酪農大学名誉教授 荒木和秋著 “よみがえる酪農のまち”の紹介。この本には、放牧酪農経営のことが書かれていたので、大変参考になった。
『本書作は、20年にわたる壮大な農家群による「社会実験」の記録である。自然科学分野では実証実験の記録の成功は、再実験によって有効が証明されるが、社会科学の場合は長い時間と多数の農業者を対象とするため簡単にはいかない。足寄町の事例は、既存の農家グループによる集約放牧事業の導入による経営実験と新規就農者による再実験というべきもので、見事に放牧経営、定置放牧の効果が実証されたことは、日本の農村社会において極めて稀な事例である。
この「実験」の成功は、集約放牧と定置放牧の経済的有効性が示されたことで、日本における放牧の普及の可能性を示すものである。現在の日本における酪農の経営方式は、重装備の施設、機械と輸入穀物を使った高泌乳牛酪農が展開している。この経営方式は、アメリカの飼養管理技術を導入した工場型畜産で、北海道においてもその傾向を強めている。
しかし、これまでの規模拡大による多額投資、輸入穀物による高泌乳牛酪農の追及は、国際競争力の低下のみならず、家族労働に過重労働を強い、乳牛の疾病増加、農地の許容能力を超えた糞尿の投入による環境問題、等を引き起こしている。
また、より深刻な問題は、過重労働や嫁不足などによる後継者の離脱で離農が増加し、農村の衰退が深刻化していることである。時あたかも2020年の春は、世界中が新型コロナウイルスの蔓延で大混乱に陥り、社会・経済システムの大転換が予想され、酪農生産のあり方も問われている。 (後略)』
私の従兄も農地130ヘクタールを持ち、牛500頭(乳牛250頭、肉牛250頭)の酪農をしており他人ごとではない。十勝の農家戸数は、既述の理由などから5分の一に減って約5,000戸であり、日本の食料基地と言われる十勝であるから、地球温暖化と共に、何とかしなきゃと思う。参考までに、宮崎県と全国町村会のホームページに書かれていたものを載せよう。
【宮崎県ホームページより】 『平成22年に本県で発生した口蹄疫では、29万7,808頭もの家畜の尊い命が犠牲となり、畜産業のみならず、地域経済や県民生活に甚大な影響を及ぼしました。その発生から、今日4月20日で10年となります。当時は次々と感染が拡大し、都道府県で初となる「非常事態宣言」を行うほど困難な事態に直面することとなりました。そのような厳しい状況の中、全国から温かい支援をいただきながら、生産者のみならず、県民総力戦で、見えないウイルスの封じ込めや感染の拡大防止に取り組み、8月の終息宣言を迎えることができました。(中略)
あれから10年。奇しくも私たちは、再び見えないウイルスとの戦いに直面しております。現在、世界的に猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症について、本県では、人の往来が多い4月を「感染拡大防止強化月間」と位置づけ、感染対策の徹底に努めてまいりました。これまで感染集団(クラスター)の発生や経路が不明な感染までは確認されておらず、市中感染が広がる状況にまでは至っておりませんが、感染が拡大している地域を訪れた方やその接触者など17名の感染者が確認され、予断を許さない状況にあります。
【全国町村会ホームページの佐呂間町長の言葉)
『本町の歴史は、明治27年にアイヌの人達が住んでいたこの地に半農・半漁を営むべく、青森より和人が定住したときから始まった。
現在、農業は年間を通して安定した収入が得られる酪農が中核となっており、乳牛約10,600頭、肉用牛約11,000頭が飼育されている。
昨年の9月11日、ニューヨークの貿易センタービルがテロリストによって破壊され、世界中を震撼させた翌日、新たに衝撃的なニュースが突然、我が町に飛び込んで来た。佐呂間町生まれの牛が、千葉県において牛海綿状脳症(BSE)の疑いがあり、精密検査をしているので調査に協力して欲しい旨の連絡が家畜保健所を通して入った。その時、すでに報道機関では、天下の一大事とも思えるような取材活動が始まっていた。
私は今、町長職として4期目、13年間務めているが、元来は経済動物を主体として診療していた獣医師であったこともあり、BSEの恐ろしさは充分に認識していたが、大変な事態が起きたことに対する心配とある面では、とうとう来るべきものが来てしまったのかとの思いが脳裏をよぎった。
思えば一昨年の3月、宮崎県に、5月には北海道の本別町に、牛の口蹄疫の発生をみた。その時日本の畜産界は大きなショックを受けたが、幸いにも迅速にして適切な対応によって広範囲への蔓延を防げたことは、他国で発生した時に比べると、被害はまさに奇跡的とも思える程、最小限であった。
しかし、その原因は未だ明らかではなく、中国、または台湾から輸入した稲ワラか麦ワラに口蹄疫のウイルスが付いて来たと言う説が主流となっている。
さて、今回のBSEの問題については、昨年の10月18日以降は、と畜場において全頭検査がなされ、全く安全な牛肉が市場に出回っているにもかかわらず、消費の方が遅々として伸びず、いつになったら発生前の状態に戻るのか予測のつかない現状にある。BSEの問題は想像をはるかに超える大きな被害が全国的に広がってしまった。そしてBSEに感染した牛が出た町村においてはあらゆる風評被害が出て、他の産業にも大きな影響を及ぼしていることも事実である。
今の日本の畜産における飼料の大半は諸外国からの輸入に依存しているのが現状である。食糧にしても家畜の飼料にしても、安全性を最も重要視しなければならないにもかかわらず、収益性のみを追求してきた結果がこのような事態を招いたものと思う。更に、過去において使用されていた牛用の配合飼料や代用乳には、BSEに感染していた疑いのある牛や羊の肉骨粉が使われていたと言う。このことは本来、牛は草食動物であるにもかかわらず仲間の肉骨粉を知らずに食べさせられ、いわゆる共食いを強いらされていたのであり、この行動は神様が自然界で生きる動物に対して定めた掟を冒したことになるのである。
したがって、今回のBSEの発病は物言えぬ動物が自らを犠牲にして、我々人間に警鐘を鳴らしたものと受け止めなければならないのであろう。日本の食糧自給率は、カロリーベースで40%と世界の先進国では最低のランクである。故に、少しでも安価な食糧を輸入しなければならない国情は理解できるが、神の掟を無視することは人間のエゴそのものである。
(中略)
古い中国の仏教書の中に身土不二(体と土は1つ・人間は足で歩ける身近なところで育った物を食べ生活することが良いの意)の悟りがある。BSEの発生により地産地消への再認識が高まることを期待し、また努力して行きたい。』
現在、新型コロナで世界中が大混乱しているが、今年の10月に開催された「北海道肉牛シンポジウム」でも、牛の口蹄疫などの伝染病がテーマになった。口蹄疫は口蹄疫ウイルスが原因で、偶蹄類の家畜(牛、豚、山羊、めん羊など)や野生動物(ラクダやシカなど)がかかる病気である。
酪農家にとって口蹄疫は、新型コロナ以上に恐ろしい病気で、一刻も早いワクチンなどの開発が待たれるところである。また、九州の宮崎県では、鳥インフルエンザウイルスが発生して、養鶏業者は大変なことになっているらしい。人類と新型コロナウイルスとの闘いは、まだまだ続く見通しである。
「十勝の活性化を考える会」会長