ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

洗いました

2006-02-05 15:04:10 | 着物・古布

先日の「養蚕農家」図柄の着物、この前のお天気逃してしまったので、
今日やっと洗って伸子張りしました。昨日ほど寒くなくてよかったです。
水に通したらまぁ縮むこと縮むこと・・。ちなみに元の巾は35.5センチ、
水に通したら27センチまで縮みました。伸子を済ませて乾いたものは
元通り35.5センチまで戻りました。下の写真が、左が伸子で伸ばしている方、
右は大まかに刺しているのでまだ伸びてない方です。
最初の写真のように、まずおおまかに真ん中をひろげて、あと何等分かに
ポンポンと刺して広げておき、最後にその間を埋めていく・・という感じです。
この方法があっているのかどうか、私にはわからないのですが、
一番効率がいいと思ってやっています。母もそうしていたので。




この生地は地厚で硬くて、ノビが鈍かったので、2センチおきくらいに
伸子を打ちました。紬などは縮まないので、もっとポンポンですむのですが。
結果「伸子のトンネル」になりました。片身ごろですので
3メートルくらい、伸子は150本ちょっと・・というところです。



こんなに細かくしなくても、最初の写真のようにやっておいて、
乾いてからアイロンで伸ばす・・という方法もあるのですが、
伸子をするのはラクな替わりに、アイロンかけがおおごとになります。
同じ巾になるように、波打たないようにかけなければなりませんから、
その手間を考えると、150本打つほうが、ラクーです。
染め屋さんとか、洗い張り専門の業者さんのところには、
ちゃんと巾出しの機械がありますから、それにかければいいんですけどね。
実際に着物の洗い張りの場合は、ここから糊付けになります。

ところで、私は着物を解くたびに洗い張りをするたびに
「着物」というものについての先人の知恵、というものに感嘆します。
ご承知のように、着物というものは全て「長方形」のパーツでできています。
解いたパーツを「身頃・袖・おくみ・衿・・」とつないでいくと、
ちゃんと元の反物に戻ります。縫うときも、着物で曲線を縫うのは
袖の丸みだけ、それも洋裁ならば「縫い代」のみ残してあとは裁ちおとすところを
細かくギャザーをよせることで押さえるだけ。解けば四角に戻ります。
もうひとつ、他の部分も「縫い代」の残り部分を裁ちおとしません。
全部縫いこんでしまいます。だから解いてつなげると反幅で12メートルある、
「元に戻る」、これが着物の再生にとって実に具合がいいわけですね。
着物はサイズ的に融通の利くものですが、たとえば私のように
いきなりデブってきつくなった・・というときも巾をだすことができます。
また、たとえば袖口がスリ切れた、というときなどは伸子張りをして乾かし、
仕立て直すときに、傷んだ袖口を肩の方にまわし、
今まで肩の中に入っていたきれいなところを袖口にする・・・
これでもう一度キズのない着物に戻ります。
裾も同じ、腰で切って上下をひっくり返せばOK。
更に傷んだら・・着物として使えなければ、羽織や帯、子供の着物、
あるだけの布で作れるものにかえていくわけですね。
さらに傷んだら、今度は「別布」を足してゆく。
二枚の着物から一枚の着物へ、或いはじゅばんへ・・。
これができるのも、元が全て長方形でパーツの大きさが殆どかわらないからです。

世に「うそつき」というじゅばんがあります。袖と腰巻スタイルの下だけが
同じ柄で、後は「さらし」で作られているもの。化繊もありますね。
私は嫁入りの時、モスリンとさらしで3組作って持ってきました。
ハテ、どこへいったやら・・。着倒しましたからねぇ。でも捨ててないはず!
この「うそつき」というものが作られたのは、たぶん近代に入ってから、
だと思っているのですが、これは最初から「これは普段用に洗濯はきくし、
安価だし・・」と「便利グッズ」として出来たものだと思います。
でも、この基本的なこと、つまり「見えるところだけはちゃんとして、
あとはいろいろ継ぎ足し」というのは、昔からの知恵、
ずっとやってきていることなのですね。

下の写真は、この前「襲の着物」としてご紹介したものです。
改めて見ますと、袖口と袂の「振り」の部分、外からみえるところだけ
上に着る着物と同じ生地を使っています。
これは「生地がなかったから」ではなく、襲(かさね)いう着物の性質上、
とにかく同じものを重ねて着なければらならい、当然重いし動きが悪くなります。
花嫁の襲などを除いては、普通はこのように、中着はみな「胴貫き」
つまり、袖の真ん中部分と胴体の部分は薄手の平絹などを使いました。
着易くするためと、経済的でもあったからでしょう。
「うそつき」は布を大切に使う、たりないものは別のもので補う、
という知恵からきたものではありますが、結局は、この中着と同じように
「見える部分をきちんとする」ということであっても、
決して「中はなんでもいいや」ではなかったと思います。
せめて外から見えるところだけでも・・という気遣いではなかったかと・・。
そういう暮らしの中で、女たちは、いかに布をムダにせず、
見栄えもよくつくれるか・・知恵を絞り、心を砕いたのでしょう。



この下の写真は日本画家「土田麦僊」画伯の「髪」という作品です。
これは手持ちの本からとったものですが、著作権なにがしということに
引っかかりましたら恐れ入ります。ご連絡下さい。
この絵の女性のじゅばんも「うそつき」です。
浴衣でしょうか・・。こんな風に、足りないものを足して、
大切に着続けたわけです。今販売されている「うそつき」は、
昔からの知恵を更に簡便に安価で手に入るように考え出されたものだと思います。

一年365日、生まれてから死ぬまで着物で暮らした時代の人なら
「こんなもんお金出して買うようなものなのかい?」だったかもしれません。



着物というものはリサイクル・リフォームして当たり前、
そうできるように作られているものです。この先人の知恵を
使わないテはありません。和裁はいまや特殊技術になってしまいましたが、
少しくらいなら出来そうです。もう着ない着物から「作り帯」を作る、
羽織の袖とマチをとって、家の中で着るちゃんちゃんこにする、
別布足して、全部クッションにしちゃう?それもいいでしょう。
あわせるのに都合のいい「黒のちりめんの着物」なら、
柳行李いっぱいありますので、ご用命下さい?!

忘れておりましたが、ブックマークの下の方に「和物工房和之介」という
名前がありますが、今締めておりますHPです。
質問欄になっておりますので、何かご意見やご要望、
コメントでは「いえないこと」身の上相談??いやっそれはっ・・!
つまり長くなるかなとか、お返事でやりとりが必要かな
というようなことがございましたら、こちらの欄をお使い下さい。
直で、私のところに届きます。メルアドは必須ですが、
お名前はHNでもOKですので・・。

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8 コメント

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あのお茶目な顔が描かれた (ぶりねぇ)
2006-02-05 19:05:18
養蚕図の生地、ついに洗われたのですか。

それにしても、伸子張り150本とは、スゴイ!

ひょっとして、500本ぐらい伸子を持ってらっしゃるのかしら♪



ございますです。 (とんぼ)
2006-02-05 20:02:45
ぶりねぇ様



母からもらったもの、ヤフオクで探したもの、いろいろで、張木本体も何組か・・伸子の方もたぶん1000本くらいはあると思います。状態の悪いもの、細めのものとりあわせててせすが・・。おくみ・衿用の小さい伸子もあります。伸子は京都の専門店で買えますよ。長さと本数で送ってくれます。ご入用の際はご一報を。
わーお! (ぶりねぇ)
2006-02-05 20:34:32
大小取り混ぜ千本ですか。

たぶん、伸子張りが必要な時は、とんぼ様にご依頼するか、できる方をご紹介いただくか、になるかと思います。(^^;
すごい! (萬屋千兵衛)
2006-02-05 21:22:30
1000本!

弁慶も真っ青ですね?(笑)

解いた布地を反物に縫い合わせるのは、パズルのようにハメ合わせてから縫うのだろうとは想像できるのですが、縫い方は、どのような縫い方で、どの程度の間隔で縫うのですか?伸子張りして引っ張る訳だから、やはりちゃんと細かく縫うのでしょうか?
ほんとすごい (蜆子)
2006-02-05 22:11:24
伸子のトンネル、これだったら端がなみなみにならないでしょうね。こんなにこまかく伸子うたれたのでしたら、

それにしても縒りの強いもしかしてお召し?なんて見ていましたら、やはり縮むのですね。生地固くなりませんでした?

とんぼさん、ご自分で何もなさるのですね。すご~い。

私ほとんど専門家頼み、文句いうことだけは知ってるという喜ばれない人、アイデアだけは言って具体化は専門家ばかり、外注代に泣くことしばしばです。
なんといいますか・・ (とんぼ)
2006-02-05 22:16:42
千兵衛様



布によりけりですね。どんな布であっても縫い合わせるのに重ねてしまうと、つまり2枚の布を普通に縫い合わせるやり方ですね、それだと、縫い代部分ができてそこが盛り上がってしまいます。それで各布は「突き合せ」にしてかがり合わせます。縫い方は、千兵衛様は「刺繍」のステッチ名をご存知でしょうか、その中のバスケット・ステッチというのと同じ方法でかがり合わせます。普通にザクザクとつなぎ合わせてもいいようですが、それだと横にずれたりするので、私はいつもバスケットなんです。ただ、どれが本式なのかはわかりません。母は、布の種類や厚みによって、普段用のものなどはザクザクやって、いいものは千鳥がけしていたように記憶しています。本文にも書きましたが、紬など伸びないものは伸子もそんなに細かくはしませんので、それほどひっぱられる力も少ないのです。けっこうおおざっぱでも大丈夫です。ちりめんなどは細かく縫い合わせます。現在専門店に出すと、どうも機械でやるようで、ロックミシンの縫い目のような感じでつながっております。

私の場合はほとんど着物に仕立て直すのではないので、つなぎあわせるといっても袖2枚とか、袖とおくみと衿とか・・それくらいなので、短くていいんですが、全部つなぎ合わせるのはなかなかの仕事だと思います。最近半幅用の張木も手に入れたので、おくみや襟などは全部つながず、おくみ2枚だけ・・とやっております。手抜きですー。
なりましたよー (とんぼ)
2006-02-05 22:24:07
蜆子様



水にぬらしたとたんに板のように・・はおおげさですがカチカチに縮んで硬くなりました。でも伸子張りというのは本当に不思議なもので、乾くと「ハリがあって柔らかく」なるんです。今回は身頃だけ先にやりましたが、まだ水のとおっていない袖と比べても、明らかに柔らかいのです。不思議です。よれよれの錦紗などはピンとしますし、硬い紬はふわりとする。伸子をやるようになって「伸子というのはただ伸ばして乾かすだけじゃないんだ」と気がつきました。伸子とお日様の光と風の恵み・・としか言いようがないんですが。
なるほど! (萬屋千兵衛)
2006-02-06 22:11:57
やはり「突き合わせ」なんですよね!納得!(笑)

バスケットステッチと言う方法は判らなくて、インターネットで検索しても、イマイチ技法が載ってないのですが、「ロックミシンの縫い目のような感じでつながってる」という言葉から推し計りますと、バッテンのような縫い方をして、生地同士がずれないように縫い合わせる方法なんでしょうか?

その他にも、色々と丁寧なご説明、ありがとうございました。今すぐ、伸子張りをしようとは思ってないのですが(笑)「いざ鎌倉!」の折りには、知識を身につけておいた方が得策と思いまして(笑)お聞きした次第であります。どうも、ありがとうございました。m(_ _)m

なにやら、次の教室で麻の講義が始まっておりますようなので、失礼して、行って参ります。(笑)

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