筆者による「陰謀の日本近現代史」は明治維新から太平洋戦争まで、「昭和史7つの謎と7大事件」は、太平洋戦争と戦後の事件を解説した一冊であった。本書は「檄文」に現れる歴史性を昭和史に絞って解説した一冊。何らかの政治的、軍事的、文化的その他、歴史に残るような大きなことを計画したり、企んでいる人間サイドの心理状態から考えると、その出来事を引き起こすに至った理由、出来事の背景、期待する今後の展開などについて解説したいと考えると思う。
平成から令和にかけて青春、社会人、働き盛りを迎えている人達から見ると、昭和史はだいぶん前に過ぎ去った歴史なのかもしれないが、日本の今はなぜこうなったのかを考える際には、昭和の出来事を知っておくことが何らかの気づきのきっかけになるかもしれない。日本が英米連合国に戦争を始めた理由、中国が日本に対し厳しい態度を取る理由、韓国が未だに反日的歴史教育を止められない理由、アメリカの基地が未だにたくさんあって政権党はその状態を見直そうとしない理由、欧州の人たちが日本に好意的に見えて未だに日本政府に信頼性を持っているとは見えない理由、日本国内においても差別が無くならない理由、などなど。一読し、本書が扱う「檄文」にはそうした原因のエキスが詰まっている気がした。
5・15事件の檄文は次のような構成。
1.日本の現状は財閥、軍部、政党の腐敗により労働者や農民が犠牲になっている。
2.現状打破のためには武力による現状破壊しかない
3.昭和維新を実現すべく真の日本建設を目指せ
殺害されたのは犬養毅首相だったが、それ以外の狙いは不発に終わり、公判では犯人の将校たちに同情が集まった。それは政党などの腐敗に共感する国民が多かったため。この事件をきっかけに政党政治が機能不全に陥る。
2.26事件は「君側の奸を斬れ」という内容で、決起した二十数名将校の決起趣意書は、元老、重臣、軍閥、財閥、官僚、政党が国体破壊の元凶とし、軍閥を排除すべし、と結論していた。つまり、皇道派と統制派の派閥争いの手先とされ、決起に走る若手将校たちがクーデターを起こす勇気まではないシニア将校に焚き付けられた、と国民には映った。黒幕的存在は陸軍大臣真崎甚三郎、しかし昭和天皇は真崎を全く信用していなかった。反乱鎮圧の後も戒厳令は5ヶ月も継続、軍部による政治干渉、介入が明確になり、一気に日中戦争激化へと突き進む。
その他、開戦の詔書、特攻隊員の遺書、天皇の人間宣言、原水爆禁止運動、よど号事件、三島事件、グリコ・森永事件、天皇退位のおことば、などなど。