東葛人的視点

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個人情報保護ではなく「個人情報活用」の視点が大事だ

2004-12-27 15:10:38 | ITビジネス
 今年、IT営業のセールストークで最も使われたキーワードは「個人情報保護」だろう。言うまでもなく、来春の個人情報保護法の本格施行をにらんだもので、情報漏洩に不安を感じるユーザー企業にセキュリティ関係のソリューションを売り込もうとしたわけだ。ベンダーからも対応製品が山のようにリリースされて、経済紙には毎日のように「個人情報保護」の見出しが躍った。

 で、現実の商談では、どうだったのだろうか。あまり景気のよい話は聞かない。考えてみれば当たり前で、個人情報保護法の趣旨からして、まっとうな企業が情報漏洩で処罰されることは考えられず、個人情報保護法の施行自体がシステム更新の契機にはなり得ない。しかも、個人情報漏洩はシステムで防げるものではなく、社員の意識改革や情報管理体制の見直しなど非ITの部分の果たす役割が極めて大きい。

 個人情報保護の必要性を訴えること自体は、決して間違ったことではないが、提案の方向が少し間違っているような気がする。なぜ、企業は保護しなければいけない個人情報を溜め込んだのか。それは当然、マーケティングなどで顧客情報を分析したり、顧客との接点を増やしたりするためである。ところが、ITベンダーやシステム・インテグレータはその目的を捨象し、個人情報の保護を自己目的化した提案を数多く行った。その結果、ユーザー企業の守りの意識は高まり、CRMなどの新たなシステムの導入にも躊躇するという笑えない話も出てきた。

 本当に提案しなければいけないのは、個人情報保護ではなく「個人情報活用」だろう。個人情報をいかに戦略的に活用して、顧客との接点を増やし、顧客シェアを高めていくかを提案しなければいけない。そうした個人情報活用を進めていくという前向きな話の中で、その“コスト”として個人情報保護をとらえる発想が大事だ。ERPやSCMと違い、CRMの領域はまだソリューションとしても固まりきってはいない。来年こそ、この分野の開拓のため、安易な危機煽りのセールストークは慎んだ方がよい。

代替わりする中小ユーザー企業と代替わりできない中小ITサービス会社

2004-12-22 19:47:47 | ITビジネス
 企業経営者の代替わりとITについて、2つの俗説がある。1つは、高度成長期に誕生した中小企業で、創業者から2代目に替わった結果、IT投資に積極的になるという話だ。2代目の経営者は、創業者を超えるために新機軸を打ち出さなければならず、そのツールとしてITを使う。高度成長期に創業した中小企業は多いから、代替わりが進むにつれ、中小企業のIT投資はどんどん底堅くなっていく。実際、2代目の経営者は、副社長や専務時代の“社長業修行”でITを担当するケースも多いから、この俗説にはかなり真理を突いてるだろう。

 もう1つの俗説は、団塊の世代でITサービス会社を興した人たちの多くが、自分のリタイアに合わせて会社をたたみつつあるというものだ。こうした企業も中小企業。はっきり言えば、派遣型で人月主義でビジネスを回してきた下請企業群だ。ITサービス業の黎明期には、多くの企業が主要ビジネスは技術者派遣だった。技術者というのも名ばかりで、新卒者にわずかばかりの教育をして、後は「SE」の名刺を持たせ、客先でお客に教育してもらうという、すごいことを平気でやっていた。そうした派遣型のITサービス会社にいた多くの技術者が独立し、やはり同様のビジネス・モデルの派遣会社を作った。こうした企業が今日のITサービス業の最底辺を支えている。

 さて、こうした下請け企業には、もはや未来がない。そこで、自分たちがリタイヤするのに合わせて廃業する。今なら債務も大したことがないし、経営者&主要株主として貯め込んだ財産もあるので老後も困らない。経営者はハッピーリタイアなのだろうが、そこで働く人たちはたまったものではない。この俗説も、業界のあちらこちらで聞く。

 この2つの話は、ある意味、今のITの状況を象徴している。大不況の荒波をくぐり抜け、永続的な発展を図るためにIT投資を戦略的に考えようとする中小ユーザー企業と、ろくなビジネス・モデルもいらないぬるま湯の中で生きてきて行き詰りつつある中小ITサービス会社。継承と断絶。ITサービスの供給過剰を解消させる方向に向かう大きなトレンドの中で、見えてきた風景である。

日本で開発した業務ソフトは本当に世界で通用しないのか?

2004-12-21 14:17:35 | ITビジネス
 日本で開発した業務ソフトはドメスティックな業務プロセスに対応したため、汎用性がなく海外では通用しないと、よく言われる。ミドルウエア的なソフトはともかく、業務パッケージは海外では売れないというのが通説だ。しかし、本当にそうだろうか。

 SAPやオラクルのERPパッケージはドメスティック・ルールの塊だ。国際会計基準や米国会計基準などの標準に対応した機能はほんの一部で、あとはドイツのA社が業務プロセスをサポートし、今度は米国のB社の業務プロセスをサポートし、とベタベタと欧米企業の業務のやり方に合わせて機能を追加してきた。だから、欧米ではノンカスタマイズで使えるようになった。

 ところが、日本企業向けには面倒くさいので、ERPベンダーやそれを担いだ企業は「ERPには欧米のベストプラクティスがつまっている」と“天文学的な大嘘”をついた。自身の業務プロセスに自信を失っていた日本企業の多くが、それをまともに信じてしまい、業務プロセスをパッケージに合わせるべきか、パッケージをカスタマイズすべきかで悩みぬいた。そして、どちらのチョイスでもROI的に見れば、ほとんどが失敗で、ERP不信が蔓延して今に至っている。

 それはともかく、ノンカスタマイズの人事パッケージで一世を風靡したワークスアプリケーションズも何のことはない、SAPやオラクルなどが欧米でやってきたことと同じことやっているだけだ。やり方が同じなら、海外展開の芽もあるのかもしれない。実際、ワークスAPは来年から中国市場を本格的に開拓するという。牧野社長は「日本企業の多様な業務プロセスに対応した結果、同じアジアの中国では適応率が驚くほど高い」と言っているらしいから、それなりの勝算をもって臨んでいるのだろう。

 ワークスAPの中国展開が成功するかどうかは分からないが、こうした試みは「日本の業務パッケージは海外で通用しない」という定説のアンチテーゼで面白い。各企業の業務プロセス、各国の商習慣への対応という“限りない例外処理”の積み重ねが、世界市場へ通じる。日本の他のITベンダーもぜひ挑戦すべきだろう。少なくとも、中国市場はまだがら空きだ。

独立系SIerもSOA関連事業に参入、そろそろ“SOAの実際”の話を

2004-12-17 13:28:52 | ITビジネス
 SRAが、SOA(サービス指向アーキテクチャ)を事業化すると宣言した。米国のInfravioやAmberPointというベンチャー企業2社と提携し、彼らの製品を使ってSOAに基づくシステム構築などを手掛けていくという。

 鹿島社長自らが「一番乗りをしたんだというBragging Right(ブラギング・ライト=自慢する権利)を得るため」と話しているぐらいだから、かなりアドバルーン的な色彩が強い。とはいえ、独立系システム・インテグレータも名乗りを上げたということは、外資系ITベンダーのマーケティングのネタでしかなかったSOAにも“実需のにおい”がしてきたということで興味深い。

 そろそろSOAも“実際の話”をしなければいけない。「業務プロセスをサービスとして再定義し、各サービスを柔軟に組み合わせることで新しい業務プロセスを実装する」といった類の定義は、ご説ごもっともなんだけれども、実現に向けて何の指針にもならない。こうしたレベルの話で語られると「それじゃ全くの新規システムで試してみるか」という気になるが、それでは巨大なオーバーヘッドを持つシステムが出来上がるだけで、SOAの本質からも外れてしまうだろう。

 一番頭が痛そうなのは、既存のアプリケーションを、どのような基準でサービスとして切り出し、かつ体系化するのかというところだ。今のSOAの議論は、サービスをどのように組み合わせるかというところばかりだが、それ以前のサービスの切り出し(定義)・体系化がとてつもなく難しい。

 既存のアプリケーションを丸ごとラップしてサービスと称したところで、ちょうどVBの巨大なオブジェクトのようなもので、サービスとしてまともに使えるようになるとは思えない。アプリケーションの各機能をある単位・基準で切り出し、容易に理解できるように体系化しておかないと、システム構築の際に汎用的に利用できるサービス(=プロセス)にはなり得ない。

 これはEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)の問題だし、データモデリングの問題だ。つまり、有能なアーキテクトが必要だ。そのようなアーキテクトはITサービス業界やユーザー企業のシステム部門に何人いるのだろうか。そして、有能なアーキテクトといえど、エンタープライズ・レベルの設計図を描けるのだろうか。SRAの話から随分脱線し、観念的な話になってきたので、このへんで止めるが、“SOAの実際”的な話がそろそろほしい。

来春施行の電子文書法はIT業界の商機となるか

2004-12-14 12:36:48 | ITビジネス
 来年4月に施行される電子文書法(e-文書法)に関して、IT業界では関連商談の誘発を期待する声が多いようだ。電子文書法は、最初からデータとしてやり取りされている文書に加え、紙からスキャナーで読みとった文書データについても、一定の要件を満たせば原本として認めようというものだ。企業は原則として、商法や税法で義務付けられている文書を、データとして保管できるようになる。いわゆるコンテンツ管理システムなどを導入すれば、コスト削減が可能になりそうだ。IT業界が商機と思うのも無理はない。

 最近の新たな商機は、レギュレーションの変更に伴うものが多い。その代表例が個人情報保護法だ。そういえば個人情報保護法の本格施行も来年4月。「個人情報保護法に続き、電子文書法でも」と意気込むITベンダーやシステム・インテグレータは多いが、電子文書法は果たして個人情報保護法ほどのインパクトはあるのだろうか。というのも、個人情報保護法は規制強化であり、企業は対応せざるを得ないのに対して、電子文書法は規制緩和である。つまり、企業は対応しなくてもよいのだ。

 そうなると問題は、電子文書法に対応して文書管理をIT化してときのROIだ。どうもITベンダーやシステム・インテグレータは、システム投資に見合うだけのコスト削減効果を見込めると、ユーザー企業に断言できるまで確信が持てないようだ。そこで、紙文書を電子化することで実現できるビジネス・プロセスの改善などをセットで提案することになる。「取引先から送られてきた請求書などをイメージ化することで情報システムのワークフローに乗せ、素早く、そして効率よく処理しましょう」いった類の提案だ。つまり、電子文書法を取っ掛かりに、業務改革の提案というITベンダーなどがお得意の領域に提案を拡張するわけだ。

 これは一見、筋がよさそうである。しかし、こうしたシステムは「イメージ・ワークフロー」などの名称で10年以上前から提案されてきた。実際、クレジットカード会社が入会審査業務に活用するなど事例がもある。ところが、そうした事例は限られた分野のみで、一般的には導入は進んでいない。いろんな理由が考えられるが、やはりROIに確信が持てないというのが大きな理由だろう。

 電子文書法に引っ掛けてこうしたシステムを提案した場合、ユーザー企業はどう判断するだろうか。一般化して言えば、「電子文書法対応によるコスト削減効果 + イメージ・ワークフロー導入による効果 > IT投資コスト」という不等式が成り立つか否かが、判断の基準になる。この判断はやはり難しい。つまり、電子文書法はIT業界にとって“漢方薬”になるかもしれないが、“特効薬”になるとは思えないのだ。やはりよく言われることだが、個人情報保護法への対応とセットにしたソリューション提案や、文書の電子化作業などを含むBPO提案など、地道な取り組みしかマーケットを広げる道はないだろう。

ブランド考---IBMのPC事業売却で私が驚いた事

2004-12-09 11:12:28 | ITビジネス
 全世界をあっと言わせた米IBMのPC事業の売却。私が特に驚いたのは、売却先の中国レノボグループに5年間の「IBM」ブランドの使用権を与えたことである。中国に「IBM」ブランドの巨大な橋頭堡が築けるとはいえ、他社に、しかも新興企業にブランドの使用を許すとはIBMも思いきったことをしたものだと思った。

 言うまでもなく、ブランドのマネジメントは企業にとって最重要課題だ。強いブランド力は、競合他社に対する戦略的優位を生み出す。だからこそ、多くの企業がブランド力向上に血道を挙げている。今回のディールでは、その大事なブランドを貸そうというのである。こうしたブランド貸しには、ブランド毀損という大きなリスクがある。例えば日本で二束三文の自転車が、欧州の有名自動車メーカーのブランドを付けて売られており、このメーカーのブランド毀損に大きく貢献している。

 だから私は最初、IBMのブランド貸しに驚いたのだ。しかし、よくよく考えてみれば、ブランドの高度活用としてすごい一手なのかもしれない。まず、PCは完璧にコモディティであり、企業が使うスペックのものは、誰が作ろうが、誰が売ろうが、ハード的には何の違いもない。「IBM」ブランドの価値向上に何の貢献もしない代わりに、PCというハード・レベルでは他社にブランド貸ししても、ブランド毀損のリスクは小さいわけだ。

 しかもIBMは、「IBM」ブランドのPCの保守サービスを提供し続けるという。サービスこそユーザーにとっての付加価値だが、このサービスという目に見えない価値は「IBM」ブランドの付いたPCにひも付けされた明示的な形で提供され続ける。既存の市場だけでなく、巨大な中国市場で「IBM」ブランドの付いたPCが普及するに従い、サービスを付加価値とする「IBM」ブランドも急速に広まっていく。それはIBMの事業の本丸、基幹系システムでのソフト・サービス事業に絶大な貢献をする露払いになるだろう。

 ちょっと抽象的に書きすぎたが、このディールはブランドの観点から見ても、IBMには美味しい選択のようだ。しかしそれにしても、欧米と中国という「グローバル三国志」の構図がはっきりしてくる中で、IBMが打った布石はすごいというしかない。日本企業でもトヨタ、日産、ソニー、ホンダのようにこうした大立ち回りを演じることができる企業はあるが、IT分野では・・・。いかん、いかん、いつもの繰り言になるので、このへんで止めておこう。

メディア・リンクス事件の余波に関して出会った記事

2004-12-07 13:24:35 | ITビジネス
 メディア・リンクスの架空取引問題が、ITサービス業界での売上高水増し問題にまで拡大している。経営トップが犯罪行為に手を染めたメディア・リンクスは論外だが、確かに、営業現場では売り上げを作るために、“実体のない取引”が行われることがあると聞く。好ましいことではないが、それはどの業界にもあること。ITサービス業界全体が不正取引の温床のように言われるのは、たまらないなと思っていたら、この件でe-Tetsuさんという方の興味深い記事「その売上は架空か? ITのコモディティ化と売上水増事件」に出会った。

 ITのコモディティ化を前提に、実体のない取引か否かをインテグレーションの付加価値から分析しているのが、この記事の鋭いところ。確かにコモディティ化した商品は、流通が楽になり、結果としてさや抜きのための転売や実体のない取引も容易になる。こうした文脈で他の業界を引き合いに出すのは恐縮だが、石油業界などでもしばしば問題になる。しかしITの場合、単体の商品を右から左に流すだけでは付加価値はなくても、それをインテグレーションすることで新たな価値を付加することができる。

 この記事は「IT企業側も社外に対する売上がいかなる価値を付加しているのか、という意識を常に持つことが(当然であるが)求められる。これは、ソフトウェア側でのコモディティ化が今後進展する中では、なお更のことである」と主張する。まさに、ITサービス業界全体が不正取引の温床のように見られる可能性がある中では、個々の企業にこうした姿勢が大事だろう。

 「ITサービス業の売上は約14兆円」の“嘘”にも言及されているが、これも面白い。SIにおいて満足ゆく要件定義もできず、まともなプロジェクト・マネジメントも行わず、下請けのソフト開発会社に丸投げしているならば、下請けが作ったソフトの単なる転売と大差はない。そういう意味からなら、IT業界には実体のない取引が蔓延していると言われても、甘受すべきかもしれない。

富士通、シスコと戦略提携、ユビキタス時代の備えはまだ道半ば

2004-12-06 16:36:36 | ITビジネス
 富士通が通信事業者向けのコアルーターで、米シスコシステムズとの戦略提携を発表した。この分野では、日立製作所とNECがコアルーターの開発・販売会社アラクサラネットワークスを設立している。NTTなど通信事業者がネットバブルの際に大量導入したコアルーターのリプレース商戦で、富士通・シスコ連合vs日立・NEC連合の対決の構図が出来上がることになる。

 富士通とシスコの提携は、シスコの新OS、IOS-XRをベースに世界的に見て要求水準が最も厳しい日本の通信事業者向けの製品を共同開発することも盛り込んだ。しかし当面の眼目は、シスコ製品を富士通-シスコのコブランドとして売り込むことにある。ユビキタス時代に本格的に始まる中、通信分野の地盤沈下が加速する富士通は、とりあえず通信事業者向けの市場については事業建て直しの方向性を示したといえる。

 しかし、富士通の通信事業にはもう1つウィークポイントがある。IP電話である。PBXに関しては東京・丸の内に本社を置く大企業など優良顧客を抱えているにも関わらず、富士通は競争力のあるIP電話ソリューションを提供できていない。ライバルからも「富士通ユーザーは草刈場」との声も上がっているほどだ。今回の提携ではIP電話分野は含んでおらず、依然として建て直しの方向性は見えない。

 富士通にとっての誤算は、秋草前社長のもとソリューション事業強化へ向け突っ走る一方で、ハードの中でも特に通信関連を軽視したことだろう。NECや日立など国産メーカーの中で極端に競争力を落し、そのことが皮肉なことにソリューション事業にも影を落とすようになった。NECの金杉社長が「ネットワーク上でのソリューション事業が急激に立ち上がっている」と話すように、ユビキタス時代に向けてネットワークがらみのソリューションが競争の焦点になりつつある。

 メーカーである以上、“箱や線”が強くないとソリューション事業ももたつく。富士通の通信分野でのさらなる事業強化が、ユビキタス時代のプレーヤーとして勝ち残っていくためには不可欠であろう。

NECのソフト事業の再編に思う

2004-12-03 14:07:29 | ITビジネス
 NECが上場子会社のNECソフトとNECシステムテクノロジーを完全子会社化する。投資家はソフト事業の再編を評価したように、全体最適の観点から言うとNECの決断は正しい。しかしITサービス業界的には、この業界の置かれている状況を反映しているようで、あまり楽しいものではない。

 NECソフトは、今回の完全子会社化によって事実上解体されることになる。大規模プロジェクトを担える優秀なプロジェクト・マネジャーはNEC本体に移り、成長戦略の要であった組み込みソフトの開発リソースも、本体やNECシステムテクノロジーの後継会社に移管される。NECシステムテクノロジーからSI要員が移管されるとはいえ、NECソフトの後継会社は実質的に中堅・中小顧客、地方市場を担当する会社になる。

 NECがソフト事業再編を決断した直接のきっかけは、携帯電話事業のクラッシュだ。海外向けの第三世代携帯電話に組み込むソフトの開発遅れが引き金となり、今期の営業利益が700億円減少する見通しになったという。株価は下がり続けていたことから、NECは早急に抜本的なリストラ策を打ち出す必要性に迫られていた。ソフト開発リソースの大再編という今回の決断は、NECグループの全体最適からは最善に近いものであろう。

 しかし見方を変えれば、NECにとってソフト・サービス事業の主戦場が、従来型のソリューション事業から携帯電話を核とするユビキタス分野、IT通信融合分野に完全に移行しつつあることを示す。NECソフトからNEC本体に移るプロジェクト・マネジャーにしても、ユビキタス分野やブロードバンド関係の大規模プロジェクトを主に担うことになるだろう。

 投資家はこうしたことを好感したのである。逆の意味で象徴的なのは、11月に発表されたNECによるアビームコンサルティングの買収。従来型のソリューション事業の強化が目的だったが、発表翌日にはNECの株価は下落している。マーケットもソフト・サービスの成長分野がどこにあるか、ずっと前から見抜いている。

 冒頭にITサービス業界的には面白くないと書いたのは、そのためだ。ソフト・サービス事業のドメインをユビキタス分野に移せるメーカーと異なり、独立系のITサービス会社は参入もままならず、取り残されつつある。もっともメーカーがそちらの方に事業の主力を移していくならば、既存のITサービス市場の競争環境が少しは緩和されるかもしれないが。