東葛人的視点

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インテルも顧客志向に、IT産業の成熟化に危惧すること

2005-04-25 19:39:09 | ITビジネス
 最近、米インテルが顧客志向に急旋回しているそうだ。この前に書いたIBMネタと同じ4月19日付の日本経済新聞に「インテル、市場ニーズに軸足」と題して、そうしたインテルの動きがコンパクトにまとめられていた。バレットCEOの「利用者は製品の速度よりも、個々が抱える問題を解決できるのかを気にするようになった」とのコメントを引用し、6月に新CEOに就任する“文系”のオッティーニ氏の下、顧客志向をさらに強めるだろう、と結ぶ内容である。

 この場合の顧客というのが、パソコンメーカーのことなのか、エンドユーザーのことなのか判然としないが、おそらく両方を指すのだろう。プロダクトアウトから顧客志向へ、というのは方向として正しい。IT業界全体が顧客志向へと舵を切っていく中、インテルといえどもIT技術のリーダーとして業界やユーザーを引っぱっていくのは難しくなったということだろう。

 もう一度書く。方向としては正しい…しかし、つまらない。1つの産業が成熟し、高い成長を望めなくなると、その業界の企業は必ず顧客志向に舵を切る。ハイテク産業が成長セクターのうちは、顧客志向などは口だけである。様々な企業が先端技術を使った製品、サービスを生み出し、顧客に新しい可能性を提示し、100%プロダクトアウトで顧客や経済、そして社会を引っぱっていく。それゆえに顧客がひどい目に会うことも多いが、エキサイティングでワクワクするようなビジネスが展開される。

 従来のIT産業は間違いなく、そんな成長産業だった。それが今や、最強の“部品メーカー”のインテルまでが顧客志向に本気で取り組む。IT産業が成熟化したことを、まさに象徴するような話だ。何度も言うが「ネジ、クギ1本までお客様の声を反映して」というのは間違ってはいない。「つまらないとは、なんと不謹慎な」とお叱りを受けるかもしれない。

 しかし皆さん、思い出していただきたい。IT関連のビジネスに携わる人は、技術者であろうと、営業であろうと、マーケッターであろうと、多かれ少なかれハイテク産業の一翼を担い、企業や経済・社会の先端を走っているという自負が強いモチベーションになっていたはずだ。それはユーザー企業の情報システム部門の人たちは同じである。社内では間接部門として低い地位に押し込められていても、先端のITを使った業務改革の推進者としてのモチベーションを持ち、激務に耐えてきた。

 インテルですら路線転換をするぐらい産業が成熟化する中で、ITを担ったこうした人々が、これからも高いモチベーションを持ち続けることができるだろうか。最近の多発するシステムトラブルは、高い使命感を持てなくなってきたことに起因する面もあると思う。もちろん、成熟産業であってもプロとしての誇りを持ち続けることができるし、実際ほかの成熟産業には多くのプロがいる。ただ、そのモチベーションの中身は違う。IT産業の構造変化は、そこで働く人の意識の構造変化を迫っているような気がしてならない。