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意思による楽観のための読書日記

パールとスターシャ アフィニティ・コナー著 野口百合子訳 ****

パールとスターシャはポーランド系ユダヤ人の双子で12歳、ある日祖父と母と共に1944年にアウシュヴィッツ収容所に送られた。訳者によれば、本書物語はフィクションだとはいうが、実在した人物をモデルにしたといい、実際に起きた事件などをストーリーに取り込みながら、残酷な歴史を浮かび上がらせてくる。それでも、描写は姉のパールと妹スターシャが交互に語る形式で綴られていて、子供の目から見た描写は、そこで残酷なことが行われているらしいことを、見逃してしまうほどである。

「動物園」と名付けられた施設、そこにいるのはメンゲレと言う名の医師で、人体実験を行っているらしい。メンゲレは収容者の中から双子や三つ子、彼が奇形と考える人達ばかりを選別して、様々な生体実験を行なった。パールとスターシャの母は、アウシュビッツの中では、メンゲレに二人を委ねたほうが生き延びる可能性が高いと考える。パールとスターシャはなんとか生き延びようとし、パールは妹のスターシャが生き残るために知恵を絞る。アウシュヴィッツという閉鎖された世界で、二人はなんとかして生きのびるための役割をお互いに決めた。スターシャは、面白いこと、未来、悪いことを引き受ける。パールは悲しいこと、過去、善良なことを引き受けることにする。しかし、スターシャは「あんたのほうが分が悪い、未来のほうが希望があるからそっちを取って」というが、パールは「あたしに過去をとらせて、それから現在も。とにかく未来はほしくないの」。

メンゲレは人でなしで、人間らしい心を持っていないが、現実的で優しく美しい姉パールと、機知に富み想像力豊かで生命力にあふれたスターシャは、その目で見た事柄をしっかりとそれでいて詩的に美しく表現する。そして、パールとスターシャはこの心を持たないメンゲレからなんとかしてお互いの未来を見出そうとするのである。メンゲレ医師は、アーリア人の優位性で人種を選別しようとしたナチスを象徴していて、双子だけどもそれぞれの特徴をもったパールとスターシャはその反対の存在である。命以外のすべてを奪い取ろうとするメンゲレ、それを生き延びて、少しずつ希望を取り戻していく後半。最後は引き裂かれた二人が出会い、大きく未来が開けてくる。ヒナゲシが象徴するのは平和や自由、未来と希望であろうか。 

結構ひどいことを書き連ねているのに、読んだあとの感想としては悪くはない、後味は良い、と言えるほどであり、この物語の特徴ともなっていると思う。これも夏休みの読書としてお薦めできる。

↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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