東葛人的視点

ITを中心にインダストリーをウォッチ

ITはオールジャパンでは狭すぎる、SEC発足に思う

2004-09-30 20:01:18 | ITビジネス
 経済産業省の肝いりで産官学が結集するソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)が10月1日に発足した。ソフトウエア工学を導入することで、システム・インテグレーションや組込みソフトの品質や生産性の向上を図り、インドや中国のソフト産業に負けないような競争力を“オールジャパン”として身に付けようというのが、設立の狙いらしい。

 経済産業省やITサービス業界などの危機感は分かる。ITデフレ、失敗プロジェクトの多発、オフショアリングの進展など、日本のソフト産業は今や危機的状況だ。しかし、古色蒼然としたオールジャパン的試みが果たして突破口になるのだろうか。ソフトウエア工学のSIの現場への導入という狙いは正しい。しかし、この記事にもあるように、SIのオフショアリングは進展し、国際分業が当たり前になりつつある。

 当然、中国企業やインド企業との協業を前提とした、つまりグローバルな環境での品質や生産性の向上が実践されなくてならない。もちろん、日本のシステム・インテグレータなどの開発現場へのソフトウエア工学の導入が前提だが、それだけではダメだ。国際分業を前提にした発注手法、生産性などの定量化手法などの開発が不可欠なはずだ。

 オールジャパンの発想は、昨今ではあまりに狭い。世界と協業し、世界と戦う、そうしたシステム・インテグレータを生み出す骨太の政策がほしいと思うのは私だけだろうか。

SIにおける「工事進行基準」の財務面でのメリットとは

2004-09-28 21:18:25 | ITビジネス
 9月28日付の日経産業新聞に、富士通の工事進行基準導入の取り組みが載っていた。工事進行基準は、工事の進捗率に従って売上、費用、利益を計上する会計処理手法で、建設業界ではお馴染みのものだ。これをシステム・インテグレーションにも適用しようというのが富士通の試みで、どんぶり勘定になりがちだった従来の工事完成基準(工事の完成をもって売上計上する方法)からの移行を目指しているという。

 記事には詳しく書いていなかったが、この進行基準にはオペレーション面での効用以外に、キャッシュフローの改善など財務的効用がある。私はそこがITサービス業にとって面白いと思っている。

 例えば進行基準で、毎月売上などを計上したとしても、ユーザーは毎月料金を払ってくれるとは限らない。むしろ払ってくれないのであって、従来通り完成後に支払うという形も多いだろう。従ってシステム・インテグレータの帳簿には毎月、売掛債権が生じることになる。従来の完成基準なら、完成するまでは仕掛資産として認識される。

 資産なら外部からの評価が難しく不可能だが、債権なら第三者に譲渡して換金できる。リースのように第三者のノンバンクが介在するスキームを作ればよい。1年以上にわたる長期プロジェクトが減っているとはいえ、キャッシュフローを改善できる可能性のある進行基準は、システム・インテグレータにとって財務面でも大きなメリットがあるわけだ。

 もちろん、そのためには成果物をきっちりと特定し、ユーザーにそれを検収してもらえるような体制を作り、厳密な契約を取り結ばなくてはならない。システム・インテグレータにとって債権になるということは、ユーザーにとっては負債になる。債務を膨らませる結果となるだけに、進行基準の採用によって高品質のシステムを納期通り、低料金で作れるなどのメリットを提供できなければ、ユーザーを説得するのは難しいだろう。だが、チャレンジしてみる価値はある。

「NTTソリューションズ」はできないのか?

2004-09-27 10:52:42 | ITビジネス
 NTTデータとNTTコムウェア。NTTグループには2つの巨大なITサービス会社がある。この2社はなぜ統合できないのだろうか。歴史的経緯からして難しいのは分かる。しかし、1つになれば面白いことができる。いや、実はもう1社、NTTグループ企業が統合に加われば、IT産業に大きなインパクトを与える潮流を作り出せるのだが。

 言うまでもなく、NTTデータはITサービス業界のトップ企業。一方NTTコムウェアは、NTTドコモという例外はあるものの、NTT東西やNTTコミュニケーションズ向けのシステム構築や運用を一手に引き受けるシステム子会社である。しかし最近はグループ以外の外販に積極的だし、オープンソースについては日本でトップクラスの技術力を誇る。

 NTTデータは1988年、NTTからのデータ通信事業本部の分離に伴い、外販のVAN事業やシステム開発・運用事業を手掛けていた部隊が独立して発足した。一方、後にNTTコムウェアとなるNTT社内向けのシステム部門はそのまま残った。当初は、NTT以外とNTT向けとの切り分けができていたわけだが、NTTコムウェアの成立と共に外販ビジネスで両社がバッティングするようになった。いわゆるNTT市場でも、NTTデータが触手を伸ばしている関係で、両社競合が始まっている。

 今や、この2社が並存している積極的な意味が見出せない。いっそのこと統合を視野に入れた方がよい。そうすれば、オープンソースや通信技術にも精通したダントツのITサービス会社が誕生する。ところで、冒頭で「もう1社」と書いた。それはNTTコミュニケーションズのことである。

 今、ITサービス業界には世界で戦える企業がいない。コンピュータメーカーに広げてもダメだし、NTTコムウェアはもちろんNTTデータも全くの内弁慶である。日本の大企業は世界で戦っているのに、それをIT面でサポートする企業が日本には存在しない。だから、日本の大企業のグローバルなIT需要はIBMが持っていく。

 NTTコムは通信だけでなく、IT系のソリューション事業も抱え、一度失敗したとはいえグローバル展開にも積極的だ。しかも、今やIP電話に見られるようにIT・通信融合の最終局面に入っている。NTTコムとNTTデータ、NTTコムの組み合わせで世界で戦えるITサービス会社「NTTソリューションズ」を作る。これはNTTだけでなく、ITサービス業界全体に大きな意味があると思う。

 実際、NTT内では、こうした構想が浮かんでは消えているという。また、NTTコムからも「再編があるならNTTデータと一緒になった方がよい」との声も出ている。おそらく通信業界は、こうした垂直統合にはもう反対だろうから、純粋な通信回線の部分は切り離してもよいのではないか。全く勝手な言い方だが、ITビジネス的視点で言えば、そういうことになる。

“アウトソーシングもオンデマンド”、JPモルガンのIBMからの決別の真相は?

2004-09-16 21:37:43 | ITビジネス
 JPモルガンがIBMへのアウトソーシング契約。ITサービス分野で久しぶりの米国発の大きなニュースだ。ニュースを読んでも、JPモルガン側のIBMに配慮しまくったコメントが並んでいるので、まだ真相ははっきりしないが、最近のフルアウトソーシングの潮流に疑問符がついたことだけは確かだ。

 実は、数年前からフルアウトソーシングの効用に対する疑問が、ITサービス業界やユーザー企業の間でささやかれていた。日本でも、フルアウトソーシングした情報システムや部門を戻そうという動きも、水面下であったと聞く。

 IBMのフルアウトソーシングの契約期間は5~7年。IBMから言わせると、フルアウトソーシングはリスクが高いビジネスということだが、契約期間が5年以上もあると、よほどのことがない限り投資は回収できる。

 一方、ユーザー企業は長期にわたってレガシーシステムを使わされるリスクを負う。普通、釣った魚にえさはやらないものだからだ。最近、NTTデータが袋叩きにあった官公庁のアウトソーシング案件を思い出してもらえば、容易に想像がつくだろう。はっきり言って、ユーザー企業が確実にメリットを期待しようとしたら、当初の契約期間は3年が限度だろう。ただ、フルアウトソーシングは情報システム部員の雇用問題の解決手段でもあるので、短期契約は難しい側面がある。

 さて、今回JPモルガンが契約を解除した理由として、ITインフラは自前で管理するのが利益にかなうと判断したとある。多分、これは大きなポイントだろう。今、米国、日本を問わず大手企業はIT基盤の見直しに動いている。急激な環境変化に伴う業務プロセスの迅速な変更、それを実現するIT基盤は自ら運営したいと機動性を失う。まさにIBMが言うオンデマンド、SOAの発想だ。

 情報システムを素早く変化させるためには、アウトソーサーに依存できない。オンデマンド時代には長期で大規模なアウトソーシングは不向き。そうした判断がJPモルガンにあるのかもしれない。とにかく「アウトソーシングもオンデマンド」、そんなオチがつく話である。

ERPもオープンソース時代に!

2004-09-15 19:31:45 | ITビジネス
 CompiereというERPをご存知だろうか。米コンピエール社が開発・サポートするソフトだが、れっきとしたオープンソース。オープンソースのアプリケーション・サーバーJBossのビジネスモデルとよく似ており、販売パートナーからのサポートフィーなどがコンピエール社の収入になる。

 ターゲットとするのはSME市場、つまり中堅・中小企業市場だ。販売パートナーはCompiereのカスタマイズだけで稼ぐ。ユーザーは他のERPパッケージより、はるかに安いコストでERPを導入できるわけだ。CRM機能もサポートしており、ユーザーの評判もそこそこ良いようだ。

 ERPソフトもついにコモディティ化という感がある。日本でもERP市場は頭打ちになっており、多くのERPベンダーが中堅・中小企業市場を狙っている。しかし中堅・中小企業向けERP市場は、昔のオフコン市場の発展系、もしくは単なる言い換えだ。新規参入は極めて難しい。日本のベンダーも、自社のERPソフトの先行きに展望が見出せないのなら、コンピエール社を見習ってオープンソース化を考えてみるのも面白いだろう。

郵政民営化でITを絡める危うさ、個人情報も心配になる

2004-09-13 06:45:32 | ITビジネス
 郵政民営化の問題で、ITがらみの話がどうも気になる。基本方針の閣議決定では、2007年4月に郵政事業を民営化し、日本郵政公社はその時点で純粋持ち株会社の傘下に郵便、郵便貯金、簡易保険、窓口の機能子会社を置くという。ただし、情報システムが間に合うか、今年中に専門家が判断するとしている。

 果たして民営化まで2年半もあるのに、システムの対応が間に合うかどうか分からないのであろうか。日本IBM会長でもある北城恪太郎経済同友会代表幹事が言うように「民間の経験からみれば十分に解決し得る」というのが、IT関係者の常識であろう。それを、間に合うかどうか調べると言われると、逆に政治的においを感じて、胡散臭くなる。おそらく、NTTデータあたりが判断のための実務作業をやるのだろうけど、納得いく結論を望みたいものだ。

 それとは別に、システム面、つまり情報管理面で4つに分けるのは大変と言われると、郵政の業務は業務間でファイヤーウォールがきっちりとあるのかと疑わしくなる。特に郵便と郵貯・簡保の間はどうなのだろうか。そもそも郵政3事業間の業務隔壁が話題になったことはないように思う。

 実は今、ほぼすべての世帯が数字で表現できるようになっている。郵便番号は7桁になったためで、これに番地や部屋番号などを付け加えれば住んでいる人は数字で表現できる。例えば郵便番号が100-****で、住所が東京都千代田区○○町1-1-1の戸建に住む人なら、100****111と表現できる。つまりシステムで住民情報を管理することが容易になっているわけだ。

 さて100****111という番号の人が引っ越し等で入れ替わったことを、もっとも早い段階で把握できる立場にある者は誰であろうか。郵便物を扱っている郵政の郵便事業もその1つにほかならない。引っ越してきた途端、商売熱心になった郵政公社に、貯金だ、保険だ、お買い得商品だという営業をかけられてはたまらない。

 事業間のファイヤーウォールがきっちりとあれば、フロント系のシステムは事業ごとに独立しているはずだから、分離・別運営は簡単なはずだ。人事などバックヤードのシステムなら、2年半の準備期間で間に合わないなんてことは考えられない。個人情報保護面で在らぬ疑いを掛けられないためにも、ITを民営化を巡る駆け引きの材料にするのは止めるべきだろう。

SIはモノ作りか、サービスか

2004-09-10 09:47:11 | ITビジネス
 SIはサービスなのか、モノ作りなのか。外形的に言えば、SIは間違いなくサービスだ。ITサービス業というサービス産業のコアビジネスなのだから、それは当たり前である。しかし、SIには品質管理面などで製造業的要素がある。知る人ぞ知る高収益企業のジャステックも、自らを製造業と位置づけ、顧客に対しても製造業として認知させている。

 SIをサービスと位置づけるか、モノ作りと位置づけるかは、ビジネスモデルの違いによるのかもしれない。SIをモノ作りと位置づける企業は、ユーザー企業の生産性向上や売り上げ拡大に責任を持たない。この点が重要なことだ。カンナやミノを製造するメーカーは、それらの道具を使う大工さんの売り上げ拡大にまで責任を持たない。ただ、品質の良い道具を提供することに責任を持つのみだ。“製造業型のシステム・インテグレータ”もこれと同じで、顧客の経営に役立つITという道具の品質を高めることに全力を挙げる。

 一方、サービスと位置づけるなら、こうはいかない。顧客にとってITを導入する目的が生産性向上や売り上げ拡大である以上、システム・インテグレータにそれをサポートするサービスを求める。つまり、生産性向上などへのコミットも求められるわけで、システム・インテグレータもそのニーズに応えるべく、運用サービスやアウトソーシング、あるいはコンサルティングへとサービスの幅を広げてきたわけだ。

 SIをサービス(の一環)とするならば、極端なことを言えばSI自体の品質は二の次、三の次でよいことになる。要はトータルなサービスによって、顧客の経営課題の解決を図ればよい。問題は、サービス業と自らを位置づけるのに、顧客の望むサービスを提供できないことだ。サービスを提供する以上は、そのサービスはSIだけでは完結しない。

セキュリティを原価にする視点

2004-09-07 13:38:51 | ITビジネス
 セキュリティ関係のセミナーに出席して、講師の話にとても関心したことがある。そのセミナーは、セキュリティ・ソリューションを顧客にどのように提案するかという、売り手を対象にしたビジネス・セミナーだった。セキュリティ関係のセミナーって、ありきたりで退屈なことが多いのだが、「セキュリティを原価にする視点」の話で目が覚めた。

 法律の関係で個人情報の保護に脚光が当たっているため昔ほどではないが、情報セキュリティのビジネスは難しい。セキュリティの話をすると、当然顧客は関心を持つ。セキュリティ対策の重要性も理解してくれる。しかし、いざ投資のなると二の足を踏まれ、商談が止まってしまうケースも多い。

 なぜ、そうなるのか。理由は簡単だ。経営者から投資対効果がよく見えないからだ。情報システムのセキュリティ対策は重要な投資だが、もっと重要な投資や投資対効果が明確な投資がほかに多数ある。結局、それ以外の投資が優先され、セキュリティ関連の投資は継続案件になってしまう。

 だから、セキュリティ・ビジネスでは脅しが流行る。「個人情報が漏えいすれば、企業の存亡にかかわりますよ」「来春からは個人情報保護法で罰せられますよ」といった具合だ。もちろん有効な方法だが、ソリューション提案としては決して上等とはいえない。顧客が脅しに屈したとしても、それは一般的な防犯費と同じ類の出費で、それ以上の発展性は期待できない。

 そこで「セキュリティを原価にする視点」が重要になる。この意味は、セキュリティ対策のコストを一般管理費とみるのではなく、特定のビジネスで売り上げを作っていくための原価とみなしなさいということだ。つまり、特定の売り上げにヒモ付けて費用化できるセキュリティ・ソリューションの提案が必要だというわけだ。

 その具体例としては、EC(電子商取引)関連の提案が分かりやすい。ECビジネスではセキュリティ対策が不可欠のため、ECに乗り出す企業は、セキュリティ対策費をECで売り上げを立てるための“原価”として即座に受け入れてくれるだろう。

 通常のビジネスにしても、今や情報システムなくしては成り立たない。個人情報を扱うビジネスは、特にシステムへの依存度は高い。セキュリティを原価にする視点さえあれば、提案の質は大きく変わるはずだ。いわゆるROIベースの提案ということになるのだが、セキュリティ・ソリューションでは忘れがちな視点である。

IP電話で誤算、富士通のPBXユーザーは草刈場か

2004-09-03 20:36:58 | ITビジネス
 富士通が、IP電話市場で全く存在感が出せない。SIPサーバー、あるいはIP-PBXといったハード製品が全くダメで、富士通系のPBX販社はアバイアやシスコの米国製品をPBXのリプレース商戦で提案している始末。競合他社からは「富士通ユーザーは草刈場」といった声も聞こえてくる。

 IP電話のシステムは単にPBXを置き変えるだけではない。基幹業務システムやグループウエアなどと連携することで、新しいソリューションの可能性が開けている。つまり、通信機器メーカー富士通としてだけでなく、コンピュータ・メーカー富士通としても極めて重要な商材であるはずだ。現にNECや沖電気、日立製作所は、IT・通信融合の戦略商品としてSIPサーバーなどのラインナップを強化している。

 旧・電電4姉妹のうち、富士通だけがなぜこんなことになってしまったのか。明らかに戦略ミスだろう。富士通はPBX事業に見切りをつけたのか、マーケティング機能も含め子会社に切り離してしまった。IP化により音声通話をリアルタイム・コミュニケーションのためのアプリケーションとして情報システムに組み込もうという流れが始まっている時期に、この判断ミスは痛い。

 富士通本体でIP電話のセントレックス・サービスを手掛けているとはいえ、メーカーとして存在感が希薄になってはしょうがないだろう。「もはやコアコンピタンスではない」と割り切って、ハード開発から撤退し、IP電話関連はIBMのように他社とのアライアンスでやっていくというのなら、それは一つの見識だ。だが、今の状態はあまりにも中途半端だ。

 富士通は一刻も早く、IP電話のハード事業について強化するか、提携戦略に切り替えるかを選ぶべきだろう。中途半端な総合力では結局市場から相手にされないことは、今までの経験で学んだはずだ。巨大なユビキタス市場の入り口の1つに間違いなくなるはずのIP電話分野で、富士通が脱落しないことを祈る。

ICタグ、米国にあって日本にないもの

2004-09-02 13:51:42 | ITビジネス
 RFID、いわゆるICタグが、IT業界の新たな“産業の米”として期待を集めて久しい。ICタグを使って単品管理し、在庫を管理すれば究極のSCMが実現できるため、流通業や製造業をターゲットにITベンダーやITサービス会社が様々なソリューション提案を行っている。

 しかし、ICタグの導入機運はなかなか高まらない。経済産業省や総務省など省庁が主導する実験ばかりで、実需は図書館の蔵書管理システムなどニッチな分野に限られている。普及が進まない理由として、よく挙げられるのは「標準化が十分でない」「タグの値段が高い」などである。一見最もな理由だが、本当にそうだろうか。

 ICカードのことを思い出してほしい。かつて、なかなか普及しない理由として「標準化が十分でない」「カードの値段が高い」など、ICタグの場合と全く同じことが言われた。ICカードはこれらの課題が解決したから普及したのか。答えは否である。JR東日本の「Suica」の導入が、ICカードの普及に火をつけたのだ。しかも、接触型よりさらに普及が難しいと見られた非接触型の大ブレークにつながり、標準化や価格の問題は自然決着した。

 ICタグの場合、問題なのはJR東日本に相当する存在が見当たらないことだ。米国が日本以上にICタグで盛り上がっているのは、ウォルマートと国防総省という有無を言わさず導入を進める存在があるからだ。ウォルマートや国防総省に「ICタグを付けてくれ」と言われて、断れるサプライヤーはいない。従って、ICタグは普及したも同然で、当然ITベンダーなどもビジネスに力が入る。

 日本では、昔ならダイエー当たりがウォルマートの役割を果たしたのだろうが、今はそんな存在はいない。加えて、もう1つ米国にあって日本には足りないものがある。それは“シュリンケージ”。簡単に言うと、商品在庫の盗難、紛失である。米国では、従業員に持ち去られるなどシュリンケージの被害が、在庫全体の3割近くに上ると言われている。

 ICタグでシュリンケージを防止できたら、その費用対効果は素晴らしい。ウォルマートはIT武装した情報先進企業のイメージをふりまいているが、同社がICタグを入れる最大の狙いも、このシュリンケージの防止だと言われている。一方、日本では書籍など一部のアイテムを除いて、シュリンケージが問題になることはほとんどない。

 つまり日本では、ICタグ利用の本命と目される流通業に、ICタグ普及のエンジンが存在しない。しょうがないので、流通業界など業界単位でICタグの標準化や実証実験を進めましょうという話になっているが、経験則ではその手の“オール・ジャパン”的取り組みは上手く行くものではない。むしろ、コスト削減的な話ではなく、マーケティングなど売上拡大につなげる発想で、個々の企業のソリューションを検討した方が、一見回り道のようだが、案外ICタグ普及の近道ではないかと思う。

電話の“素人”がIP電話事業に乗り出す

2004-09-01 19:32:40 | ITビジネス
 NEC系の大手ディーラーである日本事務器が、IP電話のIPセントレックス・サービスの事業化にチャレンジしている。IP電話事業に参入する企業は数多いから、日本事務器の場合もブームに乗かって一儲けしようということかと思っていたら、実はもっと深い狙いがあるという。

 IPセントレックスは、自前でIP電話のシステムを導入できない企業を対象に、企業の内線電話や外線とのやり取りなどのPBX機能を、IPネットワークを通じて提供するサービスだ。NTTコミュニケーションズや富士通など通信とIT分野の様々な企業が手掛けているため、普及しているかどうかは別だが、すっかりおなじみのサービスになった。

 ところで、日本事務器には電話ビジネスのノウハウが全くない。実はITメーカーや販社は、PBX販売などの電話事業を手掛けているところが多く、そうした企業がIP電話事業に参入している。富士通、NEC、日立製作所はもちろん、大塚商会や富士通ビジネスシステムなどの販社も然りだ。

 一方、日本事務器にこれまで電話事業を手掛けてこなかった。IP電話になってコンピュータに統合できるようになったとしても、ITベンダーにとって電話ビジネスが容易になるわけではない。「なんか音が悪いのですけど」と顧客からクレームが入ったときを想像してみてほしい。こんな単純な話でも、ゼロかイチのどちらかであるITの世界の住人が対応するのは難しい。電話を知らない日本事務器にとって、IP電話事業はそれだけでも大きなチャレンジだ。

 しかも機器販売ではなく、IPセントレックスというサービスをやろういうわけだ。IT販社もITサービス業界の一員として、ハコ売り商売の脱却に努めてきた。しかし、やはりハード販売がビジネスの基本であることは、今でも変わらない。システム・インテグレーションですらセールスに付帯するサービスの域を超えてはいない。

 日本事務機は今回、IP電話で本格的なサービス事業に取り組もうとしている。ということは、この事業で、IP電話という新規市場の開拓と事業のサービス化の二兎を追おうとしていることになる。ビジネスの常道は「慣れぬことはやるものではない」である。日本事務器は、その慣れぬことを2つも同時にやるわけだから、リスクは極めて高い。同社は高いリスクをとることで、IT販社の枠を超えようとしている。そのチャレンジ精神は良し、である。少し注目してみたい。