宅録ミュージシャン雑記「月の裏表・総集編」~trifling beetleブログ~

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ロマンティックな狂気は存在するか

2013-05-08 11:50:14 | 日記
春日武彦の「ロマンティックな狂気は存在するか」という本を読んだことがある。

古本屋で偶然見つけてタイトルで選んだのだ。
しかし内容は何回で、1/3程読んで投げ出していた。

今年の三月ころに、活字中毒の禁断症状と暇を持て余したのが理由で、ついつい読破。
かなり、面白かった!
現在絶版だそうだ。


春日武彦は、「患者の悪口を書く精神科医」として名高い人物である。
もう、ボロクソなのだ。
この作風を酷いと捉える方が大多数だと思うが、その裏には、とてつもない痛快感が見え隠れしていることも、あながち否定できない。

さて読んで、まず思ったのは、誤解を恐れずに言えば、「文学作品に出てくる狂人などは真っ赤な嘘、精神病患者にファンタジーを持ってもしょうがない、有り得ない」ということか。

氏はかく語っている。「天才と間違うほど豊かな色彩を見せるきちがいなぞ一人としてお目にかかったことがない」と。

もうこの時点で毒舌マックス。
全開バリバリである。

内容的には「二重拘束」の話が良かった。
そして表現的には、患者の意地の悪い描写がかなり素敵だと思った。

この「意地の超悪い視線」というものが、なかなかセンスに長けたウィットに富んでおり、かなり笑える。

一例を挙げよう。

「痩せてぼさぼさの中年男で、一応紺の背広にネクタイはしているが、よれよれで垢染みて汚らしい。少々吃音気味で、全体にどこか身ごなしがぎくしゃくしている。頬骨は高く、カナツボマナコで、無精髭がちらほらしている。目つきがどうも尋常でない。もし喧嘩でもしたら、限度というものをわきまえずに執拗に攻撃を繰り返しそうなところがある。ことさらどこがオカシイと指摘出来るものでもないのだけれど、電車で隣の席に座られたらあんまり嬉しくないな、と思わせるには十分な異様さを漂わせている」。

ボロクソである。
しかし、かなり正直かつ正確にディティールを抑えているようで、人物像を想像してみることは非常にたやすい。

まぁ、人物像の描写が細微に渡ること、非常にリアルで正確なことと、医師としての技量とが、必ずしも正比例するとは思えない。

そこで、この精神科医、実際の腕はどうなのだろうかという素朴な疑問が湧いてきた。
ただの口の悪い皮肉屋のヤブ医者なのか?

あくまで自分的に…ってことなのだが、この人は思いのほか名医なのではないかと、ふと感じた。
もっとも、具体的な根拠には乏しく、なんとなくの範疇である。

そんな偏見に満ち満ちているかもしれない思い込みを持ち、この本を振り返った時に、こう思うのである、

「きちがいと向き合う時には、不必要な善意など不要なのかもしれない」と。

そのほうがまんまと、最適な位置と角度で、しっかりと向き合えるのではなかろうか。


最後に、たとえば春日武彦が名医だとして、さて読者が患者として、この先生の診察を進んで受け入れることができるのだろうか。
勇気を持てるのか。

おそらく十中八九拒否反応を起こすことであろう。
完治した患者がこの本を読んで、再発の憂き目に会うことも考えられる。

そういう意味で諸刃の剣的な臭いをも感じる。


「毒を持って毒を制す」、「よく効く薬は毒でもある」とはよく言ったものである。





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