「○×アンプの整流部は?」
「ダイオードです」
という会話を最近交わした。ダイオードというのは整流(電流の方向を定める)素子のことだから、整流部は整流回路ですと答えられたようなものだが、半導体ダイオードをダイオードと略すことが多いので、こういう会話が生じる。
史上初のダイオードは二極真空管で、これを採用した古典的ギターアンプは「音に独特のコンプレッション感がある」として珍重される。厳密な意味での「オールチューブ・アンプ」はこれだ。
真空管はそれぞれに得意な分野がある。大雑把な知識だけれど、本来オールチューブ・アンプといったら、ギターより遠い(すなわち発電所に近い)ほうから、整流管、パワー管、そしてプリ管、三種の真空管が組み込まれているはず。では「オール」を抜いて単に「チューブアンプ」という表記されている商品は? 半導体に置き換えやすい整流管をあえて温存するというのは考えにくい。プリとパワー、あるいはその片方だけが真空管と考えるのが妥当だ。
商品名でいえばVOXのAC30はオールチューブで、一見そのパワーダウン版である現行AC15は、整流部に半導体が使われている。ただしブライアン・メイが全盛期のクイーンで使っていたAC30は、整流部を半導体式に改造してあったという。真空管は振動に弱い、すなわち移動に弱いので、なるべく数を減らしたいのだ。
Fenderの名機と呼ばれるアンプにもオールチューブでない製品は数多い。僕らがビートルズの名演として聴いてきた音の多くが、それから生まれている。ブライアン・セッツァーが長年愛用しているBassmanもオールチューブではない。
整流部が真空管か半導体か、その僅かな違いが重要なのだ、と楽器店は云う。同時に、好みですもと云う。重要なのかどうでもいいのか、はっきりしない。
ある伝説的な職人にそんな話をしたら、「アンプの音なんてのは六割、スピーカーで決まりまっせ」と一刀両断だった。どんな回路が使われていようがスピーカーが再生できなければ、それで終わり。さらに彼は、名器とされている高級スピーカーの弱点を並べたてた。第一線のプロの注文に応じるため、片っ端から計測したらしい。
この職人は云うことがいちいち合理的で面白い。たとえば「高音が出るケーブルとか、ありえへん」と断言する。ケーブルは電気信号を発さないからで、すなわち高音の出るケーブルというのは、低音の出ないケーブルでしかない。逆もそうだと。云われてみればもっともだ。
では「全域にわたってバランスのいい」ケーブルなら安全かというと、これは「全域にわたって出ない(ゲインが低い)」可能性もあるとのこと。なるほど。
具体的な製品名も教えてくれるのだが、宣伝やネガティヴキャンペーンだと思われては困るので書かない。そういう意識でケーブルを差し替えながら試せばわかることだろうし、それでも「高音の/低音の出る」ケーブルのほうが好きだと思うなら、それを使うのが正解なのだ。
スピーカーも然り。僕は、職人曰く「ハイ落ちがひどい」スピーカーの音が、どうやら性に合う。
前に(パワー部が)真空管だろうがトランジスタだろうが僕は区別がつかないと書いたのは、たとえばHOT KUMAの中村啓治氏が、最も後者らしいアンプであるROLANDのJazz Chorusアンプと僅かなエフェクターで、まるでヴィンテージアンプを駆使したライ・クーダーのような音を出してしまうからだ。しかしスピーカーの特性を聴き取るんだったら、「今のはJC(の専用スピーカー)」とくらいはわかるだろう。
長いあいだAC30を弾いてきたわけで、「オールチューブ」独特の感触を否定する気はまったくない。コンプレッション感と人は云うけれど、いざという瞬間、音量ががくっと落ちるその感覚を、僕は「陥没感」と称している。愛すべき欠点として。
最初は気持ちがいいものの、ライヴの間にどんどん音色が変わってしまい、もどかしい面があるのも事実だ。整流管がいかに影響しているかは、そこだけを取り換えながらランニングテストしてみなければわからない。スペックと音に明確な相関関係を見出すのは、かくも難しい。
「ダイオードです」
という会話を最近交わした。ダイオードというのは整流(電流の方向を定める)素子のことだから、整流部は整流回路ですと答えられたようなものだが、半導体ダイオードをダイオードと略すことが多いので、こういう会話が生じる。
史上初のダイオードは二極真空管で、これを採用した古典的ギターアンプは「音に独特のコンプレッション感がある」として珍重される。厳密な意味での「オールチューブ・アンプ」はこれだ。
真空管はそれぞれに得意な分野がある。大雑把な知識だけれど、本来オールチューブ・アンプといったら、ギターより遠い(すなわち発電所に近い)ほうから、整流管、パワー管、そしてプリ管、三種の真空管が組み込まれているはず。では「オール」を抜いて単に「チューブアンプ」という表記されている商品は? 半導体に置き換えやすい整流管をあえて温存するというのは考えにくい。プリとパワー、あるいはその片方だけが真空管と考えるのが妥当だ。
商品名でいえばVOXのAC30はオールチューブで、一見そのパワーダウン版である現行AC15は、整流部に半導体が使われている。ただしブライアン・メイが全盛期のクイーンで使っていたAC30は、整流部を半導体式に改造してあったという。真空管は振動に弱い、すなわち移動に弱いので、なるべく数を減らしたいのだ。
Fenderの名機と呼ばれるアンプにもオールチューブでない製品は数多い。僕らがビートルズの名演として聴いてきた音の多くが、それから生まれている。ブライアン・セッツァーが長年愛用しているBassmanもオールチューブではない。
整流部が真空管か半導体か、その僅かな違いが重要なのだ、と楽器店は云う。同時に、好みですもと云う。重要なのかどうでもいいのか、はっきりしない。
ある伝説的な職人にそんな話をしたら、「アンプの音なんてのは六割、スピーカーで決まりまっせ」と一刀両断だった。どんな回路が使われていようがスピーカーが再生できなければ、それで終わり。さらに彼は、名器とされている高級スピーカーの弱点を並べたてた。第一線のプロの注文に応じるため、片っ端から計測したらしい。
この職人は云うことがいちいち合理的で面白い。たとえば「高音が出るケーブルとか、ありえへん」と断言する。ケーブルは電気信号を発さないからで、すなわち高音の出るケーブルというのは、低音の出ないケーブルでしかない。逆もそうだと。云われてみればもっともだ。
では「全域にわたってバランスのいい」ケーブルなら安全かというと、これは「全域にわたって出ない(ゲインが低い)」可能性もあるとのこと。なるほど。
具体的な製品名も教えてくれるのだが、宣伝やネガティヴキャンペーンだと思われては困るので書かない。そういう意識でケーブルを差し替えながら試せばわかることだろうし、それでも「高音の/低音の出る」ケーブルのほうが好きだと思うなら、それを使うのが正解なのだ。
スピーカーも然り。僕は、職人曰く「ハイ落ちがひどい」スピーカーの音が、どうやら性に合う。
前に(パワー部が)真空管だろうがトランジスタだろうが僕は区別がつかないと書いたのは、たとえばHOT KUMAの中村啓治氏が、最も後者らしいアンプであるROLANDのJazz Chorusアンプと僅かなエフェクターで、まるでヴィンテージアンプを駆使したライ・クーダーのような音を出してしまうからだ。しかしスピーカーの特性を聴き取るんだったら、「今のはJC(の専用スピーカー)」とくらいはわかるだろう。
長いあいだAC30を弾いてきたわけで、「オールチューブ」独特の感触を否定する気はまったくない。コンプレッション感と人は云うけれど、いざという瞬間、音量ががくっと落ちるその感覚を、僕は「陥没感」と称している。愛すべき欠点として。
最初は気持ちがいいものの、ライヴの間にどんどん音色が変わってしまい、もどかしい面があるのも事実だ。整流管がいかに影響しているかは、そこだけを取り換えながらランニングテストしてみなければわからない。スペックと音に明確な相関関係を見出すのは、かくも難しい。
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