:::::::辺見庸 「純粋な幸福」より抜粋::::::::::::::::::::::
ねえ、カール、かしこいカール、のこるというのは、いかにも無神経な言い方ではないだろうか。
どこか不用意でもあるよね。のこる!ぜんたいのうちのいちぶがなくならないでいる。へっ!
そんなことを判定できる資格がだれにあるというのかね。そもそも、ぜんたいというやつが
あやしい。ぜんたいって、なんなのかよくわからないのだよ。わかりかねる。ぜんたいは、ぶぶんと
どうちがうのかね、ぶぶんと。
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共感をもって印象に残る一文です。 ( 関連:「迂遠なる時間」のおじちゃん② )
使う時や聞いた時に、危うさとか違和感を禁じ得ない言葉ってありますよね。
私は、「残念な○○」という言い方がその1つです。
「ざんねんないきもの」というコピーが気に障ると言っている人がいて、同感です。
私が「残念な」という形容の仕方が好かない訳は、受け手の自動的な期待に応える行動を
すべきという前提に最初から同意しないからです。今流行の「残念」という形容は、
傍らで見ている人の期待や安心感に沿う行為をしなかった時に、言われることが多いです。
例えば、誰かが歌手やアーティストの物真似をしたとして、それに対してご本人が
非常に不快になって、席を立った時。 「~なリアクション。」 調子を合わせて
手を叩いて爆笑をしてみせるなら傍で見ている人の期待や安心感に沿えたのに。
私は、もしご本人のアーティストが不快になって席を立ったり泣き出したりするなら、
「いいぞいいぞ」と思うかもしれません。予定調和のお座敷芸、型にはまった行動を
見せられるよりも、生身の出来事が見たいからです。
見ている人の一方的な像や期待や安心感に沿う言動をしなかったら「残念」と言われる。
綺麗な女の人に脇毛や腕の毛が生えていた時や手から糠漬けの匂いがした時。
~なイケメン ~なお姉さん ~な母親 ~な障害者
「期待外れ」「面食らった」「動揺した」 "I am shocked" 等と言うなら、事実描写の枠内
なのでいいのですが、「残念な○○」と言うと、厚顔の域を踏んでいます。
自分の抱いている像や型や期待通りにふるまわない人に「残念」と形容できる人は、
教養がなくて傲慢で、言ってみれば一等「残念な」人間だと思います。
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