東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

富士通の中間決算、SIの売上減は好材料

2004-10-29 10:57:02 | ITビジネス
 昨日、富士通とNECの中間決算の発表があった。私が特に関心を持っていたのは“ITサービス最大手”の富士通の決算。中でもソフトウエア・サービス(SS)部門のソリューション/SIのセグメントだ。この前に書いたように、この売上高が“健全”に減少しているなら、黒川社長の「強い会社(=利益重視)」を目指す改革が軌道に乗りつつあると見てよい。結果は3928億円で、前年同期比5.1%減と“健全”に減った。

 2004年3月期決算では600億円もの特損として計上した不採算案件による損失は、今期1Qで100億円、2Qで50億円発生している。中間決算では、これらの損失を営業利益レベルで認識したために、SS部門の営業利益は133億円の減少となった。下期も40億~50億円発生する見通し。ただ、こうした数字の低減傾向を見る限り、不採算案件も管理可能範囲に収まりつつあるようだ。

 SIビジネスの基盤を自壊させながら、ITデフレを業界に撒き散らし続けた“富士通問題”は、どうやら収束に向かいつつある。後は、本当に強い会社に生まれ変われるかだ。下請け企業への単価引き下げ要求など、パートナー企業にだけ強い会社では困る。顧客に対しても“強い会社”になったもらいたいものだ。つまり、顧客にSIなどの付加価値をきちっと説明して、しかるべき対価を取れる会社である。富士通がそうなれるなら、ITサービス業界全体に本物の薄日がさす。

原価低減努力をすべて顧客に還元してしまう業界は珍しい

2004-10-27 17:32:44 | ITビジネス
 IT業界も中間決算発表の時期だ。昨日はNECソフトの発表があった。案件の獲得状況は好調だが、SI料金の下落に原価低減努力が追いつかない状況が今も続いているという。

 このNECソフトを含め、ITサービス会社は前期、軒並み失敗プロジェクトを出して収益を悪化させた。NECソフトによると、失敗プロジェクトはまだ発生するものの、経営的に管理可能なレベルに収まりつつあるらしい。ところが、そうした失敗プロジェクトという事件が取り除かれると、原価低減以上の料金低下という、もっと本質的で深刻な状況が姿を現してくるわけだ。

 こうした状況の引き金を引いたのは、いつ誰か? 定説では、4年前に下請けの協力会社に5%の単価引き下げを要請した富士通だ。顧客からの値下げプレッシャーが厳しくなったというのが理由だったと思うが、これが報道されると馬鹿げたことが起きた。下請けへの単価引き下げを知った顧客は、同じことを富士通に要求したのだ。結局、富士通は5%の“原価引き下げ努力”を全部はき出してしまう。そして、そこから先の見えないITデフレが、とめどなく進行することになる。

 原価低減努力のすべてを顧客に還元してしまう企業や産業は少ない。シェアを取りに行き、ライバルを駆逐する戦略を採る企業が、そうするなら分かる。IT業界ならPCサーバーなどコモディティ製品で採用される手法だ。しかしSIではライバルが退出することなく、先の見えない身を削る努力を業界全体に続けている。

 以前にも書いたように、SIのコモディティ化を徹底的に進行させ規模の利益を追求するなら、それでよい。それが嫌なら、顧客が付加価値を納得するシステムを提供するだけでは不十分で、システム構築の生産性を向上させることを顧客と共に試み、その果実を分け合う形にもっていかなければいけない。以前書いたジャステックの事例がまさにそれに当たる。繰り返すが、これは何も特殊なことではない。他の産業では当たり前のことなのだ。

アソシエントの粉飾に思う、ITサービス業の会計に“統一基準”を

2004-10-25 18:38:08 | ITビジネス
 東京マザーズに上場するアソシエント・テクノロジーが粉飾決算で窮地に追い込まれている。大分に本社を置き、独自のビジネスモデルで、小粒ながらそれなりに注目されていたITサービス会社だ。ところが、株主総会目前で社長が部下に粉飾を“自白”し、他の取締役とともに辞任。株主総会も延期せざるを得なくなった。

 プロジェクト経費の付け替えや外注費用の未計上などで、純利益を約1億7000万円過大に計上していたという。大手の中には、期中に下請け会社に任せたプログラムを検収せず、次の期に付け替えるという“合法的粉飾”、つまり下請けいじめをやっている噂の企業もあるから、アソシエントの社長や役員の手口は非常に幼稚。このITデフレ化で、あっという間に自白に追い込まれてしまった。

 小なりとはいえ上場企業の経営者が、どうしてこんな愚かな行為に手を染めるのか。上場による株主や投資家からのプレッシャーから誘惑に負けたと伝えられるが、ITサービス業界のあまりに曖昧な会計基準にも誘引を求めることができるだろう。粉飾という非合法な手段をとらなくても、利益の付け替えは他の産業より、はるかに容易だ。

 ITサービス業同士なのに、決算書の比較もままにならない。特に売上高総利益は各社ごとに基準がバラバラで、全く比較できない。つまり何がITサービスの原価が分からないのだ。ある程度は仕方ない面があるが、SEの提案活動はある会社ではシステムの製造原価でだったり、別の会社では販管費だったりする。

 こんなことでは、ITサービスというビジネス自体が投資家からの信頼を得られない。右上がりの時代ならともかく、こんな時代だ。以前、業界団体の情報サービス産業協会が会計に関するガイドラインを作成したことがあったと記憶している。あれはどうしたのだろうか。今ほど“統一基準”が必要なときはない。

供給力不足時代のビジネスモデルから脱却できないITサービス業

2004-10-20 19:52:16 | ITビジネス
 SIなどのITサービス業は、供給力不足時代のビジネスモデルから抜け切れていない。今日のすべての問題の原因を遡ると、この一点に帰着するような気がする。

 何が供給不足だったのか。言うまでもなくSEという“労働力”である。通産省が「SEが100万人不足する」と騒いでいたころは、圧倒的にSE労働力が不足していた。ユーザー企業は多くのバックログを抱え、ITサービス会社も大量の受注残を抱えていた。猫の手も借りたい。ユーザー企業としては、システムを作っていただけるだけで、もっけの幸い。ソリューションなど難しいことは要求しない。そんな供給力不足、超売り手市場が長く続いた。

 ところが、ここ数年で状況が一気に逆転した。SE労働力が大量に余り始めたのだ。例の2000年問題のカラ騒ぎで需要を先食いしてしまったことが、この逆転現象をより深刻なものにした。大量の供給力余剰により、ITサービスにおけるベンダーとユーザーの力関係も当然逆転する。最近のITデフレは、IT投資余力の減退というユーザー・サイドだけが要因ではないのだ。

 ユーザー企業が、より安くを追求すれば、いくらでも安くできる。そんな状況が出現したのだ。そこにインド企業や中国企業が参入したからたまらない。あっという間に、SE単価40万~50万円は当たり前の状態になってしまった。もちろん、決してSE技術力があまっているわけではない。本当の技術力は今でも不足している。過剰になっているのは頭数で数える労働力なのだ。

 他の業界なら、こういう需給ギャップが生まれたときの対応は決まっている。供給力の余剰分を破棄することだ。設備なり、在庫なりを破棄することで需給ギャップの解消を図る。しかし、ITサービスの場合、整備や商品に相当するのが人間であるだけに事態は深刻だ。だからITサービス会社の経営者は市況の回復へと期待をつなぎ、需給ギャップ解消に本気で取り組まない。

 しかし、先送りはもはや限界。SE労働力をかき集めたプロダクトアウトのビジネスモデルを変えなければならない。そのための方向は3つ。市場に従うか、顧客に従うか、新たなプロダクトアウトのモデルを作るかである。市場(市況)に従えば、SIの徹底的なコモディティ化を図り、低コストを武器に戦うしかない。顧客に従うなら、本当の意味でのソリューションを提供しなければならない。一方、まだ圧倒的に不足しているSE技術力に拠れるならば、新たなプロダクトアウトのモデルも可能になるだろう。

富士通、中間決算の予想を修正、売上高減少は正しい方向だが

2004-10-18 18:24:48 | ITビジネス
 富士通が、2005年3月期中間連結業績予想を修正した。7月29日の第1四半期決算発表時に比べて、売上高がマイナス1.3%下方修正、営業利益がプラス230.0%の上方修正だ。黒川社長は、6月に強い会社(=利益重視)を目指す方向を打ち出しているので、この修正はおおむね正しい方向といえる。評価が難しいのは、売上高の下方修正の幅だ。

 「ソリューション/SI分野における価格低下圧力の継続」(富士通)などの状況下で、利益重視に転換すれば、常識的には売上はシュリンクする。属人的要素の強いSIなどソリューションビジネスにおいては、突然生産性が大きく向上することは考えられない。むしろ、以前なら受注していた原価割れすれすれの案件の受注を見送ったり、顧客との交渉が厳しくクロージングが長引いたりするため、売上高は確実に落ちる。むしろ売上高がある程度落ちないと、強い会社を目指す改革の取り組み自体にクエスチョンマークが付く。

 そうしたことから言うと、マイナス1.3%という数字は微妙だ。下方修正と言っても小さな率だし、絶対額は2兆2200億円と前年度の中間決算に比べて、まだ大きい。もちろん、携帯電話やデジタル家電関連の半導体事業など好調な他事業の数字も含まれるので、売上高、利益ともこのままでは評価できない。正式発表で明らかになるソリューション/SIセグメントの売上高の“落ち加減”が、改革初戦の成果を計る指標になるだろう。大幅な下落も問題だが、妙に帳尻があっているようだと、改革の行方に早くも黄信号がともる。

日本にもあったシュリンケージ問題、RFIDに光明か

2004-10-13 12:58:02 | ITビジネス
 以前、ICタグのことを書いたときに、日本にはシュリンケージの問題が少ないからICタグの普及は難しいと言った。しかし、これは私の不明だったようだ。日本にもシュリンケージ問題は多数存在し、ICタグなどREIDの実需がそこにあるのだ。

 シュリンケージとは、流通段階で商品量が縮小(シュリンケージ)することだ。早い話が客や従業員に盗まれることを指す。窃盗・万引きなどの表現はあまりに露骨なので、日本でも英語のままシュリンケージと婉曲的に言う。米国では、流通段階で2~3割が消えると公然と語られており、ウォルマートのRFIDの取り組みはシュリンケージの撲滅が最大の狙いと言われている。

 一方、日本ではシュリンケージ問題があまり表面化していない。せいぜい書籍、音楽CDの万引きが社会問題化した程度だ。ところが、実はシュリンケージ問題は至るところにあり、その解決を狙ったRFID導入が始まっているのだ。客や従業員を犯罪者扱いする言辞は、日本では特にご法度だ。加えて、コンビニなどのイメージから日本の流通システムはしっかりしているとの神話もある。だからシュリンケージ問題は表面化してこない。

 日本でシュリンケージ問題に悩む代表例は図書館だ。小さな公立図書館でも、年間1000億円を超える被害が発生しているという。これは全国の図書館共通の悩みだ。中古書市場が拡大した昨今は、ますます深刻になりつつある。だから、図書館にRFIDを導入する事例が急増したのだ。決して顧客満足度の向上、業務の合理化がメインの理由ではない。そのほかにも、回転寿司やドラッグストアなどシュリンケージ問題を抱えた業界、企業が多数存在する。

 こうした話は決して、明るく楽しいものではない。しかし、この現実を押さえず、夢ばかり語っていては、RFIDビジネスは立ち上がらない。日本にはウォルマートや国防総省のような“サプライチェーンの女王”がいない。だから、なおさら泥臭いビジネスが必要になるのだ。ちなみにサプライチェーンの女王とは、どういう意味か? それは読者の皆さんの想像にお任せする。

中堅・中小企業にミドルウエアを売るのは歴史的必然

2004-10-08 18:12:20 | ITビジネス
 富士通とNECが中堅・中小企業にミドルウエアを売り込もうとしている。中堅・中小企業向けのビジネスはチャネルを通じた間接販売が中心のため、両社ともミドルウエアを売り込んでもらうためのパートナー支援プログラムを相次いで用意している。具体的には、富士通は6月に「パートナーアリーナ」を、NECは9月に「NECパートナープログラムforソフトウエア」を発表している。

 中堅・中小、特に中小企業にミドルウエアを販売というと奇異な印象を受ける。ところが、これはある意味“歴史的必然”なのだ。中堅・中小向けに提供するミドルウエアは、アプリケーション・サーバーや運用管理ツールが中心になる。これをパートナーが扱い安いように、他社製品も含めメーカーが組み合わせて、メーカー保証で提供する。パートナーはこのミドルウエア上で動くパッケージなどを使って、業種・業務ソリューションを提供する。

 歴史的必然と言ったのは、これが「2000年問題アフター商談」そのものであり、もっと言えばオフコン商売の延長戦上にあるからだ。思い出して頂きたい。2000年問題のとき、メーカーや旧オフコン・ディーラーはどういう商売をしただろうか。数の多いオフコンユーザーの200年問題を回避するために、ハードをIAサーバーに移行させ、アプリケーションは問題箇所だけを手直しして、そのまま新ハードに乗せたケースが圧倒的に多いはずだ。そして、そうしたシステムが再び更新時期を迎えているわけだ。

 2000年問題のときのオープン系への移行というのは、ある意味見せかけでしかない。オープン系への移行が中途半端に終わったわけで、今回こそ、ソフトも含めた真の意味でのオープン系への移行が商談での中心課題になるわけだ。そのためには、アプリケーションサーバーがいる。運用管理ツールがいる。そして、何よりもパートナーがミドルウエアを容易に扱えるようにする必要がある。そのための方策が、今回の富士通、NECというかつての2大オフコン・メーカーのパートナー支援策というわけだ。

 以前、中堅・中小向けのERPビジネスはオフコン商売だと書いた。ミドルウエアの場合もやはり、オフコン商売の延長戦にある。

コモディティ化は悪か? ITサービスはコモディティ商品ですらない

2004-10-06 17:56:15 | ITビジネス
 ITサービスのコモディティ化が叫ばれてから久しい。コモディティ化とは、高付加価値だった商品が市場での価値を低下させ、一般的な商品になることを指す。日用・雑貨をはじめ鉄や石油などの市況商品がその典型例だ。コモディティ商品はどこから購入しても変わらないため、必然的に価格勝負になる。SIの単価下落などITデフレ、つまり市場価値の下落に直面するITサービスは、まさにコモディティ化が進行しているというわけだ。

 この「ITサービス・コモディティ化」論には次がある。コモディティ商品は価格以外で差別化できないため、サプライサイドの集約が進む。プレーヤーを減らすことで価格支配力を強めたり、ユーザーとの価格交渉力を回復したりしない限り、果てしない消耗戦を強いられるからだ。最終的には主要なプレーヤーは2社から4、5社に集約される。鉄鋼業界しかり、銀行業界しかりである。従ってITサービス業界も集約が進むとコモディティ化論者は主張する。

 果たして、そうなるのだろうか。この理屈で言えば、プライム契約を取れる企業は4、5社。多くても両手があれば足りるほどだ。確かに、バックオフィス系の業務システムの構築など付加価値のほとんどない分野は、コモディティ化がある程度進むだろう。パッケージ・ソフトのパラメータ切りだけなら付加価値はほとんどないからだ。しかし、ITサービスの個ディティ化には大きな“障害”がある。

 それは、ITサービスの品質が企業によって大きなバラツキがあることだ。高品質なSIサービスなどを提供している企業からすれば、コモディティ化などとんでもない話だろう。しかし、むしろ問題なのは低い品質のサービスしか提供できない企業が多数あることだ。低品質な商品が紛れ込めるようでは、コモディティ化は進まない。あるところで買ったガソリンはよいが、別のところで購入したガソリンを車に入れるとエンストするようでは、コモディティ商品とは言えないのだ。

 ITサービスのコモディティ化の前提として、業界全体でソフトウエア工学などを導入して、品質などがある程度高いレベルに収束する必要がある。もちろん、低品質のサービスしか提供できない企業は退出願うしかない。現状ではITサービスの多くは、コモディティ商品以下の存在でしかないのだ。

必ずしも、コモディティ化は悪いことばかりではない。1つの産業内でも、コモディティ化する商品とそうでない商品がある。ITサービス業の本当の問題は、本来コモディティ化すべき商品に品質のバラツキがあり、ユーザーが評価するのも困難なため、高付加価値のサービスまで十把一絡げでITデフレに巻き込まれていることにある。

 だから付加価値のない分野は品質を標準化して、コモディティ化した方がよい。その分野は数社に集約され、高付加価値の分野で多くのITサービス会社が商品力で競争し、適正なリターンを得られるのが理想である。ちょうど低付加価値分野はIBMやEDSなど数社、高付加価値分野に多くのITベンチャーが群がる米国のように、である。

業務系システムの世界にこそ技術者コミュニティが必要だ

2004-10-04 11:18:40 | ITビジネス
 組込みソフトの優秀な技術者には、企業の枠を超えた強固なコミュニティがあるという。確かに、経済産業省のITスキル標準(ITSS)に組込みソフトが取り上げられる以前には、企業、産業の枠を超えて、技術者自身が手弁当で組込みソフトのスキル標準を作ろうとしていた。職人芸に頼っている開発現場で、年配の技術者が若手への技術継承に強い危機感を抱いた結果だ、とも聞いた。

 翻って、企業向けの情報システムの開発・運用の世界で、こうしたコミュニティは存在するだろうか。もちろん、Linuxなどオープンソースに強固なコミュニティが存在するが、それは業務システム系の技術者にとって、ある意味、別世界。業務系では、マイクロソフトやオラクルなどが自社プロダクトへのファンを作るための“人為的コミュニティ”が存在するのみである。

 「顧客の企業秘密を知る立場にある技術者が、所属する企業の枠を超えてコミュニティを作るなどもってのほか」という考えもあるだろう。しかし、例えば組込みソフトの世界は、業務系以上に機密管理に厳しい。デジタル家電、自動車などでは、今やソフトが付加価値の大半を決めるため、ブラックボックス化が進んでいる。そういう中でも、コミュニティは作れる。要は大人の付き合いができればよいのだ。

 分野を問わず、ソフト分野では技術者同士の交流が大きな価値を生み出す。オープンソースはその典型だが、失敗プロジェクトの続発など様々な問題・課題を抱える業務系のシステム・インテグレーションの世界に生きる技術者こそ、共通の問題解決のためにコミュニティを作った方がよい。それは、彼らが所属する企業組織にとってもプラスになるだろうし、何より将来のキャリアに展望が開けず“社畜”的状況に置かれている技術者自身に新たな視野を提供するだろう。