2018年12月発刊の本書は、小説家で「陰陽師」「闇狩り師」などの幻想小説を書いてきた夢枕獏と、奥松島縄文村歴史資料館名誉館長の岡村道雄の対談をライターのかくまつとむが構成したという一冊。縄文愛が深い夢枕獏と岡村道雄の会話が秀逸。
縄文時代は15000年ほど前が草創期、氷河期が終わり温暖化した日本海側に暖流が流れ込み土屋根の竪穴式住居に栗が利用され食用にもされ、無文土器などが作られた。11500年ほど前からが早期定住集落、土偶などが作られる。ひょうたん、えごま、麻、豆類などの栽培が始まる。鬼界カルデラが大爆発したのが7300年ほど前。7000年ほど前からが前期で環状集落、貝塚などが見つかっている。5500年ほど前からが中期で装飾的な土器、翡翠、琥珀が流通し、アスファルトが接着剤として使われる。4400年ほど前からが後期で、漆文化、漁具、祭祀具など発達。3200年ほど前からが晩期、漆製品、遮光器土偶などで、2300年ほど前からは北部九州で水稲耕作が始まる。
いずれの時代も切り替わりは漸進的で、進歩も後退もあった。1万年以上も続いた縄文時代には、重層的なヒトの移動や大陸、半島、南方、オホーツクからの渡来があった。民族的な征服や従属は見られず、混血を繰り返し、現代人の65-88%は北東アジア系の弥生系のDNAを引き継ぎ、35-12%は東南アジア系で縄文系のDNAを引き継いでいるという。漆の活用は中国大陸よりも早く北海道南部で漆に浸潤させた繊維が見つかっており、13000年ほどまえには活用されていた形跡が見つかっている。栗と漆の活用は縄文時代の早期から行われていた。
縄文の精神世界は、のちの空海が唱える「草木国土悉皆成仏」は縄文の精神世界につながることを感じていたのではないかと夢枕獏が推察、岡村道雄も同意する。そもそも記紀の記述の大枠は、縄文から弥生の流れを八百万の神々が高千穂の神々を受け入れるという神話にしたものだという解釈。糸魚川流域の翡翠文化を持っていた越の国が倭国の北辺で、その中心には環濠集落と前方後円墳墳があった。ここが神話の残る奴奈川姫の国の中心で、大国主大神の子である健御名方命は、諏訪地方の在地の国津神の系統・守矢氏と共栄したとする神話につながるという。御柱祭や御頭祭は縄文的祭祀だった、というのが夢枕獏の解説。尖石縄文考古館に残る土偶や巨石信仰は縄文の信仰や祭祀の継承なしには存在し得ないという。
「草木国土悉皆成仏」はもとは涅槃経の言葉で、日本では空海が広め、その後親鸞、円珍も唱えたとのこと。心はないはずの草木や国土にさえ仏性は宿ると。空海は、記紀の世界観以前の神々がどのように崇められてきたのかを悟ったのではないかと。宇宙の根本原理である大日如来は、人間の持つ弱さや欲望など全てを肯定すると。その源泉は縄文にあるというのが本書の主張。 本書の面白さは対談の妙であり、ここでは要約しきれないので一読が必要。