ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

絹からちょっとはなれまして・・

2006-02-06 17:12:48 | 着物・古布

今日は「麻」のお話しです。夏場の着物は「絽・紗」が主流ですが、
上布や縮みも、またさらりとキモチのいい素材です。
まだ冬の真っ盛りだというのに夏場のお話しもなんですが、
「麻」という素材について、ということでご了承下さい。
麻の着物が手近になかったので、過去の作品の写真から「麻のトート」を。
上は麻の帯、柄部分はもう傷んでいましたので、それ以外のところで。
縫いつけてあるのは生成りの木綿、「隈取」の絵は、型紙を切って
ステンシルしました。歌舞伎にうとい私は、これが何の隈取であったか
すっかり忘れております。「鳴神」とこれと迷ったことは覚えているのですが。
あとは周りの糸を少し引き抜いて、ミシンでとめつけました。
下のトートは「麻の帯芯」です。まだ未使用でしたが、長く放置されていたもので
ところどころシミがでてました。これもいいとこ取り・・。
柄についているのは、息子の甚平を縫った残りの「浴衣地」です。
持ち手の外側と、中袋も同じ浴衣地、上のバッグの中も「矢絣」の浴衣地です。
軽くて肌触りがよいということで、あっという間にお嫁入りしちゃいました。
今年もこのセンで作ろうと思っています。これは横幅が30センチ前後という
小型トートでしたので、もう少し大きいのを・・。

さて、それでは「麻」のお話しです。
日本は四季があり、北から南へと伸びる長い島国、植物の宝庫です。
人は「繊維」のとれるものからはなんでもとりました。
その代表が「麻」「こうぞ」「みつまた」「桑」「科」「藤」など。
現在でも「シナ布」や「藤布」は、わずかながらその技術は伝えられています。
素材の中でも「麻」は太古の昔から、広く長く利用されてきた繊維です。
実は「麻」を夏素材にするようになったのは服飾文化が進んで、
木綿・絹といった素材が一般の普段着に浸透してから。
それまでは夏も冬も「麻」は庶民の着物としてたいへんポピュラーなものでした。
身分の高い人が夏用に使う頃になっても、庶民は年間通して
麻を利用していました。以前「繊維」のお話しのところで書きましたが、
麻は夏向きの素材、つまり通気性がいい、これが冬には「寒い」ということになり
和紙の着物を下に着てその上から麻を着る、等の工夫をしていました。
おおまかにいいますと古代、先ずは麻や桑など身近な草木で
「繊維」のとれるものからいろいろと糸をとっておりました。
やがて高級なものとして絹が伝わり、貴人は絹、庶民は麻が主流で、
そのほかに、それぞれの地方によってよく取れるもの、栽培できるものを使い、
やがて良いものは広く流通する・・という状況になっていったわけです。
麻は大麻が主流でしたが、戦後「大麻法」により、
栽培するには許可がいるようになったこと、また輸入なども増え、
日本では今栃木を初めとした僅かなところでしか作られていません。

そもそも「麻」と呼ばれるもの自体、さまざまな種類があります。
たとえば最初に出た「大麻」、これが一番「麻」らしい?麻、
このほか「苧麻」「亜麻」「ジュート麻」等々・・。
しかし植物学的にいうと、実は大麻は「アサ科」苧麻は「イラクサ科」
ジュート麻は「シナノキ科」・・・と、それぞれ違うのです。
要するに麻に似ていて繊維がとれる・・ということで「麻」の仲間、
とされているのですね。
で、今日お話しするのは「苧麻」、ちょまと読みます。別名「からむし」
これが麻製品の中でも高級とされる「上布」の材料となる「麻」です。
苧麻は、北から南まで栽培は可能なのですが、いまや作るところも減り・・
という「よく聞く話」ですが、そういうものがどんどん衰退しています。
産地としては現在福島が有名で、越後上布はこの会津の苧麻から作っています。
苧麻は夏に1~1.5メートルくらいに伸びますので刈り取りをします。
先ずは乾燥、それから水につけて外側の皮をこそぎ落とします。
繊維質だけになったものを乾かし、これから繊維を一本ずつ引くわけです。
この作業を「苧績み(おうみ)」といいますが熟練を要するたいへんな作業です。
1メートル少ししかとれない繊維を口と手指と爪で、
途切れないように太さが一定になるように寄り合わせて糸にしていきます。
こうして出来た細い糸をさらにより合わせて「上布」を織る糸ができます。
これをかすりに染めて、いざり機で織り上げるわけですね。
「越後上布」には更に「雪さらし」という、他の上布にはない作業があります。
穏やかな晴天の日に雪がたっぷりの田んぼに、織りあがった反物をひろげて
さらします。科学的にいうと、雪が蒸発するときのオゾンによる
漂白効果・・なのだそうですが、色物はより色鮮やかに、白いものはより白く、
なんか「漂白剤のロゴ」みたいですが、実際そういう効果なのでしょう。

ちょっと脱線ですが・・・
昨年新潟で大きな地震がありました。あのあと、NHKのドキュメンタリーで、
この「苧績み」をやっているおばあちゃんのリポートがありました。
家が半壊し、避難所に逃れたのですが日に日に元気がなくなっていく・・。
やっと少しの時間だけ帰宅が許された日に、息子さんが家に戻り、
崩れかけた家の中から「苧麻と苧績みの道具」を探し出して、
おばあちゃんに渡しました。みるみる元気になって、黙々と「苧績み」を
始めたおばあちゃんの「手わざ」のすごさ・・。圧巻でした。

もうひとつ脱線、これは呉服屋さんから伺ったお話です。
よく「作家モノ」といわれる反物があります。たとえば有名な「友禅作家」や
「人間国宝」とか「無形文化財」といわれる人達の作品、
そういうものには作者の落款がはいっていたり、証書が貼られたりしていますが
高級なものは「桐箱」におさめられ更に「箱書き」が付けられます。
この箱書き、友禅なら「友禅師だれそれ」と、名前が書き込まれるわけですが
「越後上布」の場合は「麻匠」の名前が入ります。
この麻匠というのは、染めた人でも織った人でもありません。
手で紡いだ麻は、それぞれ微妙に細さが変わります。人によって、麻によって。
麻匠は、まずよい苧麻を選び、できた糸を見極め、織り手を選ぶ・・
つまりは総合プロデュースのような役目でしょうか。
それをやった人の名前が箱書きされるのです。私は箱を見せていただいたのですが
確かに「麻匠・・・」と書いてありました。その他の地域の上布については
私も知らないのですが・・。

さてさて、麻はそんなわけで昔は庶民のもの今や高級素材、という
数奇な運命をたどった繊維です。暮らしの中で辺りを見回せば、
シーツ、麻ひも、コーヒーの袋、芯地、シャツ・・麻の仲間は
今でも生活の中に根付いた繊維でもありますね。
宮古上布は距離より遠い存在・・越後上布は箱書き見ただけ・・
こんな「庶民」だけど、麻ちゃ~ん、大好きよぉ!

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7 コメント

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へえ~~~~! (萬屋千兵衛)
2006-02-06 22:47:16
テレビ番組で「トリビアの泉」とか言うのがありますが、私も見たのが一度しかなく、よく知らないのに例に出すのも何ですが、、、「10へえ」くらい言いました!(笑)

同じ麻の着物とは言っても、色々あって、芋麻(ちょま)が上布の材料であって、越後上布は会津の芋麻から作ってる。つまり、同じ「麻の着物です」と言っても、麻自体が別種だと言う事なんですね?だから、同じ麻の着物でも原料の希少性、糸の紬具合、機械織りか手織りかとかで、手間も違えば価格も違ってくるという訳ですね!

なるほど、よーく判りました!(笑)

例えば、平安時代なんかだと、庶民はほとんど麻の着物を着ていて、寒い時には内側に和紙を重ね着したり、同じ麻の着物を重ね着していたという事なんでしょうね?木綿はまだ無かったという事ですから、寝るのも麻のゴザみたいなものだったのかな?なんだか、可哀想!気候も、今よりずっと寒かったでしょうにね?木綿の着物は、もっと江戸時代近くになってから栽培されるようになってきたんですものね?

この調子では、次回は木綿着物の歴史に行くのが必定ですね?(笑)是非、そこら辺の、庶民の服飾文化の歴史をお聞きしたいし、期待してます!(笑)

私、実は今、ある実験をしているのです。今度の日曜日までに実験結果をまとめて発表しようと思っているのですが、その前に木綿の歴史を講義願います!m(_ _)m
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連絡事項?? (とんぼ)
2006-02-06 23:14:15
千兵衛様



先ずは昨日のステッチのことですが「バスケットステッチ」というのはどうも古い呼び方らしく「ボタンホールステッチ」で検索したらでできました。



http://www.totsuka-shisyu.com/basic_stitch/button_hole.htm#46



こちらの下の方には「千鳥がけ」がででおります。

こんなに丁寧にはいたしませんが、ようするに縦横にあまり動かないようなステッチということですね。



http://www2.edu.ipa.go.jp/gz/d1home/d1sew/d1stit/IPA-hom180.htm





講義なんぞと、それほどのこともないのでなにやらお尻の座り具合がわるいんですが・・。えーと「木綿」につきましては去年の11月2日分の中で少し書いております。もう少し書くこともありましたので、追加分くらいでいってみましょうか。たいして補足するほどの知識はないと思うのですが・・。



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どうすりゃ (蜆子)
2006-02-07 09:21:49
何の本だったか「朝茶事」には絹物ではなく、麻の着物、朝露を踏んで・・・などというのを見たものですから、朝茶事に越後の雪晒しちじみを着ていきました。みんな絹物を着てるけど違うもんね~という気分、

これがしわになるなる、長い間座って立ち上がれば、うしろぎゃざぎゃざ、

これどうすりゃ、アイロンを強くあてるとちじみが伸びるのですね。低いアイロンではのびない、もちろん専門に持っていきました

あんなの着たくない、昨年、念願かなって我が家で朝茶事を実施、羅織かなドロンワークの訪問着を着ました。こと志とは違ったけど伊、しわはかんべんならない、でもやはり汗としわでぬぐなり専門やに持っていきましたが、夏は着物難儀します。あのしわどうすりゃ・・と思ってます。
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そうなんですよね! (萬屋千兵衛)
2006-02-07 10:11:37
ちょうど、休憩の時間で、ちょっと覗いたら蜆子さんのコメントが目に入ったので、お話ししたくなっちゃったのですが、本当に、あの麻ものの「しわ」気になりますよね!(笑)私も昨年の夏、麻の着物を買いたいと思ってまして、買う寸前のところで気を変えて、紗の着物にした事がありました。

麻の着物は夏涼しいと言われますが、人の話では気温が30度を超えると逆に暑く感じるとも聞きました。



ところで、蜆子さんの名前って、「しじみこ」じゃあ、ないんですよね?前々から、なんと読むのか気になってましたので、教えていただけたら、溜飲が下がるのですが、、、(笑)
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どーにもならないかも・・ (とんぼ)
2006-02-07 13:00:13
蜆子様



麻がしわしわになるのは、繊維の性質というもので、こりゃ仕方ないんですねぇ。できたシワをとることはなんとかなりますが、出来ないようにするというのはたぶんムリ。というより、実はシワがよりにくい麻とか、よりにくくするための麻混とかはあるのですが、ひっくり返していえば着物の場合、「あれだけシワがよるのはありゃホンモノだ・・」と、それがステイタス、という見方もあるのです。逆にシーツなどはしわのよりにくい麻を使うとか。例えば洋服でフォーマルドレスなどは、結婚式のたびにおなじものを着ると「あれしかない」といわれますが、留袖なら毎度違うものを着ていくと「ありゃ貸衣装だ」といわれる・・そんな感じでしょうか?厄介な素材ですが、ホンモノは吸湿性がいいし、夏場着るものですから、一度きたら「丸洗い」は必須ですね。



ところで「蜆子」さま、「けんし」さまじゃないかと思ってたんですが、違うんですか?













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溜飲さげて下さい。 (蜆子)
2006-02-07 22:57:24
は~い、私のHNは格調高く、蜆子、けんす、これは猪頭、(ちょとう)と対の中国のかわりものの世捨ての僧の名前です、と名乗ろうと思ったのですが、なに、みんなしじみこと言ってます。

私の本名から変化していった名前で、そんなに深い意味はないのですが、歴史ありまして45年まえくらい(ひえ~~)に同人誌を作っていました折からの名前です。

自分にとってはおなじみの名、もうすっかり愛着ある名前になっております。

どうぞよろしくお願いいたします。
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ひぇ~~! (萬屋千兵衛)
2006-02-07 23:23:00
本当に、歴史のある、また重みのある名前なんですね!

恐れ入谷の鬼子母神であります!m(_ _)m

「けんすさん」かあ、、、略して「けんちゃん」って、こらこら、勝手に略すな!ですね?(笑)

「けんす!」って、呼び捨てにした方が、格好いいかな?(笑)

でも、だいぶ、お姉ちゃまだろうから、失礼かな?
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