1. 期待値が高すぎた。
なにしろ『下妻物語』を撮った中島哲也の新作である。僕にとって2004年ダントツのベストワン作品の監督の新作なんだから、期待しない方がおかしいだろう。でも「期待したほどじゃないけど面白かった」というわけではなく、僕は「期待していたけど面白くなかった」と思ったのだ。この差は大きい。
2. 先に原作を読んでいた。
過剰なほどにきらびやかなデザインのポスターから「映画は原作とは別モノ」という印象を受けるが、物語自体は原作に忠実だ。なので、当たり前だが、こっちは松子がどういう運命を辿るのかを知っている。先の展開が分かってしまっているのだ。筋を追う、という点では面白さが半減するのは当然だろう。
とはいえ「映像作品ならではの工夫」は、なかなか見事である。特に、窮地に立たされた時の松子のヘンな顔(黒目を寄せて唇を尖らす例の顔ね)。これは松子の「お父さんの笑顔を見たい」という想いを見事に象徴している。それに、隠遁生活の最中に光ゲンジの内海に恋い焦がれるという展開も、妙に説得力があって楽しい。
3. 松子の出番が少ない。
これは原作を読んでいる時にも感じたことだ。松子の波瀾万丈な人生を描いた箇所に比べて、「現代」の部分は退屈だった。こっちは松子の動向が気になって仕方ないのに、盛り上がってきたところで物語が途切れ、現代の場面が描かれる。そこでは平凡で怠惰な青年が主人公だ。面白くない。無論、その対比が作者の意図したものであることは充分に理解できる。それに、この物語が松子の人生を描いただけのものなら、ひどく悲惨で救いのない作品となっただろう。甥である青年の姿を通して描いたからこそ、その悲惨さはかなり薄くなったのである。とはいえ、やはりこっちは松子の物語を読みたいのだ。
映画では、まず松子が登場するまでが長い。その間、ゴリ演じるパンク野郎のわざとらしい演技にウンザリさせられることになる(これは演じる側が悪いのではなく、演じさせる側に問題がある)。ようやく松子が登場したかと思ったら、物語はものすごく性急に進む。松子の人間性やら性格やらがしっかりと観客に伝わらないまま、めまぐるしい勢いで松子は人生に躓き、不幸になり、堕ちていくのだ。もっと松子を描いてくれ! そう思ったのは僕だけだろうか。
4. 晩年の松子を醜く描きすぎ。
いくらなんでも、あんなに太らせなくてもいいじゃん。ねえ。
松子を演じる中谷美紀は、これ以上ないほどの熱演を見せてくれた。アッパレである。人工的な華やかさで彩られたスクリーンの中で踊る中谷美紀=松子は素晴らしく魅力的だった。彼女が今年の主演女優賞を総ナメにしても、何の文句もない。だからこそ、ますます思うのだ。松子の出番が少なすぎ!
あのさ、こっちが見たいのは松子が奮闘する姿なのよ。松子が挫折し、成り上がり、転落し、男を信じては裏切られ、それでも力強く生きていこうとする姿を、しっかりと見届けたかったのよ。それなのに、物語は寸断し、現代のシーンに戻る。さっきも書いた通り、そこに登場するのは面白味のない青年だ。類型的なパンク野郎や刑事だ。そういう連中のコントみたいなやり取りが、僕にはものすごく鬱陶しくて仕方なかったのだ。もっと松子を登場させろよ。
ここまでつらつらと考えて、僕はひとつの事実に気付いた。
自分で思っていた以上に、僕は松子を愛しく感じていたのだ。だからこそ、この映画を楽しめなかったのである。
不器用で意固地で融通が利かず、思い込みが激しくて惚れやすく愚かな松子は、しかし正義感が強くて馬鹿正直で勤勉であり、優秀で有能な職業人であった。原作を読んでいる最中はさほど松子への思い入れは強くなかった、いや、むしろ鼻持ちならない女だと思ったこともあった(岡野の妻を見て「勝った」と思い込むところなど)はずなのに、いつの間にか僕は松子に惹かれ、心の中に自分なりの松子像を勝手に作り上げていたのである。しかも、中谷美紀は驚くほど見事に松子を演じていた。思い描いていた以上に松子らしい松子を演じていた。そんな中谷美紀=松子が愛しく仕方なかった故に、スクリーンの中での恵まれない(出番が少ないという意味でも)松子が可哀想で仕方なかったのである。だってさ、予告編とかでも、印象に残るのは子ども時代の松子を演じた女の子(彼女も素晴らしく好演していたが)でしょ? タイトルロールを演じ、映画の「顔」となるべき中谷美紀=松子なのに、その割には見せ場が少なすぎない?
僕としては、華やかで輝いていた頃の松子の姿をこそ描いてほしかったのである。中島監督、余計な話はいいから、もっと松子を! エンディングのクレジットが流れる中、僕は心の中でそう叫んだ。
* * * * *
使われている曲はどれも素晴らしかった。劇中歌を集めたCD『嫌われ松子の歌たち』も買った。クレジットを見たら、アイドル歌手が歌った『USO』の作詞は近田春夫だって。さすが!
意外なのは、昭和歌謡テイストあふれる主題歌にボニー・ピンクを起用したことだ。そのジャンルの曲も見事に歌いこなせる女性シンガーなら昨今いくらでもいる。代表格は、椎名林檎、小島麻由美、奥村愛子、ドーリス、渚ようこあたりだろう。なのに、なんでボニー・ピンク? そう思っていたのは僕だけじゃないだろう。
しかし、この主題歌が素晴らしい。歌詞も曲もアレンジも、考えられる限り最上級のものだ。これを作り上げたボニー・ピンクもアッパレだが、指名した監督もアッパレ。中島監督、やはり見る目はある。まあ、次回作に期待しようかな。
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