正直言って、佐々部清監督の映画なので不安な気持ちの方が大きかった。ほら、『カーテンコール』や『半落ち』、『夕凪の街 桜の国』をご覧になった方なら分かるよね? どれも良心作で完成度も低くはないんだけど、双手を挙げて絶賛する気にはなれなかったのよ。なんちゅうか、この監督の作品は良い部分と悪い部分がどっちも目立ってしまっているような気がする。たとえば『カーテンコール』の中盤からの強引すぎる展開。前半の心温まる雰囲気に惹かれた者としては、ものすごく面食らってしまった。あるいは『夕凪の街 桜の国』。現代を舞台にした後半の物語が薄っぺらに思えて仕方なかったのは僕だけだろうか。ラスト間際で弟の頭にボールをぶつける田中麗奈なんて、単に性格が悪い女にしか見えなかったし。
そう、この監督が描く作品の多くは(って半数ぐらいしか観ていないけど)登場人物に魅力が乏しいのだ。あくまで僕の勝手な感じ方ではあるが、それは「作り手が登場人物に愛情を持っていない」からのように思える。『カーテンコール』にせよ『半落ち』にせよ『夕凪の街 桜の国』にせよ、扱うテーマは社会的で高尚なのだが、主人公たちが「作り手の主張を訴えるための存在」に見えてしまうことが間々あった。ちょっと言い過ぎかな? いや、決して嫌いな監督じゃないんだけどね。
さて、『結婚しようよ』。現在46歳の僕がこの映画を観た最大の理由は、吉田拓郎の曲がたくさん使われているから……ではなく、このブログをいつも読んでくれている方々ならご存じの通り、中ノ森BANDの4人が出ているからである。ここ2年ほど、すっかり彼女たちの音楽にハマっているのだ。
とは言いつつも、拓郎にも思い入れはたっぷりある。中学生の時は深夜まで起きてオールナイトニッポンを聴いたもんだ。『となりの町のお嬢さん』や『たえこMY LOVE』のシングルも買ったし、20代になってからコンサートにも行った。しかし、中学生時代の僕にとっては、拓郎はナンバーワンの存在ではなかったのだ。世のフォーク好きの間では拓郎と陽水が人気を二分していたわけだが、僕としては泉谷しげるが一番だった。なので、実はオールナイトニッポンも拓郎&泉谷がコンビで出る時が特に楽しみだったりしたわけである。そして高校に入る頃には甲斐バンドに夢中になって……。
いかん、映画とは関係ない話が長くなった。ともかく、中ノ森BAND目当てで観た『結婚しようよ』だが、冒頭いきなり大音量で『落陽』が流れたら、すぐに胸が熱くなった。いい曲だなぁ、と改めて思った。実は1ヶ月ぐらい前、後輩の送別会の時にカラオケで歌ったんだけど、拓郎が歌う本物の『落陽』を聴くのは久々だったのだ。
物語は、その『落陽』をアマチュアバンド(演じるのはガガガSP)が公園で演奏している場面から始まる。演奏を見つめながら一緒に口ずさむサラリーマンが主人公。その様子を微笑ましく見る青年が主人公に声をかけ、拓郎の話で意気投合する。そして主人公の家で一緒に夕ご飯を食べるのだが、この辺りの展開は少々安直。でもまあ、許せる範囲だ。
主人公の家族は妻と娘ふたり。妹の方が、中ノ森BANDのAYAKOだ。最初のセリフを口にするまで、正直言ってハラハラした。だってほら、シンガーとしてのスキルと女優のスキルはまったくの別モノだもん。『いちばんきれいな水』のカヒミ・カリィや『悪夢探偵』のhitomiみたいにトホホなケースも多い(本人たちのせいじゃなく起用した側に問題あり)。一方で『タイヨウのうた』のYUIみたいに、演技っぽくない演技が功を奏する場合もある。さあ、AYAKOはどっちだ。
と思ってたら、言い方は悪いが普通に上手い。何の違和感もない。しかも、シーンを重ねるごとに表情が良くなってくる。必ずしも順番通りに撮ったわけじゃないだろうけど、徐々に役柄に馴染んでいったのだろう。まあ、そもそもアマチュアミュージシャンの役だから、ほとんど「素」のままで演じられただろうし。
AYAKO演じる歌織が組んでいるバンドのメンバーは、言うまでもなく中ノ森BANDのユッコ、チータ、シナモン。3人とも演技は思いっきり素人っぽくてセリフも棒読みなんだけど、それが素朴で楽しい。4人がワイワイ騒ぎながらライブハウスのチラシを見るシーンでは、そのチラシを覗き込もうとユッコが身体をフラフラ動かすんだけど、その動きが最高に面白いのよ。大声で笑いそうになるのを我慢しながら観てました。
ああ、どんどん映画の内容と関係ない方に話が進むなぁ。えっと、ストーリーとしては特に目新しさも意外性もありません。善人ばかり出てるので安心して観られる反面、物足りなくも思えます。あと、演出や映像処理には、なんとも古めかしく感じる部分も多いです(噂話されるたびにクシャミする、など)。しかし、そういう欠点を補って余りあるのが、拓郎の歌と中ノ森BANDの存在。久々に拓郎の歌を大音量で聴いて「ああ、こんなに荒々しく歌ってたんだ」と気付かされたり、中ノ森BANDの『やさしい悪魔』に胸キュンになったりして、とても幸福な2時間弱を過ごせました。……って、あんまり褒め言葉になってない気もするなぁ。あ、そうだ。『ラブ★コン』の時とはガラリと違う役柄の藤澤恵麻も可愛らしかったです。いい女優さんになっていく気がします。
映画を観たあと、『吉田拓郎トリビュート 結婚しようよ』を買った。シングル『風になりたい』のカップリングでは『人間なんて』をカバーしていた中ノ森BANDが、こちらでは『結婚しようよ』を披露している。これまた良い。なんか、ものすごく上手いバンドになってきたような気がするなぁ。と思ってたら、今週の週刊文春では近田春夫氏が「もうちょっと下手になった方が楽しい」というようなことを書いていた。まあ、確かに安定しすぎちゃうと面白味に欠けるもんね。僕としては今の感じでガンガン突き進んでほしいけど。
ついでに書いておくと、このトリビュート盤では平川地一丁目の『リンゴ』、つじあやのの『加川良からの手紙』、真心ブラザーズの『流星』、怒髪天の『落陽』がお気に入り。映画では拓郎ナンバー数曲を見事に歌っていたガガガSPは『人生を語らず』をカバーしているんだけど、これはどうもイマイチ。ノドの調子が良くなかったのかな?
支離滅裂な感じで書いてきましたが、言いたかったことは「とにかく『結婚しようよ』を観て!」でした。これを観れば、きっと誰もが中ノ森BANDの良さを分かるはず。以上!
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