ほばーりんぐ・とと

ただの着物好きとんぼ、ウンチク・ズッコケ・着付けにコーデ、
あちこち飛んで勝手な思いを綴っています。

ポリとウール

2010-02-05 12:40:31 | 着物・古布
写真はまた無関係ですみません、ご近所の椿、あんまりきれいだったもので…。

着物が忘れられ始めて久しいですが、近年浴衣やアンティーク着物などから、
着物を着たい、着ようという若い方が増えてきてくださったのは、嬉しい限りです。
ただ、モンダイも多々あるわけで…。

あれこれありますが、今日は「繊維」のお話です。
まず、繊維の説明からいたしましょ。
「ポリ」と読んでいるのは「ポリエステル」、原料は石油です。
化繊の元祖「ナイロン」を作った人が開発しましたが問題点が多く、
その後イギリスで研究が続けられ、1941年に成功しました。戦前のことになりますね。

それまでの「化学繊維」といえば「ナイロン」、
これはストッキングで知られました。なんか書いた記憶があったので調べたら、
「ストッキング」について書いてました。こちらです。(これ、着物ブログなのに…)
ともかく、ナイロンですが、ストッキングだけでなく、ほかのものにも使われ始めましたが
なんというのか通気性とか感触とか、いろんな意味で使いづらかった記憶があります。
「なんだナイロンじゃないの」という類の言葉をよく聞いたように思います。
そのナイロンに代わって現れた化繊が「ポリエステル」だったわけですが、
これはいいことずくめ、みたいな化繊でして、あっというまに「衣料部門」に入り込みました。
日本上陸は1957年、東レとか帝人とか…。
今「シルック」というのがありますが、あれが「東レ」のポリエステルですね。

次に「ウール」、言わずもがなの「羊さんの毛」ですが、
日本には卑弥呼の時代に、すでに伝わったといわれています。
ただし、当然のように技術ではなく、伝来したのは「ウールで作られたモノ」です。
羊さんも、日本まできたことはあったらしいですが、
農業国の日本では、羊飼いの仕事は生まれなかったわけで…。
その後、よく使われたのは戦国時代、特に武将の陣羽織などに使われました。
いわゆる「羅紗(ラシャ)」ですね。
しかし、モノがモノだけに、庶民にはまったく縁の無いものであり、
ようやく「服地」として入ってきたのは明治になってから。
これは、当然、維新によって「洋装」が入ってきたからです。
着物にウールが盛んに使われるようになるのは、さらにさらに時代が下がって昭和です。

着物としてのウールとポリは、ウールの方がちと早いわけですが、
その登場した時期と、それぞれの特性で、立ち位置がちっと違うわけです。
まず、ウールはわかりやすいです。
日本古来の「着物の素材」は、当然長い歴史があるわけで、
新参者ウールは、例え「洋装の中では最高級」の素材であっても着物の中では一番下。
それと同時に、素材として使いやすいというのがあって普段用に重宝したわけです。
ウールの特徴は「暖かさ」です。
また逆に羊毛を細く縒った糸を使った「サマーウール」は、
元々が夏の背広用生地でしたが、その通気性と肌にベトつかない清涼感から、
ポーラーという名前で「夏着物」の素材として使われました。
その後、シルクとの交織や化繊との交織などがでてきました。

小説などでは「セルの袴」なんて言葉が出てきます。金田一耕介氏の定番スタイル。
これはウールの袴のこと。ここで「着物の歴史」です。
元々庶民も水干などの袴をはいていましたが、時代が下がって江戸では、
袴は「武家」の正装になっていて、庶民が袴をはくのは「礼装」がほとんど。
あとは同じ袴でも、ズボン感覚の「野袴」や、職業による「たっつけ」などでした。
つまり、一般庶民の男性が袴をはくのは「必要があって」のことだったわけです。
明治になって武士がいなくなった社会では「袴」をはくのは一般男子の「礼装」、
もしくは着流しではちょっと、といった場合。
つまり庶民も袴をズボンのような感覚で履くようになったわけです。
紋付で行くほどではないけれど、ちょっときちんとしていきたい…という場合には
高級な「平袴(仙台平・米沢平など)」などより「ウールの袴」が重宝だったわけですね。

こんなふうに、時代の流れや社会の状況で、ウールは実は高級素材でありながら、
和服の中では「普段着」の木綿と同列、もしくはその下くらいだったわけです。
木綿は、江戸時代は絹を着られなかった庶民にとって「一番身近な繊維」でしたから、
よそゆきも普段も同じで、それを季節によって袷にしたり、綿を入れたり、
単にしたりと、縫い替えて着ていたわけです。
ウールが出てきたころは、とっくに庶民も絹を着られていましたから、
すでに木綿は普段用、単で着るのが普通になっていました。
ウールはこれと同列で考えられたわけですから、裏のつかない単なのですね。
こういう流れと順序によって、着物の「繊維によるランクづけ」があるわけですが、
同じ単でも、絹のものなどは着る季節が限られますが、
木綿やウールは真夏以外は一年中単で着られます。

いかがですか?一応「今のお約束事」として、繊維によるランク付けをしましたが、
ただ「庶民が絹を着てもいいようになったから、それまで袷だ単だと、
めんどくさく縫い替えていた木綿を、普段用にして単で着るようになった」だけなのです。
つまり、今木綿は単の代表ではありますが、別に裏をつけてもちっともかまわないわけで、
ウールだって同じだと思います。
ただし、袷になったからといって、着物でのランクは上がりません。
あがるとすれば、これから時間をかけてでしょう。

ウールはそんなわけで、ちょっと古い方にとっては
歩いていける範囲の「超」普段着、だったりします。
実は染色の技術なども進んで、染めたときの発色もよく、
また厚みや織なども改善されて、オシャレ着としてお出かけにも着られるほどになりました。
一時期は銘仙の伊勢崎、木綿の久留米などのあちこちの織物産地が、
ウール織物を手がけ、普段着物は木綿よりウールがよく見られるようになりました。
私くらいの年代の記憶に残る「着物に割烹着、買い物籠に別珍のたびにゲタ」なんていう
女性の日常的な姿が見られたのは、そのころです。
その後、着物離れが急速に進み、普段着物の需要は激減し、
着物といえば「振袖・留袖・訪問着」…になってしまってからは、一気に廃れました。
今はウールの反物を探すのも一苦労です。

さて、次にポリですが、実は私のような古いことばかり頭の中に入っているものにとっては、
こんなに説明に困る繊維はありません。
私はポリも着ます。汚れるのがわかっていたり、すごく汗かきそう…なんてときは、
とにかく「洗濯機でガラガラ回せて、パッと乾いてアイロンいらず」が、
そりゃもぉ便利ですから。
でも、私にとって、ポリという繊維は、本来「着物外」のものなのです。

化繊というのは、人間が技術で作り出すものですから、太い細いも糸の形も
いろいろ変化させられるわけで、さらには「通気性」とか「耐水性」とか、
あれこれ足し引きができます。もちろん欠点もありますが、
とりあえず「着物」ということでいうなら、地模様も織り出せれば、
鬼しぼのようなざらざら縮緬もOK、発色もよく、刺繍や箔も使える…。
たいへん結構な素材のため…浴衣から振袖まで、なんでもできてしまうのです。

ウールはその出自と素材の特徴から、使い道がちょうどよく決められ、
「普段着ランク」に落ち着かせられました。
ところが、ポリはどうにでもなるわけで、振袖でもできてしまうわけです。
振袖までできるのだから、絹と同等か…というとこれがねぇ…違うわけです。

今の時代、洋装では「化繊」は重宝がられる素材です。
それは洋装には「デザイン」というものがあるからで、
洋服のデザインは無限といってもいいくらいです。
大昔なら、動物の骨や針金で型を作って膨らませていたスカートも、
すれたら肌が傷むほど糊付けして立てた衿も、化学素材を使えば、
軽くふんわり広がったり、芯でもはいっているかのようにピンと立ったり、
しなやかに見えて実はカタチが崩れないとか、繊細に見えて引っ張っても切れないとか。
そういうものが、洋装の複雑なデザインを実物にする可能性を高めているわけです。
また洋装では、一枚の服の中に「別素材」を使うことも珍しくありません。
絹のドレスに化繊の飾りとか…。

つまり、着物と洋服では化繊の使いようも位置づけもまったく違うのですね。
だから、私などはいくら振袖までできても「化繊は化繊」という意識なのです。

今、着物を着たい、着ようという人にとってモンダイは「高い」ということと「メンテ」、
解くだけでもお金を取られます。仕立てるにいたっては、すでに「特殊技術」。
そういう状態では、きれいで、安くて、洗えて、虫が食わなくて…の化繊は、
言ってみれば「夢の素材」でしょう、しかも普段小紋から振袖まであるのですから。
しかし私は、今のかたに「ポリ」は着物ではどんな立ち位置のものなのかを、
よくわかっていただきたいと思っています。

人類は、その身を守ったり飾ったりするための素材を、
太古の昔から繭の糸や動物の毛、毛皮や皮革、植物の茎や皮や実、
そういった自然の中のものから、作り出してきました。
自身も自然の一部である人間は、自然の恵みというものを使ってきたわけです。
大切に最後まで使う、というのは、別の「命」を使わせてもらっているからだと
私はそんな風に思っています。
そりゃまぁぁ石油だって、元を正せば植物だと言いますけどねぇ。

いくら化学が発達して美しい繊維ができても、
たとえばヨーロッパの高貴な方々のドレスや服などはシルクやウールが使われ、
インドのマハラジャ一族の女性は、色鮮やかなシルクのサリーを着ます。
つまり、イザというときゃ「ホンモノ」なわけです。
今日、例の「相撲界の引退話」で、ある人が言いました。
「確かに相撲界は体質が古い、いろいろと近代化していく必要がある。
しかしそれはただ新しく全部かえるということではなく
『引き継いできた伝統というものからくる価値観』を大切にしなければならない」
着物やその素材でも、同じことが言えると思います。
どんなに成人式で赤いや黄色の紋付が着られようと、前帯やら片肌脱ぎが出ようと、
それはあくまで「一部の違う感覚」であって、着物本来のことで
さまざまな変えてはいけないこと、変えないほうがいいこと、は、あると思います。

ポリの振袖が悪いといっているわけではありません。
以前も書きましたが、生活様式や、暮らしの習慣が変わった今、
たった一日の成人式のために、とか、作ってもどうせ一度しか着ないとか、
その人なりの事情や考えがあるのなら、それはそれでポリでもいいと思います。
ただ、絹とおんなじなら安いほうがいいじゃない…は、理解不足だと思うのです。
普段着物も、若ければよけいにお金がかけられないでしょう。
ポリから始まって、ポリを楽しんで、それはそれでかまわないと思いますが、
それは「段階を踏んでいく一歩」だと思ってほしいのです。
いつかきっと絹を着る、麻を着る…そういう夢を持つための一歩として、
ポリを選んで着てほしいと思います。

口うるさいことを、と思われるかもしれませんが、
長い時間をかけて伝えられてきた技術や素材が、単純に安い、便利、ということで
化繊にとってかわられていくことがあったら、寂しいと思うのです。

価値とか価格とか、そんことについてもまた書いてみたいと思っています。







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メンテの高さが・・ (陽花)
2010-02-05 22:55:32
昨日たまたま聞いたのですが、成人式の時に
買ってもらった振り袖をお友達の結婚式に
着ようと思ったら、母親にクリーニング代が
高くつくからリースにしなさいと言われたと
聞いて驚きました。振り袖があるのに借りるの?一度きりしか着ない振り袖なんてその方が
もったいないですよね。
うちはしっかり元が取れるだけ着せましたが、
絹物はメンテが高くつくからザバザバ洗える
ポリになってしまうのかしら。
皆さん着物を一度着る度クリーニングに出されているのですか?
私はシミを付けてしまったら出しますが、
普段は何度も着てからしか出しませんけどね。
返信する
着心地とお洒落と機能性 (こいけ)
2010-02-05 23:41:25
絹、木綿、ウール、ポリ、選択肢が多いのは幸せ、それぞれ長所を活かして着分けています。絹の普段着だって、ポリの礼装だって有り、着分け方はその人の生活スタイルによるのではないでしょうか。

ちなみに私は、普段着は着心地重視でウール、木綿、麻、特に意識してウールを作っています。よそゆきはお洒落重視で主に絹、悪天候用、膝がすれる稽古用のよそゆきや上着は機能性重視でポリを活用しています。この着分け方、洋服も同じです。

ネットで全国の呉服屋さんから購入できるようになって、またウールや木綿の着物が買えるようになりました。あまり難しく考える必要はないんじゃないかと最近は考えています。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-02-05 23:45:27
陽花様
なんかお金のかけ方がおかしいですね。
着物というものが「伝えられるもの」では
なくなっているからでしょうか。
私も、汗ジミなどは自分で手当てして、
留袖などは、できれば一度で出しますが、
それ以外はしばらく着ますよ。
着物ってそういうものですよね。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-02-05 23:50:51
こいけ様
おっしゃる通りなのです。
私の言葉がたりないのですが、
要するにこいけさまのように、
きちんと自分の考えをお持ちになって、
上手に選択することが必要なのです。
それができればいいなと、
そう申し上げたいのです。
今はただ、安いというだけで、便利だからと
いうだけで、ポリが選ばれてしまう。
そういうこともあるわけです。
それだと、絹物や麻のよさもわからないし、
なにより「絹」にかかわる仕事をする人の、
仕事も技もなくなってしまうのです。
難しく考えているわけではなくて、
もっと着物の基本的なことを知ったほうが、
結局はどちらにとってもいいのではないかと
そんなつもりのお話しなのです。
説明が下手ですみません。
返信する
そうなんですよ・・・ (りら)
2010-02-06 01:32:20
陽花さんが書かれていますが、着物の手入れについて、最近は本当に神経質になってますよねぇ。
「これだったら手軽に洗える」というキャッチフレーズが「絹物は大変!」に拍車をかけたのだと思うのですが・・・

絹物を毎回着るたびにクリーニングに出したりしていたら、あっという間に布が痩せて、「何代も着られますよ」なんてとんでもない話になってしまいますよねぇ。

ポリについては、「見た目絹と変わらない」と言われますけど、着ている自分は化繊だと知っているわけで、柄行だけが訪問着でも「礼を尽くすことにはならないんじゃないか?」と思ったりします。
返信する
身の丈 (こいけ)
2010-02-06 11:13:37
ポリなんて、木綿なんて、ウールなんて…、絶対に正絹でなくちゃと言う人もいらっしゃるのです。失礼いたしました。

百聞は一見にしかず、馬には乗ってみよと言いますか。実際に着てみれば長所・短所がわかります。化繊は便利でも着心地は劣る、一張羅にするのは寂しいけれど、裏方にも回る立場なら気楽でいい。長所・短所、どちらをとるか。

今はだれでも何でも着ることができる時代です が、時々、世が世なら庶民の私には贅沢な話、ありがたいなあと感じたりもしています。
返信する
自分の中ですこし分かってきたかな~って感じです。 (えみこ)
2010-02-06 12:49:01
知識のひけらかしでなく、異論議論をおそれずに
おりにふれてお話ししてくださるとんぼさんのような方は
ありがたいと思います。
とある雑誌で外国のデニムにバラを刺繍された生地であつらえられた着物をお召しの女優さんがいらっしゃいました。
それがどんな経緯の生地で誰が作ったか…も必要でしょうが
どこまで着てゆけるものか、それは見ているあなたの判断、では
いつまでもそこどまりになってしまう。
伝えてゆく事が必要だなと思います。
返信する
勉強になります (きもの大好き)
2010-02-06 14:59:00
いつも拝見させていただいて、参考にしています。母が仕立ててくれたものですから、絹なのかポリなのか交織なのか、よくわからずに着ています。
最近では呉服屋さんでも見分けがつかない物もあるとか
ところで話は変わりますが、喪服のエモンですが、先日、美容師さんが衣紋を大きく抜いていたので、びっくりしました。喪服は抜きすぎないようにと若い時習った記憶があるのですが、記憶違いでしょうか?
返信する
抜け落ちていました。 (蒔 糊美)
2010-02-06 16:49:39
【木綿やウールは真夏以外は一年中単で着られます】
 そーでした。忘れていました。そーしていたのに私・・・。   ア然ボー然
なんだかとんぼさんには、私が落としたり忘れてきたりするものを
「ほれ、この前あずかっておいたゾぃ~」と
思い出させてもらってばかりです。
 いつも ありがとうございます❤❤❤ ブチュ~
 お世話をおかけしますー。
返信する
Unknown (とんぼ)
2010-02-06 20:26:57
りら様
「洗える着物」「洗えない着物」…
なんてヘンなんですけどねぇ。
結局、いろんな知識が受け継がれてこなかった結果、ってことなんですよね。

絹とポリを素材として差別するつもりは
ないんですが、たとえば民族衣装なんかは
必ず「その衣装に使われる素材」を
ちゃんと使いますよね。
ポリはあくまで「フェイク」なんだと
そういう意識で、価値観をもってほしいと
そんな風に思うことも古いのかな、
なんて思います。
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