東葛人的視点

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IT企業の売上計上基準が明確に、次なる課題はユーザーとの契約の明確化

2005-05-27 11:15:47 | ITビジネス
 今日の日本経済新聞1面トップの「情報ソフト関連企業 会計処理にルール」は、オンスケジュールの話。今年3月に日本公認会計士協会が「情報サービス産業における監査上の諸問題について」を発表した際に、企業会計基準委員会に具体的な収益の認識基準、つまり総額・純額表示の区分、収益の認識時点などに関する基準を作るように要請するとしており、このニュースはそれを受けた動きだ。

 ITサービス会社の不透明な売上計上の問題については何度も書いたので、ここではあまり繰り返さない。とにかく「これは総額ではなく、手数料(純額)のみを計上」「売上が立ったのはこの時点」という基準ができるわけだから、不透明な会計処理に強力な抑止力になるだろう。

 ひと昔前までIT業界の営業現場では、ライバル企業の営業同士ですら、お互いの売上成績を膨らませるために実態の伴わない取引を行う「名板貸し」が常態化していたという。こうした取引は、右上がりの時代、売上至上主義の時代ならではのものだ。昨年は、その残滓がメディア・リンクス事件などの形で燃え上がったわけだ。明確な会計処理の基準ができることで、こうした不透明な取引や会計処理は最終的に消滅するだろう。

 むしろ、依然として問題が残りそうなのが、ユーザー企業との取引関係だ。確かに、システム・インテグレーションやソフト開発において、「システム検収後もソフトの手直しを続けている。さて、売上計上はいつの時点か」といった、会計上の「収益の認識時点」の問題については基準が明確になる。しかし、「システムは完成したが、顧客の都合で検収書を出してもらえない」「システムは完成していないが、とりあえず検収しておこう」といった、極めて曖昧な商慣行は、会計処理基準の明確化だけで解決するものではない。

 これはITベンダーとユーザー企業との契約面での問題だ。曖昧な契約を結び、ITベンダーとユーザー企業がもたれあってきたことが原因で、システム・インテグレーションでの大トラブルにつながるケースは多い。ユーザー企業では、ITベンダーとの訴訟沙汰という大トラブルを経験したJTBが、ITベンダーとの契約の精緻化に取り組んでいるという。IT業界、ITサービス業界のとっても、次なる課題は契約・取引条件の明確化だろう。

減損会計の強制適用で見えるITサービス会社のストックビジネスの現状

2005-05-24 17:49:35 | ITビジネス
 ITサービス会社の2005年3月期決算は、ある意味“ツッコミどころ満載”だった。今回もやはり、「予期できなかった不採算プロジェクトの発生」や「依然として続く価格引き下げ圧力」のため、業績を下方修正する企業が続出。いわゆる「口座貸し」問題の余波で、売上計上基準を見直したことで“減収”となった企業も数社。完全子会社化されるNEC系の2社など、上場廃止で“最後の決算発表”になった企業もあった。

 なにかITサービス業界の現状を端的に示しているようだ。これらの話に比べると目立たないが、興味深いトピックがほかにもあった。インテックの決算を見ると、今期の業績見通しで当期純利益8億円の赤字(営業利益、経常利益は黒字)と予測しているのだ。なんだろうと思って短信を読んでみると、減損会計の適用で44億円の特別損失を織り込んでいることが分かった。

 そういえば今期、つまり2006年3月期は、固定資産の目減りを損失として顕在化させる減損会計が強制適用される年だ。会計パッケージ・ベンダーやシステム・インテグレータは、減損会計ソリューションなどをユーザー企業に売り込んでいるようだが、当然のことながら自分たちも減損会計の適用から逃れられない。

 ITサービス会社の多くは、“フロービジネスからストックビジネスへ”をスローガンに事業構造の転換を目指してきた。もちろんストックビジネスだからといって、それが即、固定資産の増加に直結するわけでない。しかし、データセンター事業やアウトソーシング事業などを強化すれば固定資産は増える。その資産が本当に将来に渡り利益を生み出すのか。インテックの減損処理の内容は詳しくは知らないが、減損会計は、ITサービス会社のストックビジネスへの取り組みの功劣をあぶり出すかもしれない。

大手企業のCIOいわく「ITに関してはユーザーはアマチュア」

2005-05-20 15:18:57 | ITビジネス
 大手ユーザー企業のCIOの方の話を聞く機会があった。「情報システムの構築では、プロはITベンダー、ユーザー企業はアマチュアだとお互いに割り切らなければならない」。とても印象に残る言葉だった。IT技術がここまで複雑で拡がりを持つようになった今、中堅・中小企業だけでなく大企業といえども、ユーザー企業がIT技術をハンドリングし続けることは非現実。だから、ITベンダーも「ユーザーの要求が曖昧だったので、要件定義がうまくいかなかった」などとアホなことを言わないで、プロフェッショナルに徹せよというわけだ。

 私は以前から、ユーザー企業自らがシステム開発に携わることが時代にそぐわないと考えていたので、この話は非常に素直に飲み込めた。少し前まで、ユーザー企業にこんな話をすると、「ITベンダーに任せると、とんでもないことになる。情報システム部門が主導しないといけない」と“お叱り”を受けた。でも、これはおかしな話だ。例えば不動産ディベロッパーは、ビル建設を“内製”したりはしない。少なからぬ一級建築士を抱える企業も多いが、ビル建設自体はゼネコンに任せる。他の産業のそういう常識からすると、システム開発=システム部門という図式は、どうもおかしい。

 中堅・中小企業なら、システム開発をすっぱりとITベンダーに任せる企業は多いが、大企業では自社開発にこだわる企業が多かった。しかし、冒頭のCIOの方のように、大企業でもシステム開発はITベンダーの仕事と割り切る企業が増えてきたようだ。ITベンダー、システム・インテグレータはそこのところをしっかりと認識しておかなければならない。相手はアマチュア。曖昧にニーズから、相手が納得できる見積もりを出し、要件を定義し、QCDを満たした成果物を納入しなければいけない。「ユーザーがアホで…」と陰口をたたくようでは、プロとは言えない。

 一方、言うまでもないが、ユーザーの業務に関しては、ITベンダーはアマチュアである。プロに対して「御社の業務改革について…」などと、下手にコンサル営業の真似事などをすると、「差し出がましいことを言うな」と怒られてしまうだろう。実際、そんな目にあったITベンダーの営業の方は多いようである。

“ITゼネコン”という言葉は、とてつもなく失礼だ!

2005-05-17 20:48:35 | ITビジネス
 最近、コンピュータ・メーカーや大手システム・インテグレータを称して“ITゼネコン”というらしい。しかし、これはとてつもなく失礼な言い方だ。もちろん、建設会社に対して、である。

 少し前だが、ある中堅ゼネコンの情報システム担当者と会ったとき、そのゼネコンの社長がシステム・インテグレータに対して激怒したという話を聞いた。その“事件”の発端自体は、システム開発が遅れ納期に間に合わなくなったという、ITサービス業界にはお馴染みのものだ。しかし、その話を聞いた社長は、担当のシステム・インテグレータを許せなかったという。納期に遅れそうでも、どんなことしてでも間に合わせるのが仕事。その社長の常識からいうと、システムの納期遅れなど信じられない事態だったらしい。

 「ゼネコンのプロジェクト管理能力はすごい。我々はその足元にも及ばない」。大手システム・インテグレータからも、そうした声が漏れてくる。実際、建設業界は法令で厳しい基準が定められていることもあり、プロジェクト管理には恐ろしくシビアだ。システム障害は許してもらえるが、建てたビルが崩れたら建設会社は終わり、それは完成物のシビア度の違いの反映でもある。

よくシステム・インテグレータは「ソフト開発は目に見えないから難しい」と言い訳するが、これはやめた方がよい。建設会社が「高層ビルは高さがあるので難しい」と言い訳するだろうか。失敗の理由を自らの商品の属性に求めるようでは、プロ失格である。

 もちろん、ITゼネコンという言葉は、ITサービス業界の多層下請け構造や、公共分野という名の“公共事業”への依存の深まりという事象を端的に示すための表現である。ただ、ゼネコンの関係者がITサービス業界の実態を知ったら、ITゼネコンという言葉に怒り出すかもしれない。ITサービス業界は建設業界に比べ、プロジェクト管理をはじめ様々な点で遅れている。ITゼネコンと言うのは10年早い-----そんな声が聞こえてきそうだ。

昔、ITが家電を制覇するという幻想があった…そういえば最近似たような話が

2005-05-16 20:20:28 | ITビジネス
 マイクロソフトがデジタル家電分野で、東芝など日本の家電メーカーと特許を相互利用するクロスライセンスの交渉を進めている-----この週末、様々なメディアを賑わしたニュースだが、私はふと昔の騒動を思い出した。

確か1993~94年ころの話だったと思う。マイクロソフトなどITベンダーが、家電分野を新たな市場と狙い定めて動き出したときだ。家電とコンピュータの融合が進み、というか家電技術がIT技術にリプレースされて、日本の家電メーカーは覇権を失い、マイクロソフトやIBMなどITベンダーがデジタル家電の覇者になる。そんな予測が流れ、こりゃ大変だと結構な騒ぎになった。

 しかし、この予測は見事に外れ。個々の家電メーカーの浮沈はあったが、10年以上経った今でも家電の覇者はやはり家電メーカーだ。家電製品はIT技術を取り込み、デジタル家電となったが、今でも家電製品だ。ゲーム機もやはりゲーム機。マイクロソフトが日本ではダメだが米国でゲーム機で成功したのは、ITベンダーだからでもWindowsが素晴らしいからでもなく、ゲーム機のビジネスモデルを確立したからだ。

 最近、これと似たような話がほかの分野でも出ている。何かというとIP電話。当初ITベンダーは、電話がIP化することで音声通話がコンピュータのアプリケーションとなるから、そこに自分たちの新しい市場が生まれると見た。いち早く製品を提供したシスコの動きも、そうした見方を後押しした。しかし、そうした認識は少し甘かったようだ。実は、私もそうした認識を持っていたので、自分の読みの甘さを痛感している。

 現状は「電話が電話として売れている」という。通話がコンピュータのアプリケーションになるのではなく、家電と同様、電話がIT技術を取り込んだのだ。一部のITベンダーを除けば、IP電話ビジネスの主役は今もPBXメーカーや、PBXを取り扱っていた業者だ。これらの企業は、コンピュータ・メーカーであったり、システム・インテグレータでもあったりするのでややこしいが、ビジネスの主体はPBXの販売を担ってきた部隊や人であることがほとんどだ。

 私は、この話をなにもネガティブに書いているわけではない。どんな産業でも、その産業を担ってきた企業や人は“すごい”という当たり前のことを再確認しているだけだ。IT技術だけで他の産業に切り込み、市場を塗り替えられると思うのは夢想にすぎない。なぜなら、どんな産業でも技術を売っているわけでなく、ソリューションを売っているわけだから。

 IP電話に関しては、いまIT業界では「結局参入しても商売にならない」という失望感が広がっているという。しかし、それはどうか。確かにIP電話の提案は、ITソリューションではなく、オフィス・ソリューションの切り口が必要で、多くITベンダーにはそのノウハウがない。しかし“謙虚”になって、通信系のベンダーなどと協業を模索すれば、それこそIT・通信融合ソリューションの可能性が見えてくるような気がする。そういえばマイクロソフトも、家電分野のビジネスに関しては随分謙虚になった。

“オフコン商売”が新しい? 日米でのワンパッケージ・ビジネス

2005-05-11 17:48:39 | ITビジネス
 昨日、キヤノン販売とオラクルが、中堅・中小企業向けのERPパッケージを発表した。オラクルのEBSをベースに独自の味付けをした商材を、キヤノンブランドの製品として販売しようというものだ。OSとしてMIRACLE LINUXをバンドリングしており、ハードやサポートなども込み込みで販売するという。

 筋のよいソリューションだと思う。なにも、キヤノンの調達先企業という“基礎票”が期待できるという理由だけではない。中堅・中小企業マーケットをERPベンダーは新規市場として位置づけるが、なんのことはない旧オフコン市場である。つまり、かつてのオフコン市場に対してERPをオフコン的に売るということだ。それなら売りやすく、買いやすい。自社ブランドであることと相まって、これならキヤノン販売の営業部隊も動くだろう。

 ところで昨日は、SRAがオープンソース事業の拠点を日本から米国に移すという発表を行っている。一見、キヤノン販売・オラクルの発表と全く異なる内容だが、結構深いところで文脈がつながっている。SRAはPostgreSQLの販売・サポートなど既存のビジネスだけでなく、いわゆる“スタック”の提供にビジネスの可能性を感じているようだ。

 スタックというのは、OSをはじめDBMS、アプリケーション・サーバーなど様々なレイヤーのオープンソース・ソフトを、アプリケーション・ソフトも含めてワンパッケージ化したもので、いわばアプライアンス製品だ。行政や教育など特定業種のバーティカル・マーケット向けにカスタマイズして提供するのだが、米国ではそれなりのニーズがあるという。当然、ハードも合わせて提供することになる。

 これを、オフコン商売のモデルとまでは言わないが、日米でユーザーのニーズに同じ基調が感じられる。スタック、ワンパッケージ、アプライアンス、まあなんと言ってもいいだろう。なんだったら日本のオフコン時代の用語を使い、ターンキーと呼んでもいいだろう。そんな手軽さへの志向、そこにビジネスチャンスを見出したIT企業の動きがこれらの発表なのかもしれない。

NTTデータが同業他社に対するM&Aを宣言、業界再編の号砲か

2005-05-09 18:08:10 | ITビジネス
 NTTデータが同業のシステム・インテグレータの買収に乗り出すそうだ。NTTデータといえば、これまで日本たばこや三洋電機などユーザー企業の情報システム子会社を買収してきたが、2005年度からは独自の顧客基盤を持つシステム・インテグレータにまでM&Aの対象を広げるという。ターゲットは製造・流通業を得意とする年商数百億円規模のシステム・インテグレータというから、その買収先のイメージはかなり具体的だ。

 業界最大手のNTTデータがこうした同業他社のM&Aを成功させれば、それこそITサービス業界再編の号砲となるだろう。NTTデータの場合、金城湯池だった政府系システムの構築・運用ビジネスの先細り懸念という特殊事情がある。官公庁のレガシーシステムの見直しが進んでおり、今後、競争激化や料金低下が予想される。このため、同社は新たな成長領域として法人分野、特に製造・流通分野を挙げており、手っ取り早い拡大策としてM&Aを強化しようとしているわけだ。

 そうは言っても、最大手がプライムを取れるようなライバル企業を買うと宣言する意味は大きい。グローバル化する大手ユーザー企業のニーズに対応するためにも、需給バランスを改善しユーザー企業との力関係を変えるためにも、業界再編は不可避というのは業界の共通認識だからだ。やはり今年は業界再編の元年になりそうである。

 ところでグループ内再編、つまりNTTデータとNTTコムウェアの合併は当面、なさそうな情勢だ。こちらは“NTTの論理”が最優先される見通し。

個人情報保護が理由とはいえ、IT会社までノートパソコンの携帯を禁止してどうする!

2005-05-02 13:21:50 | ITビジネス
 この前、あるITサービス会社の営業の方と酒を飲む機会があったが、その方は終始、自分の鞄を膝の上で抱えたまま酒を飲んでいた。理由は簡単。その鞄の中にはノートパソコンが入っていたからだ。そのパソコンにどんな情報が入っているかは聞かなかったが、ご時世柄、容易に想像はつく。とても酔える雰囲気ではない。ひょっとしたら、ノートパソコンを持ったまま酒の席に行くのは禁止といった社内規則があるのかもしれない。しかし営業なら、そんなことを言ってはいられない場合もあるだろう。

 個人情報保護法の完全施行に伴い、ITベンダー、ユーザー企業を問わず、こうしたパソコン紛失恐怖症とでもいうべき“症状”が蔓延している。無理もない。ある弁護士によると「5000人の個人情報の入ったパソコンを持ち歩くのは、5000万円の現金を持ち歩くのと同じ」だそうだ。宇治市の個人情報漏洩での慰謝料が1人1万円だったことからのレトリックだが、個人情報漏洩で被る経済的・社会的リスクへの不安をうまく表現している。そこで、ノートパソコンの携帯を禁止する企業も増えているという。ITサービス会社の営業ですら、ノートパソコンの持ち歩かない人を結構見かけるようになった。

 しかしITサービス会社の場合、これでは格好がつかない。これまで、「ノートパソコンを社員に持たせることで、情報を戦略的に活用できるようにしましょう」「SFAの導入で営業の生産性向上を図りましょう」などと提案してきたのである。そして自らも、そうした戦略活用を実践してきたはずである。ところが、個人情報漏洩怖さに、というか、漏洩事件を引き起こした企業として報道されるのが怖くて、便利なITツールを取り上げるようでは、「今までの提案はなんだったの」と言われかねない。

 こんなシニカルな物言いをせずに言えば、個人情報保護法がホワイトカラーの生産性向上や“増力化”への取り組みにとって、大変な“逆風”となっているのは確かだ。個人情報が保護されなければいけないのはもちろんだが、モバイル・ワーカーなどが非IT化を迫られるようだったら、それこそ本末転倒だと思う。

 いまコンピュータ・メーカー各社は、個人情報などをローカル・ディスクに残さないセキュア・パソコンなどの製品化しており、ユーザー企業化からの引き合いも強いという。ITサービス会社もそろそろ、個人情報保護ならぬ個人情報“活用”ソリューションを提案してほしい。そうしないと、ユーザー企業のトップが恐ろしいことを言い出すかもしれない。「なんだ、パソコンを1人1台持たさなくても、業務になんら支障はでないな」。実際、「パソコンなど2人に1台で十分」と言い出した経営者に、私は会ったことがある。