東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

ITサービス業界とデジタル家電業界、決算での思わぬ一致点

2005-04-28 23:18:39 | ITビジネス
 2005年3月期決算で、日立ソフトウェアエンジニアリングの連結最終損益が113億円の赤字になった。二度も業績予想を修正した末の大赤字だが、不採算プロジェクトによる来期に見込まれる損失に対する引当金などを計上した結果だという。

日立ソフトと言えば、業績不振から住商エレクトロニクスとの合併の道を選んだ住商情報システムと共に、数年前までITサービス業界の勝ち馬と言われた企業。今でも勝ち続けるITサービス会社がある中で、どうして日立ソフト、そして住商情報がこんな状況に追い込まれたのだろうと考えていたら、デジタル家電業界でも似たような話があった。

今日の日本経済新聞の「デジタル家電『消耗戦』響く」という記事中に、不振の三洋電機やパイオニアは「昨日の勝ち組」だったという記述があって、思わず引き込まれて呼んでしまった。少し長いが、私が特に面白いと思った部分を引用する。

「決算会見で不振の家電各社は一様に厳しい価格下落を指摘した。(中略)ただ、価格下落は各社共通の課題。三洋やソニー、パイオニアなど業績不振組はそれまでの好決算に油断し、経営構造や事業戦略の抜本的な改革を怠ったのが響いた」

 どこかで聞いたような話だ。家電をITサービスに置き換え、三洋、ソニー、パイオニアを日立ソフトや住商情報に置き換えると、そのままITサービス会社の決算記事として通用する。やはり、企業が負ける理由はどんな業界でも同じということだ。つまり、思わぬ苦戦に直面したとき、それを外部環境や顧客のせいにする企業は必ず負けるというわけだ。

インテルも顧客志向に、IT産業の成熟化に危惧すること

2005-04-25 19:39:09 | ITビジネス
 最近、米インテルが顧客志向に急旋回しているそうだ。この前に書いたIBMネタと同じ4月19日付の日本経済新聞に「インテル、市場ニーズに軸足」と題して、そうしたインテルの動きがコンパクトにまとめられていた。バレットCEOの「利用者は製品の速度よりも、個々が抱える問題を解決できるのかを気にするようになった」とのコメントを引用し、6月に新CEOに就任する“文系”のオッティーニ氏の下、顧客志向をさらに強めるだろう、と結ぶ内容である。

 この場合の顧客というのが、パソコンメーカーのことなのか、エンドユーザーのことなのか判然としないが、おそらく両方を指すのだろう。プロダクトアウトから顧客志向へ、というのは方向として正しい。IT業界全体が顧客志向へと舵を切っていく中、インテルといえどもIT技術のリーダーとして業界やユーザーを引っぱっていくのは難しくなったということだろう。

 もう一度書く。方向としては正しい…しかし、つまらない。1つの産業が成熟し、高い成長を望めなくなると、その業界の企業は必ず顧客志向に舵を切る。ハイテク産業が成長セクターのうちは、顧客志向などは口だけである。様々な企業が先端技術を使った製品、サービスを生み出し、顧客に新しい可能性を提示し、100%プロダクトアウトで顧客や経済、そして社会を引っぱっていく。それゆえに顧客がひどい目に会うことも多いが、エキサイティングでワクワクするようなビジネスが展開される。

 従来のIT産業は間違いなく、そんな成長産業だった。それが今や、最強の“部品メーカー”のインテルまでが顧客志向に本気で取り組む。IT産業が成熟化したことを、まさに象徴するような話だ。何度も言うが「ネジ、クギ1本までお客様の声を反映して」というのは間違ってはいない。「つまらないとは、なんと不謹慎な」とお叱りを受けるかもしれない。

 しかし皆さん、思い出していただきたい。IT関連のビジネスに携わる人は、技術者であろうと、営業であろうと、マーケッターであろうと、多かれ少なかれハイテク産業の一翼を担い、企業や経済・社会の先端を走っているという自負が強いモチベーションになっていたはずだ。それはユーザー企業の情報システム部門の人たちは同じである。社内では間接部門として低い地位に押し込められていても、先端のITを使った業務改革の推進者としてのモチベーションを持ち、激務に耐えてきた。

 インテルですら路線転換をするぐらい産業が成熟化する中で、ITを担ったこうした人々が、これからも高いモチベーションを持ち続けることができるだろうか。最近の多発するシステムトラブルは、高い使命感を持てなくなってきたことに起因する面もあると思う。もちろん、成熟産業であってもプロとしての誇りを持ち続けることができるし、実際ほかの成熟産業には多くのプロがいる。ただ、そのモチベーションの中身は違う。IT産業の構造変化は、そこで働く人の意識の構造変化を迫っているような気がしてならない。

米IBMが東証から撤退、「会社法施行で外資による買収が増える」はカラ騒ぎか

2005-04-22 17:21:25 | ITビジネス
 4月19日付の日本経済新聞19面の『IBMよ おまえもか』と題した囲み記事は、とても参考になった。この前、ブログに書いた『会社法施行でITサービス会社も外資の買収ターゲットに』の記事での認識が、少し安直だったことが分かったからだ。

 日経の囲み記事は、米IBMと米ペプシコが5月に東京証券取引所への株式上場を取りやめることを題材にしたものだ。今、巷では「会社法施行によって外国株などが企業買収の対価として使えるようになるので、外資による日本企業の買収が増える。大変だ!」と騒ぎになっている。ライブドアvsフジテレビ騒動の余波だが、企業は防衛策に頭を痛め、自民党は騒ぎ出し、外国株などを対価にできるという条項は1年先送りされ2007年からとなった。この前に記事に書いたように、ITサービス業界の中でも買収攻勢を警戒する声が出ている。

 しかし、この『IBMよ おまえもか』では、肝心の外資には自社株(外国株)を使って買収に乗り出す意思がないことを明らかにしている。

 自社株を使った株式交換による買収を行うためには、日本の株式市場への上場が不可欠。なぜなら、日本の株式市場に上場していない外資が株式交換で日本企業を買収しようとした場合、被買収企業の株主は外国の株式市場に上場する外国通貨建ての株式を受け取らざるをえず、様々な不利益を被るため買収に同意するとは考えにくい。つまり、IBMが東証への上場をやめるということは、将来的に日本企業を株式交換で買収する意思がないことを表明したに等しい――これが記事の骨子である。

 IBMとペプシコが撤退することで、東証に上場する外国企業はわずか28社になる。1991年には127社が上場していたというから、往時の2割強にすぎない。28社の中にIT関連企業は、と探してみたが皆無。わずかに関連する企業として、モトローラやアルカテルが上場している程度だ。最も手軽な自社株を使った外資による買収は当面ないと、ITサービス会社は“安心”してよい。もちろん買収手段は他にもある。業界再編の胎動が聞こえる今、企業価値向上への取り組みを休むわけにはいかないのは確かだ。

MS日本法人が社長交替、日本人をトップに起用しないのは日本重視の表れ

2005-04-20 17:02:47 | ITビジネス
 マイクロソフト日本法人の社長が交替する。現社長のマイケル・ローディング氏が7月1日付で本社コーポレートバイスプレジデントに就任。日本法人の後任社長には本社コーポレートバイスプレジデントのダレン・ヒューストン氏が就任するという。日本法人トップへの日本人の起用は二代続けて見送られたわけだ。

 ひと昔前なら、外資系IT企業のトップに日本人を起用しないと、「日本市場を軽視しているのでは」と勘ぐられもした。しかし今では、日本市場を重視するゆえに、日本法人のトップを本社から派遣する外資系企業が増えている。一時、日本市場の地位低下に伴って、日本をパッシングする外資系IT企業が増えたが、ユビキタス時代の到来が現実感をもってくるに従い、その分野の先進国である日本の株は再び上がり、今や“最も重要な市場の1つ”の地位を取り戻した。

 そんな重要な市場の現地法人のトップはというと、人材難だ。日本人だと、よほどの“国際人”を起用しないと、どうしても本社との間にコミュニケーション・ギャップが生じる。その結果、日本市場への機動的な対応ができず、日本市場のニーズをグローバルにフィードバックすることも難しくなる。

 それで思い出すのが、ボーダフォンのトップ人事。NTTドコモ副社長から三顧の礼をもってボーダフォン社長に迎えれれた津田氏は、わずか4カ月で自ら会長に退き、英本社からウィリアム・モロー氏を日本法人の社長に迎え入れた。モロー氏に本社との強力な“土管”になってもらうためだ。話をどんどん脱線させたが、マイクロソフトの場合もしばらくは本社との強力なパイプが必要なのだろう。

 昨年春、米マイクロソフトと北海道が、道内のIT産業新興で協力することを発表したのは、ちょっとした驚きだった。北海道は、経済産業省がLinux、オープンソース普及の拠点と位置付けている上、高橋知事も通産官僚出身だからだ。バルマーCEOが来日して契約調印に臨んだと記憶しているが、経済産業省の官僚は前日までその事実をつかんでいなかったという。こうした芸当は、本社と強力なパイプのある日本法人の存在なくしてはできない。

 今後は対オープンソース、Windowsの基幹系での実績作り、携帯電話事業者や家電メーカーとの協業など、米マイクロソフトが直接乗り出さないといけない場面が増えるだろう。そうすると当分の間は、日本法人の社長に日本人が就任することはなさそうだ。

システム・インテグレータのオープンソースへの期待は幻想だったのか?

2005-04-17 23:39:50 | ITビジネス
 どうも最近、オープンソースに対するユーザー企業のニーズは、かつてシステム・インテグレータが期待したものとは違う方向に向かいつつあるようだ。

 オープンソースに関しては、1年以上前からLinuxといったOSレベルだけでなく、JBossやMySOLなどミドルウエア・レベルにも注目が集まってきた。こうしたオープンソースのミドルウエアを活用すれば、オラクルやBEA、IBMなどの高額な商用ミドルウエアを使わなくても、かなりミッションクリティカルな業務システムでも構築できる。Linuxのカーネル2.6の登場と相まって、基幹業務システムへのオープンソースの適用の対する期待は大きく膨らんだ。

 特にこうしたオープンソースに強く、ユーザー企業とのプライム契約が結べるシステム・インテグレータの間では、1つのシナリオが期待を込めて語られていた。それは次のようなものだ。「オープンソースのミドルウエアを活用すれば、商用ミドルウエアを活用する場合に比べ、システム構成次第だが半分のコストで済むケースもある。これを製造業に例えれば、資材調達費の大幅削減に相当する。身を削らなくても、労働力のオフショアリングに求めなくても、ユーザーのコスト削減要求に十分に応え、かつ自らも利益を取れる」

 もちろん、ユーザーがオープンソースのミドルウエアのサポートに不安を抱いているうちは、基幹系への適用などあり得ないので、システム・インテグレータがオープンソースのミドルウエアに対するサポート力を持つ必要がある。それさえできれば、ITデフレ下にあってもシステム・インテグレーションの利益率を維持、うまくいけばアップすることができる。多くのシステム・インテグレータはそうした期待をかけた。

 だが現実は、システム・インテグレータの期待を裏切り、より厳しい方向に向かっているようだ。最近では、オープンソースのミドルウエアに対するユーザー企業の不安感は、以前に比べ薄らいでいる。それと共に、ユーザー企業の中には、こうしたオープンソースのミドルウエアの使用を前提に、システム・インテグレータに値引きを要求する動きも出始めたという。つまり、オープンソースの活用で浮いたコストはユーザー企業に還元せよ、という要求を出し始めたのだ。浮いたコストの一部を、システム・インテグレーション料金に上乗せするといったことは、システム・インテグレータの甘い願望に過ぎなくなりつつあるのだ。

 これはちょうどオフショアリングでの事態に似ている。現状では、オフショアリングによりコストを削減しても、結局はその利益をユーザー企業に還元しなくてはならなくなっている。今やお堅い金融機関でも、オフショアリングを前提に料金引き下げを要求するご時世だからだ。オープンソースのミドルウエアでも、これと同様のことが始まろうとしているのだ。オープンソースのミドルウエア活用を積極的に推進していたシステム・インテグレータからは、「たとえ儲からなくても、ユーザーのニーズに対応しオープンソースのミドルウエア活用を進めなければ生きていけなくなる」といった、当初の期待とは全く異なる嘆きも聞こえてきている。

 さて、ではオープンソースのミドルウエアは全く商売にならないかと言えば、決してそんなことはないだろう。こうしたソフトのサポートや、システム構築のノウハウの提供はビジネスになる。ちょうどe-Tetsuさんが報告されているSourceLabsのようなビジネスモデルだ。あるいはLinuxにおけるレッドハットなどのモデルと言ってもよい。つまり、オープンソース化が進めば進むほど、ITインフラに関する知見が大きな付加価値を持つ。

 システム・インテグレータが目指したオープンソースにおけるビジネスモデルは、業務ソフト開発が主で、オープンソフトのサポートなどを従とした。しかし、現実のビジネスの可能性は、どうやら逆だったようだ。オープン化の流れの中でシステム・インテグレータが生き残っていくためには、オープンソース、そして商用ミドルウエアなどを最適に組み合わせるITインフラのコンサル力・構築力・サポート力を高め、ここにビジネスの焦点を当てていく必要があるだろう。

ITILブームの到来、運用管理プロセスの“カイゼン”は誰がやるのか

2005-04-14 13:37:18 | ITビジネス
 いまやITILは一大ブームになった感がある。情報システムは使ってナンボだが、その運用プロセスで、情報漏洩やシステムダウンが頻発し、コストも年々肥大化するなど、多くのユーザー企業で深刻な問題が顕在化して久しい。そうした中、救世主として期待を集めているのがITILだ。ITサービス会社も大きな商売のネタを見つけたと、一斉に対応サービスの提供に乗り出している。だが、私はこのITILブームにとても違和感がある。ITILは本当に救世主になれるのだろうか。

 ITILは、情報システムの運用管理において「何をしなければいけないのか」を規定したベストプラクティス集のことだ。これを基に運用管理プロセスを再構築・可視化することで、無駄な業務を削ぎ落とし、トラブルの発生を未然に防げるようにしましょうというのが、ITIL導入の眼目である。確かに、英国政府がまとめたグローバル・スタンダードのドキュメントを精読して、自社の運用管理プロセスを鑑みれば、現状のプロセスの問題点は明確になるかもしれない。

 だけど待てよである。「何をしなければいけないか」が分かったからといって、実際にできるとは限らない。ITILで規定された“なすべきこと”は膨大な量に上る。半面、なすべきことをどうやって実現するのかについては、企業個別の問題としてITILでは一切規定していない。だから、多くのユーザー企業が、どうしたらいいか分からなくて途方に暮れているという。ここでITサービス会社の出番と言えればいいのだが、ユーザー企業に適切なコンサルティングを行える企業はいったい何社あるだろうか。

 運用管理プロセスの改革とはオペレーションの改革である。オペレーションの改革である以上、工場の生産プロセスなどの改革と同様、地道なカイゼン活動が不可欠である。ITILはそのための1つの指針にすぎない。ITILをベースに運用管理プロセスを見直すだけでは、どうにもならない。ところで、運用管理プロセスのカイゼン活動に関するノウハウは、誰が持っているのだろうか。フルアウトソーシングを請け負っている企業でもあやしい。またぞろ「トヨタにでも頼むか」という話になりそうだが…。とにかく、こうしたカイゼン活動を真にコンサルできれば、大きなビジネスになることは間違いないだろう。

激しくなる中国での反日行動と、ITオフショアリングの内なるリスク

2005-04-11 10:50:49 | ITビジネス
 中国で反日行動が激しくなってきた。その原因や背景について様々な報道がなされているが、その件は報道以上のことが分からないので、これ以上は立ち入らない。考えてみたいのは、ITサービス業での中国におけるオフショアリングのリスクである。

 言うまでもなくITサービス業においては、既にオフショアリングなしでビジネスが成り立たないところまで来ている。そして中国のITサービス会社は、オフショアリングを進める日本企業にとっても最も重要なパートナーになりつつある。中国国内でいくら反日ムードが高まったとしても、こうした取引はビジネスライクに処理すべきであり、民間レベルで日中友好のための努力をすることもまた必要だろう。

 しかし、リスクはヘッジすべきである。中国の国民レベルの対日感情は、歴史的経緯や中国国内の状況、日中の政府や政治家の対応など変数があまりにも多く、企業レベル、民間レベルでは、どう変化するかを予測することは不可能である。そんな中で、ITサービス業において経営戦略の根幹を占めるようになりつつあるオフショアリングで、中国にだけ依存するのはあまりにリスクが高い。インドやベトナムなども含め、オフショアリングのポートフォリオを検討する必要があるだろう。

 実は、中国国内の反日感情よりも、オフショアリングを推進していく上で懸念されるリスクがある。それは、日本国内で芽生え始めた“嫌中感情”である。特に政治レベルでの嫌中が危うい。これが、米国でのようなオフショアリング批判と結びつくとどうなるのか。オフショアリングを推進するITサービス会社は、今からそのことを考えておいた方がよいだろう。

 それに加え、中国企業にオフショアリングする企業は、中国の人々とのインタフェースを持っているわけだから、自らも中国の人々の怒りやわだかまり、そして多くの誤解を解く努力をすることが可能である。こうした努力とリスクヘッジは、グローバル化を目指す日本企業には不可欠なことだ。ドメスティックな事業環境に慣れ、その辺りのことに鈍感なITサービス会社は、そのことを強く肝に銘じておく必要があると思う。

ITサービス産業は大人になれないまま老衰するのか

2005-04-08 21:19:46 | ITビジネス
 この前、「ITサービス産業には明確な商慣行が確立していない」という話を、公認会計士の方に話したら、「成長著しい若い産業はどこでもそうですよ」と“慰め”られてしまった。ただ、この言葉は慰めになってはいない。会計士の方は“IT=若い、成長著しい”という世間のイメージでお話になったのだが、そうしたITはライブドアや楽天などのネット企業のことであり、デジタル家電分野のことである。ITサービス産業は数十年の歴史あるトラディショナルな産業であり、現在のドメインのままでは成長が望めない“成熟産業”になりつつある。

 「検収書に顧客の社印ではなく、個人の認印が押される」「ソフトウエアの品質について顧客の了解が得られない場合でも検収書が形式的に発行される」「検収後の入金予定日に入金がなく、バグ発生による作業が継続している」「開発終了はまだ先なのに、顧客の予算消化の都合により形式的に検収書が発行されている」----。これは、日本公認会計士協会の「情報サービス産業における監査上の諸問題について」の記述で、検収ひとつとっても何でもありの取引実態を指摘したものだ。まさに商慣行など存在しないに等しい。

 なんでこんな状況が温存されてきたのかと言えば、今までの顧客は同業者だったからだ。ITサービス会社同士の取引はもちろん、ユーザー企業との取引でも顧客は情報システム部門という同業者。お互いの苦しい立場はよく分かる。「まあ、ここは、なあなあで」ともたれ合う。「決算日前に予算を消化したことにしたいんだよね」「分かりました」、「後の作業のコストは当社がかぶりますから、形だけでも検収書を出してください」「OK]などなど。これでは、健全な商取引も商慣行もあったものではない。

 しかし昨今、IT投資の権限は大きくシフトし、今や顧客はユーザー企業の経営者やユーザー部門という正常な状態になった。多くのITサービス会社が上場したことで、株主や投資家が目を光らせることになった。これらのステークホルダーはユーザー企業内の同業者のようには甘くない。情報システム部門が甘い親なら、彼らは冷たい世間だ。こうしたいい加減な“商慣行”は、厳しい世間では通用しない。

 というか、こんなことを続けていては、Tサービス産業は大人になりきれないまま老衰してしまう。まずは近代的な商慣行を確立し、大人の産業の仲間入りをしなければいけない。その上で、ユビキタス分野などに産業ドメインを拡張し、若返りを図る必要がある。ITを全体的に言えば、これからもとてつもない成長産業だ。ひきこもらず、厳しい世間に打って出れば、ITサービス産業にもまだまだ大きな可能性があると思うのだが。

NEC・サンの提携と富士通のオープン系基幹サーバー発表に思う

2005-04-06 18:54:50 | ITビジネス
 昨日のNECとサン・マイクロシステムズの提携発表、それに今日の富士通のサーバー新製品の発表に接すると、基幹系サーバーの競争のステージが大きく変わろうとしているのを実感する。その変化とは、UNIXサーバーは完全にレガシーシステムとなったことで、IA64アーキテクチャ(もしくは“AMD互換”アーキテクチャ)とLinux(もしくはWindows)の組み合わせによる“オープン系”の新たな二大潮流が明確に姿を現してきたということである。

 まずNECとサンの提携発表だが、金杉社長とマクニーリ会長兼CEOが同じ写真に収まったということ以外は、それほど新味を感じさせない。サンの大事なユーザーである通信事業者が抱くサン製サーバーの将来への不安に対して、NECが“信用補完”した見るのは穿ち過ぎだろうか。

 NTTドコモのiモードのノウハウを導入している世界の通信事業者の多くが、そのサーバーにサン製品を利用している。こうした通信事業者から見れば、サンという企業の将来性はともかく、サン製サーバーの将来には不確実性がつきまとう。iモード型サービス拡充のためサーバーを増設しようにも、将来に不安のあるITアセットを膨らませていっていいのか、判断に苦慮するところだろう。

 それが、NECと戦略協業するとなると話は別だ。大手通信機器メーカーであり、NTTドコモのiモードの構築・運用ノウハウを持つNECが、サン製サーバーをがっちりとサポートする意味は大きいのだ。NECは小なりといえどもメインフレーマでもあるから、どんな状況になろうとも、顧客のITアセットを不良資産化するようなことはせず、マイグレーションのパスを用意してくれるだろうという安心感がある。

 今回の提携は、サンにとって通信業界の顧客つなぎとめに大きな意味があるだろう。もちろんハード増設といった形で追加受注の可能性も開ける。一方、NECにとっても、サン製サーバーの顧客とのリレーションを強化できるほか、サンのミドルウエアを取り込む形で自社のミドルウエア製品を強化できるわけで悪い話ではない。フィオリーナ退任ですきま風が吹き始めたHPへの牽制にもなる。

 一方、富士通がメインフレーム並の信頼性を持つIAサーバーPRIMEQUESTを今回発売することで、SPARCベースのハイエンドUNIXサーバーPRIMEPOWERの位置付けはどうなるのか。これも顧客のITアセット次第であろう。PRIMEPOWERの既存ユーザーには、他機種へのマイグレーションを求められない限り、増設などの用途でPRIMEPOWERを提供し続ける。一方、新規の案件にはPRIMEQUESTを販売する。そんは切り分けが順当なところだろう。

 要は、UNIXサーバーはもはや完璧にレガシーシステムなのである。もちろん、メインフレームの例でも明らかなように、レガシーシステムの市場は今後とも厳然として存在し続ける。メインフレーマはユーザーに対して、レガシーなハードであろうが将来のコミットを約束する。それがあるからこそ、ユーザーは安心してレガシーシステムを使い続けながら、時間をかけてレガシーマイグレーションのパスを考えることができる。残念ながらサンには、メインフレーマのような安心感がなかった。だから、サンのカスタマーベースが草刈場になってしまったのだ。

 さて、UNIXサーバーがレガシーシステム市場へ移行した今、オープン系の基幹系サーバー市場では、二つの潮流のせめぎ合いになるだろうと思う。その二つの潮流とは、ハードやOSレベルの話ではない。むしろ、より大きなシステムとしての話といった方がよい。一つが、メインフレーマがメインフレームの機能やノウハウをオープン系サーバーに持ち込む潮流だ。PRIMEQUESTがまさにそうだし、広く言えばIBMのzSeriesもこうした流れと言っていい。

 もう1つは、ブレードサーバーなどハードの冗長度とミドルウエアのミッションクリティカル機能を組み合わせることで、基幹系システムにも使えるようにしようという流れだ。とりわけIBMや日立製作所は、ブレードサーバーでメインフレームの領域もカバーできるように、ブレードサーバーの機能強化を急いでいる。この二つの潮流が、どの辺りで均衡点に達するかが、オープン系の基幹系サーバー市場の今後の焦点になるだろう。

CTCがコンサル部隊を別会社化、時代は“NRI型”から“IBM型”に

2005-04-04 11:13:00 | ITビジネス
 伊藤忠テクノサイエンス(CTC)が4月1日付で伊藤忠商事と共同でコンサルティング会社を設立したそうだ。3月31日の日本経済新聞に載っていた記事で知ったが、ちょっと興味深い内容だった。というのは、この新会社「マクシスコンサルティング」は事実上、CTCのコンサルティング事業を切り出したものだからだ。

 最近のITサービス会社のコンサルティング事業は、すっかり“NRI型”から“IBM型”に移行した。コンサルティング事業の従来の成功例は野村総合研究所だ。コンサルティング事業とSIなどITサービス事業を社内に抱え込むことで、両者のシナジーを狙うパターン。ところが、同一企業では文化の違いや処遇の問題から、有能なコンサルタントがスポイルされてしまう懸念がある。

 そこで最近ではIBMのように、コンサルティング事業を別会社として運営するケースが増えている。アビームコンサルティングを段階的に買収するNECは、まさにこのパターン。そう言えば、シーエーシーも3月にコンサルティング会社を設立している。一方、ダイヤモンドコンピューターサービスを子会社化した三菱総合研究所が、合併の選択肢を選ばなかったのも、コンサルティング事業をスポイルしないためといわれている。

 そうした中、NRI型のコンサルティング事業を目指してきたCTCも、ついにIBM型に移行したわけだ。出資した伊藤忠商事も新会社をグループ内のビジネス・コンサルティング機能の中核として位置付けるとしており、CTC社内ではある意味“浮いた存在”だったコンサルティング事業がどう変わるか注目しておきたい。

 ところで、NRIや日本総合研究所のコンサルティング能力は、昔と比べて変わらなのだろうか。少し気になるところだ。