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意思による楽観のための読書日記

ホモ・デウス(上・下巻) ユヴァル・ノア・ハラリ ***

現生人類はホモ・サピエンスと呼ばれる種であるが、それ以前にも人類種は存在した。ジャワ島で発見された10万年前ほどに絶滅したというホモ・エレクトス、主にシベリアと東アジアで発見されているデニソワ人、太平洋の島々に生息していたとされるホモ・フローレシェンシス。彼らに何があって絶滅し、ホモ・サピエンスは、その後なぜ生きき続けられたのか。ほんの少しの手先の器用さであったのかもしれないし、ひょっとしたらコミュニケーション能力が高かったのかもしれない。小さなDNA上の遺伝形質が歴史を左右した可能性もある。

現生人類に現時点で何が起きているのかを俯瞰してみると、10万年間苦しめ続けられたであろう食料確保の問題、飢饉を効率的農業により概ね解決し、有史以来も苦しめ続けてきた解決不可能と思われてきた感染症や原因不明の疫病に対してもワクチン、特効薬、それがなくても対応可能な緩和策を生み出すことに成功しつつあるかに見える。問題は戦争であるが、世界大戦を経験し、複雑な問題を抱えながらも、なんとか全世界で対処しようとすることが可能となった。この人類は、次に何を目指すのだろうか。農業では地球環境を変更し、疫病対策では遺伝子解析技術を駆使してワクチン開発をしてきた。今や、肉体をも改変して、ICを埋め込んだり、義肢、義手、人工内蔵などにも手を出しつつある。脳内の働きを解析して、人間の脳内機能は電気信号による伝達と蓄積であるとしてアルゴリズム化を図り、AI化の動きの先では脳内信号の電子化、外部化までをも目指そうとする。人の心が肉体を離れる時代が来るのだろうか。

疫病、飢饉、戦争を克服した暁に人類が求めるのは、不死と幸福。宗教的には「神」の領域に近づこうとしているわけで、ホモ・サピエンスから神の種であるホモ・デウスになろうとしているのではないかという問題提起が本書。

人類は、飢饉を回避し豊かな食生活を送るために、牛、豚、鶏、山羊、羊などを家畜化し、大量飼育している。その総重量を人類と合わせると、(家畜+人類)以外の重量の9倍にもなるという。人には自由があり、幸福になる権利もあるとされる人権があるように、家畜には自らの自由や幸福を追求する権利というものはないのだろうか。この人間至上主義ともいえる世界は、経済規模の際限なき拡大と、科学技術の絶え間なき進歩に支えられている。これは、すべての生き物の中で、人類が初めて実現した経済システムや技術蓄積などの相互信頼から成り立っていると考えられる。この相互信頼の仕組みは、人類が生み出した物語であり、その物語を信じる共同体が、顔見知りや一部の家族、特定部族に限定されることのない人類全体であること、これが人類と他の動物との違いであろう。

現代社会において人間至上主義は「自由主義」「社会主義」「進化論的な人間至上主義」の3つに分かれ、現時点では自由主義が勝利したかに見えているが、その趨勢は不透明である。言えることは自由主義が優勢な理由は、科学やテクノロジーと相性がよいからであり、権威主義のリーダーや進化論的な社会でも、科学やテクノロジーを取り込んだ社会が構築できれば、未来は変わる可能性もある。それは自由主義が科学進歩とともに進んでは来たが、このまま科学やテクノロジー、そして生命科学やAIがどのようにこの社会を変えてしまうかが不透明になってきているからである。人間社会の中に築き上げられた相互信頼の仕組みがAIに置き換わる未来が来ると、ひょっとしたらピラミッドの頂点にはAIが築き上げていくアルゴリズムが立つ可能性がある。人類をはじめとする地球上の生き物を含めた環境全体がAIのアルゴリズムに支配されるデータ至上主義の世界となり、アルゴリズムが神となる時が来る。

蓄積されたデータ処理によるアルゴリズムは知らないうちに私たちを支配し始めている。それはGoogleやFACEBOOKが人々の行動に与える影響を見れば納得できるはずだ。いまや時計やスマホから得られる情報無しに日常生活を送ることが難しくなっている自分に気がついてはいないだろうか。人間は自由に生きているつもりがいつからか不自由になっている時代がくる。データが全てという考え方がデータ至上主義。生き物や社会全体、経済、政治がアルゴリズムで説明できるというもの。人類や自然環境も含めた私たちのあらゆる行動と環境データが収集され、それがAIが利用できるデータベースとして際限なく蓄積され続けることを考えると、これは危機感を持つ必要がある。

生き物は本当にアルゴリズムとデータ蓄積であるとするデータ至上主義、これが科学の行く末なのだろうか。知能と意識は別の存在なのだろうか。意識を持たない高度な知識を蓄積した知能であるAI、つまりアルゴリズムが人類を超越して世界を席巻する時代が来るのだろうか。本書では次の3つの問いを読者に投げかける。1.生き物はアルゴリズムとデータ処理にすぎないのか。2.知能と意識、どちらに価値があるのか。3.意識を持たない知能を備えたアルゴリズムが社会や政治を司るようになると人類はどうなるのか。本書内容は以上。

AIに対して多くの人が持つ直感的な警戒感を、文字にしてくれたのが本書。人類はAIと平和に共存し、幸福や健康な人生を実現していけるのだろうか。
 

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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