【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
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融資のための決算対策(損失処理を恐れない!)

2019-08-20 09:30:00 | 起業(会社設立など)と経営
決算対策とは、企業の評価が高まるよう、決算書の諸数値を向上させるための「行動」をすること、「経理処理」をすることをいいます。

「行動」とは、できる限り販売する、無駄な経費は抑える、株式や不動産を売却して利益を出すなどをいいます。

「経理処理」は複数の処理方法が認められることがあり、決算対策のためには利益が多くなる方法を選択します。まさに「テクニック」です。

上場企業の場合には決算書の読者は株主、債権者、投資家(今後株主になろうとしている者)と幅広いですが、中小零細企業では融資取引をしている金融機関、これから融資取引を開始しようとしている金融機関に限定されます。

以下では、中小企業の金融機関に限定した決算対策、それも経理処理について説明をいたします。

◆勘定科目は正確に

決算対策をする前提として、勘定科目の処理が正確でなければなりません。勘定科目が間違っていれば、どんなに業績と資産の状態が良好でも、それを決算書から読み取ることができません。

販売費及び一般管理費として表示すべき費用を売上原価(製造原価)に含めてしまうと「売上総利益(率)」が過少に計算されます。固定負債に含めるべきものを流動負債に含めると「流動比率」が低下します。

◆社長の私的費用は混入しない

中小零細企業の社長の「特権」とばかりに、社長の私的費用を会社の支出に混入させてしまうと利益が減ってしまいます。正確な業績の計算は公私の区別なくしては行えません。(なお、このような支出のほとんどは税務調査で否認されます。)

◆税法上の簡便法を適用しない

我が国の中小零細企業は法人税法に定められた簡便法を適用して決算書を作成しています。その典型が、短期の前払費用(毎期継続して生じる1年内の前払費用)、毎期ほぼ定額を購入する消耗品(事務用品、梱包材料など)を支払った時点に費用処理という方法です。中小零細企業の事務処理能力を考慮して前払費用や消耗品の計上を省略することを認めているのです。しかし、これらは正しい決算書を作成するという会計理論上は認められません。

この方法をやめて、前払費用や消耗品を計上すれば利益が増えます(ただし、処理を変更した年度だけです)。ほかにも、このような簡便法は多数あります。「税務署が認めているので」からは卒業しなければなりません。

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★不良資産の損失処理は会計理論に即して行う

回収できない売掛金
売れそうにない在庫
稼働していない設備

いわゆる不良資産の損失処理を、「税務署が認めてくれないから」といって先送りにするのが中小零細企業では当たり前になっています。

金融機関はこれらの不良資産を決算書から除外して考えます。除外すれば、資産が減って利益も減ります。本来は、この除外の計算を金融機関に委ねるのではなく、自ら進んで行い、その説明をすることが求められます。

「税務署が損失処理を認めない。だから、資産としての価値がある。」

こんな理屈は通用しません。税務署が損失処理を認める要件は相当厳格で、それを待って損失処理をしているようではだめなのです。

「不良資産の損失処理をして、なおかつ利益が出る」が理想です。それは無理でも、「赤字は損失処理をした年度限りで、それ以降は黒字化した」とならなければなりません。

★赤字でも法人税を納税しなければならない?(繰延税金資産の計上)

上記のように多額の損失処理をすると、赤字であるのに法人税を納税しなければならないという「怪奇現象」が起こります。税務署が認めない損失は、申告書において利益に加算して所得を計算しなければならないからです。

しかし、損失の多くは将来的には認められますので、このようにして納税した法人税は将来の法人税を減額する、いわば、「前払いした法人税」と考えることができます。会計理論上、この前払部分を「繰延税金資産」として計上します。相手勘定は法人税という費用のマイナスなので損失は減ります。

★税理士の先生が作ってくれた決算書だから

以上のような処理は上場企業では当たり前ですが(世界標準です)、中小零細企業ではほとんど行われていません。しかし、今後は中小零細企業でも、会計理論上正しい決算書を作成することが間違いなく求められてきます。

「税理士の先生が作ってくれた決算書だから」は、税務署には通用しても金融機関には通用しないのです。

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