<前書き>
いや、期間空きすぎたよね。
と思いつつ、リアル6月いっぱいまで怒涛のようですよ。
と言うか、来年の4月くらいまで似たり寄ったりな状況だと思います。
でも7、8月は少し息がつけるかな。
せっかく恋戦記PSP出るのに、時間なくて悔しいです。
忙しいと色々考えなきゃいけないことが多くて、なかなか脳内妄想もできないんです。
そうなるといざ時間があって書けますよとなっても、書けないんですよね~~~(悪循環)
え?これ言い訳です。すいません^^;
さて、今回は珍しく1回書いたきり放置されてた△関係物?(自分で疑問系)
今回は文若さん中心ターンとなってます。
あ~こういう設定嫌いな方は、読まない方は心の平穏は保てます。
自己責任でお願いして、お叱りはご勘弁ください。
では続きからどうぞ。
『恋花のあとさき』2(孟徳×花→←文若?)(孟徳妾ED後)
文若の元に、あの花との再会から五日程して、目立たぬように籠に入れられた旬の果物である瑞々しい杏と珍しい茶が一巻の竹簡と共に届けられた。
思わず微苦笑が漏れる。
文若の元で仕事の見習いのようなことをしていた当時、花は気持ちが素直な少女ではあったが、どこかまだ子供っぽいところがあった。
だから竹簡と共に季節の物を一緒に贈ると言うようなそつのない気遣いが自然にできるようになっていたと知って、成長を見るようで嬉しかった。
「あの娘も随分大人になったものだ」
思わず呟きが漏れていた。
花の後に助手としている官吏は、続き部屋の方にいるので声が届くことはない。
しかしと少し複雑に思う。
あの天真爛漫な笑顔が見られなくなったことは、少し残念だった。
大人びたと言えばそうかもしれないが、やはり以前とはどこか違って憂いを帯びた風情は儚くそこはかとない危うさがあった。
文若が知る限り丞相である孟徳が、邸に花を入れても孟徳の行動は相変わらずだった。
いや、確かに落ち着いた面もあった。
前ほど気紛れに侍女や女官に情けをかける事はなくなったが、それでも花の後に孟徳に貢がれ、受け入れた娘はいたはずだ。
もちろん政治的な思惑もあっただろうが、最終的に孟徳であれば断ることもできる。
それをしないのは、やはり気に入ったということなのだろう。
それがあの娘を変化させたんだろうか?
「全くらしくない」
文若は今度こそはっきりした苦笑を浮かべると、考える表情で竹簡を紐解いた。
文字はその人柄を表すと言うが、以前よりははるかに美しい文字が、それでも伸びやかに変な癖もなく書かれている。
女文字として見ても、それなりに格好がついていた。
それは花がすることもない毎日に、手慰みで一生懸命に練習した結果だった。
幸い孟徳の夫人や妾たちは、一芸どころか多芸に優れた者が多く、文字や詩はもちろんのこと絵を描く者、楽や舞をする者、刺繍や機織をする者と皆多才だった。
だから花は無聊を慰めるために、それらの中で興味ある事を片っ端から習った。
元の世界では特別勉強や習い事など好きではなかったけれど、ここの世界に来てみれば勉強一つにしろ与えられるのは特別な者だけだと知った。
多くの者は、その日暮らしていくだけで精一杯なのだ。
だから花は自分にその機会が与えられているならば、精一杯それを生かすべきだと思った。
でもそんなえらそうな理由ばかりが全てじゃない。
ただ漫然と孟徳を待つだけの日々が、時間が、ひどく退屈でもったいなかったのだ。
あの邸での日々は時間の流れがゆっくりで、ともすれば自分だけが、いやあの邸だけが竜宮城のように時間が違っているんじゃないかと思った。
外にいた頃は、世界は目まぐるしく流れていたのに、あの鮮烈な戦いの炎の記憶ですら曖昧で、ときどき全てから置いていかれているような気がしていた。
孟徳の妻妾たちは、誰も外の世界なんて気にかけていなかった。
ただ時折訪れる彼女たちの縁者や邸に出入りの商人達だけが、あそこに新たな外からの風を少しだけ運んできてくれた。
そんな中で、唯一この世界に知り合いもほとんどいない花が出来た事は、ひたすらに色んな知識や技能を身に付けることだったのだ。
だから各段に字も上手くなったし、刺繍なども少しはできるようになっていた。
そんな事情を知らないながらも、文若には弟子と言うにはいささか面映いものがあるが、花は言うなら弟子と呼ぶに一番近い存在だったろう。
久しぶりに花の手蹟を見ながら、文若は朱で添削を始めた。
それでも前のように、字をあからさまに直すような間違いはなくなっている。
これならばと、頭の片隅には花に相応しい新たな手本となる教材に合うような書簡が幾つか自然に浮かんでいた。
ここにいたのは長い間ではなかったが、努力は惜しまぬ少女だった。
あの筆すらまともに持てなかった娘が、ここまで書くようになった努力を思えば、文若とて感心せざるを得ない。
楽な暮らしを知ればその生活に慣れ、何もしなくなる者が多い中、あの邸にはいっても、あの娘の本質は変わらぬのかと嬉しく思う。
そこへ、声がかかった。
「文若、治水の事で相談があるんだがいいか」
開け放したままだった扉から、元譲が書簡を抱えて現れた。
「元譲殿か」
元譲は基本的に武官で、もちろん治水など兵を使って工事をする全般の指揮に関わることもあるが、これは本来丞相である孟徳に上げた案件だ。
それを元譲が持ってくると言うことが、今現在の孟徳と文若二人の距離を物語っている。
「丞相から言い付かってきたのだな」
ため息を吐かれ、それはこちらとばかりに元譲は渋い顔になった。
「もうちょっとどうにかならんのか?」
「どうにもこうにも、逃げておられるのは丞相の方だ。私にどうしろと言いたいのです?」
元譲だって武官ではあるが、孟徳の特別な腹心だ。
二人が何で揉めており、どういう経緯でこうなっているかは知っている。
そうこうなる以前にも話し合いというか、この件に触れたことはあったが二人の考え方は縮まることはなかった。
「爵位と九錫の件は、いまだ考えを変える気はないんだな」
「当然です。受けてしまえば丞相の公明さ、正道が意味をなさなくなる」
丞相はあくまでも漢王朝の臣下であり、献帝の最も高き臣である孟徳の姿こそが文若のあるべき曹孟徳の姿であり形だ。
互いに頭が切れる者同士が、互いの理念を突き詰めた上でとった最終的な結論が違っていれば、正直それを重ね合わせるのは難しい。
近ければ一部だけでも重なり合う場所から妥協点も見つけようがあるだろうが、根本が違っているのだ。
「孟徳の方も妥協はない。これが近道だと思っている」
「近道など求める必要はないのではないですか?」
「理屈ではそうだが、無為に時間を費やすことに意味はないだろう。お前だって、それで犠牲がどこに出るかは知っているはずだ」
世の平定は民のために必要なことだが、大義あってこそそれが許される。
「根本を間違えては、全ては地に堕ちます」
落ちついてはいるが強く紡がれた言葉は、確固たる意志に基づき小揺るぎもしない。
筋金入りの頑固さに、元譲はもうかけるべき言葉をなくす。
いやとうに失くしてはいた。
それでも若き頃からずっと共に覇者と呼ばれる孟徳の傍らにあったのだ。
出来れば共に股肱の臣として、孟徳を傍らで支え続けて欲しいという元譲の想いは切実だ。
文若の才を、王佐と他の臣から呼ばれ、孟徳が自身の子房と呼んだ類稀な能力を、惜しむ気持ちは本心だった。
「なあ、文若。孟徳は今更自分の名が地に堕ち泥を被ることも、血に塗れることも、恐れてはいない。と言うより、そんなことなど頓着しないだろう」
そう奸雄と呼ばれようと、この先帝位を望んだ簒奪者と罵られようと、孟徳は威風堂々と王者の貫録を纏って、真っ直ぐに顔を上げ向かい風の中を立ち続けるだろう。
あの男は自分の名誉や誇りすら、曹孟徳の名のもとにどうなろうともただ眺めるだけの割り切り方をしてしまっている。
それはもういっそ見事なほどで、その切り捨て方に心が少しだけ軋む。
それが分からぬ文若ではないだろうに、互いに相容れぬ己の信義に元譲はため息をついた。
文若は自分と孟徳の関係を気にする勇猛で孟徳への忠誠の篤い元譲に、黙って否を突きつける。
元譲の心遣いは文若とて、もちろんありがたく思わなくもない。
彼にも無関心ではいられないほど、何と名前を付けるのか難しいが、いくらかの情は介在する。
それでも隔たりは大きすぎ、何があっても譲れぬもののためには文若は妥協するつもりはない。
いや頑固だと言われても、必要だとあれば割り切ることもできる男だ。
ただ唯一の譲れない点が、今回の事態を文若と孟徳の間に生じた。
それは深い亀裂となりつつあり、孟徳は既に議論することにさえ倦んでいる。
文若と話し合わぬことこそが、今の孟徳にとっての唯一の妥協点だった。
これ以上溝を深めれば、もっと厄介な沙汰を文若に向けて口にしなければならないかもしれないからだ。
無言を貫くことで返答とした文若に、元譲はまた深く重いため息をつき大きな執務机に書簡を広げた。
こうなれば、後はもう淡々と仕事をこなすだけだ。
けれど不機嫌な元譲のその鼻先に、何か甘い香りがかすめる。
この殺伐とした無味乾燥とした文若の執務室には、花すらあることは珍しい。
もちろんこの室付の女官はいるが、その花瓶の置き場所さえない有様なのだ。
そして不意に香りが引き出した元譲の思い出は、この室に甘い香りが常にしていた時期があったことだ。
浮かぶのは、今はもうここにはいない少女の姿。
花と愛らしくもいささか安易な名を持った娘がいた当時、この室には常に花が飾られ、時折甘い菓子や茶が供された。
巡らした元譲の視線の先、脇机に杏の果実が盛られた小ぶりの籠が見える。
「珍しいな」
元譲の呟きと視線に気付いた文若は、なぜか困惑する。
やましいことなどないから、単に花に久方ぶりに出会い、たまたまこれを贈られる状況になったと口にすればいいだけだ。
けれど一瞬だけ文若は言い淀む。
が、元譲はそんな文若の困惑に気付くことなく、すぐに興味を失って書簡を差し示した。
この時、偶然に花を思い出した元譲はまさか籠の果実がその件の少女から贈られたものと思いもせず、また文若もその名をついに口にする機会を失う。
その名が再び関わることを知らぬままに、赤い果実は仄かに香り、記憶を揺らした。
「花さま。お届けものでございます」
室にいた花に、家令から言い遣ったのだろう花付きでなく邸全般に関わる使用人の女が、美しい藍色の布が掛けられた盆を捧げ持って現れた。
珍しいなと花は思う。
こちらに親族や後ろ盾、友人と呼べる者もいない花には、普段から届け物などされたことはない。
唯一物を贈ってくれるのは、それこそ夫というか主である孟徳だけだ。
時に縁者のない花を第一夫人も気遣ってはくれるが、そう多いものでもない。
そして思いを巡らせても、孟徳に物を強請った記憶もなければ、贈られる謂れもない。
もちろん孟徳が、妻妾たちに気紛れに突然贈り物をすることはある。
それは万遍なく全員に平等に贈られることもあれば、特別と言う風にただ一人にされることもある。
けれど内心はどうであれ、邸の女たちは示された特別には鷹揚に見て見ぬふりをする。
何しろ孟徳は絶対者であり、大きく騒ぎ立てなければあからさまに差別され寵を失うこともなく、一応捨て置かれるようなことにはならないからだ。
最低限の愛情は保障されている現状に、誰も文句は言わない。
そして、今ここに来た贈り物は孟徳からだろうかと花は少し思案顔になる。
「いえ。孟徳さまではございません」
ここは私邸なので、丞相と言う呼称は使われない。
せめてここでは、孟徳に丞相としてではなく、ただの一人の男として寛いでもらいたいと言う配慮からだ。
花の怪訝な表情を読み取った使用人は、孟徳でないと言いながら小さく首を振った。
「家令からは伺っておりません」
でも家令の陳からと言うことは、花が受け取って問題ないと判断されたのだろう。
疑問に思いつつも、頷けば侍女がそれを代わりに受け取った。
長角卓の上に静かに置けば、侍女は花の顔を窺う。
花は小さく笑うと、自分の手でその掛け布をそっと取った。
「あっ」
「まあ」
花と侍女の声が重なった。
布が敷かれた盆の上には、書簡が三巻と美しい料紙が添えられていた。
巻物のように丸められたそれを紐解けば、上質な淡い萌木色の紙に墨痕も見事な文字が並んでいた。
署名を見るまでもなく、その文字が文若のものであることはすぐに分かった。
この時代は木簡や竹簡が多いけれど、紙もあり、文若ほどの身分になれば使えないものでもないだろう。
久方ぶりに見た文若の文字は、その性格を表してきちんとして男性的で生真面目ながら硬すぎず、端正な美しさだ。
花は中身を読み解く前に、その美しさに見惚れた。
そして改めて料紙に目を通せば、それは花の心遣いに対する返礼であり、また花の文字に対する厳しい注意、また勉強に良いと思われる書簡を共に送ったと書かれてあった。
並べられた一巻は、花の送った物で朱書きで細かく添削がされていた。
懐かしいと花の顔が自然と綻ぶ。
添削の文字は料紙に書かれた文字と違い、崩すこともなくきっちりまるで教本のように書かれている。
どこまでも注意しか書かれてなかったけれど、添削された書簡はあっという間に花を昔の記憶に戻した。
他の二巻は、かつて花が学んでいた時より格段と難しくなった詩と兵法の書だ。
この時代、まだ印刷技術などはないから書は一文字一文字書き写すしかない。
だから書は全て貴重なものだ。
恐らく花のために私物を送ってくれたのだろう文若に、花は申し訳なく思う。
使わぬものだから返す必要はないと書かれていたが、花は貰ってしまうつもりはなかった。
高価なものという意識もあるが、文若の人となりを思い出せば彼がいかにこういうものを大事にしていたか知っているからだ。
高価でも、ほどほどの物でも、文若は本当に自分の気に入ったものを、愛着を持ってとても大事に使っていた。
今手元にある書簡も紐などを見れば真新しくはないと分かるけれど、手垢などなく割れることもなく、少しだけ古いいい色合いになっている。
持ち主の愛情を受け、大切に使われていたそれに花は温かい気持ちになった。
そうして、改めて自分のために選ばれた書簡のその選び方に思わず首を傾げた。
女人の教養として詩を扱ったものを選ぶのは理解できるけれど、兵法は今の花には必要ないものだ。
伏龍諸葛孔明の弟子と言う名前を持っていた花は、もうどこにもいない。
それとも文若が見た今の花に、少しでもあの頃の何かを感じてくれたんだろうか?
書簡をそっと大事そうに胸に抱えた花に、侍女が掛け布の残りを捲って声を掛けた。
「花さま、他にもあるようですよ」
「ほんと?」
返礼の書には、それ以上何も書かれていなかった。
だから小さな木の箱を見て、小さく首を傾げる。
その箱の蓋を開ければ深緑の光沢のある布に包まれたそこそこ重さのある物があり、花はそれを掌の上に乗せるとそっと布を開いた。
「えっ?」
「これは……なんて見事なんでしょう」
布の中には、丁度花の拳くらいの大きさの紅水晶の蓮の花があった。
色が淡い紅と言うか、ピンク色なので余計に本物の蓮の花のように見える。
「これ、置物ですか?」
繊細な彫り物の蓮花の花びらに、花はそっと指先を触れさせる。
「置物でもいいでしょうが。大きさから察しますに、文鎮かもしれません」
「文鎮ですか?」
「ええ。竹簡や木簡ならばあまり必要としませんが、紙や布を使う場合は重しがあった方がよろしいでしょう。たぶんそれにぴったりですわ」
花は自分の掌に咲いたような蓮の花を繁々と見つめた。
なんて繊細で綺麗な作りだろうか。
「きれいですね」
ため息混じりに花が漏らせば、侍女もゆっくりと頷いた。
「大変趣味のよい芸術的な一品だと思います。花さまにはぴったりですね」
侍女は嫌味ではないが、どこか諦めたような微苦笑を浮かべて言った。
普段から花は華美に着飾ることも、化粧をして隙なく装うことも好まなかった。
孟徳の妻妾の中では最も年若いにも関わらず、いやだからだろうか、薄化粧にごく大人しやかな衣装、そして派手に他の女たちと交流もせずに静かに過ごしている。
書を読むことや文字の練習を好む花にとっては、普段贈られる高価な装身具や衣装よりはよほど好まれるものだろう。
「贈り主の方は花さまのことをよく御存じなんですね」
その言葉は、花の心に仄かな一条の清浄な光となって差し込んだ。
まだ私を忘れずにいてくれる人がいる。
ここにいると花は時々自分が花と言う名を持つ一人の人間だと忘れそうになる。
邸にいるのは丞相曹孟徳の妾の一人で、個人の名前がないような気がするのだ。
でもここに、あの何も持たないただの女子高生だった、けれど山田花という名をきちんともった少女の自分を憶えてくれている存在がある。
もしかしたら文若にそんな意味はないかもしれないけれど、文若の贈り物や端正な文字は花を懐かしいだけでない、今を思い起こさせる力になった。
そうして薄桃色の蓮花は水晶の薄い花弁に光を纏い、小さな花の掌の上で、まるで匂い立つように咲き誇った。
<後書き>
そんなこんなで文若さんですが、文若さんですよね?(聞かないでいただきたいwww)
久方ぶりにかいたら、こんな設定も楽しかったです。
そしてこの物のやり取りは、別に秘密裡でもありません。
だから花ちゃんも別に今のところ何の後ろめたさもありません。
次回は丞相出したい予定ですが、当分これはお休みのような気がします。
さて花献帝とするか、白梅か、花軍か、たぶん次の更新はこの三つのどれかだと思います。
ただ地下室に広告出てるので、あちらもどうにかせねばと焦ってます(苦笑)
いや、期間空きすぎたよね。
と思いつつ、リアル6月いっぱいまで怒涛のようですよ。
と言うか、来年の4月くらいまで似たり寄ったりな状況だと思います。
でも7、8月は少し息がつけるかな。
せっかく恋戦記PSP出るのに、時間なくて悔しいです。
忙しいと色々考えなきゃいけないことが多くて、なかなか脳内妄想もできないんです。
そうなるといざ時間があって書けますよとなっても、書けないんですよね~~~(悪循環)
え?これ言い訳です。すいません^^;
さて、今回は珍しく1回書いたきり放置されてた△関係物?(自分で疑問系)
今回は文若さん中心ターンとなってます。
あ~こういう設定嫌いな方は、読まない方は心の平穏は保てます。
自己責任でお願いして、お叱りはご勘弁ください。
では続きからどうぞ。
『恋花のあとさき』2(孟徳×花→←文若?)(孟徳妾ED後)
文若の元に、あの花との再会から五日程して、目立たぬように籠に入れられた旬の果物である瑞々しい杏と珍しい茶が一巻の竹簡と共に届けられた。
思わず微苦笑が漏れる。
文若の元で仕事の見習いのようなことをしていた当時、花は気持ちが素直な少女ではあったが、どこかまだ子供っぽいところがあった。
だから竹簡と共に季節の物を一緒に贈ると言うようなそつのない気遣いが自然にできるようになっていたと知って、成長を見るようで嬉しかった。
「あの娘も随分大人になったものだ」
思わず呟きが漏れていた。
花の後に助手としている官吏は、続き部屋の方にいるので声が届くことはない。
しかしと少し複雑に思う。
あの天真爛漫な笑顔が見られなくなったことは、少し残念だった。
大人びたと言えばそうかもしれないが、やはり以前とはどこか違って憂いを帯びた風情は儚くそこはかとない危うさがあった。
文若が知る限り丞相である孟徳が、邸に花を入れても孟徳の行動は相変わらずだった。
いや、確かに落ち着いた面もあった。
前ほど気紛れに侍女や女官に情けをかける事はなくなったが、それでも花の後に孟徳に貢がれ、受け入れた娘はいたはずだ。
もちろん政治的な思惑もあっただろうが、最終的に孟徳であれば断ることもできる。
それをしないのは、やはり気に入ったということなのだろう。
それがあの娘を変化させたんだろうか?
「全くらしくない」
文若は今度こそはっきりした苦笑を浮かべると、考える表情で竹簡を紐解いた。
文字はその人柄を表すと言うが、以前よりははるかに美しい文字が、それでも伸びやかに変な癖もなく書かれている。
女文字として見ても、それなりに格好がついていた。
それは花がすることもない毎日に、手慰みで一生懸命に練習した結果だった。
幸い孟徳の夫人や妾たちは、一芸どころか多芸に優れた者が多く、文字や詩はもちろんのこと絵を描く者、楽や舞をする者、刺繍や機織をする者と皆多才だった。
だから花は無聊を慰めるために、それらの中で興味ある事を片っ端から習った。
元の世界では特別勉強や習い事など好きではなかったけれど、ここの世界に来てみれば勉強一つにしろ与えられるのは特別な者だけだと知った。
多くの者は、その日暮らしていくだけで精一杯なのだ。
だから花は自分にその機会が与えられているならば、精一杯それを生かすべきだと思った。
でもそんなえらそうな理由ばかりが全てじゃない。
ただ漫然と孟徳を待つだけの日々が、時間が、ひどく退屈でもったいなかったのだ。
あの邸での日々は時間の流れがゆっくりで、ともすれば自分だけが、いやあの邸だけが竜宮城のように時間が違っているんじゃないかと思った。
外にいた頃は、世界は目まぐるしく流れていたのに、あの鮮烈な戦いの炎の記憶ですら曖昧で、ときどき全てから置いていかれているような気がしていた。
孟徳の妻妾たちは、誰も外の世界なんて気にかけていなかった。
ただ時折訪れる彼女たちの縁者や邸に出入りの商人達だけが、あそこに新たな外からの風を少しだけ運んできてくれた。
そんな中で、唯一この世界に知り合いもほとんどいない花が出来た事は、ひたすらに色んな知識や技能を身に付けることだったのだ。
だから各段に字も上手くなったし、刺繍なども少しはできるようになっていた。
そんな事情を知らないながらも、文若には弟子と言うにはいささか面映いものがあるが、花は言うなら弟子と呼ぶに一番近い存在だったろう。
久しぶりに花の手蹟を見ながら、文若は朱で添削を始めた。
それでも前のように、字をあからさまに直すような間違いはなくなっている。
これならばと、頭の片隅には花に相応しい新たな手本となる教材に合うような書簡が幾つか自然に浮かんでいた。
ここにいたのは長い間ではなかったが、努力は惜しまぬ少女だった。
あの筆すらまともに持てなかった娘が、ここまで書くようになった努力を思えば、文若とて感心せざるを得ない。
楽な暮らしを知ればその生活に慣れ、何もしなくなる者が多い中、あの邸にはいっても、あの娘の本質は変わらぬのかと嬉しく思う。
そこへ、声がかかった。
「文若、治水の事で相談があるんだがいいか」
開け放したままだった扉から、元譲が書簡を抱えて現れた。
「元譲殿か」
元譲は基本的に武官で、もちろん治水など兵を使って工事をする全般の指揮に関わることもあるが、これは本来丞相である孟徳に上げた案件だ。
それを元譲が持ってくると言うことが、今現在の孟徳と文若二人の距離を物語っている。
「丞相から言い付かってきたのだな」
ため息を吐かれ、それはこちらとばかりに元譲は渋い顔になった。
「もうちょっとどうにかならんのか?」
「どうにもこうにも、逃げておられるのは丞相の方だ。私にどうしろと言いたいのです?」
元譲だって武官ではあるが、孟徳の特別な腹心だ。
二人が何で揉めており、どういう経緯でこうなっているかは知っている。
そうこうなる以前にも話し合いというか、この件に触れたことはあったが二人の考え方は縮まることはなかった。
「爵位と九錫の件は、いまだ考えを変える気はないんだな」
「当然です。受けてしまえば丞相の公明さ、正道が意味をなさなくなる」
丞相はあくまでも漢王朝の臣下であり、献帝の最も高き臣である孟徳の姿こそが文若のあるべき曹孟徳の姿であり形だ。
互いに頭が切れる者同士が、互いの理念を突き詰めた上でとった最終的な結論が違っていれば、正直それを重ね合わせるのは難しい。
近ければ一部だけでも重なり合う場所から妥協点も見つけようがあるだろうが、根本が違っているのだ。
「孟徳の方も妥協はない。これが近道だと思っている」
「近道など求める必要はないのではないですか?」
「理屈ではそうだが、無為に時間を費やすことに意味はないだろう。お前だって、それで犠牲がどこに出るかは知っているはずだ」
世の平定は民のために必要なことだが、大義あってこそそれが許される。
「根本を間違えては、全ては地に堕ちます」
落ちついてはいるが強く紡がれた言葉は、確固たる意志に基づき小揺るぎもしない。
筋金入りの頑固さに、元譲はもうかけるべき言葉をなくす。
いやとうに失くしてはいた。
それでも若き頃からずっと共に覇者と呼ばれる孟徳の傍らにあったのだ。
出来れば共に股肱の臣として、孟徳を傍らで支え続けて欲しいという元譲の想いは切実だ。
文若の才を、王佐と他の臣から呼ばれ、孟徳が自身の子房と呼んだ類稀な能力を、惜しむ気持ちは本心だった。
「なあ、文若。孟徳は今更自分の名が地に堕ち泥を被ることも、血に塗れることも、恐れてはいない。と言うより、そんなことなど頓着しないだろう」
そう奸雄と呼ばれようと、この先帝位を望んだ簒奪者と罵られようと、孟徳は威風堂々と王者の貫録を纏って、真っ直ぐに顔を上げ向かい風の中を立ち続けるだろう。
あの男は自分の名誉や誇りすら、曹孟徳の名のもとにどうなろうともただ眺めるだけの割り切り方をしてしまっている。
それはもういっそ見事なほどで、その切り捨て方に心が少しだけ軋む。
それが分からぬ文若ではないだろうに、互いに相容れぬ己の信義に元譲はため息をついた。
文若は自分と孟徳の関係を気にする勇猛で孟徳への忠誠の篤い元譲に、黙って否を突きつける。
元譲の心遣いは文若とて、もちろんありがたく思わなくもない。
彼にも無関心ではいられないほど、何と名前を付けるのか難しいが、いくらかの情は介在する。
それでも隔たりは大きすぎ、何があっても譲れぬもののためには文若は妥協するつもりはない。
いや頑固だと言われても、必要だとあれば割り切ることもできる男だ。
ただ唯一の譲れない点が、今回の事態を文若と孟徳の間に生じた。
それは深い亀裂となりつつあり、孟徳は既に議論することにさえ倦んでいる。
文若と話し合わぬことこそが、今の孟徳にとっての唯一の妥協点だった。
これ以上溝を深めれば、もっと厄介な沙汰を文若に向けて口にしなければならないかもしれないからだ。
無言を貫くことで返答とした文若に、元譲はまた深く重いため息をつき大きな執務机に書簡を広げた。
こうなれば、後はもう淡々と仕事をこなすだけだ。
けれど不機嫌な元譲のその鼻先に、何か甘い香りがかすめる。
この殺伐とした無味乾燥とした文若の執務室には、花すらあることは珍しい。
もちろんこの室付の女官はいるが、その花瓶の置き場所さえない有様なのだ。
そして不意に香りが引き出した元譲の思い出は、この室に甘い香りが常にしていた時期があったことだ。
浮かぶのは、今はもうここにはいない少女の姿。
花と愛らしくもいささか安易な名を持った娘がいた当時、この室には常に花が飾られ、時折甘い菓子や茶が供された。
巡らした元譲の視線の先、脇机に杏の果実が盛られた小ぶりの籠が見える。
「珍しいな」
元譲の呟きと視線に気付いた文若は、なぜか困惑する。
やましいことなどないから、単に花に久方ぶりに出会い、たまたまこれを贈られる状況になったと口にすればいいだけだ。
けれど一瞬だけ文若は言い淀む。
が、元譲はそんな文若の困惑に気付くことなく、すぐに興味を失って書簡を差し示した。
この時、偶然に花を思い出した元譲はまさか籠の果実がその件の少女から贈られたものと思いもせず、また文若もその名をついに口にする機会を失う。
その名が再び関わることを知らぬままに、赤い果実は仄かに香り、記憶を揺らした。
「花さま。お届けものでございます」
室にいた花に、家令から言い遣ったのだろう花付きでなく邸全般に関わる使用人の女が、美しい藍色の布が掛けられた盆を捧げ持って現れた。
珍しいなと花は思う。
こちらに親族や後ろ盾、友人と呼べる者もいない花には、普段から届け物などされたことはない。
唯一物を贈ってくれるのは、それこそ夫というか主である孟徳だけだ。
時に縁者のない花を第一夫人も気遣ってはくれるが、そう多いものでもない。
そして思いを巡らせても、孟徳に物を強請った記憶もなければ、贈られる謂れもない。
もちろん孟徳が、妻妾たちに気紛れに突然贈り物をすることはある。
それは万遍なく全員に平等に贈られることもあれば、特別と言う風にただ一人にされることもある。
けれど内心はどうであれ、邸の女たちは示された特別には鷹揚に見て見ぬふりをする。
何しろ孟徳は絶対者であり、大きく騒ぎ立てなければあからさまに差別され寵を失うこともなく、一応捨て置かれるようなことにはならないからだ。
最低限の愛情は保障されている現状に、誰も文句は言わない。
そして、今ここに来た贈り物は孟徳からだろうかと花は少し思案顔になる。
「いえ。孟徳さまではございません」
ここは私邸なので、丞相と言う呼称は使われない。
せめてここでは、孟徳に丞相としてではなく、ただの一人の男として寛いでもらいたいと言う配慮からだ。
花の怪訝な表情を読み取った使用人は、孟徳でないと言いながら小さく首を振った。
「家令からは伺っておりません」
でも家令の陳からと言うことは、花が受け取って問題ないと判断されたのだろう。
疑問に思いつつも、頷けば侍女がそれを代わりに受け取った。
長角卓の上に静かに置けば、侍女は花の顔を窺う。
花は小さく笑うと、自分の手でその掛け布をそっと取った。
「あっ」
「まあ」
花と侍女の声が重なった。
布が敷かれた盆の上には、書簡が三巻と美しい料紙が添えられていた。
巻物のように丸められたそれを紐解けば、上質な淡い萌木色の紙に墨痕も見事な文字が並んでいた。
署名を見るまでもなく、その文字が文若のものであることはすぐに分かった。
この時代は木簡や竹簡が多いけれど、紙もあり、文若ほどの身分になれば使えないものでもないだろう。
久方ぶりに見た文若の文字は、その性格を表してきちんとして男性的で生真面目ながら硬すぎず、端正な美しさだ。
花は中身を読み解く前に、その美しさに見惚れた。
そして改めて料紙に目を通せば、それは花の心遣いに対する返礼であり、また花の文字に対する厳しい注意、また勉強に良いと思われる書簡を共に送ったと書かれてあった。
並べられた一巻は、花の送った物で朱書きで細かく添削がされていた。
懐かしいと花の顔が自然と綻ぶ。
添削の文字は料紙に書かれた文字と違い、崩すこともなくきっちりまるで教本のように書かれている。
どこまでも注意しか書かれてなかったけれど、添削された書簡はあっという間に花を昔の記憶に戻した。
他の二巻は、かつて花が学んでいた時より格段と難しくなった詩と兵法の書だ。
この時代、まだ印刷技術などはないから書は一文字一文字書き写すしかない。
だから書は全て貴重なものだ。
恐らく花のために私物を送ってくれたのだろう文若に、花は申し訳なく思う。
使わぬものだから返す必要はないと書かれていたが、花は貰ってしまうつもりはなかった。
高価なものという意識もあるが、文若の人となりを思い出せば彼がいかにこういうものを大事にしていたか知っているからだ。
高価でも、ほどほどの物でも、文若は本当に自分の気に入ったものを、愛着を持ってとても大事に使っていた。
今手元にある書簡も紐などを見れば真新しくはないと分かるけれど、手垢などなく割れることもなく、少しだけ古いいい色合いになっている。
持ち主の愛情を受け、大切に使われていたそれに花は温かい気持ちになった。
そうして、改めて自分のために選ばれた書簡のその選び方に思わず首を傾げた。
女人の教養として詩を扱ったものを選ぶのは理解できるけれど、兵法は今の花には必要ないものだ。
伏龍諸葛孔明の弟子と言う名前を持っていた花は、もうどこにもいない。
それとも文若が見た今の花に、少しでもあの頃の何かを感じてくれたんだろうか?
書簡をそっと大事そうに胸に抱えた花に、侍女が掛け布の残りを捲って声を掛けた。
「花さま、他にもあるようですよ」
「ほんと?」
返礼の書には、それ以上何も書かれていなかった。
だから小さな木の箱を見て、小さく首を傾げる。
その箱の蓋を開ければ深緑の光沢のある布に包まれたそこそこ重さのある物があり、花はそれを掌の上に乗せるとそっと布を開いた。
「えっ?」
「これは……なんて見事なんでしょう」
布の中には、丁度花の拳くらいの大きさの紅水晶の蓮の花があった。
色が淡い紅と言うか、ピンク色なので余計に本物の蓮の花のように見える。
「これ、置物ですか?」
繊細な彫り物の蓮花の花びらに、花はそっと指先を触れさせる。
「置物でもいいでしょうが。大きさから察しますに、文鎮かもしれません」
「文鎮ですか?」
「ええ。竹簡や木簡ならばあまり必要としませんが、紙や布を使う場合は重しがあった方がよろしいでしょう。たぶんそれにぴったりですわ」
花は自分の掌に咲いたような蓮の花を繁々と見つめた。
なんて繊細で綺麗な作りだろうか。
「きれいですね」
ため息混じりに花が漏らせば、侍女もゆっくりと頷いた。
「大変趣味のよい芸術的な一品だと思います。花さまにはぴったりですね」
侍女は嫌味ではないが、どこか諦めたような微苦笑を浮かべて言った。
普段から花は華美に着飾ることも、化粧をして隙なく装うことも好まなかった。
孟徳の妻妾の中では最も年若いにも関わらず、いやだからだろうか、薄化粧にごく大人しやかな衣装、そして派手に他の女たちと交流もせずに静かに過ごしている。
書を読むことや文字の練習を好む花にとっては、普段贈られる高価な装身具や衣装よりはよほど好まれるものだろう。
「贈り主の方は花さまのことをよく御存じなんですね」
その言葉は、花の心に仄かな一条の清浄な光となって差し込んだ。
まだ私を忘れずにいてくれる人がいる。
ここにいると花は時々自分が花と言う名を持つ一人の人間だと忘れそうになる。
邸にいるのは丞相曹孟徳の妾の一人で、個人の名前がないような気がするのだ。
でもここに、あの何も持たないただの女子高生だった、けれど山田花という名をきちんともった少女の自分を憶えてくれている存在がある。
もしかしたら文若にそんな意味はないかもしれないけれど、文若の贈り物や端正な文字は花を懐かしいだけでない、今を思い起こさせる力になった。
そうして薄桃色の蓮花は水晶の薄い花弁に光を纏い、小さな花の掌の上で、まるで匂い立つように咲き誇った。
<後書き>
そんなこんなで文若さんですが、文若さんですよね?(聞かないでいただきたいwww)
久方ぶりにかいたら、こんな設定も楽しかったです。
そしてこの物のやり取りは、別に秘密裡でもありません。
だから花ちゃんも別に今のところ何の後ろめたさもありません。
次回は丞相出したい予定ですが、当分これはお休みのような気がします。
さて花献帝とするか、白梅か、花軍か、たぶん次の更新はこの三つのどれかだと思います。
ただ地下室に広告出てるので、あちらもどうにかせねばと焦ってます(苦笑)