鍵

ほんの僅かキミと暮らした

マンションの鍵を眺めては

大切にしまっていた




持って出てきてしまったお金と一緒に

それを送ると



とうとう




とうとう

私は言った






返事は早かった






｢それはいい｣







キミらしく

ハキハキとした声で










一縷の繋がり








銀色の重い鍵を両手に包み




私は奥様であなたは旦那様

ただ単身赴任に行っているだけ



そんな物語を描いて過ごす









苦い


苦い


ほんの少しだけ甘い


休日












.

限界

ひとりで生きることが

不安で
不安で


誤魔化し切れない




もう限界







私たち

どうしてダメなの













.

嫌。

じゃあどうしたいの

それすら分からない







けど




家族がほしいの



おはようやおやすみ
おいしいねの言葉をかわしたい



痛いとき
苦しい時に

大丈夫といってほしい
もうひとりぼっちで痛みと不安を抱えて病院に行くのは嫌



もう嫌。








.

呪文

「あなたがあるがままの自分を受け入れた時
問題はどこにあるのでしょうか」


「私たちが物ごとをありのままに受け入れずに
それを変えたいと思う時のみ
問題が生じるのです」


━━━クリシュナムルティ━━━





苦しくて
苦しくて

そう言い聞かせる
呪文のように繰り返す

毎晩
毎晩


このままでいい
このままでいい
わたしはわたしに言い聞かせる



風通しのいい
景色のいい部屋
私専用のお風呂
洗濯機
キッチン

何でもある

私には何でもあるのに






あるがままのはずのわたしの
苦しいことなんてないはずのわたしの
がまんの袋ははち切れた


一度でも淋しいと思ったら

もう
もう

歯止めが効かなくなった





もうだめ
もう我慢できない


泣き叫んで
手足をばたつかせても




泣き疲れたわたしに戻ってくるのは

ひとりの静けさ











.

永遠

愛していることに

何故
なんてない



どうしても。

どうしても。






離れていても
会えなくても


この気持ちは
誰にも変えられない






時を以ても
風化させることはできない













.