ラヂオデパートと私

ロックバンド“ラヂオデパート”におけるギタリストとしての津原泰水、その幾何学的な幻視と空耳。

〈Sleepwalk〉を弾こう#1

2007-10-30 15:57:39 | ギター
 ブライアン・セッツァーの音作りや奏法は好みなものだから、つい調子にのって喋りすぎ、書きすぎてしまう。読んでいてくださる方があるもので、コメント欄で参考になると謝辞を賜った。更に調子にのって、インストゥルメンタルの名曲〈Sleepwalk〉の解析と行こうじゃないか。

 オリジナルはSanto&Johnnyの1959年のナンバーワン・ヒット。『ラ・バンバ』等、青春映画の背景によく流れるので、「聴いてみたら知っていた」という人は多かろう。曲想が素晴しいうえ、スチールギターの超高音が耳から離れない効果的なアレンジが施されている。The Shadowsはこれを、バーンズの金属的な音色とヴィブラートシステムを活かして上品にカヴァー。昔の僕はこちらをオリジナルだと思っていた。
 ロッカバラード調のこの曲を、ビッグバンドによるスウィングに仕立てたのはセッツァーのお手柄。超高音はハーモニクス奏法(ピッキング・ハーモニクス)でカヴァーしている。Aメロの進行は、

C Am7 Fm7 G7

 の繰り返し。ここにメロディラインを感じさせるテンションノートを加え、隙間を単音で繋ぐという、わりと初心者にも可能な奏法。単音は省略しても、きっと気持ちは伝わる。

 あ、その前に音作り。ギターは、取っ替え引っ替えして試したところ、やはりグレッチだと弾きやすい。ビグスビィはコードごと揺らせるのみならず、絃が軋むことで疑似サスティンが得られる。この軋みが高音フィードバックを呼んで、異様に格好良かったりする。ニール・ヤングもよく使う技。
 しかし、グレッチが転がっている家庭がそうあるとは思えないし、まあエレキなら何でも宜しい。コードを押さえた左手をなるべく揺らしながら弾けば、アーム無しのギターでも充分に雰囲気は出る。
 先日も書いたように、セッツァーは恐らくエコーマシンをブースターとしても利用している。僕もブースターの有りと無しとで比較してみたが、聴覚的には同程度の歪みでも、アンプ側は控え目にしてブースターで上げたほうがハーモニクスが出やすい。今時ゲインを稼げるエコーマシンは少ない。オーヴァドライヴやイコライザーによる代用で構わないから、ここは一台、挟んでおいていただきたい。

 ギターよりもブースターよりも、重要なのがエコー。アンプのリヴァーブも悪くはないが、「歪んだシャドウズ」みたいになってしまう。12/8拍子の2/8の長さに合わせた山彦が、セッツァー版の肝の一つなのだ。イントロがツツツチャッチャと聞えるが、実はチャは一回しか弾いていない。二発目は山彦だ。
 デジタルディレイの山彦はぱきっとした音質で、小音量でも際立ってしまう。テープエコー(やそのシミュレイター)の山彦は甘いので、原音の方に耳が行く。故に後者が望ましい。が、前者しか持っていない場合でも、2チャンネル同時に使えるアンプがあれば、ディレイ音は別チャンネルに入力して音質を調整すれば、良い感じになるかもしれない。まあ色々と工夫してみてください――自分の耳を信じて。
 アンプは正直、あるていど歪みさえすればなんでもいいと僕は思う。コードが潰れないかぎり相当に歪ませても大丈夫だが、箱物ギターならばフィードバックの関係上、否応なく歪みの限界値は決まる。

 セッツァーのコードアレンジを記していく。イントロでは初心者向けのコードブックに載っているような基本的なバレーコードを弾いているが、Aメロに入ると、G7にb9とb13が付く。
(附記:b13というのは五度の音の半音上――の一オクターヴ上。という訳で当初#5と表記していたが、本邦では通常b13と表記するようなので、そう書き換えておく)

C Am7 Fm7 G7(b9,b13)

 +●+-+-+ +●+-+-+-+ +●+-+○+ +○+-+○+●+
 +●+-+-+ +-+-+-+●+ +●+-+-+ +-+-+-+●+
 +-+●+-+ +●+-+-+-+ +●+-+-+ +-+-+-+●+
 +-+-+●+ +●+-+-+-+ +●+-+-+ +-+-+●+-+
 +-+-+●+ +-+-+●+-+ +-+-+-+ +-+-+-+-+
 +◎+-+-+ +◎+-+-+-+ +-+-+-+ +-+-+-+-+
  8       5         1           3

 ○は後で弾く経過音。ほら、もうメロディになってるでしょう。
 Cの低音側をセッツァーは省略しがちだが、Am7は律儀にじゃらーんと弾いている。
 二回目はG7(b9,b13)での経過音が和音で動く。これが実に格好いい。このコードは後々のことを考えて、中指と薬指のバレーで押さえる。薬指をスライドさせて上昇、戻りは人差指だと思うが、どの指でも構わない。

+-+●+-+○+
+-+●+-+○+
+-+●+-+○+
+●+-+-+-+
+-+-+-+-+
+-+-+-+-+

 三回目はCが洒落た変化を見せる。G7はメロディに合わせ、敢えて六度を弾く。故にG6となる。

C69 Am7 Fm7 G6

 C69の6と9は本当は上下に表記するのだが、気持ちだけ汲んでください。普通はこう押さえる。

+-+●+
+-+●+
+●+-+
+●+-+
+-+◎+
+-+-+
   3

 ジャズの人にCと云うと、いきなりこれを押さえたりする。第一絃と第二絃は小指と薬指、三絃四絃は人差指を寝かせて押さえておくれ。ルートは中指。一絃二絃をスライドさせるとメロディになる。

開+-+-+●+-+○+
開+-+-+●+-+○+
 +-+●+-+-+-+
 +-+●+-+-+-+
 +-+-+◎+-+-+
 +-+-+-+-+-+

 どの順番かは音源を聴いてコピーしたまえ。次のAm7はロウコード。Fm7はこれまでとほぼ同じ(第一絃は省略)。G6は、

+-+-+-+
+-+-+●+
+-+●+-+
+-+-+●+
+-+-+-+
+-+-+-+
 3

 とだけ押さえているようだ。最後に五絃ルートのCを弾けば、〈Sleepwalk〉Aメロの完成。弾けたでしょう?
 本当はもう一回繰り返しがあって、ここに最初の難関がある。CからAm7の繋ぎに、譜面にすると32分音符にするほかない、怒涛のプリングオフが待っている。セッツァーの指癖なので、ひたすら練習して慣れるほかない。まず第一絃を、

開+3+2+1+

 と半音で下降する。ピッキングは頭の一回だけ。次の絃も続けて同じように降りる。ふつう三絃でやめるこの技を、この曲でのセッツァーは五絃まで続けて、そのまま平然とAm7のバッキング風アルペジオを弾いている。
 二巡目以降も各所にセッツァー得意の小技が混じるが、安心してくれ、理論的にややこしい事は殆どやっていない。ちょっとキャリアのあるギタリストなら、数日の練習でなんとかなるだろう。見た目に効果的な技を、コード進行にきっちりと沿って繰り出しているだけなので、理論のジャングルに迷い込む怖れもない。
 ジャジィでありつつも、下手にビ・バップのラインを見せびらかしたりしないところが、セッツァーの音楽が「良い意味で大衆的」で「誰が聴いても格好いい」ポイントなのだろう。凡百の音楽家と違い、彼は常に「素人の耳」で音楽を捉えているという気がする。あ、勿論だが、理論にも技術にもそのための努力にも無縁な輩が、大衆はああだこうだと、敢えて道を選んだようなことを抜かすのとはまった別次元の話なので、そこだけは誤解しないように。セッツァーは練習の鬼だし、スコアを書けるほど教養があり、そのうえ歌まで上手いのだ。顔もいい。
 次回、小技を順に取り上げていきます。それまでにAメロに慣れておいてください。

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1 コメント

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そういえばカールトンもカバーしていましたよ、Sleep Walk。 (nari)
2007-10-30 20:04:43
(これはさらにそれにカバー?)
http://www.youtube.com/watch?v=ftUhXC1aV-U
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