く曹孟徳に対峙する。
力に屈するかもしれない。
でも心は踏みにじられたくはない。
「きっと君は自分のこの手で、紐を解いて俺の元にくるよ」
孟徳の凱旋の成果を高らかに知らしめるその場で、予言めいた孟徳の言葉の意味を、この場に自分が呼ばれた意味を、花はいまだ知らず。
その瞳はひたすらに孟徳を受け止めながら、真っ直ぐに拒んでいた。
<後書き>
と言うことで、実はこの続きまでが書きたいシーンだったんですが、行かなかったwww
今は半分だけって状況かなぁ。
そして公花ながら孟徳さんが主役?^^;
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
御無沙汰してました。
ちょっとリアルがごたごたしてまして、家族が入院手術の運びになり色々思うように進んでません。
5月からそんなこんなで、あっちの病院こっちの病院と非常に疲れました。
あーその前に別の家族も結構大きな怪我して、何針か縫ってもうへとへとでした。
うん、このところ病院を何件も巡ってましたね。
サイト更新もままならず、原稿も進まず、本当に泣ける状況でした。
と言うことで、あんまりいいご報告ができない感じであります。
サイトもいまだ移転できてないしね………(><)
取り敢えず皆さんに近況報告でした。
あ、それから本日1本お話UPします。
<前書き>
カテゴリーはいつかどこかの物語。
これは頭の中にある恋戦記のちょっと考えてたお話の一場面だけを書いて行くような感じです。
だから色んな話の書きたい場面だけを切り取ってるイメージでお読みください。
あ、連載中のお話はもちろんこのカテゴリーで書くことはありません。
色々リアルが煮詰まってるので、息抜き的に書きたかっただけです。
今は連載進められる余裕が精神的にもなくって、すいません。
ちなみに今回の話は、孟徳さんの横恋慕で公瑾さんの元から攫っちゃった花ちゃんです。
では続きからどうぞ。
いつかどこかの物語『鳥籠の聖少女』1(公瑾×花←孟徳)
「花様、いかがなさいますか?」
目の前の低い座椅子には座布団のような物が敷かれ、その絹の座面に乗せられているのは花の小さな足だ。
細い足首には、この丞相府と言う建物の主の命により足環が嵌められている。
足環と言っても無骨な物ではない。
一流の職人が幾日も丹精込めた装飾品であり、それは少女の華奢な足首を鮮やかに飾る。
けれど侍女が手に持つのは一本の鮮やかに深緋に染められた紐で、それは細い糸を幾本も縒り合わせて作られたもの。
いつも侍女にお伺いをたてられ、その紐は花に手渡される。
滑らかな手触り、強靭ではあるけれど柔らかさもあって、肌に触れても強く擦らない限り傷付けることはない。
侍女は、花がこれを結ばないと言う選択をすることを待っている。
けれど花はため息を一つ、足環に紐を通して両方をできるだけ余裕のあるように、自らの手で結んだ。
これは花が囚われ人であることを示し、かのひとの思惑に屈することのないことを示す意思表示だ。
頑なな花の様子に、これで主はどう思うだろうと侍女は心中で悩む。
がっかりするのか、それとも面白がるのか。
そうして椅子から降りた花に恭しく差し出されるのは、侍女の傷一つない嫋やかな手。
本当はその手を取りたくはない。
けれど仕方なく、自分の両側から差し出されるその手に自分の左右の手をそれぞれ預けた。
ほっそりした自分の白い手は侍女に引けを取らず、爪の先まで綺麗に磨かれている。
ほんの数か月前は花の手はこんなではなかった。
それこそ傷などはなかったけれど、どんなに気を付けても爪の奥に墨などがほんの少し残っていて黒くぼんやりと汚れていたりしたものだ。
今の花の指は毎日香油で手入れされ、そんな過去の片鱗は見つけ出すことはできない。
かしゃりと手首に嵌められた何連にもなる精緻な細工の腕輪が細い音を鳴らす。
慎重に踏み出す一歩は、どうしても仕方ない。
花が与えられた室の外に出る時は、花の両足首には先程の足環が嵌められているのだ。
右足と左足を繋ぐ組紐はできるだけ長くしようとしてもやっぱり短くて、小さな歩幅でしか歩けず、むろん走ることもできない。
珊瑚で作られた足環は美しい牡丹の彫刻がしてあり、豪華で手の込んだ逸品だ。
ただ金属でもないから別に重いわけではない。
それに珊瑚は意外に脆いらしく頑張れば女の力でも足環を壊すことはできるだろうし、二つを繋ぐ紐でさえも隙を見せれば切れないことはないだろう。
というか組紐自体は、固く結ばれているわけでもなく簡単に解けるように結ばれている。
そもそも花自身が自分で結んで、侍女たちはその結びが強いかどうかなど確かめることもない。
足環もそれを結ぶ紐も実質的には枷ですらなく装飾のようなものだ。
ならば何のためにされているのか。
それはたぶん、やっぱり枷なのだ。
花が己の立場を決して忘れぬようにしているから、禁忌だと戒めている美しい飾りの枷。
そもそも花の居場所はここではない。
でもかの人は、花を身動き一つとれないように縛っている。
花はため息を一つ吐くと、侍女に先導されて広間の両開きの大きな扉の前に立った。
ここは献帝を皇帝に戴く漢帝国の丞相府。
打ち鳴らされる銅鑼と回廊から回廊へ抜ける伝令の凱旋の報。
それらによって、帝国の丞相である曹孟徳が、昨日の夕刻に二月に渡る行軍から凱旋したのを花は知った。
一気に慌ただしくなった城の中、緊張感は否応なく膨れ上がった。
花自身も落ち着かなかった。
凱旋と言うことは、孟徳軍とどこかが戦って、孟徳軍が勝利を収めたことを意味する。
いったいどこと戦ったんだろう。
戦があったと言うことは、またたくさんの血が流れ、多くの命が失われたことを意味する。
それは大規模な目で見れば戦争はあるけれど、自分の身近では人が死ぬほどの戦いなど知らない世界で育った花には胸が痛い事だった。
そうして何より花の胸に蘇るのは、花の大切な愛しいあのひとのこと。
僅か五か月だったけれど、花は彼の隣に正式な婚約者として立つことができた。
一月後には結婚式で、趣味のいい彼と一緒に選んだ花嫁衣装で結婚するはずだった。
もしかの勢力との戦だったのならば、武将であったあのひとはきっと戦場に立っただろう。
けれど花にそれを少しでも知る術はない。
そもそも外の様子を窺うことでしか情報を得られないのは、徹底的な情報規制が行われているからだ。
それはしょうがないだろう。
この広大な宮殿の最も奥まった、最も警備が厳しい場所に私室を与えられてはいるけれど、花は孟徳の愛妾でも妻でもないのだ。
孟徳と同じような豪華な食事を与えられ、これ以上はないような美しい衣装、煌びやかな装飾品も贈られている。
けれどあくまでも花と孟徳の間には、男女の肉体的な触れ合いも、心が通い合うこともない。
空虚な言葉が互いの唇の上にのるだけだ。
虜囚と呼べばいいのか、それともまた別の名前があるのか、花は知ることがない。
ただ孟徳の監視下で厳しく情報を制限され、花は何一つ外のことを知ることができない。
会うのは孟徳と侍女くらいのもので、彼女たちは日常的な会話には少しは応じてくれるけれど、どんなに柔和に微笑みながらも一言も情報と呼ばれるものを漏らすことはない。
以前孟徳の元に捕えられた時に付けられた侍女とは、明らかに違う種類の侍女だと気付いた。
「花様をお連れ致しました」
凛とした侍女の声に両脇にいた兵の二人は槍を立て、別の侍従らしい二人の男たちが扉を押し開く。
中規模の謁見室と思われる広間に、花は居並ぶ重臣と正面に一段高くなった上座の椅子に悠然と座る孟徳の姿を認める。
花は一度臆することなく広間を見渡し、手を携えられて中に入ると、上座から遠い位置で立ち止まって優雅に腰を落して拱手を捧げた。
真ん中を開けて並ぶ重臣たちは着飾った花の姿を値踏みするように見つめる。
この丞相府の中で、最近務めるようになった者を覗いて、下女から高位の臣まで彼女の名を知らぬ者はない。
櫛と簪で結い上げられた濃い茶色の豊かな髪、薄化粧が映えるすべらかな肌、全体的に華奢な少女のような嫋やかな肢体。
彼女を見ることが初めての者も、以前長板橋の戦で孟徳が川から拾い上げて一時孟徳軍に囚われていたことを知る者たちも、思わず瞠目する。
以前の少女は決して華やかな容貌でも、美貌でもなく、あえて言うなら素朴な可憐さだろう。
今もって特別に美しくなったわけではないが、纏う空気は明らかに他の誰もが持ちえない独特のひとを寄せ付けぬ清廉さがあった。
臆することなく上げられた顔の真っ直ぐな視線には、敵意や剥き出しの感情はなく静かなのに、踏み込ませないように透徹したものを湛えて通り過ぎる。
「花ちゃん、よく来たね」
喜色を隠そうともしない孟徳が、甘く少女の名を呼ぶ。
「丞相のお呼びと伺いましたので」
「かたっ苦しいなぁ。君には名前を呼んでって言ったはずだけれど」
少しだけ空気がざわつく。
ここは確かにそれなりに公式の場で、並居る重臣の中で名前を呼ぶことを許すなど滅多なことではない。
「畏れ多い事です」
どこまでも慇懃な花の態度に怒ったふうもなく、孟徳がふふふっと蕩けるような笑顔で笑うと、花の全身に視線を走らす。
「ああ、俺の見たてた薄紅の衣装、思った通り花ちゃんに似合うね。知ってる?それは献上されたばかりで、その薄紅の綺麗な発色は新技術で他の誰も纏ったことがないんだよ。身に付けたのは君が最初だ。ねぇ、その色は君だけのものにしようか?」
冗談めかしてはいるが、孟徳は立て膝の上に肘をついた姿勢で花を見る琥珀の瞳は心の中を見通すかのように強い。
孟徳の発言に対するざわめきは、先程の比ではなかった。
それはそうだろう。
普通はこれを装束の主色として使うことを禁ずるとか、門外不出として秘技とするということは、まさしく禁忌としてその全てが献上されることを意味する。
そんなことができるのは、本来この漢王朝の皇帝くらいのものだ。
けれど現在、孟徳は皇帝でない丞相と言う臣の立場にありながら、それが出来得る権力を持っていた。
それをよりにもよって、この何の変哲もない娘にやると言っているのだ。
こうやって酒の席でもない公の場で、家臣が居並ぶ中で言ってしまえば、それは公的な力を持つ。
限りなく傲岸にその力を見せつけながら、孟徳は花に迫る。
花は意味を理解したうえで、さすがに大きく目を見開き、濃い茶色の睫毛を瞬いた。
「それは私如きに頂けるものではありません。貴き至高の御方にこそ相応しいのではありませんか」
「それはそうだけれど、これは可愛い女の子にこそ似合う色だよね」
「ならば数多おられる夫人たちに贈られてはいかがですか?」
混乱をすぐに治めて、少女はごく平然と言ってのけた。
そこに不遜も、おもねるような色もなく、口調こそ穏やかだったけれど、言葉は強く凛として響く。
孟徳はそんな扉前に遠く立つ少女の反応に、本当に面白いと高揚を感じずにはいられない。
先程の言葉に動じるほどの経験しかない小娘のくせに、丞相である孟徳に返して来る言葉は穏やかながらも歯に衣着せず鋭い。
甘い言葉をかける男に、他の妻のことを持ち出すなど悋気にも聞こえるが、そうでないことは明らかだ。
意趣返しなのだろうし、孟徳を前に怯えなく堂々言い切る姿はやはり愛らしいと思う。
二人のやり取りに、孟徳の甘いながらも確かに本気を含んだ言葉を受け止めて、こほんと僅かに焦ったように孟徳の斜め横から側近である文若の咳払いがかかる。
けれど孟徳は意に介す素振りもない。
「つれないね。俺は、俺が一番似合うと思うその色を他に与えたくはないだけだ。その色だけで君を飾りたい」
それは紛れもなく誰が今孟徳の関心と寵愛を一身に受けているか、その場にいる者たちに嫌でも印象付けた。
再び咳払いの後に、今度は短く声が掛かる。
「丞相」
一方、花は臆面もない孟徳に、微笑み一つ与えずに強く見返す。
言葉よりも雄弁な拒絶だったが、孟徳は甘く零れるようにくすくすと笑った
「これは君の気に入らない?世界でただ一つ、その色が君だけのものになるんだよ」
「丞相!戯言も大概になさいませ!物知らずな者ならば、丞相のお言葉を真に受けぬとも限りません」
それは今の孟徳の発言をなかったものとする文若の痛烈な一言だった。
物知らずと謗りを受けたにも関わらず、花は怒る気持ちはなかった。
生真面目な文若にはこの事態は頭の痛い事だろうし、孟徳の寵や関心などいらない花にはかえってありがたい救いの言葉だ。
「文若、煩いぞ」
「丞相が戯言を止めてくだされば、すぐにでも黙ります」
「お前、凱旋祝に多少羽目を外すのは見て見ぬ振りをすべきだろう。俺には褒賞なんて誰も下賜してくれないんだから」
「物事には限度があります。さっさと本題に戻ってください」
「頭が固いなぁ。まあ、仕方ないか。花ちゃん、こっちに来て」
上座から手招く孟徳に花は小首を傾げると、しゃらりと涼しげな簪の音を聞きながら一応の抵抗を試みる。
「丞相、ここは凱旋の報告の大切な場とお見受けいたします。私などが、居ていい場所でもないのではないですか?」
宴の場ならともかく、軍にも属さない者が、それも女の身でこの場にいること自体異質だ。
できればせめて元の室に返して欲しいと言う訴えは、あっさり孟徳により退けられる。
「ダメ。こっちにおいで」
どうあっても譲らぬ孟徳に、後ろに控えていた侍女は心得たように一人が花へと手を差し出す。
花は小さくため息を吐くと慎重に一歩を踏み出した。
静々と言うよりは、どこか痛々しいような一歩だった。
孟徳はその花の足運びに、僅かに目を眇めた。
花のその慎重な歩き振りだけで、孟徳には花がやはり孟徳の意を汲み、己を受け入れる気がないことを知る。
けれどがっかりしたわけではない。
少女がすぐに、孟徳を受け入れるような女でないことは知っている。
初めて会った時から恐れることも媚びることもなく、ごく当然に対等な者として真っ直ぐに見返された瞳。
あんなに何の思惑も浮かばない瞳に見詰められたことは、もうここ何年もなかったことだ。
そして返された裏のない言葉、屈託ない表情、無防備な笑顔。
幼子のような単純でありながら純粋無垢な心に惹かれたけれど、彼女は決して子供と言うわけではなかった。
華奢な身体だけれど若木のしなやかさと匂い立つ少女らしい淡い色香。
欲しいと思っていたのに、逃げられた先で彼女は変貌した。
次に会った時、少女はいつの間にか恋する女の顔をするようになっていた。
あの純粋な、綺麗な、優しい想いを受ける男が他に存在する。
だが孟徳に諦める選択なく、尚更に欲は煽られ欲しいと、餓えた獣のように少女を渇望した。
欲しくば盗り、奪い、自分のものとするだけだ。
孟徳は甘い笑顔の影でうっそりと獰猛に嗤う。
そうして、今少女は孟徳の籠の中にいて、決して孟徳の為には鳴くものかと綺麗な羽を懸命に震わせている。
孟徳は一挙動で立ち上がると、赤い豪奢な衣を靡かせながら花の前までやって来た。
自然、花と侍女は立ち止まる形になる。
「花ちゃん」
呼ばれて戸惑いなく上げられた顔、やはり花の透徹した視線は孟徳を真っ直ぐに捕える。
「歩きにくいんでしょ。おいで」
そのまま言葉が終わらないうちに、花の身体は孟徳によって抱き上げられた。
膝裏に腕が回り、背中を支えられた体勢、所謂お姫様抱っこをされて花の被っていた仮面が崩れてしまう。
「やだ。孟徳さん」
きゅっと唇を噛みしめる花に、孟徳は柔らかに微笑しながら耳元近く唇を寄せた。
「やっと俺の名を呼んだね」
そのまま危なげなく抱えられ、上座へと連れて行かれる。
ひらひらと揺れる美しい衣の裳裾から、花は足枷が見えてしまうかもしれないことを気にするが、孟徳は気にする様子もない。
上座に着くと、悠然と花を膝の上に横抱きにして座らせた。
苦々しげな文若の顔など、どこ吹く風と取り合う気がないのは誰の目にも明らかだ。
孟徳の臣下の注視の中、孟徳はざわめく空気を目線一つで押さえると短く告げる。
「始めろ」
そうして孟徳の手は、ゆっくりと花の絹の沓を脱がすと小さな足先に触れる。
指先は優しく白い足の甲をなぞり、裾が僅かに捲れ上がると晒される細い足首。
垣間見える深緋の紐と珊瑚の足環は、孟徳の限りない執着の証。
「ねぇ、花ちゃん。早く自分の意志でその紐を解いて、虜囚から俺のものになってよ。皆に君を俺の、曹孟徳の最愛の妻って呼ばせたい」
花は首を振ると一つの名前をうっすらと紅がさされた唇にのせる。
「私を妻とできるのは公瑾さんだけです」
頑なな花の態度に起こる様子もなく、孟徳は少女の簪の揺れる小さな玉を吐息で揺らす。
「その一途な想いもいずれは俺のものだよ」
囁かれる孟徳の自信に満ちた言葉と態度に、花は困った人だと思う。
いつまでも二人の望みは、気持ちは、孟徳の言うように交わることはなく平行線を辿ったままだ。
この自信が丞相曹孟徳と言ってしまえばそれまでだが、花はゆるく首を振った。
「あり得ません」
「君の想いは揺るがない?でもね世の中は、ままならないよ」
「そんなこと……」
ないと言い切れるほどに花は自分が長い人生を歩んでないことを知っている。
それでも少女は明るい色合いの瞳に意思を宿して、誰もが畏怖を抱く曹孟徳に対峙する。
力に屈するかもしれない。
でも心は踏みにじられたくはない。
「きっと君は自分のこの手で、紐を解いて俺の元にくるよ」
孟徳の凱旋の成果を高らかに知らしめるその場で、予言めいた孟徳の言葉の意味を、この場に自分が呼ばれた意味を、花はいまだ知らず。
その瞳はひたすらに孟徳を受け止めながら、真っ直ぐに拒んでいた。
<後書き>
と言うことで、実はこの続きまでが書きたいシーンだったんですが、行かなかったwww
今は半分だけって状況かなぁ。
そして公花ながら孟徳さんが主役?^^;
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。